始まりのはじまり2
「自宅まで」
車が動き始める。だがそこに運転手はいない。いわゆるAIによる自動運転だ。
今時、趣味で運転する人以外はこのAIに任せている人がほとんどだ。
そう。この時代AIに生活を支えられている。
それは車だけでなく、例えば料理や仕事の自動化、情報端末としても利用され、大きな変革が起きた。
数十年前はスマートフォンという四角いものがあったらしいが、今では指輪型『リング』と呼ばれるものに変わっている。
それを嵌めるだけで通話をすることができ、インターネット環境なんかは3D情報化され、そこら中に視覚情報として転がっている。
車に乗って20分ほどで私の家に到着した。
だが、そこは住宅街から少し外れ家らしきものは見当たらなく、目の前に大きな門が見えるだけだ。
そして門が開き、招き入れられるように敷地内を車で移動する。だがそこに車があることが似つかわしくなかった。
生まれたときから見ているものだと感動も何もないが、初めて家に来る見知らぬ方々はいつも驚いた表情をする。
洗練された雰囲気の建物だ。
ただそれは近代的なものではない。古風というべき大屋敷。
どこかの寺にあるような大きな門。
鯉の他に何が住んでいるのかもわからないほどの池。
そして何よりもそれを覆う緑豊かな庭園。
まさに日本古来の神殿というべきものだった。
そして、車はロータリーを周り、ゆっくりと停止した。
「ついたついた。相変わらず大きな家ね」
「何言ってるの。京ちゃんの家も同じぐらいでしょ。しかも昨日も来たし…」
ふざけあいながら二人は車を降り、大きな玄関まで歩いていく。
『おかえりなさいませ。さやか様』
『ようこそ京香様』
そこには数人の使用人が待ちかまえていた。
使用人たちはお出むかいをし、そのうちの一人が二人の持っていたバックを受け取っている。
「文代さん。ありがとう」
「またお邪魔するわね」
「とんでもございません。京香様もゆっくりお寛ぎください」
文代さんは私が小さい頃から屋敷に住み込みで働いている。
それに気転もきかせてくれる人で、いわゆるできる人だ。
「文代さんごめんなさい。後で庭園にお茶の準備をお願いしてもいいかな?」
「かしこまりました。さやかお嬢様」
そう伝えて二人は廊下を渡ろうとしたが、文代さんがお待ちくださいと言ってきた。
「さやか様、今なのですが庭園で先に旦那様と奥様がお茶をされているのですが、準備は庭園でよろしいですか?」
「え、お父さん帰ってきてるの?」
「はい。本日は早く予定が終わったとのことだったので」
「そう。京ちゃんどうする?私の部屋にする?」
「いいわよ庭園で。あそこ好きだし、それにおじさまとおばさまにも昨日は挨拶できなかったから」
「わかった。じゃあ文代さんそういうことでお願い」
「かしこまりました。少々お待ちください」
話が終わると今度こそ庭園に向かった。
「さやか着替えなくていいの?」
「別にいいよ。それにさっさとプログラムの結果も伝えておきたいしさ」
「な、なるほど。ちょっと気が重いわね…」
「そうだけど、京ちゃんがいると和むから少しは気が楽よ」
「普通そういうときは席を外させるものでしょ……」
大きい屋敷だけに、向かうにもそれなりに歩く。
だが人はこの屋敷同様なんでも慣れていくものだ。普通だったら自分の家の中で5分以上歩くことなんて早々ないだろうが、この二人にとっては日常のことである。
「でも、やっぱり人の使用人が多いのはいいわよね。文代さんほんといい人だし」
「京ちゃんの家はほとんどドローンだもんね」
機械にできることは機械に任せる。仕事がほとんど自動化されたように、今ではお世話型のロボットが主流であり人の使用人を雇うことは滅多にない。
そんな話をしながら庭園に到着した。




