祭典の幕開け、偽りの証明
学園祭当日のセントアルティミア女学院は、華やぎと熱狂に包まれていた。
色とりどりの屋台が並び、令嬢たちが笑い声を上げる。だが、その喧騒の裏で、フィリップは冷や汗を流しながら「二重の任務」に奔走していた。
(あと三十分で競技会決勝、その裏では理事長の不正を裏付ける書類が保管室にある……)
フィリップは、エリザと屋台を回るという約束を、なんとか「準備があるから」とすり抜けた。だが、去り際にエリザが向けた、悲しげで、かつ何かを見透かしたような瞳が心に残る。
(――ごめん、お姉様。すべて終わったら、必ず話す)
フィリップは人気のない裏路地へ駆け込み、コンパクトで偽装を「戦闘特化」へ切り替える。ドレスの下には、カインドから託された「魔力感知を阻害する短剣」を忍ばせていた。
理事長の保管室へ侵入し、不正の証拠である「暗殺ギルドへの送金記録」を魔石に写し取る。完璧な隠密行動。しかし、その時、保管室の扉が大きく蹴破られた。
「やはり、ここか」
そこに立っていたのは、警備兵を従えたセシリアだった。彼女は狂気的な笑みを浮かべている。
「フィリア様、いいえ……『正体不明の化け物』様。学園祭という最高の舞台で、あなたの死に様を皆に見せてあげるわ」
セシリアが放ったのは、禁忌の魔道具「魔力暴走剤」。これを浴びれば、偽装魔法など一瞬で弾け飛び、フィリップの魔力特性が学園全体に露呈する。
「……セシリア、やめろ! それを使えば、あなたも無事では済まない!」
「構わないわ! 私の人生は、あなたに負けたあの瞬間から終わっているのよ!」
セシリアが魔道具を起動させる。まばゆい光が室内を満たす。フィリップは反射的に手元の短剣を突き立て、自分の魔力波長を強引に「周囲の石壁」と同調させた。
爆風が吹き荒れる。
魔力暴走剤の光が霧散した先で、フィリップは膝をついていた。ドレスはボロボロだが、偽装魔法は辛うじて繋ぎ止められている。
「……まだ……倒れてなどいない」
フィリップは震える足で立ち上がる。その眼光は、もはや令嬢のそれではない。
「セシリア、競技会場で待っている。私の『正体』を暴きたいなら、正々堂々、実力でやってみせろ!」
フィリップは窓から中庭へと飛び出した。
時間は、競技会決勝開始の刻限。
会場には、生徒たちだけでなく、王国の重鎮や、そして静かに観戦するカインド・ピースフルの姿もあった。
(……やるしかない。この試合で理事長の悪事を暴き、セシリアを倒し、そして……お姉様に顔向けできる生き方を貫く!)
フィリップは観客席のエリザと目が合った。
エリザは微かに頷いた。その瞳には、今度こそフィリップを受け入れる覚悟のようなものが宿っていた。
物語は、華やかな学園祭の舞台から、ドロドロとした陰謀が剥き出しになる「決戦の地」へと移り変わる。




