断罪の円舞曲(ワルツ)
セントアルティミア女学院の競技会場は、熱狂の坩堝と化していた。中央の魔法結界ドームには、ボロボロのドレスを纏いながらも、どこか凄絶な美しさを漂わせるフィリップと、怒りに震えるセシリアが対峙している。
観客席の貴族たち、そして理事長である子爵は、何事もなかったかのように微笑んで試合を見守っていた。
「フィリア……! あなたのような偽物が、私たちの神聖な学園を汚しているのが許せないのよ!」
セシリアの詠唱と共に、無数の火炎が竜巻となってフィリップに襲いかかる。それはもはや競技の威力ではない。殺意の奔流だ。
(……来る!)
フィリップは防御魔法を使わない。カインドから譲り受けた「魔力感知を阻害する短剣」を地面に突き立てる。
同時に、保管室から奪取した不正の証拠魔石に、わずかな魔力を送り込んだ。
ドーム内の大型魔導モニターに、ノイズが走る。
――瞬間、理事長室の密会音声と、暗殺者への送金記録が会場中に鮮明に投影された。
「なっ……!?」
理事長が席から立ち上がり、顔を青ざめる。会場にどよめきが広がり、火炎の竜巻が威力を失って霧散する。
「……私の勝ちですわ、セシリア様。そして、理事長」
フィリップは砂埃の中に立ち尽くしながら、静かに告げた。
「この学園は、貴方たちが私利私欲のために腐敗させていい場所ではない!」
フィリップの言葉は、カインドの意志を代弁する刃となって理事長を刺した。カインドが立ち上がり、冷徹な一歩を踏み出す。その気配だけで、理事長は恐怖に支配され、その場に崩れ落ちた。
「……愚かな。神聖なる学園を汚すゴミは、掃除せねばならぬな」
カインドの威圧的な声が響き、近衛騎士たちが理事長を拘束する。
会場は一瞬の静寂の後、理事長への非難の叫びと、フィリップへの称賛の嵐に包まれた。
だが、フィリップの心は冷めていた。
(……終わった。でも、これで俺は、自分の中に抱える『亡霊』の正体に一歩近づいた)
セシリアは敗北の衝撃で地面に座り込んでいた。フィリップは彼女に歩み寄り、そっと手を差し伸べる。
「……あなたの嫉妬は、あの方が巧妙に植え付けた毒ですよ。これからは、あなた自身の意志で生きてください」
セシリアはフィリップの手を信じられないものを見るように見つめ、やがて涙をこぼして項垂れた。
戦いは終わった。しかし、観客席の端で、エリザだけがじっとフィリップを見つめていた。
彼女の瞳には、友情だけでなく、フィリップの正体に確信を抱いた「悲しみと決意」が混ざり合っている。
(……ああ、バレている)
フィリップは直感した。この祭りが終われば、自分は最大の「秘密」と向き合わなければならないと。




