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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
五章 夏の終りに…
93/99

5-8 はじめてのお泊りは熱っぽい・・・


おはよマコト──────


 学校の前に病院に寄ったの。心電図の機械を返して、胸の薬をもらい

少し遅れて登校して。ちゃんと二限目から授業に参加したよマコト。

先に病院に行ったのは・・・早くあなたの所に行きたかったから

えへー。


 マコト、わたしね昨日の夜、家に帰るあなたを窓際から見ていて思ったの。

どうしてこんなに一緒にいるだけで落ち着くんだろうって・・・



 昨日も心電図がなかったら、いっぱいマコトで遊ぼうって思ってたけど

一応ほら、ドキドキしちゃったらさ、検査結果に出ちゃったら恥ずかしい

かなって。でもね、お医者様が言うにはそんなのグラフじゃ

わからないんだって。なんか──────

損した。ちぇー


 でも、昨日は大好きなソワソワ・キョロキョロの可愛いマコトじゃない

わたしがずっと憧れてたマコトを近くで見れてすごく嬉しかった。


それはね、一年のときからずっと見て来た孤高で、物静かで──────

気高いあなた。いつの日からだったろう、窓際で佇む憧れだったあなたを

ずっと見てて、いつかその傍に行きたいって想ってた

隣で貴方を感じたかった。


けど、わたし本当は臆病だからさ──────


 ずっと叶わなかったあなたの隣。

それが昨日はそんな“憧れだった場所”にずっと居られてさ、嬉しかったなぁ。

触れ合った肩であなたの息遣いを感じて、一つのイヤホンで同じ曲を聞いて

たまに手を繋いでさ、それで──────

一緒にお昼寝して。


 去年からずっと想ってた夢が、昨日ね、全部いっぺんに叶ってしまった様で

わたし、すごく満たされたんだー・・・



 ねぇマコト、お父さんとお母さんね、あなたの事をもうね──────

すーっごく気に入ってたよ。弟はチョット怖がってたけど・・・


 いつか・・・いつかね、今度はわたしがあなたのお母さんに会いたいな。

その時、あなたはわたしをなんて紹介してくれるんだろう・・・

女友だち? それとも親友(マブダチ)? 



恋人──────だったら・・・嬉しいな

                     


                 授業が終わったらまた会えるね

                         待っててねマコト




 最近ずっとこんな。恥ずかしくて絶対に人には見せられない想いが

頭の中で活字になって綴られる。気が付くとすぐ想い浮かべてしまうんだ

あなたへ届く事の無い、一方的な脳内恋文──────


 マコトはどう思ってるか知らないけどさ、わたしの精密検査の結果が出るまで

部活が出来ないのも、マコトの停学も、ゴメンね。残念とも辛いとも思って

ないんだ実は・・・密かに喜んじゃってる自分がいるの───


フフフ、こんな事あなたに言ったらわたし、また叱られてしまうんだろうなぁ


 マコト? わたしってひどい子だよね・・・

三年のインターハイで好成績を残すまで本気の恋をしないって

あなたに伝えたのにさ、──────どうもね・・・ダメみたい。


 でもね、あなたも・・・ううん、これはわたしの希望なのだけれど

あなたもわたしと同じ気持ちでいてくれているのなら、このままじゃ

もうわたし達、本当に止まらなくなってしまう気がするの──────


だからゴメンねマコト。

せめてあなただけは、お芝居を続けて──────



 あーぁ、やっぱりわたしってズルイ娘だなぁ・・・

でもさ、だってさ──────仕方ないじゃない?

 

あなたが言うにはさ、わたしは 小悪魔がれん なんだし──────



『 シュポ 』


 メッセの着信に震えた電話を、現国の先生にバレないようにポケットから

取り出して机の中で確認する。あー、もうわたし完全に悪い子だー・・・

絶対に、今日も午後から押しかけるあなたからのメッセだと思って、少しだけ

ドキドキ・・・フフっ──────



マコト            

 【 来るな 】

     2017/6/10 10:39 既読



えっ──────・・・


 心臓がキュッって苦しくなって、手から電話がこぼれ落ちそうになる。

ほとんど条件反射でその三文字、突然の絶望に抗ってしまう──────




                                がれん

                          【 どうしたの? 】

                           2017/6/10 10:39  


震える手で返信する・・・


 どうして?! 昨日わたしがほとんど話しをしなかったから怒ったの? 

夜に昨日突然家に連れて行ったから?


もしかして! 昨日お父さんになにか言われた?

ねえ! マコトわたし、それだけじゃわからないよっ!!


 いつまで経っても既読マークが付かないメッセージに思わす癇癪をおこして

全く余裕のない返信をしてしまう──────



                                がれん

                      【 ねえ!なんとか言って! 】

                           2017/6/10 10:47



 やっぱり付かない既読マークに、まるでマコトに無視されている様な気がして

授業中の教室でわんわん泣きそうになる。


──────突然なんで・・・なに・・・それ。


机に隠していた電話をポケットにつっ込んで黒板前の先生へ向け手を

上げる──────


「先生・・・けほっ、具合が悪いので早退します」

「あら、鏃さん大丈夫? 今朝も病院行ってらしたものね」

「担任の先生に言っておくわね、お大事に」


「す、すいません・・・」


 偶然出た咳が、わたしのウソにこれ以上無い信憑性を与えた。

つい一ヶ月前まではわたし、先生嘘ついて学校を抜け出すこんな悪い子

じゃなかったのに──────


これも、全部ぜんぶあなたのせいなんだからッ!


 混乱にフラつきながら教室を出るわたしを、もう一人の親友、和哉くんが

心配そうに見てる・・・。ごめんね和哉くん。

悪いのはみんなあのマコトだよ!!


 もう! どうしたのよマコト・・・一体何かあったの?!

まさか、この間の不良達が今度はマコトに何かしたんじゃ──────

忘れかけてた数日前の恐怖が全身を襲って階段の壁に手を付いたまま

しゃがみ込みそうになる・・・



 急に怖くなって、連絡先の一番上にソートされるように工夫した

[ A 日比谷 真 ]の表示をタンタン連打しながら昇降口に向かい駆け出す


『 お掛けになった電話をお呼び出ししましたが・・・ 』



 だめ!出ない・・・お願いだから出て、マコト!

わたしあなたの声が聞きたいよ! ビックリした? って笑いながら誂って!

リダイヤルを連打──────、お願い、お願いだから出て・・・


『 お掛けになった電話をお呼び・・・ 』


「すん・・・ッ──────く」


 一体どうしちゃったのマコト・・・わたし──────怖いよ

もう──────わたしのこと嫌い? 何を怒ってるの? 無事なのマコト


わたし嫌だよこんなの。酷いよ・・・




その時突然鳴ったメッセ着信音に、早る気持ちのまま電話に視線を落とした。


マコト 

【 がれん ごめん ねつ でた うつる くるな 】

                2017/6/10 11:02 既読




 そのメッセージと同時に私の返信に一斉に既読マークが付いた。

ホッとして、駐輪場の自分の自転車の隣に膝を抱えて座り込んでしまった・・・


「もう──────わたしのばかっ」




                                 がれん

                           【 熱何度あるの? 】

                     【 大丈夫? 今行くから待ってて 】

                         2017/6/10 11:02 既読


マコト 

【 測り ない くるな うつるから 】

       2017/6/10 11:03 既読


                                 がれん

                       【 ほっとけないよバカ! 】

                         2017/6/10 11:03 既読





 本当によかった。課題を一週間で終わらすなんて言って何日も徹夜で

無茶するからだよ・・・もう。バカバカッ!!


不安や心配が、そんな怒りになって彼の元へ駆けつける原動力に変わる。


 マコトの家へ行く前にドラッグストアに寄って解熱剤を買って・・・

そうだおかゆさんの材料も。カレーライス作った時に冷蔵庫に何もなかったから

ヨーグルトと経口補水液を・・・あーもう! ・・・おちつけわたしっ




 駅前のドラッグストアでとりあえず思いついた物を片っ端に買って

マコトのアパートへ自転車を漕ぎ出す。背中や額にじっとり汗が浮かんで

手の甲で額の汗を拭いながらマコトのアパートにたどり着いた。


「来たよマコト、ねぇ大丈夫?」

ドアノブを回すも施錠されていて開かない。


「マコト! ねぇ聞こえてる?」


 ドアに耳を当てて中の様子を伺うと、見事にがらがらの嗄れたマコトの声が

何かを伝えようとしているのが聞こえた。よかった、とりあえず意識はあるのね

電話を取り出してメッセで語りかける。



                                 がれん

             【 マコト鍵が掛かってて入れない ねぇ立てる? 】

                          2017/6/10 12:08 既読



暫く待つと・・・


マコト

【 ごめ むり 】

    2017/6/10 12:09 既読




                                 がれん

                            【わかった寝てて】

                         2017/6/10 12:09 既読



 アパートの外側へ駆け出して、壁面にある入居者募集の看板に書かれた

電話番号を見つける。震える指で管理会社に電話する──────


「──────実は友達が中で倒れたみたいで──────はい」

「わかりました、いま取りに伺います」


 買い物袋をマコトの部屋のドアノブにかけて、自転車で駅前の不動産会社へ

鍵を借りるために舞い戻る。


 事情を話して手続きをし鍵を借りて、三度マコトの元に

自転車を走らせる。途中で、ハッと思い出して自宅に続く路地を曲がる。



 自宅に寄って、玄関も閉めないまま二階に駆け上がって自分の部屋から

ピンク色の体温計を持ち出す。キョトンとしながら昼食を取っている

お母さんと弟に挨拶もしないまま飛び出して、自転車でマコトの

元へ急いだ──────。




「マコトッ!」


 合鍵で扉を開けて、やっとたどり着いたマコトの部屋。

靴を投げ出したままマコト部屋に入ると、ベッドでうつ伏せになって

電話を握りしめたマコトが、全身に脂汗をじっとりかいて眉間にシワを寄せ

苦しそうに息をしてる・・・おでこを触っただけでわかる・・・


「やだ! すごい熱──────」


 慌ててバスルームへ向かい、フェイスタオルを探すけど、男の子の部屋。

どこにあるかわからない。どうしようとキョロキョロしてる時に思い出した。

お洗濯してアイロンを掛け、会った時に返そうと思ってた

会長のハンカチ──────


 わたしはその女神様のハンカチをお勝手の水道で濡らして堅く絞り

マコトのおでこに乗せた。


「んッ・・・冷て・・・」


「マコトお水すこし飲もう、ね」

「──────いら・・・ない」


「 だ め ! ねぇいい子だから飲も、ね」 


 そうなだめて経口補水液を飲ませたけど、すぐに咳をして苦しそうにしてる

どうしよう、これじゃ解熱剤飲むのも辛そう・・・ポケットに入れて自室より

持ってきた自分の基礎体温計を取り出してマコトに咥えさせた。


「すぐ測れるからさ、頑張ろうねマコト・・・」

「──────がれん、がれん?」


「ん、大丈夫、わたしココにいるよ」


「がれん──────手、握って・・・例の・・・やつで」

「もう──────あまえんぼう」


マコトのベッドの前にひざまずいて、いつもの恋人繋ぎで手を握った。




 

 結局、解熱剤を飲ませることも辛そうだったので、彼の手を握りながら

頭を撫でていた。安心したのか彼はスースーと寝息を立て始め

わたしはこれからどうするべきかを考える。


 熱は39℃を越えていて、こんな状態のマコトを抱えて病院に行くわけにも

行かず、救急車を呼ぶべきか考える。

そんな時に思い出した。


蒼先生のことを。



 すがる思いで学校に電話し事情を説明すると、あっさり来て下さると言うので

ホッとしてマコトの横にぺしゃりと座り込んでしまう。


 すこし落ち着いたのか、頭の中が“パニックがれん”から“通常がれん”に戻って

基礎体温計を持ち出した時のお母さんの顔を思い出す。

きっと心配してるだろうって、電話をかけた。




「──────そう、一先ず安心したわ。先生が来て下さるならお任せしましょ」

「でも、何かあったらすぐ電話なさい雅蓮。車で迎えに行くから、ね」


「うん──────」


「雅蓮、あなたはこの後どうしたい? 彼の側に居たい?」


「──────、うん」


「それなら一生懸命看病して上げなさい。泊まっても構わないから」

「今度はあなたの番よ雅蓮、助けてもらった恩返しをしないと」


 が、外泊ゥゥ!・・・わたしが、マコトの部屋に・・・?

お母さんがそんな事を言うもんだからさ、途端に顔が赤くなって

ドキドキしちゃう


 ほっぺを押さえてオロオロしていると突然のドアチャイムに飛び上がる


 やってきたマスク姿の蒼先生は、まっすぐにマコトの机へと部屋の

なかを進み、立派な革製のドクターバッグから聴診器を取り出してマコトの

お布団をめくる。その流れで彼のTシャツの裾を持ち上げたので

わたしはお勝手に移動した。



 マコトの具合がどうなのか、わたしは心配と不安で冷蔵庫の前を

ウロウロして、マコトの部屋とお勝手を隔てる引き戸の擦りガラスに映る

先生の影をこっそり伺った。


「・・・・・・、一先ずよし」


 そういう声が聞こえたので部屋の中を見ると、いつの間にかひっくり

返されたマコトの背中、先生は患者のTシャツを下ろした。



 先生はマコトの机に置いたドクターバッグに聴診器を仕舞い、切れ長の

横目でわたしを観ながら、人差し指をクイクイ曲げて

おいでおいでする──────


 何だろうと思いながら部屋に入ると、振り返った蒼先生が突然わたしの

腰に手を回し、わたしの背を反らせて人差し指でわたしの顎をクイって

持ち上げた・・・なんか・・・この先生手慣れてるッ ///


 突然の出来事に思わず瞳を見開いて赤面してしまう。

先生の顔、まるで蒼く澄み切ったような先生の瞳が・・・どんどん・・・

わたしの顔に近づいて──────


「や!嫌ぁせんせいダメ ──────・・・って、痛ッたっ!!」

「すぐ終わります。ガマンなさい」


 まるでズボって音がしたんじゃないかって勢いでわたしの鼻にながーい綿棒

が差し込まれてケホケホ咳が出た・・・何この不意打ち、先生ヒドイ!


 そんな私に先生は一切気にする様子もなく、また机で何かを始め

再び振り返りったので、わたしは胸を隠すように手首を握った。


 先生はまたわたしに歩み寄り、疑いのジト目で見るわたしに

白衣の胸ポケットから取り出した棒付きキャンディの包を一瞬で剥ぎ取って

わたしの口に放り込んだ。


呆気にとられたそんなわたしの頭に、先生がぽんと手を乗せた。


「よく出来ました」

「んんー・・・・・むぅ!」


 飴ちゃんを舐めながら、意外とプレイボーイなのかも知れない先生が

いそいそ何かをやる背中から、再びマコトに視線を移す。うつ伏せで寝息に

肩を揺らす彼の顔は未だ苦しそうで、心配が再びわたしのココロを

締め付けた・・・



「やはりな、インフルエンザのようだ」

「君の早急で適切な対処のおかげで、この馬鹿者は肺炎を免れました」

「お手柄でしたね。2-A 鏃 雅蓮 」


 インフルエンザ・・・? そう聞かされて、昨日ここで二人一緒に居た事を

思い出す。マコトは課題の為に数日ほとんど部屋を出ていない・・・



じゃ──────、わたしが?!


「先生! わたしは? わたしは陽性ですか!!」

「きっとわたしが・・・マコトに感染(うつ)しちゃったんだ──────」

「病院で貰ってきちゃってたんだわたし・・・なのに、なのにわたし・・・」


 浮かれて、はしゃいで、その結果マコトにこんな苦しい思いをさせてしまって

そう思うと自分の身勝手に、胸が詰まって涙が溢れだしてしまった。

蒼先生は、メガネをくいって上げて一つ頷き、わたしの肩に手をおいた。


 ポロポロ涙を流すわたしを励ます蒼先生は、ドクターバックの横に積まれていた

マコトの課題ノートをペラペラめくりながら少し大きく溜息をつく。


「なに、気に病む必要は無いただの流行病だ──────」

「この馬鹿者の疲弊した免疫力では、遅かれ早かれ」

「何処かの誰かに感染させられていただろう」


「元はと言えばこの馬鹿者が未成熟な体で徹夜などするのが悪い」

「君は、よくやったぞ 鏃 雅蓮」


 そう言うと、蒼先生はマコトの机で何かを走り書き、電話でわたしが

通ってる病院、蒼先生の大学時代の御学友である医師に薬の手配をして

下さり、まもなく駆け付けた和哉くんが病院に薬を取りに行ってくれた。




それから20分ぐらい経った頃かな──────


「2-A 藤田 和哉、ご苦労だった。心配もあろうがここに居ては君も感染する」

「学園でのボランティア活動にもどりなさい。なに週明けにはよくなるだろう」


「──────ハァ、残念だけどその通りだろうな。雅蓮マコトを頼んだぜ!」

「うん、和哉くんありがとね!」


「じゃまたな! お前等、えってぃ事するなら後で感想きかせろよハハッ・・・」

「──────痛ッて!」


 そんな事言う和哉くんの背中に振り上げた平手を思いっきりお見舞いして

蒼先生と一緒に和哉くんは学校へ戻っていった。





 まるで台風のように、わたしの頭の中をめちゃくちゃに混乱させてた出来事が

ウソみたいに収まって、静まり返ったあなたの部屋。エアコンの音とあなたの

寝息だけが小さく聞こえている。


 わたしはなんだか一気に気が抜けてしまって、たまに眉をひそめながら眠る

あなたの胸元付近のベッド下にぺたんと座り込んでしまった・・・


「はぁ・・・」


 先生の対症治療のおかげで、あなたの寝顔はだいぶ良くなった。

先生は、マコトが起きたら与なさいといって、吸入薬を。

そしてわたしには症状が現れる前に飲みなさいと

飲み薬を用意してくれた。



「──────スー・・・スー・・・」


 穏やかに寝ちゃってさ・・・ビックリさせないでよね・・・もう

そりゃ、わたしが勘違いして勝手に疑心暗鬼になってたのもあるけどさ

そう思ってマコト鼻先をちょんと突いた


マコトのおでこにのった、すっかり温くなった会長のハンカチを持って

洗面所へ。再び濡らしたハンカチを固く絞って顔を上げた。


「あーぁ、ひどい顔だー・・・わたし」


 慕ってるあなたのために走り回って、髪が乱れて汗でテカり気味の頬を桃色に

染めた、必死な女が鏡に写っていた。



まるであの時みたいに──────



「会長せんぱい。わたしだけじゃなく──────」

「わたしの大切な人も支えてくれるんですね。もぅこんな大恩、返せないよ」


そう思って、A.Mと刺繍されたハンカチを胸に押し当てた。




 ハンカチをマコトのおデコにのせて再び鏡の前に立ち、くしゃくしゃに

乱れた髪を鏡の下にあったマコトのくしで整える。


くしの隣りにあったオレンジ色のマグカップに一本だけある同じ色の歯ブラシ

「オレンジ色なんだマコトの・・・好きなのかなオレンジ色」


桃色の自分のがそこにあったら・・・なんて想像をして、顔をブンブン振る


 男子の家の洗面台で、男子の櫛で髪を整える自分に、照れていると

頬がまるで夕焼けのオレンジ色に染まっていくような気がして


「うぅ、なんか・・・、照れちゃうな、もう」

ため息を付いて腕時計を見ると午後4時を回る頃だった。




そう言えば──────

と思って、汗でベタついた制服の胸のリボンを持ち上げて

制服下の自分の様子を、くんくんと伺う


「──────わ、汗くちゃい・・・」



 いったん家に帰ってお風呂に入り、また来ようかとも思ったけど

マコトが起きた時にすぐお薬をあげて、早く楽にしてあげたくて

すごく悩む──────


「・・・・・・うぅ」


 洗面所の隣りにあるバスルーム、そのアコーディオンドアを少し開けて

ちらりと中を覗く・・・

知らないメーカーのメンズボディソープ、お父さんのとは違う銘柄のシャンプー

その横の石鹸皿にはT字のひげそり。見知らぬお風呂場──────


 ドキドキしていると正面にある鏡中の頬を紅く染めた女と

思わず目が合ってしまい慌ててドアを締める──────


「どうしよ・・・でも、うぅどうしたらいいのわたし・・・」


 行きつ戻りつしながら考えて、結局わからなくて。

マコトの隣に跪いて、彼の肩に両手を添え、少し揺らしながら

お風呂の主の名を呼ぶ──────


「マコト。ねぇ・・・マコト?」

「んっ──────スー・・・スー・・・」


 よ、良し。よく寝てる・・・

ウジウジ悩んでるぐらいなら、今がチャンスかも知れない──────


 洗面所の鍵を締めて、スカートのファスナーを下ろす。

シュルリと衣擦れの音と共に、足首の辺りにパサリとスカートが落ちる

胸のリボンを緩めて頭を潜らすように外す。そしてブラウスのボタンに

手をかけ3つ外した所で手が止まる・・・


「うぅぅぅ、やっぱムリ。流石にこれは恥ずかしすぎる・・・」


 そう口に出した途端に全身が火照りだして慌てて元のように身を正して

部屋に戻り、カバンから出した制汗スプレーでとりあえずの清めをした。




 マコトのベッド脇にぺたりと座り

いつもみたいに手を握って寝息を立てるマコトの髪を撫でる。

いつものサラサラじゃ無いのがなんだか妙に愛しい・・・


 今日の出来事をまた脳内恋文にしたためながら

繋いだ手のぬくもりに安心して、こくりこくりと居眠りしてしまい

気付くともう夜8時近く。すっかり真っ暗な部屋の明かりをつけようと

立ち上がったけれど、彼を起こしてしまいそうな気がしてベッドの横に

また腰を下ろした


でもそれは取り越し苦労だったようで、わたしの王子様がやっと目を覚ます。


「あ・・・フフッ、起きた。おはよマコト」


 わたし、彼と親密になってからこの言葉を何度言ったかな

普通に考えたら同級生にそんな事言うシチュって何度もないよね

フフッ変なの。


「ん! ゲホッ・・・うん。がれんおはよ」

「ずっと居てくれたの? おまえ、門限は?」


「それよりほらこれ、インフルのお薬。蒼先生が用意してくれたの」

「また寝ちゃう前に使って。そうすればわたしも安心だから・・・」


 マコトは頷いてその吸入器を説明書通りに咥えて薬を吸い込んだ。

粉っぽさにケホケホしてるあなたを観てたら急に安心しちゃって

お布団を掛けているあなたの腰辺りに両手を投げ出して

覆いかぶさる──────


私の髪を撫でてくれるマコトのお布団に顔を埋めて目を閉じる

はぁ、なんか疲れちゃった。何だったんだろう今日一日


「今日はずっと一緒にいてあげるからね。安心してさ、もう少し寝てて」

「なんだか・・・私も疲れちゃった」

「手握っててあげるから・・・さ、いっしょに・・・ちょっと寝よ?」


「おきたら・・・お粥さん。・・・作って・・・あげるから──────」



ごめんね、ちょっと休憩させてねマコト──────





・・・・






 しまった、だいぶ寝ちゃったかも・・・腰と肩がイタタ

腕時計を見るとそろそろ23時か・・・お粥さん作ろ、マコトが起きたら

一緒に──────あれ?


なんだかおかしいな、と思った瞬間から悪寒に体が震えだした・・・


 あー・・・やってしまいました。

蒼先生が飲んでおきなさいって渡してくれたお薬の飲むの完全にわすれてた

マコトの机の上にある薬を取りに立ち上がろうとした途端に

天井がぐるぐる回って、すっごい目眩にクラクラするよマコト・・・


「あ・・・ヤバ──────」


 マコトの机に手をついて、倒れちゃうのをなんとか耐えた・・・

立ってると危ないので、その場にぺたりと尻餅をついて

マコトの机に肩からより掛かる・・・辛らァ──────



「んっ──────フゥー。」

「薬効いたのかな、かなり楽に・・・って! がれんお前大丈夫か!」


「──────えへー。ミイラとりがミイラになってしまいました」


 マコトの具合が良くなったみたいで、ホッとしたらとたんに自分の具合が

どんどん悪くなって、よつん這いでなんとかベッドまでたどり着き

驚く彼の胸に向かって倒れ込んじゃった。

ごめんねマコト、ドジっ娘で──────


ゾクゾクと悪寒が襲ってきて、体が勝手にガタガタと震えだした。


「ホラ見ろやっぱりオレ、お前にうつっちゃったじゃないか!」

「ちがうよマコト。・・・ハァ・・私があなたに・・・うつしちゃったんだよ」


「──────どっちでもいいよもう。寒いんだろ?」

「ホラ、おいで、がれん」


ん──────ッッ! 今その言葉はすごくズルイよバカっ!!


 そういいながら、マコトは自分のお布団をめくって誘ってくれる

まいったなぁ、こんな時いつもならちょっと誂ってあげるのに───なぁ

そう思いながら、彼の胸に行こうと思って踏みとどまる。


「だ、だめ!! わたし今・・・絶対に汗くさいもん・・・」


 そう思って、下唇を噛みしめてバスルームに逃げ込もうとしたのに

捕まってお布団の中に連れ込まれてしまった──────


「気にすんな。そんな事でキライになったりしないから」


なんでそんなに優しいのよっばか! うぅぅ・・・恥ずかしいよ

そんな私を布団の中に残し、マコトは出ていってしまった・・・


え、なんで? 一緒に居てよ・・・自分だけ先に良くなったからって

一人に──────しないでよ



 寂しい思いにじわーって涙が滲んで鼻をすすった。

彼はお勝手の冷蔵庫を一度開けてそのまま閉め、シンクの袋から経口補水液

持って部屋に戻り、すぐに私の分の薬を見つけて──────


「コレ飲んでさ、きょうはもう寝よ」

「おきたらおじや作ってやるからさ、それ二人で食べてさ」

「そしたらお母様に電話してやるから、迎えに来てもらお、な雅蓮。」


「──────うー・・・うん」


なによ!

そんな照れるようなこと真顔で言ってさ、もう! ほんとズルイよ。


 お粥の材料もそのお水も、わたしがマコトのために買ってきたのにさ・・・

結局、全部自分の手柄にしちゃうんだから・・・もう、あなた察し良すぎだよ

──────ばか


 マコトのおふとんの中で震えるわたしを、水とくすりを手にした彼は

覆いかぶさるように乗り越えて、元の場所で添い寝する。薬を一粒取り出して

悔しさに下唇を噛んでるわたしのくちびるにそれを軽く当てた

うー・・・悔しい。


「ほら、がれん口開けて」


なんかエッチだし・・・


 悪寒とからだの怠さに反撃できずに少し口を開くと

マコトは私の口の中に薬を一粒人差し指で押し込んだ。

その指に噛み付いてやろうとするも避けられた・・・


「ん、水。それとも・・・口移しで飲ませてやろうか? フフッ」


ばかもの!

そんなこと照れ屋のあなたが絶対にできないクセにィ!

じゃあやってよッ!!


今までわたしが誂った分のお反しをしてるなコイツぅ・・・ハァハァ



 マコトはクスクス笑いながら私の頭にペットボトルをトンと置いて

お布団に入ってきた・・・。ムカついたから足蹴ってやった。


「マコト。あ、あんまり近づかないで・・・あっち向いて!」

「あ・・・汗が・・・恥ずかしいからっ!」


「はいはい」


 熱のせいなのか恥ずかしいからか

もうどっちのせいで震えてるのかわかんないよ


 汗くちゃいのもそうだけど、絶対になんとかしなきゃ

いけないことがあるんだよなぁ、こうして熱で頭がボーッとしてなきゃ

絶対にこんな事できないんだけど・・・


「マコトあっち向いてて! 絶対振り返っちゃだ、ダメなんだからね」

「コッチみたら・・・ハァ・・・ハァ。ひ、ひっぱたくから・・・」


「さ わ ぐ な 」

「目回して倒れるぞがれん」


うううぅぅ・・・頬杖をついて後ろ向いて寝てるマコトを気にしながら

お布団の中で制服を・・・脱ぐしかないよねやっぱり


「って、ちょ!!おま・・・何脱いでんだよバカ!!」


「見 ん な ばか、えっち!!」

「──────だ、だって・・・さ、看病で外泊してるのに」

「シワだらけの制服で帰ったら・・・ご、誤解とか・・・」

「──────されちゃうじゃないお母さんにィ ハァハァ・・・」


「はぁ・・・そりゃそうだ。でもそうなら一言先に言えよな」


 ベッド上のハンガーにかかる自分の制服をマコトがクンと引っ張って

おふとんの上にわざと落として自分のワイシャツを私の頭の上にかぶせた


「布団の中だからって人んちで勝手に裸になりやがって・・・ハァ」

「や!! やらしい・・・言い方・・・すんな・・・このっ このっ!!」


 は、裸って下着はつけてるでしょ!!

後ろのスケベはかかとで蹴ってやるんだからァ!


い、一回ぐらいは当たりなさいよバカ!



「い、いい?・・・絶対こっち見ないで! 怒るからねっ」

「へーいへい、オマエが騒ぐからオレまた熱出てきたっぽいぞ、バカ」

「──────べ・・・ざまみろ!!」


 マコトが貸してくれたワイシャツを羽織ってボタンを止める。

この部屋の・・・彼の香りがふわっと、わたしを包み込んで

それだけでもうクラクラする。きっと熱のせいなんだからっ!


 今の自分の姿を想像して、慌てて布団に潜り込み頭まで布団をかぶる

──────ッ、こんな姿のほうが絶対・・・やらしいじゃん!



 布団の中で膝を抱え丸まって我慢してると、とたんに悪寒が襲ってきて

肩が勝手にガタガタと震えだす・・・目が回りだして瞳を閉じて必死に堪える


「静かになったな、着たのかシャツ。振り向くぞ、いいな? 噛み付くなよ」

「・・・・・・うん」


気配で彼が、私の上を追い越して、戻ってくる


「熱測れよ、ホラ」


 おふとんから目の高さまで顔を出してふてくされる。

そんなわたしをマコトが肩を抱くように後ろから腕を回して

体温計をわたしの口元に寄せた。熱が上がった気がしてもう抗えなよ・・・


 わたしの基礎体温計。あのときは必死で考えられなかったけど

毎月わたしが口にしている体温計を、お昼にマコトに咥えさせちゃったんだ

わたし──────これじゃもう間接キ・・・


目を閉じて何も考えないようにして咥える



 ねぇマコト。急に静かにならないでよ・・・ マコトってば・・・

ちゃんと後ろにいるの? 悔しさと恥しさで唇をかみしめて苦しさで

鼻で荒い息をしてると電子音が小さく2回鳴って

すぐに体温計が取り上げられ──────


「38度2分と・・・。ほらみろ燥ぐからだいぶ熱出てるじゃないか」

「・・・丁度いいやオレも測ろ」


ちょ!ばか・・・わたしが今・・・その・・・って、そのまま咥えるな!


「37度3分5厘? なんで四桁なんだこの体温計・・・」

「それよかスゲーなあの薬・・・速攻じゃん!」


知らないよッ! ばかばかっ!!


「な、がれん震えてる。寒いんだろ? 怒るなよ・・・」


 そう言うと、彼は膝を抱えて丸くなって堪えてる私の手首を掴んで・・・

もう抵抗する気も、力もなくされるがままひっくり返されて

正面から半裸で彼の胸の中に──────


「ん・・・こんなやらしいのだめなのに・・・絶対くちゃいのにわたし」

「いーから。今日はありがとな、がれん。これでおあいこな」


「・・・うん」

そう言うと、向かい合ってる彼は私の頭を両手でかかえてくれて──────

私のつむじに顎を乗せて、髪に顔をうずめて深呼吸した・・・


「嫌ぁ・・・変なにおいするでしょわたし・・・」

「ん・・・元気な女のシャンプーの香り──────なんか・・・落ち着く」


たしか最後に、そんな話したと思うんだ・・・わたし達




 翌朝、わたし達は彼が作ってくれた卵おじやを食べて、彼が呼んでくれた

お母さんの車で一応病院へ・・・。



 運転席のお母さんが目を細めてフフフと笑ってるのがくすぐったくて

視線を泳がすと、バックミラーに映る後席のばかものは、部屋着のスウェット

ジャージのお腹に手を突っ込んで、頭とお腹を掻きながら

大あくび──────



ホンっと! あなたって大物だよ・・・マコトのバカ!

これがわたしの・・・初めての熱っぽいお泊りでした。






頭の中で


緑色や茶色がマーブル模様でうねりながら流れる雲

オレはその中へとカエルと一緒に天井に向かって浮かび上がり

天井の隅の角に頭をぶつけた・・・


不愉快なその夢から逃れるように目を開けると

オレの腕の中で部屋着の胸元を両手で掴んでいる

雅蓮が静かに寝息を立てていた。


壁の時計に目をやると午前三時。


「・・・んっ──────スー・・・スー」


ショートカットの前髪を小指で分けて顕になった額に

くちずけして確認した。


「よかった熱下がって・・・」


どうやら朝から駆けずり回って、それからずっとそばに

居てくれたんだろ? がれん。マジでありがとうな・・・


好きだよ。


お芝居の最中だから直接言えないのだけど

一言そうつぶやいたらすこし落ち着いて

また目を閉じた──────



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