5-12 壱拾九話 それぞれの愛のかたち 3
「ん。」
「や!」
「んー・・・ ん。」
「やだ!」
「んー・・・って、じゃ一体なにが食いたいんだよ、がれんお嬢様」
「クックク、おーまーえーだー!」
「てい!」
「て・・・。あ、コレがいい、おうどんにしようよマコト!」
なんかよく解んないけど、美咲が来た辺りから様子がおかしかった
わがまま雅蓮にベッドへ押し倒されて、ベッタx2ブッチュx2
されてるのを天井のシミを数えながら耐えてたら十九時を過ぎてた。
明日から一週間の無給バイトが始まるし、外は雨が降ってるし
冷蔵庫にはなにもない。コンビニに行くのももう面倒くさいから
イーツ頼むかって話になって、雅蓮のタブレットで色々店を探すも結局
雅蓮が食べたいと云った丸鶴のうどんを注文した。
消化が良くて腹持ちがいい
落ち着いたのか食欲も出てきたみたいだ・・・。
祐実さんが云ってたように、明日には通常雅蓮に戻るだろう。
月一度のわがままがれんが終わったとしても、まだインフルによる微熱が
続いてる。オレは明日昼から数時間、家を空ける事になるからな──────
心配するほどではないにせよ、気にはなる。
「チット失礼、お嬢様」
「あ・・・ んっ」
「んー・・・んん?」
「よぐわがんね。がれん体温計どこやった?」
「しーらないっ」
デコ同士の熱測りでよく解んないほど、熱は無いって事だな。
これでようやく二人のインフル騒動は収束ってことだ。
はぁ...えらい目に合った・・・
届いたうどんを二人でズルズルすすり、すっかり食欲の戻った雅蓮は
オレのお稲荷さんを一つ奪って完食。朝に買ったファッション誌をカウチに
座って捲っている。
いつもの雅蓮に戻りつつ有る。ここ数日で、いろんな雅蓮が見れたと思うと
擽ったい気持ちに思わずふふと笑みが溢れる。机から1/3まで読み進めた課題本を
とって雅蓮の隣に座り、続きを読む為にしおり紐を引く
当たり前のようにトンと肩を寄せ、人の顔を見上げて にへー とまた
ねばっこい笑みを寄こして再び雑誌に視線を落とすのを見て、またふふっと
心配事が体外に逃げていく。横目でニヤニヤしながら忍び寄る人差し指の
尺取虫がオレの手に迫るのを掴まえて、指を絡ませ手を繋ぐ。
そして二人の大好きで幸せな時間が始まる──────
「 そ う だ !」
な ん だ !
始めないのか? えーそんな・・・
雅蓮はなにか思いついたようにテーブルからタブレットを取り
有名ECサイト楽々の画面に指を滑らせてる。横目で伺うとどうやら
パーカージャージを探しているようだ。雅蓮の趣味とは方向性が
全く逆のファッションなのに、どした。
「ねぇ、オソロのパーカー買おうよ!」
なんでだ、今二人が着てるコレでいいじゃんと云うと。自分が借りてる
代わりを買ってくれるらしい・・・なんで?
「てか返せよ。気に入ってるんだぞコレ」
「やーだよ・・・べ。 これは思い出に持って帰るんだもん」
痛かったり辛かったり熱でうなされたり。散々な思い出ですよソレ・・・
お嬢様、お分かりですか? 宜しいのでしょうかそんな思出の品で──────
何故か返す気が全く無いようで、口元から~♪をいくつも出しながら
いそいそと楽しげに画面に指を滑らしている。楽しそうだし、まぁいっか。
「ねぇ、これは?」
「んー その謎の柄がやだ」
「今どきトライバルってさぁ輩じゃないんだから」
「そうなんだ・・・これは?」
「おピンクだぞ、カンベンし・・・って、たっか三万だって!」
「・・・あ、チョイまち! 一つ前、そうソレ。なぁがれんこれは?」
「マコトはコレがいい? じゃあコレにしよっ! ぽちー」
あーあ。マジで買っちゃったよ・・・さようならオレのお気に入り・・・
そうこうしながら、時計を見る。21時か・・・片付けなきゃいけない
問題がもう一つ在る。綿貫きさら、雅蓮に酷い事をした張本人からの呼び出しだ
カズが言うには、オレが行くまで毎日22時に校門前で待ってるそうだ。
正直一年でも十年でも待ってりゃイイと思うんだけどさ
一応奴も女だし夜更けに一人で居るのは危ないし、敵とは云えども
誠意を持って接してくる奴をそこまでないがしろには出来ない・・・
そんな思いで柱時計を見ていると、オレのパーカーの袖がくんと引かれ
雅蓮の頭が肩に寄りかかってくる。
「マコト──────行くの?」
「ん、どうしようか迷い中」
「マコトが行くなら・・・わたしも行く」
「うん、がれんがそう思うなら尊重する。一緒に行こ」
そんな言葉が当たり前に口をついて出た自分に少し驚く。
数日前のオレなら絶対に云わない言葉だと思う。大切な人を酷い目に合わせた
奴の呼び出しだからな、部屋で待ってろって云う、当然だろ。でも、今はそんな
受け身の考えより、なんてことはない雅蓮を守ればイイだけ、絶対に雅蓮に手出し
させないって考えの方が当たり前のように真っ先に湧き上がる。
「もやもやした気持ちにさ、決着を付けないとな」
「──────うん」
そうして二人で家を出た、外は土砂降り。まぁ普通こんな天気に出歩こう
なんて思わない。約束の場所に行っても空振りする可能性もある。
なに、その時は駅前のコンビニで二人のアイスでも買って帰ればいいさ
玄関扉に鍵をかけ、借り物の白く大きな傘を広げる。
あの日に白幸先生が貸してくれたものだ。先生はこの傘を返そうとしたオレに
「持って居ろ」と云い、そのまま借りっぱなしの真っ白い大きな傘。
こうして二人で雨を避けるにはちょうどいい大きさだ。
先生がそこまで見越して貸し与えてくれたのか、他になんか企みが在るのかは
しらないけど・・・
大きな傘を二人の間に差し、傘を持つ手に雅蓮が指を絡ませ手を繋ぐ。
彼女が濡れないように傘を彼女の方へ寄せ、自分の肩を雨に濡らしながら
夜更けの街を学校へ向かって歩いた。
オレ達にとっては間違いなくこの、綿貫 きさらは敵だ。
オレは今でもその怒りは衰えていない。相手が女だろうがブッ飛ばして
やりたい思いだ。雅蓮はそんなオレの暴発を止めるために一緒に来てくれたの
だと思っていたが、意外とこういう時は俯く癖があるとなりの彼女は
決意を秘めた眼差しで真っ直ぐ前を見据えていた。
まもなく22時。
オレが来るまで何日でも待つと言った奴が傘を差して土砂降りの雨の中
校門で一人立っていた。家を出る前に連絡した通り、カズの呼び出し画面の
ままのスマホをジップアップパーカーの腹ポケットへ仕舞い──────
二人でその影に歩み寄る
傘の柄を持っていた二人の手に力がこもる、その痛いぐらいの繋がれた
二人の手から雅蓮にへ視線を落とすと、彼女はただひとつ頷いた。
その決意を乗せて、二人の足が綿貫きさらの前に向かって
一歩また一歩と踏み出ていく。
遂に宿敵の前に二人は向かい合った。
綿貫はうつむいていた顔をゆっくりと上げ、オレの隣の雅蓮を見留めると
目を見開いて、再び俯きながらに呟くように話し出だした──────
「・・・・ゴメン、こんな雨の中──────」
綿貫がそんな言葉を口にした事に、オレは怒りがこみ上げる。
なにが何日でも待つだ! オマエが最初からそういう誠意を心に宿していたら
雅蓮は大事な髪を失わずに・・・こんなに辛いおもいをせずに済んだのに・・・
そう思った瞬間に、オレに繋がれていた手を雅蓮が自ら離し
綿貫の前にと土砂降りの雨の中へ歩き出す。
雅蓮にまともに目を合わせられず、斜め下に顔を向ける綿貫の頬を
雅蓮は立ち止まりもせずに思いっきり引っ叩いた・・・
「──────ッ、がれん!」
すぐさま彼女の元に立ち傘を差し出す。
ガレンの会心の一撃を食らった綿貫は、突然の衝撃に差していた傘を落とし
打たれた頬に手を当てることもせずに、その赤くなった頬をオレ達に向けた
まま横を向き、降り荒ぶ雨にみるみる濡れていった。
オレが差し出した傘の中へと、下を向き雨に濡れながら戻ってきた
雅蓮を力いっぱい抱きとめる。オレの胸の中で小さく震えながら、こみ上げる
嗚咽を必死に手で押さえてる。そんな彼女の短くなった大好きな髪を撫で
ながら呟く。「がれん・・・頑張ったな」と──────。
「──────許してもらおう・・・なんて思ってない」
「アタシ、ソレだけのことをアンタ達にしたんだ・・・」
「じゃ・・・なんで今さら呼び出した」
「返さなきゃと思って──────、アンタたちの前からいなくなる前にさ」
そう云って、綿貫は一歩だけオレに歩み寄り、最大級の警戒に身を固めた
オレに、一封の白い封筒を差し出した。
「アタシのツレがその子から巻き上げた・・・お金」
クソッ、そんなことまでしてやがったのかこのクソ女共ッ!
あの時感じた黒い感情が全身に広がる──────
「マコトだめ・・・違うのわたしが差し出したの!」
そんな事問題じゃないよ雅蓮。巻き上げられた金額ですらも問題じゃない。
おおよそ相手を精神的、肉体的に追い込む術を全てやったんだこのクズは
・・・この綿貫は──────。
ソレでいながら贖罪のつもりか、チャラ付いた金髪まで黒く染め、キャバ嬢の
ような盛った髪まで・・・以前の雅蓮ようなストレートに戻して白々しい!!
ゲスなことを平気でしておいて、貴様はいまさら自分は他の人と同じ人間です
とでも云いたげな証明のつもりか・・・クソが!
その常識的な態度に耐えきれないほど腹が立つ・・・
「チッ──────」
やり場のない怒りに震えながら、差し出されたその封筒を引っ掴む。
「独り言・・・ 聞きたくもないだろうから帰ってもらって構わない」
「・・・・・・」
「昨日、藤田 和哉に言われたんだ。立場を変えて考えてみろと──────」
「アタシと祐一が──────アタシがアンタ達した事を、もしされたなら」
「そう考えたら──────絶望した。このまま死んでしまいたいほどに」
「謝って許される事じゃないんだって心から思った──────」
「だからアタシ自主退学する。この街からも出ていく」
「もう、二度とアンタたちの前に姿を見せないから・・・サ」
「だから──────」
「どうか幸せになって欲しい・・・」
「アタシがした事を全部塗り変える位・・・めいいっぱい二人で・・・」
「どうか幸せに・・・それを願う事ですらアタシ・・・」
「あ、アタシには資格がないと思うけど、どうか最後にこれだけは言わせて」
「ごめんなさい・・・さよなら──────っっ!」
そう云って綿貫は、雨に濡れる地面もいとわず、その場にぺシャリと力なく
座り込んで土砂降りの空を見上げ、わんわん大声を出して泣いた。
もう・・・用は無いな。そう思って綿貫に背を向けると
雅蓮がオレの胸から離れ傘を出て、転がった綿貫の傘を彼女の肩に保たせて
オレの胸の中に戻ってきた。
「帰ろ、マコト──────」
ずぶ濡れに成ってしまった雅蓮の肩を抱いて傘を寄せ二人でその場を後にする
最後の最後に校門へ振り返ると、足首まで在るんじゃないかという白衣を着た
影が、綿貫の傘をもって彼女を立たせるのが見えた。
ありがと蒼先生・・・オレにはどうしてもその役をすることが出来ないんだ
チョークを投げるだけじゃなく、アンタマジで立派な先生だと思うよ・・・
カズに済んだと一報を入れて、二人で土砂降りの夜の下校路をアパートに
向かって歩く。帰り道、雅蓮はずっと泣いていた。
雨に濡れちまった大好きな髪を撫でながら思った。よく頑張ったなって
大丈夫、大丈夫これで本当に終わったんだよ。そう何度も呟きながら
オレと雅蓮は、二人の家に帰った。
鍵を開け、部屋に戻る。
手を繋いだまま、ずぶ濡れの雅蓮を洗面所へ連れて行き。うつむいたままの
彼女を残し部屋から替えのジャージと雅蓮のボストンバック
を手にして洗面所へ戻る。
「また熱出たら大変だ。風呂入っちゃえよ、オレ後でいいからさ」
「──────うん」
洗濯機の上の棚からバスタオルを取り出して部屋に戻ろうとするも
捕まった。背中からオレの首に腕を回して背中に顔を押し付けて
震えてる・・・
「なんか、さ。夜になるといっつもこんなだよねここ数日のオレ達」
「でも、本当にこれで終わったんだ。明日からはきっと・・・」
「・・・・・・うん」
「ねぇマコト。一緒に・・・はいろ・・・」
「お願い──────」
この断れないようなタイミングで・・・小悪魔がれんめ──────
そう思ったが、振り向いて彼女の桃色に染まった頬を両手で包み込んで
唇を重ねた。瞳を閉じてまた泣いてしまうがれんの頭を抱いて
雨に濡れた髪を撫でる
「今はコレしかしてあげられない」
「そういうのはさ、推薦勝ち取ってからって約束したろ?」
「──────・・・え、えへへだよね。お願いだから部屋にいてね、まこと」
わがままがれん状態だからもっとごねるかと思いきや
以外にあっさり引いたな・・・チョット残念ちがう意外・・・。
部屋に戻り、ベッドに座ってバスタオルを頭から被りワシワシ髪を拭う。
綿貫きさら・・・か。もし今のオレがどっかの男に雅蓮を取られそうに
なったなら、ソイツに対してオレは綿貫のように・・・
うん、いや無いな。
逆恨みする前に今のオレなら雅蓮を取り戻すために必死になるだろう。
成否関係なく全力でね。正直もう二度と顔も見たくないが、綿貫は本当に
この街を出て行くのだろうか。 偏愛に正気を失うほどに愛した越前屋を
この街に残して・・・
少しだけ、気の毒なような気がしたが敵に塩を送るつもりはない。
何処に流れ着く気か知らないが、こんどは真っ当に生きることを望むよ
部屋の電気も付けずに、あの出来事を振り返っていると洗面所の扉が
開く音がした。雅蓮に貸したタンスの引き出し、その上の段からパンツと
もう部屋着のストックを使い果たしたので、学校のジャージを持って
立ち上がる。流石に雨に濡れた半身のせいで寒くなってきた・・・
部屋を出て引き戸の角を洗面所に向かって曲がると
バスタオルを纏った雅蓮が立っていた。
「あぶね、ぶつかるトコだったぞ」
「ってか、なんでそんな格好してるんだオマエ・・・」
や、やらしいのはダメなんだからね!
もしかして替えの下着はボストンバックの中じゃなかったのか?
しまったタンスの引き出しだったか・・・
でもそれはオレが持ち出せないし仕方ないよな・・・うん仕方ない
気まずさに、湯に火照って桃色に上気したキレイなその体から目を背け
有り体な言葉をかける・・・し、しかないだろ! 心臓が・・・
「部屋、エアコンまだ効いてないからさ」
「湯冷めする前に部屋着来て布団に入っちゃえな・・・」
「──────うん」
「すぐ戻るからさ・・・布団の中で待ってて」
「・・・・・・うん」
湯に当たり桃色に染まって玉のような水滴を幾つものせたキレイな彼女の
素肌から逃れるように洗面所に飛び込んで、熱いシャワーを頭から浴びる。
愛する彼女のそんな姿が頭から離れなくて、何度もブンブン首を横にふる
「はぁ・・・何考えてんだオレ。お、お芝居を続けなくちゃ」
決着付けた彼女を褒めてキスしてあげる位はしてもいいとは思う
ソレ以上は、雅蓮が幼い頃からの夢を達成するために決めたルールを
ないがしろにすることなんだぞ!
「へ・・・へぇー・・・・へくち・・・へくち!!」
ヤベっまたぶり返す前に身体温めて寝なきゃ・・・オイ、云ったとおりだ
聞いてんのか愚息ゥ! 引っ叩くぞオマエ!!
少しだけ、時間は掛かったが愚息を落ち着かせてから部屋着を来て自室に戻る。
云っておくが、実力行使じゃなくちゃんとネゴシエーションで和解
したからな愚息と。変な記憶をしてしまうなよ──────
誤解なきようにお願いしますよ、オレ
少しだけ暖房に部屋が暖まり始めたが、まだ肌寒い。時計の針は
もうじき午前零時を差す。オレの言いつけを守るように、雅蓮はベッドの中で
丸まってる。すっぽり頭まで被り布団を被り、オレの帰りを待つように
布団から桃色に染まったちいさな片手だけを出していた。
オレはその愛おしい手の平をチョンと指で突いて戻ったのを報せて
自分のポジである窓際で横になる。熱がぶり返す前にと布団に入り──────
えっ?! はぁ!!
「なんでバスタオルのままなんだよ!!」
慌てて窓際に体を反転させ、高鳴る心臓を抑えるように
部屋着の胸ぐらを掴む。ば、バスタオルの下・・・下着付けてるよな?
そ、そうじゃなきゃ・・・ぶ、ぶ、ブツからねっ!
「まこと・・・わたし思ったんだ・・・」
ゆっくりとオレの首に手を回して背中に全身を密着して
おま・・・え。あ、あた・・二つ・・・やーらけーの──────背中・・・
「さっきの彼女にあの日から虐められて、辛くて、怖くて、苦しくて・・・」
「髪の毛も短くなっちゃった・・・」
「でもね、あの事が無かったら、きっとわたし達、今こうなってないと思う」
「私のあなたに対する想いはずっと・・・ただの憧れのままだったと思う」
「がれん・・・」
「あの怖い出来事から始まっちゃった思い出だけどさ」
「自分の気持ちに決着付けた今ならわたし、誇れると思う」
「私はさっき、彼女を引っ叩いてさ・・・弱くて臆病な自分にサヨナラしたの」
「あの日からずっとわたし達を陰ながら支えてくれた会長せんぱい──────」
「言ってくれたんだよ、まこと・・・」
「虐められてるのを受け入れるのは贖罪じゃない。方法が間違ってるって」
振り返ると、雅蓮は穏やかな笑顔をオレに向けたまま頬にキラキラとした
幾つもの感情の雫を流しながら話を続けている。そのマジな話をオレは
まだしっとりとした彼女の髪を撫でながら、黙って聞いた。
「わたし・・・言ったよね? 明日からの一週間はお芝居も、親友も全部忘れて」
「わたしに真っ直ぐ向き合ってって──────」
「・・・ズルいなって思うよ。自分で決めたルールを自分で破ってね」
「それでもまことには来年まで本気に成らないようにってお願いしてさ」
「でもね、もうだめなの・・・この気持を抑えられないよまこと」
「しょうがないよね・・・わたしはホラ、小悪魔がれんなんだし・・・」
ズルいよがれん。オレだってもうお芝居続けるの辛いんだぞ?
お前を抱きしめてたくさん愛したいのに、自分だけ・・・
そんなのって、本当にズルイよ──────
「だから・・・ね、悲しくて怖い出来事から始まった二人の時間を・・・ね」
「シアワセな終わりにしてもらいたいの。ステキな想い出に」
「ずっと忘れない宝物にして貰いたいよ、まこと」
「いつかのファーストキスみたいに・・・さ、上書きシて・・・」
「そして・・・明日から、新しい二人になりたい──────」
もうさ、お芝居とかトモダチとかルールだとか全部忘れて、今目の前にいる
愛しい彼女を抱きしめて、たくさん愛したい。そしてさ、新しい明日。
がれんが望んだ本気の一週間を二人で迎えたい──────
そう思ったらさ、そんな想いが胸いっぱいに広がって・・・いつの間にかさ
男子のヤラシイ気持ちなんて、どっかにすっ飛んで温かい感情で心が
一杯になって。がれんを想う気持ちがさ、いつの間にか涙に変わってて・・・
すっげえ泣けた。
彼女はオレの手をそっとと取り自分の胸、幼い頃に運命を乗り越えた証の
大きな傷痕に重ねた。
「ねぇ、わたし・・・ドキドキしてる?」
「してる・・・ホラ、オレもドキドキしてる」
彼女の手を取って、ジャージとTシャツをめくりあげて
オレの胸にその手を当てた、互いの手を互いの胸に当て
気持ちを確かめあった。
「えへ、ゴメンねまこと・・・わたしの胸・・・小さくて」
「いちいち言わない。どんなでも、おまえが愛しくてさ」
「がれん、愛してるよ・・・」
「──────ばか、でも・・・嬉しい」
「まことありがと。えへへ、わたしも・・・」
「あなたを心から愛していました」
オレの後ろの窓からは、いまだ止まない雨がさんざめいていた。
それは勢いを弱めること無く、二人の愛の語らいを覆い隠すように
一晩中──────。
そんな音の中で二人は、お互いが愛しい想いを打ち明けて
はじめて素肌のままの身体を重ねたんだ・・・
辛い出来事からはじまった、思い出のラストシーンを二人
ステキで幸せな記憶に上書きした──────いや、そうじゃないか。
新しい想いを、二人で新しいページに紡いだんだ・・・
その対価として、オレの生徒手帳が少しだけ軽くなったけどね。
六月十四日────── 自宅謹慎八日目 新しい朝
朝食を仕入れるために、二人で手を繋いで家を出る。
駅へ向かう日常を生きる人達と共に、すっかり晴れ渡って眩しい朝日が
昨日までの雨が齎した雫にキラキラ光を散りばめた
二人にとってあたらしい門出の道をゆく。
相変わらず、駅前ですれ違う同じ学校の連中が手を繋いだオレ達を見て
“えー”とか“もしかして”とかヒソヒソ話ししてる。
そんな生徒を見て、オレと雅蓮は顔を見合わせ、何方からともなく
クスクスと笑った。そして、お互い同じ気持ちを確認するように一つ頷いて
彼らに振り返る。
そして二人で声を揃え──────
「おはよう! いい天気になったね!!」
二人で胸を張ってそう云った──────。
オレの停学と雅蓮の弓道お休みも残るところ後一週間
期間限定のマジ恋の一週間が始まった。




