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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
五章 夏の終りに…
87/99

5-2 壱拾七話 効果判定・期間限定のカノジョ 2


二〇十七年五月────── 位だったか


 学年が二年に上がって、皆が新たな門出に慣れてきた頃。

ウチの学校はバイク通学が許されるのは【2年生になった者に限る】

っていうチョット理不尽な校則があって、申請を出して受理されたのが

確かその位だったから、たぶん間違いないな──────


オレが初めて(やじり) 雅蓮(がれん)を意識したのは──────。




 仙台から京都に来て教習所に通える最速のタイミングで

オレはすぐに免許を取得した。無論、仙台の美咲には内緒だ・・・

新幹線に乗って悪魔が来るからな。仕送りの食費から1万をこつこつ

積み立てて、市内の赤男爵で買った中古のキングデュラハン号(250cc)で

遂に登校できる権利を得てのバイク登校初日。


 それまでバス通学だったから、オレは校内の駐輪場の場所に

戸惑いつつ校舎裏に位置している駐輪場へやっとたどり着く──────が


 見るからにガラの悪そうな連中が、原付き数台の周りにたむろしていた。

フルフェイスヘルメットの中で溜息を付きつつ、学校側より指定された

デュラハンの駐車場所へ近づく。


 同じ二輪乗りの連中は、当然のように興味のある音が近づくと一斉に

オレを見るよなそりゃ。軽い空ぶかしを何度か繰り返し牽制をくれながら

許可書に指定された番号、つまりは奴らの隣にバイクを停めた。

 空力効果なんて全く無い羽根や、その他FRP外装でデコられた

派手な原チャリの彼らは、相変わらずオレを睨むように眺めていやがる。


 あんだよ・・・なんか文句でも在るのか?

雑誌チャンプ道の通販で買ったのかその半帽。

おまえら、昭和からタイムスリップでもしてきちゃったのか?

不運(バットラック)(ダンス)りたいなら手を貸すぞ


 フルフェイスヘルメットを脱いでガン飛ばしてやろうとしたそんな時

その中のひとりが、キャンディグリーンの日章旗柄した半帽を脱ぎ

驚きの眼差しでオレに話しかけてきた──────


「よぉ! 誰かと思えば日比谷おまえだったのか、バイク乗ってたのかよ!!」

「俺だよ、同じクラスの藤──────」


「知ってるよ」

これでもヒトの顔を覚えるのは得意だからな

名前覚えんのは不得意だけどな


「お前等な──────、邪魔」


 よくよくその顔を観て納得した。同クラの出席番号えーっとなんだっけ

まぁいいや、その同級生以外がオレの言葉に、一瞬殺気立つ。

同クラ男は、まぁまぁといった手付きで連中を諌めた。

意外と人望あるんだな、同級生男子。


「別に───オレは、朝っぱらからケンカ売ろうってんじゃないさ」

「観てみろアレを、お前等にビビって下級生や女子達がチャリ停められず

 困ってんだろ? タムロすんなら他でやれ」

「粋を気取るならもっと周りを見なきゃ、そうだろ?」


 オレのその言葉に納得したのか反省するような素振りを見せる者数名

オレにガン飛ばしてくるやつ2名、突っかかってこようと立ち上がる者1名

口を開けてぼーぜんとするリーダー格らしい同クラの同級生1名。


最大4対1か、まぁイケるだろ──────。


 そんな思いを巡らせながら、駐輪場から昇降口に向かって歩き始めて

すぐに後ろから、ぽんとオレの肩が叩かれる。

キたか・・・やれやれ──────これで遅刻確定か?


「なぁ日比谷! 今度おまえのバイク乗らせてくれよ、頼むっ」

「ちゃんと免許はあるからさぁ、あれ250だろ?」

「イイなぁ、やっぱ速えんだろうなぁ・・・イイよな単車っ!」

「うちのカーちゃんがさぁ、50しか乗るなって──────」


 意外と純粋だったリーダーのおかげで朝っぱらからの修羅場は免れた。

同クラのバイク話に相槌を打ちながら、連中にビビって駐輪場に近づけ

ずに居た子達の横を通り過ぎる。


数名がオレに軽く頭を下げたりしながら自転車を押して駐輪場へ行く

そんな人たちを横目で見送っていると突然に──────


「ありがとね、ヒビヤ君──────」


唐突にオレの名前を呼ばれて、思わずその声の主へ振り返る──────



 肩より少し長い黒髪、背はスラリと高く華奢ではなくスレンダーな骨格に

バランスよく筋肉が乗った、いかにも体育会系の女。


確か彼女も・・・


「 鏃 雅蓮 な、アイツも俺らと同じクラスだぜ日比谷ぁ」

「なぁ! マコトって呼んでいいか、オレのことはカズ────」


 おぼろげな記憶では彼女の振る舞いは確か──────

クラスの中で満遍なく付き合いをする、というか性別問わずに慕われていて

かと云ってどのクラスタにも属さずに、オレのように孤高を気取っている

訳でもなく──────自分という芯をしっかり持ってる。

己の価値観を持った女か・・・

かっけぇな。


「マコト、なんだお前も雅蓮狙いなのか?」

「やめとけ、アレは手の届かないガケの上に咲く花」

「遠くから眺めて憧れる女だよ──────」


「語るじゃないか──────やけに詳しいなオマエ」


「いやー実はさ。一年の時、一か八かで告って死んだ」

「ひょっとして上手く行ったらラッキーと思って賭けてみたがダメだったよ」


 まぁ、お前は決してブサイクじゃないしこの人懐っこい性格

間違いなくイイやつだ。その賭けが上手く行く事も在るだろう。ケドな

アレはきっとそんなところを見てない。


 人にマッタク興味のないオレが、ここまであの女に思考を巡らすんだ・・・

きっとこれがあの女の魅力なんだろうな──────




 授業中、休み時間、昼食時、放課後と、気がつくとオレは教室で二列先の

席に居るガレンの後ろ姿を瞳で追っていた──────


べ、べつに! そ・・・そういうんじゃ・・・な、ないんだからねっ!


 帰り支度をして机の横からカバンを取り立ち上がるガレン。

逆の手には藤色のドラムバックの様な、大きな巾着・・・


「──────道着袋?」


「あれ、知らなかったのかマコト。鏃 雅蓮、彼女は弓道部のエースだぜ?」


 バイク雑誌を幾つもオレの机に散らかしながら、賭けに負けた彼女の事を語る。

なるほどな、武道を志し己の行く先を見定めた者。そういう事か・・・


「なぁ、オレが思うにありゃ、オレ達のようなガキが適う女じゃないよ」

「彼女はもっと遥か彼方を観てる、悔しいが生き様に憧れるよ」


「マコト・・・おまえ意外とポエマーだったんだな、惚れたのか?」


察しが良いと云えバカヤロウ! とにかくだ・・・


 仙台から一人で遠方に暮らすガキのオレが、自分を護る為に

孤高の人と云うカリソメの鎧を必死に纏っているのに対し──────

己の征く道を見定め、自然体でオレが求めている事を実践している女。


オレは、雅蓮に少なからず興味を持った。

恋愛対象ではなくヒトとして


彼女の生き様はオレの憧れだったから──────





数日後──────


 帰宅しようと駐輪場へ向かう最中、弓道場の方からの聞き慣れない歓声に

思わずその足を止める。どうやら他校との練習試合が行われているようだ

なんとなく弓道場のほうへ足を運ぶと、まもなく野次馬が集まる場外に

たどり着く。


 試合はまさに佳境を迎えていたらしく、最後の選手の一射で勝敗が決する場面

のようだ。重たいフルフェイスヘルメットと革の学生カバンを片手で肩から

担ぎながら弓道場の方へ視線を向けると、数名の選手が弓を持って立ち並び

その中で唯一と言っても良い、堂々とした雰囲気を纏う射手に目が留まる。

雅蓮だ──────


彼女は最後の射手として今まさに、己の標的である的へ向き合う。


 周りの野次馬は校章の色から察するに学年性別関係なく、この場の全員が

彼女の一挙手一投足に期待を寄せている。オレもそんな彼女の伝統的で美しい

立ち振舞に、すっかり持ってかれちまっていた。


 雅蓮は、自分の身長の倍は在るんじゃないかと云う黒い弓と、対象的に白く

長い矢を手に、それらを重ねた十文字を切れ長の眼差しで的を見定めたまま

自身の頭の上へとゆっくりかかげた。それを徐々に胸の前まで降ろしながら

両腕を広げるように弓を引き絞った──────


 この場のオレを含めた野次馬や弓道場の選手とその関係者達

全てが彼女の矢が放たれる寸前の “会” を固唾を飲んで見守る──────


 オレもおもわず見惚れてしまってるその姿に、飲み込んだそれが、ゴクリと

音を鳴らしたような気がする程の静けさの中。彼女の瞳が遂にその瞬間を捕らえた

一瞬、切れ長のその目が険しさを増した、その瞬間だった──────


キーンと云う清々しい音と共に、篭手を履いた右手だけがゆっくりと右水平に

引かれた。この場の全員が彼女の放った矢の行方、的に目を移す中で

オレだけが雅蓮をジッと見つめる──────


わぁーっと語尾に向かって音程の下がる声が会場の内外で上がった。


 雅蓮はスっと目を閉じ──────口元だけ微笑んだ

すぐに、彼女は何かを悟ったような柔らかな表情に変わり

ちろりと桃色の舌先を一瞬のぞかせて弓を降ろした。


 一瞬だけ、偶然彼女がオレの方へ顔を向けるのが見えて

あわてて目をそらすように雅蓮が放った矢の行方、的へ視線を逃がすと

その会心の一撃と思えた矢は、的から5センチほど横の

砂壁に外れていた──────




 オレンジ色から群青へと暮れてゆく駐輪場で

オレはデュラハンに寄り掛かり雅蓮の赤いチャリをぼんやり見つめていた。

さっきの試合、途轍もないプレッシャーの中で、彼女は己が定めた的を外した。

試合の行方はどうなったのか定かじゃないがそれはカンケイない。


 ただオレは雅蓮に一つ聞きたくて、こうして彼女が現れるのをずっと

待っている。オマエはなぜあんな場で、アレ程の余裕をもって堂々と立って

いられるのかと。得点競技では無く、アタリかハズレかそんな究極の二択しか

無いような競技に敗北してもなお、あんな成し遂げたような

笑顔ができるのか──────と・・・・


「あ・・・・」


 落ち込む様子も一切なく、まるでルーチンワークを終えて

当たり前に帰路につくサラリーマンような無感情な顔、そんな当然の自然体で

雅蓮は駐輪場に現れた。


「よ、よぉ──────鏃、試合残念だったな」


「へへっ、しっぱいしちった」

「やっぱりあれ、キミだったんだね」

「残念だなぁ、カッコイイ所見せられなくて」


 あのときと同じ様に、有名な菓子屋のキャラクターのように

口角から舌先をちろりと覗かせながらにそんな事を言う。


よせ恥ずかしい──────

偶然だ偶然。


「まぁ観てたのはお前が矢を射つ所だけだケドな」

「で、試合の勝敗はどうだったんだよそれが知りた───くて待ってた」


何で今嘘ついちまったオレ?


「負け。へへー、わたしが決めてれば逆転してたかも、ざーんねん」

「ね、待ってたのは本当にそれだけ?」

「最近さ、キミずっと見てるでしょ、私のこと」


人の前で腰を曲げて上目遣いスルな!

オレにその手は効かない・・・ぞ。クソッ!


「告るとでも思ったのかバカめ! オレが聞きたかったのは──────」


 意識した途端、聞きたかったことが途端に恥ずかしくなって

思わず口籠る。この女がオレの思ってるような人間だったら、一年の時から

教室の最後列の窓際で、一匹狼を気取っていたオレは、中二病を拗らせた

ただの右手が痛いボッチ君に写ってしまうからな・・・


ま、実際その通りなんだが──────


「──────お、オレが聞きたいのはさ」

「どうしてさっきみたいな大舞台のあんな役回りで──────」

「あれだけ余裕で居られるんだ? 大勢の期待の中で的を外しちまっ」

「──────いや、ゴメン今のはそう意味じゃなくて・・・」


 クソッ!

なんで、たじろいでんだオレ。彼女はそんなオレに背を向けながら肩だけで

まるでフフフ笑いながらチャリの籠に道着袋とかばんを乗せる。

そして改めてオレの前に向かい合うように立って

ほほえみながら─────


「ね、これからカラオケ行かない? 憂さ晴らしに付き合ってよ」


突然そんな事を言いだした・・・。




 オレは偶然駐輪場に現れた同クラのカズにデュラハンを託し

チャリを押す彼女と共に徒歩で駅前のカラオケボックスに来た。


 一通りお互いの好きな歌を歌い終えたオレ達は、ドリンクバーと軽食を

取りながら一息ついている。話するならこのタイミングだろう・・・

オレはさっき聞きそびれそうになった雅蓮の心の余裕───いや

芯の強さについて、飲み物を携えて戻ってきた彼女に尋ねる。


「なぁ、オマエさ。何でそんなに常に余裕をもって居られるんだ?」


 さっきの歌声だってそうだ。初めての、それも異性の前でだぞ?

なのに、どうしてあんなに堂々と自分の声で歌えるんだ──────

オレなんか得意な歌でも声が上ずってボロボロだってのにさ


「なぁ、オマエもしかして───遥か遠くの的を観てるだろ?」

「オマエが見定めてる的って、一体何処に在るんだ?」


この疑問は彼女の中では想定外だったんだろうきっと・・・

歌本の端末をペンでめくりながら、横目で入り口の彼女を見る。


 雅蓮は防音扉の前で、緑色のグラスを両手で持ったままキョトンとした

でもそれも一瞬で、部屋の壁伝いに設えられたソファとテーブルの間に

体を滑らせながら元いた場所、オレの真向かいに腰を下ろして

俯いた──────


 たぶん、時間にして5秒とかそのくらいだったと思う。

彼女は一つだけ、何かを呟いてコクリとうなずくと、微笑みをむけて

オレの聞きたかったことを話しだした──────


「フフっ、あーー。ほんとうにビックリしたー、突然なんだもん」

「そんな事聞いてきたのはキミが初めてだよ──────」

「・・・ねぇ──────隣りに行っていい?」


「お、おう──────」


 ダメだ。こりゃ並の野郎は一発で惚れるわ・・・

コイツ、究極の人誑しなんだ──────と、その時は思った。


「んー、わたしが目指す目標かぁ・・・オリンピック!」


「──────マジか・・・」


 ドデカイ目標を云いやがった、でもそれも納得のような気がする。

それだけの高みを目指しているからこそ、今日の試合の失敗なんてのも

通過点の一つで一々気にしてなんて居られねぇもんな・・・


「──────なーんてね、ウソ。フフっ、本気だと思った顔してる」

「一点、まずはわたしの勝ち。負け方のおごりね!」


「嘘かい!!」

おれの高尚な分析返せこのッ!


「わたしね、ほんとうはプレッシャーに弱いの──────」

「だから今日みたいな場面でいつも失敗しちゃうんだー」


「・・・・」


「だからね、いつもそういう訓練をしてるの」

「ドキドキしないように──────」


潤んだような瞳でオレを覗き込む。

オマエ、たった今の自分の世渡り戦略を語った後に

そういう事しても無駄だぞ?


「じゃ、オレも一点だ。そうやってオレを誂っても無駄だぜ」

「そんな手では籠絡されないぞ。今の話がウソかホントか知らんけど」


 そう、悪いがオレはお前がどんなに誘惑しようが

その裏にあるものが判ってる。オレが寂しいって感情から身を守るために

鎧を着ているように、お前が何故自然体でその強さを持っているのか

それが聞きたいんだ──────


「──────ちぇ、駄目かぁ・・・わかった同点」


「今のそういう態度にしたってそうだ」

「何でオマエはそうやって勘違いされるような事するんだ」

「こんな事してたら、いつか恨み買ってひどい目に遭うぞ? 」


「叱られた・・・」


 フライドポテトを一本口に放り込んで先当たった不安要素を伝える。

でも、雅蓮はホントのところでは反省なんかしちゃいないんだろうよ

そうやって、クリームソーダのアイスをストローでつついて

しょんぼり反省してる演技してもお見通しだからな?


「あーーぁっ! やっぱ駄目かぁ──────手強いなぁ・・・」

「・・・・うん、決めた。全部白状するよヒビヤくん」

「どうして私が試合の時に余裕で居られるか──────」


よしよし、全部吐いてもらうぞ

話し終えるまでカツ丼はお預けだ。


「でも、さっき云ったのはホントだよ」

「プレッシャーに勝てるようにね、日常で起こる出来事一つ一つを

 勝負みたいにしてね、わざと自分を追い込んで訓練してるの」

「ドキドキしない様に──────」


「男の子達が私に想いを寄せてくれるのはすごく嬉しいよ・・・」

「でも今はダメ。わたしは弓道の強豪、あの大学の推薦入学を勝ち取るまで

 恋愛しないって決めてる・・・恋にドキドキしたまま矢を射つなんて

 わたしはムリ──────・・・みたいに」


「だから、わたしに対する・・・そういう・・・恋心を読み取って」

「私から勝負をかけるの。お互いに、ドキドキしちゃう前に」

「──────勝負をわたしの一射で終わらせるために・・・」



 そんな導入を元にして

この 鏃 雅蓮 は自身の生い立ちのような事を語り始めた──────


 彼女は代々弓道の道場を営む名家に産まれた。

彼女の出来すぎた苗字も最初は違ったものだったが、何代目かの当主が

鏃と改めたらしい。そういう家に生まれた彼女も、当然のようにこの道を

志すことに成るのだが、彼女は元々体が弱く小学校に入るまで入退院を

繰り返してたのだと云う


 自分が生きる為には、色々な人の手助けがいる。彼女は幼少の頃、病院で

そう悟ったらしい。自分で自分を護る為に、病院の医師や看護師に子供ながら

に精一杯気を使うようになった。


そう、嫌われないように──────


 でも弓道という勝負の世界で、そんな気遣いはむしろ邪魔なだけだ。

例えば、コイツがさっきオレに付いたウソ。

オリンピックに出場するのを目的に生きるなら、世界中を全部敵に回してでも

自分優先出来るような精神力を持った一握りの連中だけが立てるステージ

きっとそうなんだろうからな──────


 結果、雅蓮は自分の想いと裏腹な世界、大好きな弓道界に立つ為に

両親や祖父、そして今日あの場に居た野次馬連中を含む会場全員の

期待を裏切らないようにと、常に自分を窮地に立たせるような

事をするのが癖になったんだと云う──────


「──────で、そんな自分を鍛えるためにこうして」

「殆ど交流のない異性の同級生をデートに誘ったりしてるのか?」

「考えようによっては自分の思惑を成すために、人の気持ちを弄んでるような」

「ただの悪女に見えるぞ、オマエ」


「・・・・また怒られた」


「ねぇ、わたし──────誰も彼もこうして誘ったりしないよ?」

「実はね、一年の時からわたし──────キミに興味があったの」


雅蓮は突然オレの想像しなかったことを云い出した──────



「去年の夏だったか、キミ三年生の不良達相手にケンカしたでしょ?」

「ボロボロの顔して登校して来てさ・・・」

「いつもと変わらず自分の席から達観したような顔で空なんか見ちゃって」


「その時からずっと思ってた」

「わたしから観て、キミはどんな時も動じない」


「先日の朝もそう、大勢の不良たちを前にしても物怖じしてなかった」

「キミが私に思ってる事、なんでそんなに余裕があるのかって」




「──────それは、私が貴方に聞きたいよ、ヒビヤ マコトくん」

「だから・・・だからね、いつかこうして二人っきりで話せたらいいなって」

「でも──────ね、もう判ったでしょ?」


「わたし、キミと話がしたくて、キミの傍まで行っても」

「キミを意識しちゃうと途端にドキドキして足が震えてた」

「もし突然誘ったりして、嫌われたらどうしよう──────って」


「だからね、今日キミが駐輪場で待っててくれて嬉しかった」

「そして思ったの、キミを誘うなら今しかないって──────」


「・・・・・・」

想像した事も無かった──────去年からオレを観てたなんて


 でも、だとしたら・・・コイツの好意を聞いたオレは・・・やっぱり

はっきりコイツに云わなきゃいけない。


「──────やっぱり、信じて貰えないかへへへっ・・・」



無作為な好意をばらまく振る舞い──────

八方美人はダメなんだって──────




「な、自分の生まれた家や自分の性格まで語って」

「オレが聞きたい話まで利用して」

「オマエがオレを誂ってるのだとしたら──────」


「オレはオマエを軽蔑する。救いようがない最低な人間なんだって」

「多分、もう話すことも、この気に留めることも無いと思う」



「え──────っ・・・・・・・ッ!」



 オレの意思を聞いた雅蓮は、直後とっさに下を向き小さく震えている

テーブルの上にキラキラ光る雫が幾つも落ちてる・・・

チョット言い方がキツすぎた、でもいいんだ。


 オマエは強いよ、オレが絶対できない継続と云う才能の力を知ってる。

十数年、弓道一本に全力で向き合って、そのために自分の心を貶めてまでさ


でも、それを知った今だから、オレはコイツに云わなきゃいけない。

途方も無い努力ができる奴だから──────オレが憧れるような生き方を

実践している雅蓮が、そんなくだらない人間じゃないって信じたい


──────だから!


オマエが無警戒に周囲に振りまいてるのは──────

こういう残酷な事なんだって気づけよバカ!!



 誰も言わないなら、オレがたとえコイツに嫌われたって構わない。

絶対に伝えとく必要がある大事な事なんだと、きっとそう

思うから──────


「でも、そうじゃないんだよな? 」


「オレはオマエを信じて、友達としてオマエにオレの事を語っていいんだよな?」

「オマエがしてくれたみたいに、オレの生い立ちを話してもいいんだよな?」


「・・・・・・ッ、──────うん」


 オレは雅蓮に自分がなぜたった一人

縁もないこの場所で親元を離れて暮らしているか

一人ぼっちの寂しい心をこれ以上傷つかないように護るために

なぜ強がってるか──────


理由をすべて雅蓮に語り聞かせたんだ。



「すん・・・──────あーぁ、まいったなっ!」

「そんな話聞かされちゃったら・・・もう完敗じゃん、わたし・・・」

「やっぱり、去年から観てたあなたは想像通りだったよヒビヤくん」


「アナタ──────強いよ・・・」


「そんな事無い、オレはオマエと違って、ただ怯えてるだけなんだよ」


「へへへ、なんだかわたし達、似てると思わない?」

「こんなに・・・自分の事誰かに話したの初めて・・・」



「ねぇ・・・も、もしね、貴方がよかったらで・・・イイんだけど」

「友達に、なって・・・くれないかな、ヒビヤくん──────」


「もし──────こんな私でよかったら・・・」


 オレは京都に来てから友達って物を努めて作らないようにしていた。

もし、こんな自分を守れるのが自分以外誰も居ないアウェーな場所で

裏切られでもしたらオレは、きっとたぶん立ち直れないだろうから・・・


でも──────




「──────ダチならオレはお前のことガレンって呼び捨てで呼ぶぞ?」


「──────うん呼んで」

「さっきからずっとあなた、私のこと・・・」

「オマエーとかコイツーって呼んでさ」

「なんか棘があってヤダなって、おもってた・・・」



「だからわたしは──────あなたの事マコトって呼ぶね」

「へへ、これで同点でしょ?」


 ガレンは涙に少し頬を赤らめてか、その涙を人差し指の側面で拭いながら

オレの呼び方を了承した。そうして──────


オレとガレンは友達になった。



この先オレが、この鉄壁の鎧を脱いで、この関係が進展するかはまだわからない


最後にガレンは

自分が一年の時からずっとオレに思っていた

“友達になりたい” という勝負に勝ったとして


自分に100点を入れ、オレに一方的な負けを言い渡した。




財布が軽くなったけどさ、まぁそういう負け方も

悪い気はしないかな──────




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