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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
五章 夏の終りに…
89/99

5-4 恋と罪



「フぅん・・・・・・なーんだ、出来たんじゃない。カノジョ」

「じゃぁねマコト──────」




 夏休み中、何回も電話したのに繋がらなくてさ

久しぶりに会えたのに、なによ・・・わたしにはいつもみたいに接しておいて

あの娘を観た時のマコトのあの顔・・・壁ドンのポーズで見つめちゃってさ

その娘は一体誰なの?


親友にも話せない仲ってわけ?


なによ──────



「──────マコトの・・・バカ」




 あなたに対するこの感情が、愛なのか憧れなのか

それは今になってもまだわからない。


 でもね、わたし誰よりもあなたの事を見てきたからわかるよ

やっぱりあなた、この夏で雰囲気変わったよマコト。


そして、あなたを変えたその場所に

わたしが居なかったのがすごく寂しい────



 朝、あなたは聞いたよね? インターハイはどうだったのかって。

あなたに伝えたように優勝は逃してしまったけれど個人3位。


 それはね、イコール推薦入学枠確保。

わたしがずっと自分の心に課してきて、それをあなたが知ってわたしの

一番近いところでずっと見守ってくれた、弓道で大学への推薦状を

手にするまで恋人は作らないって誓い──────



「わたし、もうあなたの本当のカノジョにだって、なれるんだよ?」


 そんな想いを口に出した途端に心臓がキュって苦しくなって

階段を通り越して非常口の扉を押し開き、青々とした空を見上げた。

あふれる感情が流れ落ちないように──────


そしてまた思い出してしまう。

辛くて、苦しくて、切なくて、でも素敵なわたしの宝物の日々。

去年の出来事──────


マコト。あなたはもう忘れちゃった?

わたしはね、ずっとずっと大切にしてるよ──────



去年の夏前からはじまった大切な思い出。

わたしはあの日のことを思い出す。想いの一つが叶った

あの日のことを──────





 練習試合の最後の一射、わたしは絶対取れた的を外した。

集中力が最高潮に達し今まさに、わたしの矢が放たれようとした時

弓道場の外にずっと気になっていたあなたの姿が見えたような気がして

思わず高鳴る心臓に眉を顰めてしまった。そして放たれた矢は的を外した


わたしは試合中に努めて忘れていたあなたの孤高で、気高く、逞しい姿を

探したけれど、矢を射る瞬間に見えた場所にあなたはもう居なかった。


 そして、その日の夕方。

ずっとずっと話したいと思ってたあなたとちゃんと話せるチャンスが

突然やってきた。ドキドキを押し殺しながらなんとかチャンスを掴み取って

カラオケボックスでわたしの事を全部話して──────


叱られて──────


でも、ドキドキしながら頑張ってお願いしたら友達になってもらえた。


わたしね、すごく、すごくね──────

嬉しかったなぁ・・・・




でもこの素敵な思い出にはおまけが有って


沢山の人の想いを踏みにじったわたしの罪に対する

罰が下されたんだ──────




6月5日──────

 

「やばいやばいやばい! 今にも降ってきそうだッ!!」


「ねぇマコト、バイク置いていったら?」

「傘ならわたしあるし、ねぇ一緒にかえろ」


「ガレンは部活だろ? オレの凡ミスで休ませちゃ悪いからな」

「わりぃ、今日は先帰るスマン──────じゃあな!」


「あーあ、行っちゃった・・・フフフ」


「せっかちだよなーマコトって」

「じゃ、オレたちも帰るか」


「うん、わたし部活行かなきゃ」


「お、じゃまたな雅蓮」

「うん、バイバイ和哉くん」


 そして、わたしは和哉くんと教室で別れ、部室へ向かうために

階段に──────そして捕まった。

三年生を筆頭にした不良グループの娘達に・・・


「あっれー、誰かと思えば弓道部のお姫様じゃね?」

「ねぇパイセンコイツっしょ?」



「ゴメンなさい、どいてもらえますか。わたし急いでて・・・」



「は? ウケル。べつに急いでないっしょ」

「さっきまで教室で男とイチャイチャしてたじゃんね」


「──────ねぇアンタ」

「ちょっち聞きたい事あるからさ、上でアタシラのメイクに付き合いなよ」


 その時思ったの。きっと、これ迄してきたわたしの身勝手な振る舞いが

誰かを傷つけてこの人達は怒ってるんだって。だからわたしはこの人達に

誠心誠意、謝らなければいけないと思って言われるがまま三階の

女子トイレまでついていった。


 こんな時でも、きっとあなたなら動じないと思う。

わたしもそんなあなたに近づきたくて、でも

やっぱりドキドキして近づけなくて──────。




「──────ッ・・・!!」



「マジびんた行ッたー! でも顔はヤベーって、腹にしよ腹」


「あ、なにそのナマイキな顔」

「は? 謝るんじゃないの、謝んなよホラ」



「傷つけて──────ごめんなさい。」



「あ? 聞こえないしー ──────、聞きたくもネーンダヨ!!」

「態度で示しなよ、ここで土下座してさア!」


「うーわ、便所土下座だキッタネー」



 引っ叩かれて、謝って、トイレで土下座もした。

でも、やっぱり許してもらえなくて・・・


マコト、あなたは言ってくれたよね。

人の心を弄ぶのはイケナイって、残酷なことなんだって。

だからわたし、どんなに酷いことされてもガマンしなきゃって

あなたに軽蔑されないように、自分で責任取らなきゃって──────



「いっ・・・痛ッ!」



「おまえのさぁー! この髪が好きなんだってよ!!」

「マジ、ムカつく・・・なっ!!」



「ご、ごめんなさい・・・許して下さい」



「チッ、祐くんをさぁ!! こっ酷く振っといてさー」

「アンタどの面下げて男とイチャついてんだよ!」

「弓道しか考えられないんジャねーのかよ!」


「──────ふざけんじゃネーよッ!!」

「慰謝料払えってんだ祐くんにサ!!」



「い、いくらですか?」



「は? マジうける、じゃとりあえず5万位? そしたら考えてやるよ」


「えー? 安くなーい──────」




 わたしはね、こんな事しても許してもらえるとは思ってなかったけど

お財布からお金を出して渡した。えへへ、きっとこんな事あなたに言ったら

またわたし、叱られてしまうんだろうなぁ──────



「チッ、マジで出しやがったよ・・・」


「持ってんのかよスッゲ! まじお嬢様じゃんネ」


「じゃ遠慮なく。はーい考えましたー」

「許してもらえると思いましたー? ザーンネン・・・」

「許さねぇっつーんだよ!!」


「ほら!もっと頭下げて謝れよ!」

「ほらぁ!!」



「ぐっ──────」



「明日までに100万包んできなつーの! アハハ」

「そーだ、金持ってくるまでこれ預かっとくから!」



「嫌ッお願い! 返して!! 返してくださいッ!!」



「触んなこの売女ッ!!」



「──────ッ」



「お嬢やべぇ!! よりによって生徒会長が来るぜ!」


「チッ──────これですむと思うなよクソ女」


「あの男とまたイチャツイたらマジ承知しねーしィ」

「ちゃんと見張ってんから!」


「コレ返して貰いたかったらサ、もう二度とあの男と話しすんなよオマエ」

「あと100万よろぴくネー ──────」




 そうして彼女達はトイレを出ていった。

わたしはね、彼女に頭を踏まれてもしょうがないと思った。

おトイレの床に、おでこと鼻が付いても、仕方ないんだって──────


「うッ──────」


 トイレの床の匂い? お腹を蹴られたから? この先の恐怖?

それともやっぱり心臓かな・・・吐いちゃった・・・


 もう、こんな汚れた顔見たくないよね──────

もうこんな口・・・嫌でしょ? キスなんて──────絶対したくないよね

だから、わたし、もうあなたと話せない・・・

ごめんなさいマコト──────


 足音が聞こえわたしは慌てて立ち上がって、洗面のお水を全開にして

何度も顔にじゃぶじゃぶ水をかけた──────。

顔を上げると正面の鏡に、髪が乱れて頬が赤く腫れて真っ青な

ひどい顔が見えてさ泣きそうになって顔をそむけた──────



「どうしたの?・・・ねぇ、アナタ大丈夫」


「──────っ」 


 となりの洗面にハンカチを咥えた生徒会長の先輩が、手を洗いながら

わたしに声をかけてくれた。その声はとても優しくて暖かくて──────

今起こってた事が、全部全部ウソみたいに、心が満たされていくような

気がして・・・



「ねぇ──────どうしたの? 保健室いこうか、私に掴まってほら」



「──────ッ・・・ヒッ・・・ク!・・・」



 そんな声を掛けながら、彼女は見ず知らずのわたし、汚れた

ぐしゃぐしゃの顔を、ご自分のハンカチでキレイに拭いてくれた

その無償の優しさに、わたしは思わず泣いちゃって。

でも、そんなわたしの頭を先輩は優しく抱いてくれて・・・


「もう大丈夫よ・・・ほら、大丈夫──────」

「よかったらこのハンカチ使って。持って行ってもいいから、ね」


 そんな声に、本当に大丈夫な気がして──────

わたしは、その生徒会長の先輩に頭を下げて教室に逃げ帰った。

教室に置いていたカバンを掴み、昇降口まで振り向かずに走った。


また捕まったら、今度こそどうなってしまうか

そう思うと怖くて・・・



そして自転車がある駐輪場──────

そこに居たよねマコト。


 ほんとうはあの時ね、あなたに抱かれてその胸で思いっきり泣きたかった。

カラオケに連れて行ってもらってさ、また叱られた後に慰めてもらいたかった。

何が有ったか、ぜんぶ聞いて貰いたかった。でも、そんな事を彼女達が知ったら

きっとまた彼女達の大切な誰かを傷つけてしまう・・・


だからね、マコトごめんなさい。

あなたから逃げるみたいにして──────



 家に帰っても、あの時の恐怖が何度も何度も襲ってきて寝れなかった。

制服のポケットから先輩のハンカチを取り出して胸に抱くと

なんとなく、少しだけ癒やされた気がしてね

わたし一晩中、ハンカチを抱いてた。


 あの女神様みたいな生徒会長の先輩、なんて名前なんだろう。

ハンカチには丁寧な刺繍で“A.M”とイニシャルが入っていた。


いつか会ってハンカチを返してお礼が言いたいな・・・

そんな事を思いながら、必死に朝を待った。




6月6日──────


 学校へ行く時間。本当は行きたくなんて無かった。

でも、行って、また彼女達に会ったら謝らなきゃ。

自分の仕出かした事なのだからちゃんと謝らなきゃ。


でないとわたし、あなたに軽蔑されちゃう。

そうしたらわたし、あなたの心にも居られなくなっちゃう


そんなの──────絶対に嫌っ!


カバンを持ち上げた時、何年もずっと平気だった心臓が・・・ね

だからちょっと──────遅刻してしまいました。




 わたしが教室に着いてからマコト、和哉くん。

ずっとあなた達は私を見ててくれたよね。マコト、あなたは言って

くれたよね、相談しろって・・・

わたしあなた達に頼りたかった


でもやっぱりダメ、窓際で彼女が見てる。



 そしてお昼休み──────

絶対にあなたはわたしを掴まえて、無理にでも私に話を聞こうとする

わたし知ってるよ、あなたはそういう優しい人なんだって。

だって、ずっと見てたもん一年のときからずっと・・・

だからゴメンね、逃げるようなことして


教室に戻るとあなた達は居なかったね。

ゴメンねマコト、和哉くん。

そのときわたし、ちょっとホッとしたの。



 体育の時間もあなたは、ずっとずっとわたしを見ててくれたよね。

わたし、そんなあなたの優しさが辛かった。

だから、あなた達が教室に帰ってくる前に家に帰ろうって・・・


でも、更衣室の制服がなくて──────

ジャージ姿で教室に戻るとカバンもなくて──────さ


また捕まってしまうかもって

そう思うと怖くて、心臓がずっとドキドキして


校舎の中を隠れながらね、カバンと制服を探した。

でもね、いっぱいいっぱい探したから、暗くなる頃にはね

ちゃんと有ったよ弓道場に・・・


矢道に、ちょっと散らかされちゃったけど


でも大丈夫だよマコト

お洗濯して乾かして、ちゃんとお手入れすれば──────


だからね、心配しないでマコト。

きっと・・・たぶん、わたしは大丈夫だから・・・



ザーザー降りの雨の中で、矢道に落ちた弓懸を拾い上げようとした。

でもね、濡れた大切な弓懸がね


いつもよりなんだか・・・だいぶ重くてさ

そのまま濡れた矢道にヘタレ込んでしまって──────



「やだ! やっぱりここに居たのねあなた!!」


あぁ・・・先輩?

昨日のあの人が傘を差して矢取り道の向こう

竹の柵を掴んでいるのが見えた。


先輩はわたしを呼ぶように叫んで、ご自分の傘を投げ捨てて駆け

付けてくれて・・・わたしの肩を抱いて雨の当たらない

射場に連れて行ってくれた。


「貴方はそこに居なさい! 全部私が拾ってあげるから!!」


そう言って、ご自分が濡れるのも気にせず

わたしの物を全部拾ってくれて・・・


その後──────

先輩が生徒会備品室から持ってきてくれたジャージに

二人で着替えて、先輩はわたしの頭にバスタオルを被せて

髪を拭いながら優しく語りかけてくれた──────


先輩の優しさにわたしね、少し救われた気がしたんだぁ・・・


「あなた、鏃 雅蓮 さんでしょ? 弓道部の」

「生徒会の資料で見たことが有ったの」

「昨日のあなたがどうしても気になってしまって・・・」

「あなたもしかして、誰かにイジ──────」


「違うんです! これは・・・私がした事に傷ついた人が・・・」


「それはダメよ」

「こんなやり方は何が有っても絶対に正当化出来ません!」

「自分を責めてはダメ」

「あなたがこんな事を贖罪だと受け止めていたとしたらそれは間違ってる」

「謝罪の方法が間違っているのよ?」


そう諭してくれながら、先輩がご自分の時計を気にしてるのが見えて・・・



「あの!先輩、わたしは・・・わたし、もう大丈夫ですから」


「でも──────、今誰か呼んで・・・」


「いえ、本当にもう・・・大丈夫ですから」


「雅蓮さん、明日。いえ、いつでもいいわ生徒会室で待ってるから」

「お話、聞かせてもらえるわよね?」


「──────は・・・い」


「イケナイ、私、名前伝えてなかったわね」

「3年A組生徒会長の 宮田 茜 です。教室に来てくれてもいいから」






・・・あれ?


それからどうしたんだっけ?


あぁ・・・そっか、先輩を見送ったら、やっぱり心臓が・・・

えへへ、やっぱり無理しすぎて倒れちゃった──────


そして目が覚めたら彼女と男子生徒が

目の前にいっぱい居て──────



「──────らァ!! 起きろっての」

「ノンキに寝ちゃってさぁ!」


「でもイんじゃね?」

「今のうちに寝ててもらったほうがさァ一晩中楽しめんじゃん?」

「俺らでいっぱいシてあけるからねーガレンちゃーん」


「──────っ、嫌ぁ」


「まって! アンタ達が汚す前にアタシ欲しい物が有るんだよねぇ」

「なァ雅蓮!」


「ヒッ!」


「おっとと、大人しくしてな、暴れると手元が狂って耳落とされちまうかも」



「嫌ッ──────!」



「おほぉー、イイ声!」

「パイセン! 流石にそれは目立つってゆーか! マジ犯罪なんじゃ」


「ねぇ雅蓮。イイよね髪ぐらい? また生えてくんじゃんね?」


「・・・・・・・ッ!」


「は? 何その顔」

「──────ッ、マジムカついた今の顔。アンタ達!しっかり抑えてな」



「嫌ッ!! やめッ────── くぅ・・・っ!」



「ッッ──────っ!」



「うーわマジやばいってパイセンそれボーコー罪適応さ──────」


「うるッせぇんだよアンタ!」

「祐ちゃんの痛みもわっかんネーくせに、ペラペラ囀ってんじゃねーよ!」


「なあ雅蓮ちゃん。これさ、祐ちゃんにあげるんだー」

「彼さ、アンタの髪を一体どんな使い方するんだろうねぇ?」



「──────ッ」



「なあ! 聞いてんだよ売女!!」




 マコト? あなたが叱ってくれた事、わたしの犯した罪に対する責任の

取り方。これで良かったかな? わたしがひどい目に遭ってそれをみんなが

知ってざまーみろって思ってもらえたら、傷つけてしまったみんなの気持ちが

少しでも和らぐかな?これでわたし、迷惑かけちゃったみんなに

許してもらえるかな?


マコト、あなたもわたしを許してくれますか?




 いつも、どんなときでも強くてさ、絶対に揺るがないあなたに

少しでも近づけたかなわたし。ねぇ、またあの日みたいにお昼ごはんを

大好きな友達三人で食べれるかな?



また、がれん って名前で呼んでくれる?

──────逢いたいよマコト




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