5-9 壱拾八話 小悪魔がれん 3
六月十一日────── 自宅謹慎五日目 夕方
昨日の夜、結局布団の中で二人、熱にウンウンうなされて
今朝、オレと雅蓮は猛烈な空腹に襲われて起きた。
オレが作った卵おじや3人分を二人でぺろりと平らげ
バスルームで固く絞ったタオルで、それぞれ交代で汗を拭い雅蓮のお母様・・・
いや結実さんに車で病院に連れて行ってもらった。そして二人揃って見事に
インフルエンザの陽性判定を正式な医師から賜った。
とは言え、オレの熱はあの薬のおかげで六度台の微熱まで下がり順調に回復中。
雅蓮は、まだ三十七度五分を行ったり着たりで安静にしてないといけないようだ。
そうして雅蓮は結実さんに連れられて帰宅
えらい目にあったインフルエンザ騒ぎは終了──────
したかに見えた。
なんでこんな事になったんだ? オレは今日一日を振り返って反省する
「ねぇ、マコトちょっと電話とって」
「ん。」
「ありがとマコト」
突っ込まず反省を続けるぞ、オレ──────
病院から結実さんに家まで送って貰った後、オレはまず先に昨日メーワク
掛けちまったカズに礼のメッセを飛ばした。【 何処まで行った? 】と
聞かれたので、カエルと一緒に天井の隅までと報告し、続いて蒼先生の
ケータイにお礼の電話をしたんだ・・・・・
「あ、日比谷です。先生昨日は有り難うございました」
「あの薬のおかげで夜中には熱が下がって、すげぇ助かりました」
『それは何よりだな2年A組 日比谷 真』
『だが君は彼女が居なかったら肺炎に成ってしまうような状態だったのだぞ』
「・・・返す言葉もございません」
『私達はな、君のような一人暮らしや寮生を親御さんから預かる身』
『何かあってからでは遅いのだ』
『今回の要因。君が犯した失敗はな、君が勝手に組み替えた無茶な
カリキュラムによる連日の徹夜、免疫低下だ。だから重症化したのだぞ』
『わかっているな? 日比谷 真』
「重ね重ね・・・返す言葉もございません」
『全く。ん? ──────少し待ちなさい』
「・・・・?」
『2年A組日比谷 真。現在君に与えてる謹慎中の課題だが』
『君の場合は一般生徒のような拘束と研鑽による懲罰では逆効果だと
我々は理解した。そこで学園長は君に残り一週間、社会奉仕活動を
せよと仰っています』
『(──────で、いいのだなアヤメ? 了解した)つまりだ日比谷 真』
『来週水曜から、課外労働を命じます。所謂、無給のアルバイトだ』
「えーっと・・・・・・はい?」
『すでに学園側から訂正した停学処分書をそちらに送付した』
『尚、勤め先は君に一任するが、金曜までに勤め先の責任者から一筆もらい
当該申請書を提出しなさい。以上だ、質問は?』
「先生あの──────、色々有りすぎてその・・・」
『宜しい。では考えが纏まってからから聞く。では励めよ2年A組 日比谷 真』
『失礼忘れていた。君の自動二輪車だが修繕が完了しているそうだ─────』
『(で良いのだなラチェット──────、 了解だ) 日比谷 真、明日にでも
学園まで取りに来なさい。最後に修理屋からの伝言を伝える』
『もう二度と壊すニャだそうだ了承したか?』
「──────、にゃ?」
『では明日までは安静にしているのだぞ2年A組 日比谷 真』
と、一方的な処分追加を言い渡され電話は切れた。オレも切れそうだ。
こうして、オレの一週間のグータラバカンス計画は見事に爆発四散したわけだ
一応、オレの残りの課題だった読書感想の方は免除になって、事実上減刑扱いと
この停学処分書に同封されたカリキュラム表にはあるが・・・ ちがうよね?
でもま、オレの無茶なそのバカンス計画で、雅蓮にも辛い思いをさせちまった
のだから・・・感染されたのはオレだけど、仕方ないと思ってこうして反省を
しているわけだ。で、水曜からの勤め先と、さっきからオレの反省を邪魔する
声についてだが──────
「あ!──────ね、これ買っていい?」
「必要なんだろ? 好きにしろ」
「えへー、やった。ポチッと」
・・・・・・邪魔すんな。
で、その勤め先と雅蓮の話になるわけだが・・・
蒼先生と校長先生による電話回線を使った処刑執行の10分後だったか───
「えへへ、来ちゃったマコト」
そんな、例のテンプレ台詞を口走りながら、ボストンバックを両手で持った
雅蓮が玄関前に立っていた。その後ろ、軽自動車の横に結実さんが深々と
頭を下げながら──────
「ねぇマコト、ご飯の量どれぐらいが良い?」
「わたしは・・・中ぐらいへへ」
「あ、オレ激辛ルーの方、大盛りね!」
大盛りね! じゃないよオレ。今絶賛反省中なんだから邪魔するな小悪魔
えっと何処まで反省したっけか、そうだ雅蓮と水曜からの勤め先の話か───
玄関先で話すのは失礼だと思って、雅蓮とお母様に部屋に上がってもらった。
雅蓮がここに来る途中、コンビニで買ってきたお茶とお菓子が中二テーブル
に並ぶ中、お母様が「あらあらフフフ」と何度も言いながらマイキャッスル
を見回す。
雅蓮はお母様の前にも関わらず、当たり前のようにオレの布団に寝転がり
うつ伏せで、足首から先をペチペチ鳴らすお行儀の悪い拍足を
しながらスマホであれこれ楽しそうに何かを調べていた。
えーっと・・・なにこれ、なんなのこの状況──────
「フフフっ真さん、実はね相談したいことがあるの。聞いて下さる?」
そんな導入から雅蓮のお母様。鏃 結実さんが語り始めたんだ
今後一週間の相談を──────
件のように、雅蓮はいまだインフル症状を発症中。
お医者先生が言うにはヤマは超えたそうでこれ以上悪化することはない
そうだが、雅蓮の症状は小康状態のまま推移している。
つまり、他者に感染してしまう状態。このまま雅蓮が自宅で
静養してもお父様や弟ちゃん、そしてお母様に感染ってしまう。
特にお母様は飲食関係のお仕事をされているようで、感染は極力避けたい
お店のお客さんにも感染してしまうからな。そこで雅蓮の
隔離療養となるわけだが──────
「お医者様のお話ではね」
「大事を取って熱が収まって7日間の隔離が必要なそうなの」
「困ったわね──────ね、真さん」
「・・・ハァ」
なんかオレの停学明けとピタリ時期が重なって意図的な何かを感じるな・・・
「あなた達は同じ日に熱が出て、真さんはもう治りかけ。つまり真さんには
免疫があるわけよね! だからこちらで雅蓮を見て頂こうって」
「病院への入院や、駅前のホテルでの隔離より真さんの部屋ほうが
雅蓮も安心出来るみたいだし。それにホラ」
「この間のような事もあるでしょう? こちらなら私達親も安心なのよ」
「ね、どうかしら真さん!」
理屈というか理論武装が完璧すぎて反論できねぇ・・・ちらっ
「・・・・・」
がれんさん? 今見てたよねオレのこと。ぷいっと顔を背けるな
隔離先にココを指定したのはオマエの計略なんだろ?
お母様。というかこのご両親の雅蓮に対する想いを聞かされたオレには
断れまいって、これはお母様の判断ですよね?
このお母さんもアレだな、さすがは雅蓮のカーちゃんだな
親子揃って小悪魔か!
「いや、理屈も理由もわかるんですが・・・」
「でも男女7歳にして同衾せずって話もありますし・・・
その、娘さんをオレに預ける事にこう、抵抗とかは・・・」
「あら、フフフ」
「真さん、あなたのそういう常識的な所がこの件をお願いする
理由でもあるのよ? あなたはちゃんとこの子を預かる責任も
この子の気持ちも、そして私達親の願いも理解されていて
その上で私に倫理的な事を聞いていらっしゃるのでしょう?」
「それに、この子が言うにはあなた達はもう恋人同士」
「ちゃんと将来を考えて、対処が必要なら対処してするのなら何も問題は
ないのではなくて? フフフ、私達は特に心配してませんよ」
「真さん、貴方ならね」
一体何の話だ?
するとか言わないでもらえますお母様、あなたの口から・・・
「──────チラっ」
「ぷいっ・・・」
「ハァ・・・わかりました。じゃ謹んでお預かりしますプラトニックに」
「でもオレ、停学中の課題で水曜から社会奉仕活動なのでつきっきりで
看病は出来ませんよ? それでもよければ・・・」
オレはこの瞬間きっと言葉というか話題選びに失敗したんだ。
この大小悪魔の方に追加の課題の話をスべきではなかったんだ・・・
この直後お母様は[ キタっ! ]って感じで瞳孔を☆に煌煌と輝かせ
ウフフフと笑った・・・この親子がウチの玄関に現れた時にはオレはすでに
小悪魔蟻地獄のすり鉢の中に居たんだきっと──────
「あらあらウフフ実はね真さん、うちのお店アルバイトさんを募集してたの!」
「どうかしら、うちのお店で働いてもらえないかしら! お昼時の配達のおしごと
なのだけれど・・・嬉しいことにね最近評判が良くて大忙しなの・・・」
祐実さん? あなたの語ったインフル七日説が真実なら、オレがあなたの元で
働いちゃマズイのでは? いや・・・余計な理屈を挟んだら反撃食らうだろうしな
やめとこ。
「飲食でしたよね、配達と皿洗いぐらいしか出来ませんがそれで良ければ・・・」
やるな、見事な嵌りっぷりだな2時間前のオレ。
最後は自刃だぞ? 流石、やるじゃないかオレ・・・
この直後、雅蓮とお母様は顔を見合わせてフフフと笑った
そして──────
「お店で私をお母様と呼んではおかしいわね真さん。そうねー・・・」
「以後私のことは結実と呼んでくださいね、ウフフ・・・」
「そうだ! 明日にでもお店を見に来たらいいわ!」
「お昼ごはん食べていきなさいな、はい決まり!」
「がれん、あなたはマスクをしてね」
その後、結実さんは作りすぎたのでおすそ分けねと二種類のカレーを
置いていって下さり、こうして今俺達の前にはそのカレーが
食卓を飾っているわけだ。腹減ったので以上、反省終了ぉ!
これ以外は全部オレの責任じゃないから! あたし被害者ですから!
「ね、早く食べよマコト」
「おう、いただきます!!」
ウ、ウマぁ・・・でもこの味どこかで・・・
そうか雅蓮の作ったカレーか、親子で味が似るんだなぁ。
さすが家庭の味・・・。
そしてその日の夜──────二十二時頃
「んー! お先にお湯頂きました~♪」
「随分とうれしそうね、がれんさん」
・・・・・・
にぃー・・・と笑ったな今オマエ。絶対なんかトラップ仕掛けたろ!
とにかく、俺も一応病み上がりなのでシャワー浴びて今日は早く寝よう。
ともあれ、いくら結実さん公認とはいえ、年頃の男女が一週間近く
一緒のベッドで寝るわけにもいけないし、布団を用意する必要もあるか・・・
雅蓮が自分で使う女物の物品は、オレが自己反省中にネットショップで
買っていたようだし──────
「ん・・・は?」
オレのオレンジの歯ブラシに寄り添うように桃色の歯ブラシが・・・
く、くっついてるじゃねぇか!! くっそあの小悪魔め・・・
ハァ・・・これも同棲中の恋人シーン。お芝居という事にしておこう
そう思ってオレンジ色の方を握って風呂場に入る。
風呂場に入ると、今までの質実剛健・超機能美のおれさまの浴室が
桃色にすっかり侵食され、女子のシャンプー関係や何に使うか判らない
なんかふわっとした輪っかやスポンジなどがバスルームを席巻していた
風呂だけに──────
昨日一晩中この胸の中で香っていた雅蓮の香りが、まだ温もりをたたえた雫に
濡れたバスルームに充満していた。まぁまぁ、気持ちはわかるが落ち着くんだ
取り敢えず座れ我が愚息──────。よしよしそれで良い
浴室の壁に両手をついてシャワーを頭から浴びながら自分に言い聞かせる
お芝居、これはお芝居なんだと。二人の気持ちはきっともう、お芝居
じゃないのかも知れない・・・でも、オレは雅蓮の夢を守るために
この気持を押しとどめなきゃいけない絶対、来年の夏までプラトニックを
貫かなきゃならない、なんとしてもだ。
だってオレもう・・・雅蓮がマジで好きだから──────。
心に着たカリソメの黄金聖衣は小悪魔雅蓮の猛攻によってもはや見る影もない。
いや、たぶんオレはきっとあの弓道場で雅蓮にキスする直前の一瞬で
決めてた。あの時もう、あの鎧は要らないって決断してたんだ・・・
雅蓮に対するこの気持ちがマジなんだと気付いてはっきり解った
やっと裸の心でアイツに向き合うことが出来るようになったんだって・・・
「ハァ・・・・ハァー・・・へッくち!」
「ぶり返す前に出るか・・・お前もいいな愚息。ヨシ、大人しくしてろよ」
そう決意を固め風呂を出て部屋着を着て、キッチンに出る。
肩にかけたタオルで頭を拭いながら冷蔵庫からスポドリ二本を取り出して
自室に戻る・・・
「おかえりマコト、フフッ」
「意外と長風呂なんだねマコトって」
「何かしてた?」
何をだ。
中二テーブルに置いた鏡に向かいドライヤーで髪を乾かす雅蓮。部屋の中は
奴の髪の香りがすっかり充満していてクラクラした。今固めた決意が早くも
瓦解しそうになる。
なんだこの超難解なRPG。勇者が助けなきゃいけない姫様が勇者に魔法で
攻撃してくるんだけど・・・
頭きたのでスポドリを雅蓮の頭の上に置いて整えた髪の中にぐりぐりと
植え込んでやった。
「がれんさ、おまえベッド使えよオレは下で寝るからさ」
「明日布団買いに行こうぜ」
「えっ──────」
「えへへー・・・マコト照れてるのかなぁ──────」
「っ──────なんで?」
「い、一緒に寝てくれても・・・いいじゃん」
「やっぱりマコト・・・怒ってるの?」
「わたしがお母さんと無理やり押しかけた・・・から?」
「わたしが浮かれて、はしゃいで、マコトに風邪うつして辛い思いさせたから?」
「そうじゃなくてさ、一緒にいるのは全然構わないし」
「楽しいからウエルカムだよ。でもさ、お・・・オレがその」
「止まらなくなっちまったらさ、マズイだろ?」
鼻歌交じりに髪を乾かしていた雅蓮の手が止まる。
しばらくの沈黙が続き、オレはいつまでも見下ろしてるのもなんだと思って
この間、本を手に一日中一緒に居た場所、ベッドの下に腰を下ろした
「──────っ・・・いいじゃん」
「だって──────、たった一週間だけだもん」
「ちょっと・・・さ、わたしに夢を見させてよ」
「あなたも・・・その心の鎧・・・脱いでよ」
「がれん──────?」
「部活がお休みの一週間だけ・・・はさ、お芝居止めて、親友も止めて・・・」
「わたしに、わたしだけに本気で向き合ってよ・・・」
またコイツ、すげー迫真の演技でオレを誂ってるのかと思い
より掛かかったベッドから身を乗り出してペットボトルで突いてやろうとした
ドライヤーとブラシを力なく床に降ろし、ぺたんと女座りした後ろ姿に
迫った時、鏡に映る瞳が見えた。
「せめて・・・一週間はわたしのホントの彼氏でいてよッ!!」
鏡に映る彼女の瞳は弓道場でキスした時と同じような、潤潤とした憂いを
秘めた瞳にうっすら涙を浮かべて・・・それを見たらとてもじゃないけどもう
誂うなんて出来なかった──────
「昨日だって!・・・ メッセで・・・まってたのにずっと既読が付かなくてさ」
「無視されてるんじゃないかって、すごく怖くて・・・泣きそうで・・・」
「ま、待てよ、あの時オレは──────」
「わかってるよっ!」
「でもわたし・・・ほんとは臆病で、自分に自信がないから」
「あなたの些細な一言や一瞬の間を勝手に悪い方に考えちゃう・・・」
「だから・・・だからね、ずっと不安で・・・」
「あなたに嫌われるのが怖くて。切なくて胸が苦しくて・・・」
「このままじゃわたし───来年の夏までなんて」
「──────とても・・・もたないよ」
コイツ・・・マジだ。
あの日からこの小悪魔はオレを誂いながら、たまに目元だけ真剣にして
オレの気持ちを聞いていた。オレは態度や行動でちゃんと示してきた
つもりだった。なんせ経験がないし心の鎧が邪魔をして・・・
いや、それは言い訳か。照れが先に立って、この気持を素直にスキと云う
二文字で伝えることが出来なかったんだ。
けど、それだけじゃダメなんだ、ちゃんと言葉で気持ちを伝えて
その言葉が真実だって証明するようにキスして、この気持ちは揺るぎ無い物だと
示してやらないとダメだったんだ。
だからコイツは、気持ちが宙ぶらりんな状態で不安と恐怖に怯えて・・・
「──────ッ! あーもう! どうなっても知らないからなッ!」
「オレもお前も病み上がりなんだからさ、今日は早めにベッド入ろ」
「すん・・・っ──────」
「な、がれん。一つ約束してくれ。もし、オレがお前に手を出したら」
「マジで怒ってくれ。ビンタくれていいから・・・」
「し、していいのは・・・キ、キスまで!」
「オレおまえが大事だから、お前の夢が叶ってから──────さ」
「ゆっくりこの気持ちを一緒に育んでいきたいから、ハハ何云ってんだろオレ」
「──────ばか」
そうして雅蓮は身を捩るようにして、オレに抱きついて泣いた。
オレは胸で嗚咽に震える彼女の髪をサラサラ撫でたんだ・・・
エアコンの音を上回る音量で、お互いの心臓の音が力強く鳴り響いてる気がした。
「──────まこと・・・お花摘み」
「いちいち言わない。戻ったらもう寝よ」
バスルームの方で扉がしまる音を確認して、ベッドの上のハンガーに掛かる
制服のブレザー、その内ポケットを探る。絶対に無いし! この流れで致したら
オレはただのお猿さんだ。マジありえないが・・・も、もしものためにさ
そして見つけた生徒手帳。その中に、激安の殿堂でカズと照れながらに買った
例のアレ。もしものための対処がある・・・
そんな男子の邪な考えを覆すように、何かが一枚足元に落ちた
「──────なんだこれ・・・名刺?」
「お困りごとご相談ください、探偵事務所・・・もりわか?」
「何だこれ何時の間に・・・ってヤベッ」
そんな事をしてる間にうつむいた雅蓮がトボトボ戻ってきたので
名刺を生徒手帳に挟んで内ポケに仕舞い例のアレを部屋着のポケットに
ねじ込んだ。
「き、昨日とさ同じポジでいい? オレが窓際で雅蓮が部屋側」
「──────うん」
うつむいたままベッドの横に立ち尽くす雅蓮に手を伸ばし
「──────おいで」
そう云ってやると彼女はオレの小指をチョンとつまんで隣に横になった
クッソ!な、なんかエッチな誘い方しちまった・・・
んみ、みみっみっみっみ・・・見られてなかったよな?
ポケットの中のアレを・・・
昨日と一緒で布団の中でお互いが背を向け、そろそろ一時間だ──────
ね、寝れるわけがねぇ!!!
何度も聞いた雅蓮のわかりやすい寝息が後ろから聞こえて来ないって事は
雅蓮も寝てないんだろう・・・。さっき感情を高ぶらせた雅蓮のあんな姿は
はじめて見た。雅蓮が怒るとあんな表情になるのか・・・
鏡写しだったけどあの瞳は本気だった。
ならオレは雅蓮に伝えなきゃ、この気持ちは何があっても絶対に
揺るがないんだって──────
そう思った時、オレの部屋着の背中が少し引かれて衣擦れの音とともに
背中にトンと軽い振動が伝わる。やがてオレの背に押し付けた雅蓮の頭が
震えだし、オレの部屋着の背を力強く握りしめて
か細い泣き声が聞こえはじめた。
オレは、ベッドに入る前に一瞬よぎったヨコシマな考えや
小賢しい恋愛論なんて些末でクソくだらねぇ事が、全部頭からすっ飛んで
彼女に向かい合うために振り返り、泣いてる雅蓮を
めいいっぱいの力で抱きしめた。
「がれん、好きだよ」
「泣くな、何も心配しなくてもオレは絶対にお前を離さない」
「ずっと側にいる。どんな時も絶対心は一緒だ」
「お芝居を続けてても、親友のフリしててもこの気持は変わらない」
「だから怖がったり不安になったりなんて、もうしなくていい──────」
「がれん? オレのこと信じてくれるか」
ビクリと肩を震わせて、彼女はゆっくりとオレの顔を見上げた。
この瞳はあの日、弓道場で見た瞳そのものだ。
雅蓮の瞳はオレを射抜く様に真直ぐ向けられていて、やがて静かに
閉じられた──────
あのときと同じ様に、キラキラした彼女の感情が桃色に染めた頬に
溢れて流れながら──────
そしてオレ達は三度目の正直でやっと
真のファーストキスをしたんだ──────
六月十二日────── 自宅謹慎六日目
二年間続いた習慣ってのは恐ろしいもので、バックアップのために
仕掛けたスマホの目覚まし時計より、キッカリ10分前に
いつもどおり目を覚ます。
昨日の夜、お互いの心を通い合わせたはずの雅蓮が居ない
寝起きでボヤけてはっきりしない視線を部屋のあちこちに向けるが
何処にも彼女は居なかった。でも、なんか不思議なもんでさ
何処に行ったとか変な不安なんかチットモなくて・・・
ポケットから必要もなかった邪な物を元あったように生徒手帳にしまう
今がチャンスだと思ったからな・・・ そして手首を掴んで一つ伸びをして
ブラインドを開ける。梅雨時期だってのに外はめっちゃ晴れてた。
寝起きのルーチンワーク、タンクに溜まった廃液を流すために
バスルームに向かい、そしてトイレの扉を開けた。
「あ──────」
「げ・・・!!」
慌ててドアを締めて背にする──────
「わ、悪いッ・・・てかなんでオマエ鍵閉めてないんだよ!!」
「うるさいバカぁ!! マコトのエッチ! 許さないんだからァ!!」
そんなお怒りの声とともに、彼女はドンドンと扉越しにオレの背中を蹴る。
一瞬だけさ。
なんだこの状況、アニメやその手のゲームのラッキースケベ展開
じゃあるまいしとも思ったよ。
でもさ──────
「──────フフッ」
そういうイタズラをする小悪魔を、オレはもう往なすことが出来るんだ
受けようと思うから鎧が必要なんだ。でもそれはもう要らねーと思って
あの日に脱ぎ捨ててきたからな
そう思いながら、小悪魔がワザと鍵を掛けていなかったトイレの扉を
オレは何も恐れること無く開ける──────
パジャマ姿の雅蓮が、太ももに両ヒジを付いた頬杖でオレを見上げ
悪ぅ~い顔して、にやーっと笑っていた。
「おはよマコト」
「おはよがれん」
「バカなことしてないでさ、朝飯飯食いに行こ!!」
彼女に向かって伸ばした手──────
彼女は差し出された彼氏の手をしっかり掴んで立ち上がる
これから始まる一週間は二人にとって、きっと大切な思い出になると思う。
たぶんね
壱拾八話 小悪魔がれん 終




