5-3 壱拾七話 効果判定・期間限定のカノジョ 3
カラオケボックスで友情の誓いを立てたオレと雅蓮
オレは初めてのダチが出来た所で、別にこれ迄の生活や生き方が変わる訳もなく
いつもと同じ学生生活をするつもりだし、そうなると思ってた──────
その時はまだな。
だが、そうじゃない行動をしたやつが居た
雅蓮だ──────
翌日、昼休み──────
「なぁなぁ、マコトこれ見ろよ400の新型だってさ、くぅぅ!!」
昼休み、カズは自分の席からバイク雑誌を携えオレの席にすっ飛んでくる
オレの前の女子に、何時ものように机を借りてオレの机にドッキングし
即座に机の上はその新型バイクのカタログや雑誌が散らかる。
「ごめんね吉田くん私の席使って、ありがと」
「──────んしょ!」
オレの隣の男子に、微笑みながら謝意を伝え雅蓮がその机を
オレの机にドッキングした。
「なんだ、一緒に食うのかガレン」
「うん! 今日からずっと一緒よマコト」
オレと雅蓮のそのやり取りに、教室に残ってたほぼ全員が
「えッ?!」とソコソコでかい声に出しながら、教室の最後列で展開された
究極合体に振り返える。
「えッ?!」
「なッ・・・名前呼びィ?!??!」
「どうしたカズ、メシ食うぞ。これ片付けろ、はやく」
カズが机の上に散らかしていた物を片腕で一気に薙ぎ払うと
大事そうに抱えてたバイク雑誌がぜんぶ床に落ちた。間髪入れずに机に両手を
バンと突いて乗り出し、オレの耳元に顔を寄せた。
何のマネだ気持ち悪いな。
( おいマコト!! なに・・・これ、どいうこと? )
「どうもこうもオマエだって何時もこうして机くっつけてメシ食うだろ」
「ダチ同士で机並べて飯食うのがそんなに不満か? ならムリしないでいいぞ」
「お一人で、どーぞー」
「フフっ、そうだよ藤田くん」
「お一人様で、どーぞ-」
「──────いや!!」
「俺もココで食う! これからもずっーーとだからな!!」
単純な奴で助かるよカズ。
あと床のコレ、全部拾っとけよ邪魔だから。
オレがコンビニ袋を机に載せた頃には、周囲のヒソヒソ声がまるで活字になって
オレたちの方へ剛速球で飛んでくる
「なんか・・・め、目立ってるぜマコトぉ・・・」
「気にすんな、黙って食え」
「そうだぞ藤田くん、默まってお食べ」
「視線がいてぇよぉ──────」
昼食時にそんな事があって午後の授業になるわけだが──────
季節がそろそろ梅雨時期ともなるとこの青空も暫くは見納めに成るん
だろうな、なんて事を思いながらオレは何時ものように椅子を仰け反らせて
窓の外を見てた。するとまもなく先当たっての懸念が首を擡げ始める・・・
正直な所、オレはさっきの雅蓮の行動がチョット意外だった。
このクラスの中で学食組でない連中は、なかよしクラスタを構成して
先程のオレ達のようにそれぞれ机をくっつけて食事している。
たぶん、他クラスや、他のガッコの昼食風景もそんなだと思う。
そんな中で、オレが彼女を意識しはじめてから昨日までの短い期間でも
雅蓮は二列先の自分の席で、小さな弁当を広げ一人で食事を摂るのが常だった。
席の近い女子などが偶に、同席の誘いをする時などは喜んでその輪に加わって
いた様だが、自分から他者の輪に加わることは決してなかった。
そんな文武両道を地で行く人気者の優等生、クラスの皆に慕われている
雅蓮が、自分からそれもよりにも寄って、最後列の窓際と云う、問題児が好んで
座する特等席のオレに、自ら机を寄せたのはカズだけでなくクラスの皆も
そりゃ驚くよな──────
「起りぃつー 礼」
昨日の弓道場に集まった野次馬連中にしたってそうだ。
学年性別関係なく、皆が雅蓮を見に来てたとしたら、雅蓮と一緒に
弓道場に現れて、お互いを名前呼びするオレを見たらきっと、さっきの
クラスメイトような驚きの反応をするだろう。
んで、皆こう思うわけだ──────
あの男は一体誰だ! とね。
この街の跳ねっ返り、つまりチョイと気合の入った不良連中なんかは
去年の駅前乱闘で、オレがこの腕力で不良共を全員返り討ちにして以来
不良共のグループSNSには“狂犬につき日比谷に近づくな”なんて
連絡がどうやら回ったらしく、オレに突っかかってくる奴はもはや
近隣の他校も含めてほとんど居ないわけだ。
でも──────
そんな奴らはごく少数。
一列前の席で、生物の教科書に重ねてバイク雑誌を観てるカズのような
ハンパな連中や、一番前の窓際で教科書には目もくれず自らのネイルを
眺めてるいかにもなギャルと、その取り巻きのパリピ男共に、その他の
普遍的な生徒なんかの大多数には、その“日比谷に近づくな”は浸透して
いない。
となれば、遅かれ早かれオレに突っかかってくる奴が増えるんだろうな
男女問わず不特定多数の者から憧れや好意という感情を一方的に享受してた
お姫様の隣に、突然に現れた男という存在に妬み嫉みを向ける奴は間違いなく
現れる。まして、その好意が恋心ともなればなおさらだ。いきなり現れて
お姫様を掻っ攫ってった恋敵に一矢報いてやろうと思う奴が出てもオカシク
はないな。こっちとしちゃ勝手に恋敵認定されちゃ非常にメーワクな
話なんだけど
雅蓮が自ら無警戒に好意ある男子生徒に向けていた、その思わせぶりな
“態度” に対する “反動” が少なからず起こり始めるだろう。
そしてその矛先は間違いなくその “あの男” であるオレに向くわけ
だが──────
「──────ナッと!」
「日比谷、私が投射した白墨をよそ見したまま見事に掴み取るな」
「授業中だ、真面目に取り組め」
「──────へーいへい」
クラスの皆がその出来事に振り返ってオレを観ている。
ハハハと笑う者、単に驚きに手を合わす女子、呆れてすぐに黒板に向かい直す者。
そんな中で二列先の雅蓮はオレを観ながらクスクスと肩を揺らし
ペンを握る手を口元に寄せて『ばーか』と小声で呟いていた。
オレは『いいから前を向け』と顎を突き出して返す。
ある意味お前のせいなんだぞ?
机の中から教科書とノートを取り出して授業に参加しているふりをする。
オレに向くはずの矛先が、この雅蓮に向かなきゃいいんだがな・・・
そんな事を思いながら窓の外に目を移すと、遠くの山並みにまもなく訪れる
雨季を告げるような雨雲が広がっていた──────
放課後──────
「じゃねマコトまた明日・・・そーだ! ねぇ、この前みたいに部活見においでよ」
「あぁ、気が向いたらな」
道着袋とカバンを持って入り口でオレ達に向かって手をふる雅蓮を見送って
オレもカバンとヘルメットを片手で肩に担ぎ、カズが押し付けてくる新型バイクの
カタログを突き返す“押し問答”を軽くした後、教室前の引き戸をくぐった。
廊下のだいぶ先に、雅蓮と向かい合うように立つ男子生徒が居るのが見えて
その光景に思わず溜息が漏れた。
雅蓮がコレまで自分を鍛えるためとして無警戒に行っていた小悪魔のような
行いのツケが芽吹き始めてるんだろうきっと。そして、いつからかは知らないが
アイツは一矢で勝負をつけるんだ、今までずっと破ってきたようにな
「──────ったく」
あの日オレに怒られた雅蓮が、好意を持った男子生徒を自ら招き寄せる
小悪魔ガレンをやめたとしても、この先勘違いしちまう雅蓮被害者
がこれ以上生まれないってだけで、今まで無責任に引き寄せていた好意が
止まる訳じゃない。それは、お前も解ってるよな雅蓮──────
「でもな、これはオマエ自身がちゃんとケジメを付けることだ」
「ダチだとしても、オレは手を貸せないんだぞ、ガレン──────」
そんな事を呟きながらも、非常階段の方へ向かう二人を観ながら
昇降口へ続く校内階段にと廊下の角を曲がり、三階へと足を進める。
( ──────ッタク、世話の掛かるヤツめ )
三階の校舎の端にある屋外へと続く扉を静かに開け、非常階段のコンクリ壁に
背を預け、そんな気は全くないのだが、勝手に聞こえてしまう下の階の出来事に
腕を組んだまま、なんとなく耳を傾ける──────
「──────ゴメンね、越前屋くん。わたし今は弓道の事しか考えられないの」
「そ、そうなんだ・・・」
「で、でも・・・俺! これからもずっとキミの弓を応援してるからッ!」
いいか雅蓮、これからもきっとこういう事が何度もある。
オマエが本当に好きになった奴以外の告白に、オマエはそうやって真摯に
向き合って責任を取る必要があるんだ・・・
そう、その時はまだそんな他人事でオレは居たんだ──────
六月五日、放課後──────
遂に迎えた梅雨時期。
週明け月曜の朝の天気予報では、夜まで天気は持つはずだったからうっかり
バイクで通学してしまった。黒々と空を覆いつつ在る雨雲が、雨を降らす前に
なんとかアパートへ帰り着くために、オレは教室で雅蓮とカズ、二人のダチ公
に別れを告げて、急いで駐輪場に向かった。
錆びるからバイクを濡らすのも、自分が濡れるのもゴメンだからな──────
まもなく見えてきた駐輪場。
デュラハンの後輪付近にかがんだ人影を見つけ、気配を消して近づきそのまま
その背を靴底で押す。その男子生徒はそのまま前のめりにオレのバイク横の
地面に突っ伏した。
「わぷ! な、何をする──────、ヒィ・・・ひ、ヒビヤ・・・」
「──────そういうオマエこそ何してる?」
バイクに目を移すと見事に後輪の空気が抜けていた。メットとカバンを
後ろ手に担いだまま、ため息を付きながらバイクの横でへたれこんでオレを
見上げたベビーフェイスのイケメン男に片足を上げたままの中腰で犯行理由
を問う。
「──────理由は?」
「べ・・・別に・・・・何も・・・」
「ん──────!」
彼の顔に向け、上げていた学校指定の革靴、その裏をよく見えるように
近づける──────
「や、やめっ! わ、わかった話すから暴力は・・・その」
尻餅をついたまま手足をばたつかせて後ずさりするも、鉄製の壁に阻まれ
ガシャリと音を鳴らして、この犯人は下を向いた。追うように歩み寄り
その男を跨いで退路を断つ。
理由なんか聞くまでもないさ。結局、判っちゃいた
それまで誰にも靡かなかった雅蓮が突然一人の男と親しくして居るのが
気に食わないって云う逆恨みによる犯行だろう。
マッタク、遂に始まっちまったか──────
「り、理由は・・・──────くそっ!」
「チッ、ん! 生徒手帳出せ」
「なんでだよ!! お、おまえなんかにみ、見せるわけ無いだろ!!」
「ん──────!」
犯人の腰を跨ぐ仁王立ちで見下ろし拳を固めた腕を振り上げる。
「わ、わわわ・・・わかったよほら!!」
犯人が投げ渡した生徒手帳をめくり、彼の顔写真の下に記された情報を記憶する。
2ーD、越前屋 祐一・・・か、住所は──────は? こ、こえまえ・・・
「名前! なんて読むんだコレ」
「えちぜんや!」
「おい、えちごや。許してほしいか?」
「チッ・・・・・・越前屋だってクソッ!」
「ん──────!」
「わ、わかった! ゆ、許してくれもうしない、もうしないよ!!」
自分の顔の前で両手をブンブン振りながら頭を左右に振る越前屋。
「よしお前がチビる前に今日は許してやる」
「だがもし──────」
「この先オレのバイクに何か遭ったら真っ先にオマエを迎えに行くからな」
「そ、そんな・・・。ぼ、僕以外がおまえのバイクにッ──────」
「じゃぁ、そうならないようにオマエが全力で守らなきゃな越前屋 祐一」
「行け──────」
「ひ・・・いいかヒビヤ! 僕だけじゃ・・・な、無いんだからな」
「おぼえてろッ──────」
はぁ、わっかりやすい負け犬の遠吠え。くだらん私怨に巻き込まれてる間に
降ってきちまったじゃないか雨・・・
昇降口の方へ校舎の角の方へ走り逃げていく越前屋は、足を滑らしすっ転ぶ。
その角から向かい合うように現れた人物に、越前屋は驚きながら一歩後ずさると
こんどは空中をクロールで掻くまるで漫画みたいな見事な逃げっぷりで
校舎の影に消えた。かわいいなアイツ・・・
入れ替えにこっちに向かってくる人影は、そんな普通じゃない彼を一度も
見ることもなく、俯きながらスカートの前に、両手で革鞄のハンドルを掴んで
真っ直ぐオレの近くまで歩んできた。
「あ・・・・」
オレをみた彼女は、一瞬斜め下を向くが、すぐオレにいつもの笑顔で向き直す
今の、見られてはいないようだな──────
「ふぅ、ガレン部活は?」
「え、えっと・・・ 今日は・・・なんだか手の豆が痛くてさ」
「そうなのか・・・どれ見せ──────」
「イヤッ・・・あ、あはは! なにダチの手を触ろうとしてるのエッチ!!」
「ハァ・・・ま、悪化しないように気付けろな・・・」
「──────う、うん」
絶対なんか有ったなこりゃ・・・確実に行いのツケが芽吹いて
二人の周囲を覆って来てる──────
「よしガレン! カラオケ行くか気晴らしにっ、奢ってやるからさ」
「──────ッ・・・。嬉しいけど・・・さ、今日はやめとこうかな」
遂にマジで降り出した雨がパタパタと音を立てて地面を黒く濡らす中
屋根の外に居て俯いてる彼女の腕を掴んで屋根の下に引っ張り込む───
力なくオレの方へ倒れ込む雅蓮を勢いでそのまま抱きしめそうに成るのを
既の所で両肩を掴んで顔を見る
「あ──────ッ・・・!」
彼女は目を大きく見開きオレを真っ直ぐに見るも、すぐ斜め下を見るように
目をそらした。──────マッタク
「大丈夫か? 何かあったら真っ先に相談するんだ、いいな?」
「オレ達マブダチなんだからさ」
「な、雅蓮──────」
「ッ!──────う・・・ん」
「え、えへへー、やっぱり今日はなんか今日調子悪いなぁーあたし」
「熱在るかもだし、今日はもう帰るねバイバイ、マコト・・・・・・」
雅蓮はカバンから真っ赤な折りたたみ傘を取り出して広げると
駆けるように校門に向かって行った。
「ハァ、手の豆はどうしたんだよ・・・」
そんな絶対に、だいじょばない雅蓮の後ろ姿を観ながらまた溜息をつく。
「しかし・・・見事にヤッてくれたなえーっと、コイケヤ?」
サッと見回したが、ナイフや千枚通しのような物でタイヤ自体を
突いた訳では無いようで、タイヤ横に転がるサイコロの形をした
バルブキャップを見るに単に空気を抜いたイタズラだったようだ。
一先ずガススタまで押していけばなんとかなるか───そう思った時
ド派手な自転車選手のようなピッチピチのレーシングジャージ姿で、コレまた
お高そうなレース用自転車に乗った色白長身の見覚えのある男が現れて
「いや、参った参ったすっかり降られてしまった」
「で、君は雨宿りか? 二年A組 日比谷 真」
肉抜き穴だらけの軽そうなヘルメットを脱いで確信した。
チョーク投げが得意な生物の先公か・・・
「いや、なんかパンクしたみたいでさ。ガススタンドまで押し──────」
「故障した自動二輪車で生徒を帰すわけにはいかんな」
「いや、だから押して──────」
「よし私が修理の手配をしてやろう。君はこのまま徒歩で帰ること、いいな」
「この雨だ、大事な生徒に風邪を引かせるわけにはいかんからな」
「この傘を使え──────」
そう言うと先公は履いていたレーサーパンツから、白い大きな傘を取り出し
切れ長の目にしたシルバーのリムレスメガネを人さし指でくいと上げた。
はぁ、前々からこのセンセーはお硬いとは思っちゃいたが、全く取り付く
島もねぇ。仕方ないのでこの先公が取り出した真っ白な傘をさして帰るし・・・
って──────今アンタ何処から出したよコレ!
「心配することはない、知り合いの修理屋は優秀だ。明日には直っていよう」
「ではな、気を付けて下校するのだよ2-A 日比谷 真」
そう言い残し、生物の先公も校舎の角へと姿を消した。
はぁ先公よ、あれもこれもこの先、心配しかねぇよ・・・
つーかさ、この傘汚くないか?
仕方ないのでそのまま先公の真っ白い傘を差して、亀丘駅前まで歩いてきた
バスロータリー手前で先日友情を誓った場所、カラオケボックスのネオンが
目に止まり、さっきの雅蓮の顔を思い出す・・・
オレだけに矛先が向くならさっきみたいに往なせるんだが、あの様子じゃ
雅蓮の方にも何か悪いことが起こってるだろう間違いなく。
雅蓮自身が呼び寄せた悪意、責任を取るのも勿論、雅蓮しかいない。
あのカラオケボックスでオレが雅蓮に叱ったように、他者が手を
出してはいけないはずだ・・・
そう、他人なら──────
「って、痛って! オッサン何処観て・・・歩いて」
「おっと、すまない」
本降りを迎えた雨の中、傘を差したオレに器用にも肩をぶつけて来た
この男は傘もささずにトレンチコートをぐっしょり濡らしていた。
その姿は、まるで幽霊のような全身灰色・・・にみえた。
もしくは──────
空飛ぶパトカーでアンドロイドを追いかける未来刑事か、いつも自分の妻の話
しかしない推理上手なあの刑事のような身成りで・・・
映画のせいか、どことなく親近感をおぼえるような──────
「気をつけてくれよな、オッサン!」
「すまんすまん、おう、ボウズ! 忘れ物だ──────」
そうしてオレの生徒手帳を投げ渡してきた、な! 何時の間に・・・
財布は無事だろうなッ、って・・・無事だ。 何だったんだあれ。
電気羊の夢でも見たかオレ
翌日、六月六日──────
相変わらずの雨、先生の白い傘を差して登校すると、百メートル向こうの
校門から、見るからにサビサビカッサカサのアメ車トラックがドロドロと
快音を轟かせ出ていくのが見えた。
何だあれ・・・・
教室に着くと、オレの席に座ってバイクの雑誌を見るカズ、そのまま
右に視線をずらすと、この時間にはいつもいるはずの雅蓮が・・・
居ない。昨日のアレは本当に熱でも出てたんじゃないかと、そうならどれだけ
良かったか──────
「よ、カズ。ガレンまだ来てないのか?」
「おはよマコト。まだみたいだな、珍しいよな、それよりこのバイ─────」
なんかおかしい。場合によっちゃ探しに出ないとな・・・
視線を感じて窓際の一番前で窓枠に寄り掛かりすスマホを手にしたギャル
を見ると、慌ててスマホに視線を落として、すげー勢いでソレをいじり
始めた・・・
「──────ふぅ」
「よーし全員席につけー出席取るぞ-」
「ヤベッ! 担任今日来るの早えぇ! じゃ、マコトあとでな」
「藤ぃぃ田あああぁぁ早く座れ、みんな居るなー。居ないなヨクない」
「ヘイ日直ゥー、鏃 は休みかー?」
「ごめんなさい・・・遅れました」
教室後ろの入り口から胸に手を当てた雅蓮が静々と教室に入ってきた。
ふぅ、心配したよ雅蓮。でも何だオマエその顔・・・寝てないだろオマエ
「 鏃 出席と。ヨシ、ヘイ日直ゥー号令」
少しホッとしたよ、ほんの少しだけな。だけどやっぱオマエ、なにかオレに
隠してんだろ? こっちに一切目を合わさずに席に向かって力なく腰を降ろして
さ、真っ青な顔してしかも遅刻未遂、こりゃ昼休みにちゃんと話しなきゃ
ダメだな。
結局、何度かオレをチラ見することは有っても、雅蓮は終始うつむき加減で
授業もマトモに聞いてない様子だった。まぁこれに関しては頬杖突いてずっと
雅蓮を睨んでたオレが言う筋合いもないがな──────
気を揉んだ時間はあっという間に過ぎて四時限目が終わる。
四限の授業中コッチをチラチラ観ながらソワソワしやがってアイツ
絶対に逃げる気だ──────
「いつも席借りてアリガトね唯ちゃん、飴ちゃん食べる?」
「あ・・・おいマコトォ!」
やっぱりだ、そんな真っ青な顔しながら弁当箱もって一体何処行くってんだよ
雅蓮ッ──────クソッ、コッチの動きを察して走り出しやがった!
廊下は走っては、いけませんッ
「──────ッ、ガレ・・・」
ちックソッ、女子トイレに逃げ込まれた・・・
ガレンおまえ! オレとの距離感が0と100しか無いのかよッ!!
このままココで張ってても、雅蓮が出てこれなく成るからな
女子共の目も痛いし、一旦退散するしかない──────
もうコレは確信なんて悠長な話じゃない、何が起こってんだよ雅蓮ッ!
なんで・・・なんでオレに相談してこないんだッ!!
前扉から教室に戻ると、またオレをチラ見するギャル。
「チッ──────! おま──────」
「マコト!! いいからコッチ来て一回座れ、な?」
教室後ろの窓際で立ち上がったカズの言葉に、頭に登った血が若干下がって
席に戻る。ギャルは席について、取り巻きのパリピ男二人がコッチを
睨みつけている。
「──────クソッ」
「マコト! いいからほっとけ!! それよりさ、何が有った?」
「──────チッ」
「マコト俺だってな!! ──────オマエ等のダチだろ」
「なら、ならさ・・・俺に一言相談してくれてもいいだろ・・・な?」
ハッとした・・・
オレはカラオケボックスで雅蓮と友情を誓った。それまでダチを作る
ことを頑なに拒絶してきたオレは、今のカズの言葉に頬を引っ叩かれた
思いがした──────
友情とは、どちらか一方の想いだけでは結べないってのは
先日のカラオケボックスで雅蓮自身が証明してみせたじゃないか
あの時、オレにマジ説教食らった後に、涙しながら、震えながら
彼女はオレに聞いた「お友達になってください」って──────
たかが二周間ぐらいだが、オレ達三人は昼食を共にしてオレは、オレは
確かに感じたんだ。いままで思いもしなかった “たのしいな” って
感情を・・・こんな楽しい時間がこの先ずっと続けばいいなと─────
その思いはオレと、カズと、そして雅蓮。その誰一人も欠けちゃいけな
かったんだ。名前を覚える気がないなんて云って、勝手に突っ張ってたが
カズが雑誌持って飛んでくるのだって──────
カズはずっと待ってたんだ・・・
友情の誓い、ダチになってくれって
オレの言葉をずっと──────
「クソッ──────」
下を向いた途端に、京都に来てからずっと耐えていた想いが溢れて流れる・・・
自分だけは、何処か達観したようなツラして高い所から見下ろして
全部分ったようなつもりでいて、実は何も分っちゃいなかったんだ
自分だけで全部対処できるなんて思い込んで──────
雅蓮の気持ちなんてちっとも考えず
ご立派な御高説を一方的に
雅蓮に押し付けて・・・
これじゃ・・・
これじゃあ・・・
オレのヤッてることは小悪魔ガレンと一緒じゃねぇか──────
「マコト・・・」
オレの名を呼びながら肩に置かれた手が、一層強くオレの肩を掴む
「なぁマコト、一体何が有った?」
「──────わりぃ、聞いて・・・くれるか」
「───カズヤ」
カズヤは微笑みながら、まっすぐに伸ばした拳をオレの顎にトンと当てた
それから俺達は、屋上扉手前の人影の少ない階段に向かい
オレはカズヤに大体の出来事を語った、カズヤは顎に手を当て神妙な
面持ちで一切口を挟まずオレの話を聞いてくれた。
「──────そりゃさ、その責任は全部、雅蓮に在ると思うよ」
「でもよ、友情ってお前が言うようなそんな小難しいことか?」
「オレも去年雅蓮に玉砕したからわかるよ」
「あれはさ、俺の勝手な片思いで雅蓮を恨むのは筋違いでさ」
「片思いと両思い。そりゃきっと友達関係にも在るんだ」
「──────友達と親友っていうな」
「・・・・」
「こうしてお前がやっと心を開いてくれてさ、俺達、晴れて両思いだ」
「・・・・気持ち悪いな」
「だよな。で、両思いならさ、親友の悩みは自分の悩みだ」
「それで、それだけでいいんじゃないか?」
「雅蓮が何をしてこうなっちまったか、理由をマコトが話さないのは
雅蓮がマコト以外には知られたくない事なんだろ?」
「なら俺が雅蓮から直接聞くしか無いケドさ、理由なんかわからなくても
悩んで傷ついてる相棒の側に居て、支えてやることはできる」
「肩を抱いて一緒に泣いてやることだって──────」
「それがマジ友情だろ? 親友ってそういうもんだよ、うん──────」
カズヤが、ヤンキー原チャ同盟の頭のポジに収まってるのがこの言葉で
はっきり判った。おまえ、大した奴だよ──────。
そしてカズヤも、オレの憧れを実践してる奴なんだと
友達関係初心者のオレが学ぶべき相手なんだと理解した。
「──────で、どうするよマコト。もうやるべき事は決まってんだろ?」
「──────ッ、あぁ、あぁ! マブダチガレンを二人で護るんだ!」
カズヤはこの言葉にまた伸ばした拳をオレの頬に当てた。
午後の授業の為に教室へ二人で戻ってきた。カズのオレの首に回した腕が
くすぐったくて恥ずかしくて──────、でも頼もしかった。
そんな教室には、もう人影もほとんど無く、五・六時限目のABクラス合同
体育授業の為に、男女それぞれの更衣室へ移動した後だったようだ。
体育館、縦に二分割された館内では
女子がバレー、男子がランニングの授業が行われていた。
いち早くゴールしたオレは、片膝立てで座りながら
反対側の壁際を睨みつける
「・・・・ハァハァハァ、ま、マコトおま・・・はえぇって・・・」
オレの視線を横切りながら周回遅れのカズヤがヘロヘロと通り過ぎた。
オレの視線の先で雅蓮が座り込んでいる。
膝立てにした両足を両手で抱え、その膝の上に真っ青の顔を乗せて俯いている。
視線を横に流すと、その女子達の列、端の方で例のギャルがスマホで電話して
いるのをじっと睨む──────
「ハァハァハァ・・・・ご、ごーる・・・」
二周遅れで課題を済ませたカズヤがオレの隣で大の字に横たわる。
「はーい女子集合! 日直さん号令」
いつも通りに女子生徒の授業がチャイム10分前に終了し
きゃいきゃい言いながら女子生徒は体育館を出ていった。
雅蓮もその力ない腰を上げ後を追う。オレは、体育館の大時計を観ながら
もどかしい残り8分を待った─────
着替えを終えカズヤと走って教室へ戻ると、雅蓮のカバンと道着入れは既に
無く帰宅したようだった。
オレが雅蓮の机を殴り掛かろうと振り上げた拳を、カズヤが両手で受け止め
首を横に振る。オレは力なくその怒りの行き場を失った拳を降ろした。
「・・・・・うぅぅ」
去年の出来事を語り聞かせていた相手、咲夜がストローを咥えたまま唸る
スマホを取り出して、浴衣姿の姉妹とオレの顔が映るロック画面の時計を
見ると、時刻は既に六時を過ぎる頃だ。
コーヒーショップ、グリーンのフッカフカしたソファから、向かいの
スツールに座る咲夜を見る。オレの少し懐かしい昔ばなしに真剣な眼差しを
向けていた彼女は桃色のほっぺをした顔、口を相変わらず尖らせたまま
空になったカップに刺さる緑色のストローを今だに咥えて
上目遣いのジト目でおれを見ていた。
そんな子猫の顔を見てフフフと思わず吹き出して、オレはカップに残る
すっかり冷えたコーヒーを飲み干して立ち上がる。
「さぁ、お時間ですよお姫様、続きはまた今度でよろしい?」
「ううぅぅ・・・・・・うー、うん・・・」
唸った咲夜の頭をサラッと撫でて、オレに手を伸ばした咲夜のその手を
引いて立ち上がらせ、某有名コーヒーショップを後にする。
話を一方的に切られて、若干納得がいかない咲夜にメットをかぶせて
再びタンデムで宮田家に咲夜を送る。バーエンドミラーに映る街灯に
照らされた咲夜の顔は、相変わらず口を真一文字に結び
複雑な表情をしている。
でも、だいたいこれで、お前をつまみ上げて運搬したカズヤと
複雑な事情を抱えオレと友情を結んだ雅蓮、そして中二病を患い続けて
ダチ公二人に諭されたオレ。親友の紹介と、友情の成り立ちは説明できた
だろう。そうさ、純粋で素直な咲夜なら、きっともうわかってくれたよな?
宮田家へ続く坂を登って家に咲夜を送り届ける。咲夜が背負ったカバンの
両肩紐をそれぞれ掴みながら、トボトボと玄関に向かい、開けた扉のむこう
玄関に居た茜の腰に抱着いた、そんな咲夜を見届けてフフと肩で笑って
二人で門前まで出てきた姫君たちにオレは、ボールファスナーのパンチング
グローブをヘルメットの額に当てた茶化した敬礼で別れの挨拶をする。
再び、Typhoonに拍車を掛け、オレは宮田家を後にした。
ごめんな咲夜、最後まで話してやれなくて・・・
茜、気付いていないだろうけど、ダチを支えてくれてありがとな。
──────でもな咲夜。
こっから先は聞いていても、決して楽しくなんか無いし
今のお前にはたぶん刺激が強すぎんだ
「人の、未成熟な悪意って残酷な話だからな──────」




