亡霊の系譜、開かれた禁書庫
学園祭の一件で「英雄」として祭り上げられたフィリップだが、内実はカインド・ピースフルからの「次の指令」という重圧に晒されていた。
「学園の地下で見た紋章……あれは先代王家のものだ。貴様の出自と、ハインツエッジ家の繋がりを探れ。……王国の歴史に隠された『空白の二十年』をな」
カインドの言葉は簡潔だった。
フィリップとエリザは、学園の最高機密が収められている『禁書庫』への鍵を入手するために動いた。
「父様の書斎にあるはずよ、禁書庫のマスターキー。私たちが継承者の証として持たされている『指輪』が、その鍵の代わりになるはずだわ」
エリザの助言通り、二人は父ザッケリンの書斎を訪れた。
ザッケリンは、娘たちが自分たちの出自に足を踏み入れていることを察したのか、普段の豪快さは消え、静かに二人の前に立っていた。
「……ついに、この時が来たか」
ザッケリンは重い口を開く。
「フィリップ。お前を拾った時、お前の胸にはハインツエッジの家紋ではない……別の家紋が刻まれたペンダントがあった。そして、お前を狙う暗殺者たちが口にしていた言葉は『王位を継ぐ者』――」
フィリップは息を呑んだ。自分はただの孤児ではなかった。
かつて王位継承争いの果てに粛清された、先代王の隠し子。それがフィリップの正体だった。ハインツエッジ家は、それを知りながらフィリップを匿い、育ててきたのだ。
「公爵、なぜ俺を?」
「……惚れたからだ。お前の母に、そしてお前のその『生き方』に。血筋を理由に子供を殺すような国など、滅びればいいと思っていた。だから、お前を守りたかったのだ」
ザッケリンの言葉に、フィリップは胸が熱くなるのを感じた。公爵という身分を盾に、命がけで自分を守り続けてくれた「父親」の背中を、初めて見た気がした。
ザッケリンから禁書庫のマスターキーを託されたフィリップとエリザは、その夜、禁書庫の最深部へと潜入した。
そこには、王国の歴史が記された古びた羊皮紙が並んでいる。
ページをめくるフィリップの手が震える。
そこに記されていたのは、『空白の二十年』の真実。かつてこの国を治めていたのは賢王であり、今の王家は、カインド・ピースフルを含む「当時の勇者パーティー」の裏切りによって権力を奪取したという記録だった。
「……勇者パーティーが、国を奪った?」
信じられない事実に、フィリップは絶句する。
その背後に、冷徹な気配が近づいてくる。
「……そこまで知れば、もう貴様を泳がせておくわけにはいかんな」
暗闇から姿を現したのは、カインド・ピースフル。
彼はいつものような「冷酷な聖人」ではなく、過去の罪を抱えた一人の人間のような、どこか物憂げな瞳でフィリップを見つめていた。
「フィリップ。その記録の先には、もっと恐ろしい真実が待っている。……貴様は、本当にそれを知る覚悟があるのか?」
フィリップは短剣を抜き、カインドを真っ直ぐに見据えた。
「……知らなければ、何も変えられない。俺は、この国の真実を暴く!」
対峙する聖人と、亡霊の血を引く少年。
物語は、ついに王国そのものの根幹に関わる「禁断の真実」へと突き進んでいく。




