5-5 壱拾七話 効果判定・期間限定のカノジョ 4
「マコト・・・雅蓮のチャリやっぱまだ駐輪場にあったぜ」
雅蓮が何処にいるか、知ってるやつが居る。窓際のパリピ連中だ。
オレはコイツ等を監視するために、カズヤに駐輪場を見に行ってもらった。
校内に居るのか憔悴したあの姿のまま街を彷徨い歩いてるのか。
今直ぐ聞き出してやるこの女にッ!!
「あっ! おい待てマコト!」
「おい、ガレンはどこだ」
今日、ずっとオレと雅蓮を監視するようにチラ見しながら、何処かに連絡を
してたクソ女の前に立つ。この期に及んで言い訳なんてしてみろ──────
「は? 何、日比谷。知らないんだけど、つかなんでアタシに聞くわけ?」
「だからさ、言い訳なんてするなって云ってんだろ!」
「キャァ!!」
「ヒビヤぁ!てめェ 何や──────ガふっっ」
オレの後ろ回し蹴りにすっとんだ取り巻きのパリピ男が机や椅子をなぎ倒して
床に沈む。まだ教室に残ってた連中の悲鳴が上がるがそんな事知ったこっちゃない
ほら、見てみな外を。土砂降ってきたぜ?
オレと雨に踊るか、レッツパーティってさ
「クッソ、日比谷てめ──────」
「邪魔するなクズ、そこで死んでろ──────」
「立ち上がってきたいなら来い、おまえ、本当に殺すぞ」
「よぉ、そこのもうひとり、おまえも飛んでみるか?」
黒板の横に居る震えたもうひとりに話しかける、なんだよオマエ
ヤる気なしか? ヘタレがそのまま死ね!
「な、なんか・・・ヤバくない? 先生呼んできたほうが──────」
「まーまーまー唯ちゃんまってよ。オレがちゃんと収めるからさ」
「マコト!!よせ、そいつ等 シメても仕方ないだろ!!」
「だとさ。ホラ早く話せよ雅蓮の居場所、オマエ本当に死ぬぞ?」
「い・・・痛いマジ・・・で、苦し・・・」
ギャルのダルなリボンごと胸ぐらを両手でつかんで吊るし上げる
オマエ・・・軽いな、ちゃんと飯食ってるのか? 浮いてるぞ
「最後だ、雅蓮はど──────」
「──────すまねえ真!!」
「──────ッ!」
カズヤにぶん殴られて手を離してしまうクソッ・・・
ピーピングギャルは力なく椅子に崩れ落ちて豪快に咳してる
チッ命拾いしたな──────クズ
「なぁ、落ち着けマコト! 豊田、おまえ大丈夫か? 平気・・・そうだな」
「・・・・あ、アタシ! マジ知らないよ・・・ケホ・・・」
「ただセンパイが。あ、アンタ達がイチャついてないか見張れって・・・」
「そうしてガタガタみっともなく震えるぐらいならな」
「加担なんてするんじゃねぇ! じゃソイツに電話しろ」
「いま!すぐッ!!」
「ヒ・・・嫌ァァ!! ごめんなさい・・・わあァァァ・・・」
「マコト! もういいだろ探しに行くぞ、来い!」
「チッ──────、使えない奴らだな、死ねクズ!」
カズヤに教室から引っ張り出されてそのまま、二人で駐輪場のバイクに
向かって走る。こうなったら雅蓮が自分で・・・クソッ!
サイアクな事が起きる前になんとしてもアイツを見つけ出さないと
何処に居るんだ一体ッ!
「俺はチームのみんなを集める、マコトは先にいけ!!」
「すまんカズヤ! 頼んだ」
デュラハンに跨りそのまま校門を出て街を馳せる・・・
雅蓮ッ、バカなことするなよ! 絶対にに見つけ出してやるからな!
土砂降りの中バイクで駆け巡るも手掛かりすら見つけられない・・・
周囲はもうすっかり闇だ、どこかで倒れてでもしたらマジで見つけ出せない
何度かカズヤ達、ゼロハン連合から連絡をもらったが向こうも梨の礫らしい
畜生ッ、もう一度駅に行ってみるか──────
駅前ロータリにバイクを止め、改札を飛び越えてそのままホームまで来る。
駅員に肩を抑えられながら見回すがやっぱりアイツらしき姿は見つからない
駅を出たところで今日一日中見守ってた雅蓮の憔悴しきった顔が
頭いっぱいに広がって倒れそうになった
「ヤベっ・・・低体温か──────」
ふらついてバイクのシートに手をついた時
スマホがカズヤの連絡に震えた。
「マコト! 居たぞ!! ガッコの弓道場だ!」
「女共の他に10人ぐらいの野郎が雅蓮を──────」
「やべっ! なんだあれ・・・ハサミか? クソッ雅蓮がッ」
「すまん先に行くぞマコト! オオォルアアァァァ──────」
「カズヤ!! オレが──────せめて仲間が来るまで待ッ・・・」
「クソ! カズッ・・・カズヤ!!」
スマホからカズヤの雄叫びが聞こえる・・・
アイツ! ケンカもろくにできないクセに・・・待ってろよカズヤ、ガレン!!
オレはバイクに跨って、駅から五分程の学校に急いだ
ノーヘルのまま校門から駐輪場へ抜け、木々と雑草が生い茂る垣根を
弓道場へ向け最短距離に突き進む。
弓道場の竹の柵をそのまま突破して、前輪にその竹が挟まって前転する反動を
利用して前方の矢道に着地しそのまま射場まで一気に駆け上る。
突然の出来事に驚きの眼差しを向けるクズどもへ駆け寄った勢いのまま殴り
掛かり、カズヤを痛めつけてた数人を即座に沈める。
「カズヤ、大丈夫かッ!!」
「ガレ──────・・・ッ!」
クズ男がガレンを後ろから抱え上げて・・・いて
ガレンの──────雅蓮の髪が・・・
「オウ! 上等だこのガキ! ブッ殺──────ごふぅ・・・」
「オラァ!この娘がどう──────ガハッ・・・なっ・・・て」
カズヤを押さえつけてる一人がオレに向かってくるのをフルスイングの
裏拳でなぎ倒し、そのまま彼女の後ろに居るクズに全体重を乗せたストレート
を見舞って、憔悴したガレンを抱きかかえる──────
「あ・・・マコト? えへへへ、さっぱりしちゃった・・・」
「──────ッッ!!!」
雅蓮の肩まであった髪は左半分を耳上の高さからほとんど・・・
「オイガキ! コイツがどうなってもいいのか、アァ!!」
カズヤの首を後ろからチョークスリーパーで立ち上がったクズが
カズヤの頬にナイフを当てて──────
「マ、マコト・・・おれは──────イイから」
「イイわけあるかバカッ!!!」
「へぇ、やるじゃんお姫様を助けに来たってとこ?」
カズヤを抱えたナイフのクズ、その横から一歩オレに踏み出したクソ女
その手には左に黒髪の束、右に裁断ハサミが握られ・・・ッ
「お ま え か ぁ ぁ ッ !!!」
クソ女を殺す勢いで殴りかかろうとするが、ナイフを突きつけられたカズヤに
目が止まり射場の床を踏み抜く勢いでなんとか踏みとどまった
「ねぇ、アンタずいぶんその雅蓮ちゃんに心酔してんじゃん」
「黙れッ、今すぐ殺すぞ女ァ!!」
カズの頬に朧月が白く反射するナイフがヒタヒタと当てられてクッ─────
だめだッ、畜生ッ────── 一体どうすれば・・・
「なに、アンタ雅蓮のカレシかなんか?」
「じゃあさぁーカレシの証拠見せてよ」
「雅蓮にキスしてみなよ──────」
「証拠? 証拠を見せたらどうするってんだクソが」
「オレが雅蓮の彼氏だったらお前等全員諦めるってのか、あ?」
「マコト? ・・・だめっ!」
「彼氏がいたんじゃ、祐ちゃんの片思いだった訳じゃんね」
「ならしゃーないかもねぇー」
「マコト!! オレはマジでいいから雅蓮つれて逃げろ!」
「ンな事出来るわけ無いだろッ!!」
三人で飯食ってた楽しい光景が頭いっぱいに広がる。
雅蓮は、オレとの約束を守るためにこんな・・・ひどい目にあって
オレが、あの時雅蓮を自分の責任だと突き放してしまったから
こんな──────
「だめ! だよマコ・・・ト んっ!──────っ・・・」
力いっぱい閉じた眼を開くと
瞳を見開いて、桃色に染まった両頬にキラキラ光る筋を幾つも引いた雅蓮が
オレのYシャツ胸を掴んで震えていた。
やがてその瞳は、どこか安息を得たようにゆっくりと閉じられ、目尻から
止めどなく涙が溢れていた。そんな彼女を力いっぱいに抱きしめた。
「なに・・・それ・・・マジじゃん」
「祐一はねェ!! その売女に誘惑されて傷ついて──────」
「──────チッ」
雅蓮は両手で握りしめていたオレの濡れたシャツの胸元をゆっくり
離すと、オレの横に並び立ち、自分とオレそのお互いの指を交差させて
オレの手を固く握った。そうして、動揺するクソ女を二人で睨みつけた。
「クッ、お嬢・・・どうす──────」
「ク・・・クク、アハハハっ!!」
「バぁーか!! キスぐらいさぁ! べつにダチでもするじゃんね!」
「ねぇ! アンタ今ここで雅蓮とセックスしなよ!」
「入ってる所ちゃんと見えるように売女抱えあげてさァ!!」
「証明すんだろ!ヤッてよ、サぁ!!」
まわりのクズどもが奇声をあげる。
オレは怒りの余りどうにかなってしまいそうだ──────
本当にコイツ等全員殺してしまいそうな感情を必死に抑え込む。
その時握っていたガレンの手がスルリと離れて
オレは頭に登った血の気ががスッと引いた。
雅蓮? ──────!!
「ヒュー!」
クズどもの何人かがスマホを向けた方へ視線を移すと、雅蓮がジャージの
ファスナーを降ろし、オレの足元にジャージの上着がすべり落ちる
雅蓮の下着をつけた上半身、白い肌がずべて顕になっていた──────
その胸には縦に一筋の傷跡が走っていて・・・
オレは悔しさと、彼女の決意そして自分の情けなさが重なり、震えながら
彼女を自分の背に隠すよう手を引いた──────
雅蓮の細い指がオレの手を探すように絡まり再び握られたその時には
すでに抑えられない感情がオレの全身を支配していた──────
理不尽でクソ下劣な要求のせいなのか、雅蓮を護ってやれなかった
自分に腹が立ったのか、彼女の必死の決意に己の不甲斐なさが身に沁みたからか
オレの大切な親友二人を傷つけられた怒りか──────
いや──────、たぶんその全部がオレの視界をモノクロの世界へと誘い
背中から耐え難いほど熱い炎が吹き出すいつものあの感覚。
それを余裕で追い越す黒い感情に、周囲の出来事が
完 全 停 止 した ──────。
「やめなさい、真!!」
その声と同時にオレの頭に飛来するモノを、大口開けたまま固まったクソ女
を睨みつけたまま掴み取る。
ほぼ同時に白い筋数本が、カズヤに向けられていたナイフ
半狂乱クソ女の頭、雅蓮に向けられていたスマホを持つ数人の手、全てに
一瞬のうちに飛翔して着弾。白い煙となって散る。
その非日常の出来事に、視界が時間を徐々に流れ出し
朧月に照らされる矢道の濡れた芝が緑色の発色を取り戻し始めた──────
「くそッ先公だ、おまえら逃げるぞっ!!」
その声に掴み取った手を広げた。チョーク?
連中が恐れおののく視線の先を見ると、足首まで有るんじゃないかという
白衣を着た生物の先公が、右手の指間全てにチョークを挟んでアニメの登場人物
のような構えのまま立っていた。
その姿勢のまま、オレを観ながらメガネをくいと上げる。
先公の投げたチョークがこめかみ着弾した首謀者のクソ女は
車に轢かれたカエルのような姿で射場に転がっている。
「マコトッ! ガレン!!」
真っ白な先公に呆れているオレの名を叫びながら這ってくるカズに
手を伸ばした時、全身びしょ濡れで低体温気味だったオレの体に悪寒が
走って思わず武者震いするとほぼ同時、この手に握られていた雅蓮の
手の力が抜け膝から崩れ落ちようとする。
既の所で彼女を引き上げて抱きとめた──────
「雅蓮ッ──────!!」
彼女の名を叫んだ時、ボロボロのカズヤがオレたちにたどり着き
オレが抱いた胸から力なく垂れ下がった彼女の手を握った。
カズヤはオレたちの足元のにあったジャージを拾いながら立ち上がり
オレの胸の中の雅蓮にそっとかけた──────
六月六日 深夜 保健室──────
チョークの教師、蒼 白幸。彼は学校保健師の有資格者でも有った。
雅蓮の具合やカズヤの怪我のことも有り、現れた先公の云うことを
受け入れるしか無く、こうして皆で保健室に移動した。
逃げた連中や、弓道場の床で延びたボス猿のクソ女が
どうなったかはしらない──────この先生が言うには
“任せておけ”との事なので今は放っておく。
それより今、心を向ける奴らが居る──────
ベッドで細い息をしている雅蓮、蒼先生の手当を受けるカズヤだ
そしてオレは先生にタオルをぐるぐる巻にされ、その上から
毛布を巻かれたミノムシ状態で先生の入れた滾る番茶を啜っている。
オレだけ何か扱い雑じゃね?
「痛ッてぇ沁みるッ!」
「自業自得です藤田 和哉。これでよし」
そう言うと、先生はカズヤの前から立ち上がり、聴診器を首から外して
雅蓮の眠るベッドへとカーテンを開けて彼女の元に消えた──────
「良かったなカズ、大したこと無くて」
「へへへ、丈夫だけが取り柄。それより、やっぱつえーなマコト!」
「でも──────」
「──────あぁ」
雅蓮はおよそ二日絶望の淵にいた。
それは距離感100-0の雅蓮の様子を見てりゃ明らかだ。
そして結果的にあの綺麗な髪を失ってしまった──────
事態を招いたのは雅蓮の責任だと一方的な正義を語って突き放し
雅蓮の最後のSOSに気付いてやれなかったオレのせいだ──────
反省もあるがそれ以前に、オレは気を失った雅蓮が
心配でとにかく不安だった──────
あの日聞いた彼女の昔話。幼い頃は入退院を繰り返してた。
それを裏付けるようなあの胸の大きな傷痕・・・・
こうして今倒れてしまっているのはそれが原因なんじゃないかと
絶望に追い込んでしまったオレのせいで・・・
もしこのまま、あの雅蓮の笑顔が見れなくなってしまったら・・・
そう考えるとほんとうにもう、崩れ落ちてしまいそうになる──────
「脈拍がまだだいぶ早い。今日はもう無理をさせないほうがいい、か」
「「先生ッ! 雅蓮は!!」」
「落ち着きなさい二人共。詳しくは彼女の私的秘事なので差し控えるが」
「もう大丈夫だ安心なさい」
オレ達はお互いの顔を見合わせてホッと肩をなでおろした。
「では、私は各家庭に連絡を入れてくる故、席を外すが──────」
「え! 家にっすか!!」
「当然だ。これは立派な校内暴力案件だぞ 藤田 和哉」
「2年A組 藤田 和哉そして2年A組 日比谷 真 」
「君達に事情を聞きたいそうだ──────学園長がな」
「いいか二人共、鏃 雅蓮 を置いて逃げるなよ」
そう言い残して蒼先生は保健室を出ていった。
まるで人質を取ったみたいな言い方だなぁー
「なぁ、マコト・・・その、さ。聞きにくいんだけどお前たち・・・」
「べ、べつに何もねー・・・って言えない事したかも、オレ」
「──────あら、逃げないでちゃんと居ましたわね」
うわ、マジで来ちまったよ、紫色の校長先生・・・
「さて? 夜も遅いので単刀直入に聞きます。一体何が有りましたの?」
「そ、それが───・・・」
蛇に睨まれる思いで、オレは今回の出来事を話せる範囲で話したんだ。
雅蓮の心や体の話、彼女がして来てしまった事はオレが話す事じゃないので
默まってたが──────
「マッタク、わかりました。大体の話は理解しました──────」
「──────学園長。各家庭への連絡は済ませました」
「ありがとう蒼先生。で、何と?」
「まず 鏃 雅蓮 彼女についてですが」
「ご両親より許可を頂き、大事を取って今夜はここで預かります」
「次に藤田和哉ですが、直ちに帰宅せよ、とひどくご立腹の御母上が───」
「はぁ・・・マコト、骨は拾ってくれよ・・・」
「最後に 日比谷 真ですが──────」
「え!! オレも?!」
「んッ! ──────続けて蒼先生」
「はい、日比谷 真ですが・・・こちらの親友に沙汰を任せるとの事です」
「──────そう。フフフ、変わらないわね彼女も」
「では、その沙汰をしましょうか」
え? 美咲の親友って・・・・
「藤田 和哉 くん。 二週間の校内清掃と弓道場の修繕手伝いを命じます」
「鏃 雅蓮 さんは今回被害者のようですので不問」
「最後に、日比谷 真 くん」
「あなたはクラスメイトにも暴力をふるいましたね?」
「よって、二週間の自宅謹慎。つまり、停学を命じます」
「謹んで自宅で研鑽を積みなさい」
「しんだ・・・」「しなされる・・・」
「処分は即時執行、明日からとします」
まぁ、仕方ないよな。でも後悔なんかチットもしてない。
あの時、コイツがオレを殴って止めてなければ最悪退学もあり得たかも
オレもちっとコイツみたいに冷静さを心得ないといけないのかもな
自分だけが助かるためにハリネズミで居られた今までとは違って
これからは友達を守るためにさ。
そう思いながらカズヤの肩を叩く。
「って──────痛っって!」
「──────マッタク。ではわたくしはこれで」
「蒼先生、後のことは頼みましたよ」
「承知しました。お疲れさまです学園長」
とは言え、サイアクだ・・・奴が停学なんて知ったら──────
新幹線で悪魔が来るかも。
「藤田 和哉、家まで送ります。来なさい」
「はぁ・・・じゃあなマコト、雅蓮を頼むな」
「あぁ、色々ありがとなカズヤ、チムメンにも宜しくな──────」
そうして、蒼先生に首根っこを掴まれた包帯絆創膏だらけのカズヤは
保健室を後にした・・・
オレはため息を付きながら肩をなでおろし、カーテンに閉ざされた
雅蓮のところに行く。古びたスツールに腰を下ろし、胸に負担がないように
腰まで掛けられた掛け布団、彼女の着た小豆色のジャージの裾にある
対照的に白い名札に目が留まる。3-A、宮田 茜と達者な筆跡で書かれている
校内掲示板で見たことがある。たしか──────生徒会長?
なんで会長のジャージ着てるんだ雅蓮は・・・ま、いっか
スースーと細い寝息を立てている雅蓮の、今は穏やかな顔を見ていたら
成り行きでとは言え、キスしちまったあの時の雅蓮の顔が頭いっぱいに広がった
あの時きっと、雅蓮はオレが話しちまったオレの事を考えてたんだと思う。
あの日のカラオケボックスで雅蓮に話したオレの話を──────
仙台の中学卒業を機に、美咲は勝手にオレをこの街のこの学園に
入学させる手続きをした。正直、まだその理由はわからないし
美咲に問うても絶対に教えてくれないような気がする。
身寄りどころか知り合いも居ないこんな孤立無援の状況で、オレは
自分の為になるなら今出来ることはすべてやるつもりでバイクの免許を
取りに行ったり空手や合気道を習った事もある。勿論勉強だってしかりだ。
そうやって自然と出来上がっちまった、オレの外に向けての意思。
オレに近づくんじゃないって雰囲気──────いや、ただの強がりは
一人で寂しいって心を守る為に着たメッキの黄金聖衣、其の物だった。
それは、受け入れた友達に裏切られたり、好きになった人への恋心が
叶わなかった時の絶望にただ怯えていただけ。
勿論、カズや雅蓮を受け入れた今だって、心の何処かにそれは有って
絶賛、戸惑いの渦中だ──────
雅蓮はオレのその心の鎧守るために、キスした時に複雑な表情を
浮かべたんだと思う。そして全部わかった上で瞳を閉じでオレを
受け入れてくれた──────の、だとおもう。
「スー・・・スー・・・んっ・・・」
彼女の優しさになんとも言えない気持ちになって、キレイだった髪。
片方だけ短くなってしまった“痕”を撫でる。
雅蓮は、そういう優しくて強い意志を持ったヤツだ
そんなの今回の出来事だけ観たって分かる。一人で頑張り抜いてたんだ・・・
そして彼女が心に宿してるオレへの気持ち──────。
オレもそこまで鈍くない、きっとそうなんだと思う。
でも雅蓮が自分を奮い立たせて目指している目標、大学の推薦枠を自分の
大好きな弓で射抜く為に、今は全力を掛けている。
誰かに恋をするって云う、オレたちの年頃ならひどく当たり前で至上命題
みたいな事を棚上げにしてまで。
なら、彼女の気持ちを知った上で──────
オレが、彼女のためになる──────
責任のとりかた・・・──────は
──────
『じゃあね真、一人暮らしだからって女の子連れ込んじゃダメよ?』
「なぁ美咲! ホントに今日からオレ一人ここで暮らすのかよ!!」
「オレを捨てるようなもんじゃないかよ!!」
「なんで・・・なんでなんだよッ!!!」
『──────バカね、あなたは知らないかも知れないけど』
『この街にはね、私やあなたの守護聖人がいっぱい居るのよ』
「しゅご・・・なにそれ」
『いい? あなたは一人じゃないの、一人ぼっちなんかじゃないのよ』
『だから、何も心配いらない。何も怖がることはないから』
『自分が好きなことを、やりたいことめいいっぱいやってみなさい』
『それはきっと、アンタが生きていく上で』
『自分を成長させる力になるから──────ね 』
『 真 』
ハッとして目が覚めた・・・
「あ・・・フフッ、起きた」
「がれん──────、オレ寝ちゃってた」
「うん。おはよマコト」
雅蓮は上半身を起こして、窓の外の月を眺めたまま
サラサラオレの髪を撫でている。オレは、ベッドで眠る彼女の足元に
突っ伏して寝てしまってたらしい
そうか、蒼先生がカズヤを送って戻ってくるまで彼女の様子を見てる
つもりが──────。時計を見ると、午前三時を回った頃だった。
「がれん、大丈夫か?」
「えへへ・・・うん」
「蒼先生は?」
「わたし達・・・というかマコトの様子を見た後にね、寝るって言って」
「今は当直室かな?」
「年頃の男女を保健室に残してか? 不用心な」
「フフっ、マコトのえっち」
「あーぁ、朝になって家に帰ったらどう説明しようねこの髪」
オレは不安げな彼女の、片方だけ短くなってしまったその“痕”に手を当てる
「──────んっ」
「がれん短いのも結構似合いそう」
「そ、そうかな・・・」
「あぁ、だからさ。もう大丈夫、全部終わったんだよ」
雅蓮は、一瞬驚いたように瞳を見開いた後に、にへーと笑顔を浮かべるが
その頬には涙が一筋また一筋と流れた。
「あれ? おかしいな、んっ・・・今すごく嬉しいはずなのに」
「ね、マコト手握って、さっき見たいに恋人繋ぎで」
「こ! コイビ・・・。こ、こうかな」
「えへ・・・ありがと、なんか照れくさいね」
「涙さ、止まるのこれで・・・?」
「んー・・・わかんない」
嵌められた──────
「──────あの・・・さ」
「さっきは・・・その、ゴメンなキスしちまって」
「──────何で・・・謝るの」
「いや・・・成り行きで無理やり──────その」
「オレさ!──────キス・・・とか初めてだったし」
「──────本気じゃなかった?」
「バっ! そんなわけ・・・・・・あるかよマジに決まってるだろ」
やばいやばいやばい!これ完全に雅蓮のペースだ・・・
「じゃぁ謝らないでよ・・・バカ!」
「わたしも──────はじめてだったんだよ?」
「そッ!! そんな大事なのを・・・あんな──────酷い思い出に」
「フフっ、マコト意外とロマンチストなんだね、新発見」
「あのさ・・・じゃぁさ・・・わたしたちのはじめてを上書きしようよ」
「もっかい、今やり直し」
「がれん、誂ってる?」
「フフフ、ないしょ」
ダメだッ!! このまま雅蓮のペースに載せられたら
次の昼休みに笑い話のネタにされちまう
流れを変えなきゃ──────
「あのさ、オレ思ったんだけど」
「うん・・・」
「暫くその・・・つ、続けていいかな、がれんのカレシ役をさ・・・」
「も、もちろん、来年のインターハイまでの期間限定で──────」
「お、お芝居っていうか!! そうしたらさ、勘違いした奴らもその・・・」
「あ、諦めるかなってさ──────」
「も!! ・・・もちろんさ、がれんにマジで好きなやつが出来るまでのさ」
「オレさ、がれんが本気の恋愛しないっていうの知ってるしさ・・・・」
「知ってればほら・・・おたがい手加減できるし・・・とか、ハハハ」
うーわスッゲぇ早口・・・
オレ、今思いっきり自分で撒いた地雷踏み抜いてるよなこれ・・・
「っ──────、フフフっ、じゃあわたしたち親友はおしまい?」
「違ッ! そ、そうじゃなくて、そっちは勿論ずっと継続で・・・ダメ?」
「──────ばか、よくばり」
「やっぱさぁ! がれん誂ってるだろッ。オレは大マジなんだが!」
「ばか! 声大きい」
「しまっ・・・」
もうダメだ完全に小悪魔雅蓮が復活してる。流れを変えなきゃ・・・
「あのさ、さっきその・・・見えちゃったんだけど胸の傷」
「あーうん。小さい頃のね、手術痕だよ」
「もしかして雅蓮がさ、ドキドキしないように自分を訓練する癖って」
「その心臓を守るためって意味もあるのか?」
「バレてしまいました・・・えへへ」
「でもね、普通にしてれば平気」
「昨日今日みたいなのは・・・かなり辛いけど──────」
「女神様がね、癒やしてくれてたから」
「──────ジャージの名札の人?」
「うん・・・」
「そっか・・・じ、じゃあ恋愛しないようにってほんとうはどっち?」
「弓道に影響でるから? それとも心臓?」
「練習試合の時、マコト覚えてる? 的外しちゃったあのときね──────」
「最後の最後に、えっと・・・見え・・・思い出しちゃって」
「そしたら胸がキュって。だから、本気の恋愛は3年生になって」
「大学の推薦が貰えるまでおあずけ!」
「だから・・・ね、マコト・・・さっきの・・・お芝居の話」
「あの・・・わたし賛成かな・・・」
「ねぇ! 手貸して!」
「お、おう・・・ひぃ!」
ば、バカお前なんでオレの手を胸に・・・
「ねぇ、マコトわたし、今ドキドキしてる?」
「し、してる・・・でもたぶんオレのほうが・・・してる・・・」
「あのねマコト・・・わたしたちのファーストキスさ、今上書きしよ」
「そしたら──────わたし3年の夏まで・・・我慢するから」
「え? でもお芝居っ──────!!!」
「──────ッ!!」
「んっ──────」
「・・・へへへ、これで、おあいこ」
やられた! やっぱコイツ小悪魔だ・・・
とりあえず、お芝居の恋人で親友。
そんなよくばりな関係がこの夜から始まったんだ──────
壱拾七話 効果判定・期間限定のカノジョ 終
=
マッタク・・・だいぶリスクを犯して接触したってのに王子様ときたら
オレのシカケに全然気づかず、状況がここまで拗れちまって──────
愚妹から前金掴まされてるとは言え、可能な限り王子様の生活に介入するな
ってのは流石にチョイと──────
「先生、流石にあの状況は不味いのでは?」
「あぁ近場で待機してくれシラユキ」
「承知!」
──────ってオイ!!
おまえなここ三階立て校舎の屋上だぞ? お前の身体能力一体どうなってるんだ
コッ「私が見えているかTRUTH.」
目標から300m程離れた体育館屋上に照準を合わせると片膝立ちで
長物を王子様に向け構える黒い影を捉らえる──────
「あぁ、見えてるよ。シラユキがミスったら王子様を全力で止めろ」
コッ「了解」
体育館上から目標へ照準を戻す際、長白衣をはためかせまるで短距離走者の
ように目標へ駆けるシラユキをかすめながらスコープのクロスラインは、再び
少女を抱いた王子様のこめかみを捉えるが──────
「標的の息遣いがスローに・・・アイツ! 殺意を元に発動させたなッ」
このままではシラユキの接敵が間に合わん! チッ仕方ねぇ──────
「シラユキ急げッ ダニエルフォロー頼む!」
ココッ「「──────」」
スコープで王子様のこめかみを捉えたまま、軽いトリガーに乗せた指が震える。
「──────ッ!・・・ふぅー、シラユキお見事」
コッ「撤収する。請求書を事務所に送るからな」
その声に、再び体育館上に照準を向けるとそこに居たはずの黒い影は
蒸発したように姿を消していた。
「ラピッド、状況終了。そちらの状況は?」
コッ「静かなものよ───ま、黒姫様には気取られてると思うけどニャ」
マッタク・・・世話の掛かる王子様だ。そのまま裏返っちまったら
お前の守護聖人が全員お前の死神になるんだぞ?
「TORQUE、回線切断しログをすべて消去しろ」
『了解。回線切断完了・Log消去開始』
オレンジの弾倉が着装された横流しのM40から中短距離スコープとサプを外す
ポケットの黒い包みからタバコを取り出し一本付けながら、同じポケットの奥で
丸まっていた紙くず、王子の生徒手帳に忍ばせたそれと同じものへ視線を落とす。
お困りごと、ご相談ください
探偵事務所 杜若
☎ xxxx-xx-xxxx
「スゥー、フゥ──────。・・・財布にしときゃよかったかな?」




