5-1 壱拾七話 効果判定・期間限定のカノジョ 1
9月1日
遂に来ちまったよ新学期。
結局オレの夏は、よく分からないCASINOとか言う連中に
すっかり塗り替えられてしまい、あっという間にオレサマの貴重な
コーコー3年の夏休みはガテン系バイトと護身術その他の特訓に
よって、なんとなくあっちゅう間に終了した。
結局、あのアゲハ蝶の一件以来、事件らしい事件も起きずに
咲夜は晴れて退院、ダニエルは変わらず茜の影となり彼女を見守り
続けてる。
オレの例の裏稼業と言えば──────
ダニエル先公の言う、自分の力を理解した上でうまく使うって言う
精神鍛錬のような授業に変わって、オレの部活は体力的に少し
楽になった。
高校最後の夏休み。
この輝かしい青春の貴重な1ページを、盛大に犠牲にしてオレがこの夏に
得たものと言えば──────
借り物のすげーイイバイクと、学生が使い切れないほどのバイト代。
「中でも一番のお宝は、これだな──────」
超高性能スマホに映る3人、茜さんと子猫咲夜に・・・超イケメン。
マジ勘弁してくれって苦労も色々有ったけど、今手元にあるものだけ見れば
普通に暮らしていたら、このうちどれか一つを手にするだけも
叶わなかったのかも知れないな・・・
母上が仰るにはオレは “ クズ ” だったからな、クソッ・・・
「茜さんだけでも良かったんだけどな────── オ レ は 」
咲夜の退院後、オレは二日に一度は咲夜に呼び出された。
買い物や夏休みの宿題消化などなど、彼女がオレの事をマコト兄と
呼ぶように、まさしく兄のように振り回された。
そして遂には咲夜の策にハマり宮田家のご夫婦。
つまり、あの時ダニエルが言っていたCASINOのエージェント
咲夜の実の両親と皆で食卓を囲むまで至ってしまった。
まぁ──────悪い気はしないかな・・・
結局、彼女達がオレの記憶を失ってしまう前より、遥かにオレと
彼女達の距離は縮まった。
そんな夏休みの出来事を思い返しながらも、バイクを走らせてりゃ
着きたくなくても着いてしまうのよ学校に!
慣れた順路で校舎裏の駐輪場にたどり着くと、哀れ他界したデュラハン号の
後釜、Ratchetスペシャルのビンテージバイクを指定場所に停める。
脱いだスモールジェットのヘルメットと学生鞄を肩に担ぎ
オレは、ため息交じりに教室へ向かう──────
「よぉ! マコト、バイク替えたのかよさっきそこで俺抜いてったろ?」
「すげーなアレ。外車か? 」
「あぁ、借り物だけどな。絶対触んなよ?」
昇降口で鉢合わせた、たまにツルむ名前もよく覚えてない
隣のクラスのダチ公と、そんな事を話しながらに教室へ向かう。
悪いなダチ公。野郎の名前を覚えるのは苦手なんだ。
なんてな──────
って、なんかさっきから視線を感じるな──────
校舎の最上階に向かい階段を登りながら、ダチの夏のおもひでに適当に相槌を
打ちつつ、奴の教室の前で手を上げ別れる。ため息を付きながら隣の教室の扉を
潜り抜けて窓際の自分の席へどっかり座りそのまま左の窓を眺める。
嫌になるほど青く高い空にまた、ため息が出る。
「おはよ、久しぶりねマコト」
「ねぇ、アナタなんか雰囲気変わったね──────。なんかあった?」
隣の席の鏃 雅蓮が席について、開口一番にドキっと
するような事を聞いてくる。カバンを机の横に掛け、頬杖を付くようにオレを
見つめる同級生、その顔を観るに普遍的な同い年の女の顔つきに
オレはちょっと安心する。いちいち警戒する癖まだ慣れねぇのなオレ・・・
男子学生3年の夏休みだぜお嬢さん、そりゃもう色々在るに決まってんだろ?
恋とか愛とか銃とかさ・・・
「ソッチこそどうなんだよ、新しいカレシは出来たのかよ?」
「あーぁ、そうやってすーぐ恋話に直結するよね男子って」
「でも、お互い縁のないハナシよね。そうでしょマコト」
「──────うるせッ! 早く彼氏作って嫁にいけ、ったく」
そうなんだよ、コイツは恋愛棚上げにして一年の時からずっと
弓道に夢中だ。なんでも? 漏れ聞こえてくるウワサじゃ
ガレン目当てで弓道部に入部した新入生で男子部室は
パンパンらしいなぁ、お姫様。
「───で、夏のインターハイはどうだったんだよ、勝ったのか?」
「準決勝で負けちゃった。ね、頑張ったご褒美にカラオケ奢ってよマコト」
「何ていうかさ、相変わらすそういうとこドライだよなお前って」
部活に青春を捧げるタイプの学生は、大会終わったらもう引退みたいな
もんだろ、暫く大好きな弓から離れて、進学の為に受験生に
クラスチェンジしちまうってのにさ──────
「んー、やりきった感あるし、大学でも続けるから別にね」
「通り道よ通り道。で───どーお、今日の放課後」
「ハァあのさ、いつも通りおまえは部活で、オレは夏から始めたバイト」
「時間合わないだろお互い、それにな人前で個室に男誘うの ヤ メ ロ」
「去年ひどい目に遭っただろ、絶対また恨み買うぞマジで」
「オレにまた怒られたいのか」
「──────。ちぇー、マコトのケチ!」
机に両足を乗せて椅子を揺らしながら、隣の弓使いの姫君から窓の外の空へ
視線を移して考え込む。あの闇部活とバイトがなかったら
オレはこの誘いにノッていたのだろうかと──────
新学期が始まるに当たり、ラチェットの姐さんはバイトの時間を学校終わりの
夕方にシフトした。それに伴ってロイの座学と体育教師ダニエルオジサンの
実技の授業は日替わりになった。とは言え夏休み中のカリキュラムを
夕方からこなすとなると、アパートに戻るのは時計の針が天井近くに
成るだろうことは想像付くよな。
この夏から見事にオレの生活は裏返ってしまったんだ。
嫌んなるな───ッタク
「よーし全員席につけーぉぉぉおおおーいヒビヤァ、神聖な机から脚おろせー」
「出席取るぞ-みんな居るなヨシ、ヘイ日直ゥー」
「フフフっ早速怒られてやんの」
「うるせっ」
そうして、初日は授業もなく始業式で紫色の美人校長センセーの
ありがた-い訓示を賜って午前中には終了するわけだ。
クラスの殆どが帰路につき、人影がまばらになった教室の
最後尾、窓際の俺たち二人は、ガレンが午後の部活にそなえて
前もってチョイと早い飯を食っている。その横から彼女の弁当箱に
二つ並ぶだし巻き卵をひょいとつまみ上げ勝手ながらのご相伴に預かる。
ガレンがオレのスネを蹴りに来るのを足で往なし、反撃に彼女の座ってる
椅子の足を蹴ってちょいとズラすと、ガレンは箸を咥えながら振り上げた平手で
オレの腿をぺシリと叩く──────
と、いつものように帰り際の時間にガレンを誂って遊んでると・・・
唐突なるアノ感覚・・・周囲の色が流れ落ち、背中から炎が──────
「居た! 見つけ・・・ぅぅぅううう! 何あのヒトあんなにくっついて」
「ううううぅぅうー!!・・・ふぇ───?」
「おーい、マコトぉ! なんかこのお嬢ちゃんお前達に用があるみたいだぞ」
「───って、なに固まってんだ? マ コ ト 」
入口の扉に半身隠すように殺意を湛え、オレをジト目で睨む黒い影を
ダチがまるで子猫を扱うように、首根っこを掴み上げてオレとガレンの元へと
運搬してくる。
「咲夜!!お前・・・同じ学校だったのか?!」
( なぁ雅蓮、この娘マコトの妹とかか? )
「さぁーね、しーらない。さって部室に行かなきゃ──────」
オレやダチ達の言葉に、ただプイと顔を背ける 普通科一年、宮田 咲夜。
夏祭りからコッチ、ずっとこの地獄のような夏を共にした彼女達の小さい方
そして、オレがこれから見護り続ける少女──────
偶然なのか、奴らが拵えた必然なのか定かじゃないが
咲夜が同じ学校の下級生としてそこに居た。
何でか分からないけど、大分ご立腹の様子で不貞腐れそっぽを
向きながら咲夜は、ダチ公の手を払い除け着地した。
ナイスランディングした咲夜は、初めて入ったのか最上級生の教室に若干
怯え気味だったのでオレは教室入り口まで襟を持ち上げて子猫を返品する。
助けてやったのに、またオレの高貴なご子息にむけ鉄槌を見舞うように拳を
固める咲夜を、オレは教室の出入り口の引き戸に腕を預け、より掛かりながら
身長差から見下ろし必死になだめる。
再びのゴールデンボンバーはこ勘弁願いたいからな──────
「フぅん・・・・・・なーんだ、出来たんじゃない。カノジョ」
「じゃぁねマコト──────」
オレが戯れて蹴った椅子を机に収めて部室へ向かうガレンが
入り口を塞ぐオレの腕をぺシリと叩いて退かし、オレと咲夜の横を
通り過ぎていった。
オレはその態度に何だアイツと思いながら、子猫を見下ろすと
咲夜がさらなる殺意に拳を固めて、肩を震わせていた。
大分マズイ感じになってる咲夜をオレは全力必死に宥めたんだ──────
まぁ、結果失敗したがな──────
昇降口を出た頃、一年の下駄箱からうつむき加減にとぼとぼ歩いてくる
咲夜は、オレのブレザーの裾を二本の指でチョンと摘み、オレの後を
無言で付いてくる──────って子供かっ!
スマン、子供だったな。
ダチ公のスクーターのミラーに掛かる半帽のヘルメットを勝手に拝借して
姐さんから借りてるジェットヘルメットを咲夜に被せTyphoonに拍車をかける。
相変わらず唇を噛みながら真一文字に口を結んだ咲夜のご機嫌取りに
タンデムでご要望のコーヒーショップへお連れすることに・・・
オレが何したってんだよ。
好き勝手にオプションをマシマシにしたイチゴスムージーと
オレは一切興味がないので名前をよく見なかった、すっげぇちっさいのに
豪気なプライスのケーキを注文した咲夜。
席につくなり、まるでRPGのスライムを逆さまにしたような顔で
尖らせた口にストローを咥えながら、桃色の膨らんだ頬をさらにぷくぷく
ふくらませてスムージーを吸っている。
何でこんなにご機嫌斜めなんだお前・・・全部乗せなんだからもっと感謝して
飲めよ? 高価いんだから
「・・・・」
「なぁ咲夜? なんか怒っ──────」
「・・・怒ってないもん!!」
わっかりやすく怒ってるよねお前?
高価いんだから、そのクッキー何とかってケーキってのも、もっと大事に食えよ?
焦って頬張るからほっぺにクリーム付いてるからな、ほら。
「・・・・うぅぅぅ うー!!」
人差し指で頬のクリームを掬い取って舐めた時に、咲夜がうなり始めた。
やべっ! あの綿菓子みたいにまた横取りしたと思われたか──────
「マコト兄ぃ! さっきのアノ人、だれっ!!」
は? 誰のこと、あーガレンか・・・
「二年のときからのダチ」
「仲良かったねっ!!」
「あー、付き合いだけは長いからな」
「───つきっ?!・・・・あっそ!!」
なぁ咲夜、お前なんか盛大に勘違いしてないかい?
プルプル震えるな、目から汁を垂らすな。ココはリア充の聖地だぞ
お行儀よくしろ。
「茜姉ぇに言いつけてやるんだから・・・」
「まって、それはやめておねがい」
スマホ握りしめて震えるな。食うか飲むかのどっちかにしろ
お子様スマホはしまえマジで──────
咲夜が勘違いしちまうのもムリないよな。
傍から見りゃたしかにオレと雅蓮は、そう見えちまうかも知れない
距離感だったがそれには理由があのだよ──────
ご説明しますので聞いて下さいますか、咲夜ちゃん。
そのメニューを一旦置いてさ・・・。
──────1年前の春
クラス替えの末に、オレとガレンはまた同じクラスになった。
一年の時から、彼女はクラスの中でもチョット目立っていた──────
周りの女子の中でも背がちょっと高く、弓を引くのに邪魔にならないよう
ある時から短く切り揃えたその黒髪は、彼女の整った中性的な顔立ちを
さらに引き立たせた。
サバサバしている様で、あの懐っこい性格。当然のように成るようにして彼女は
クラスの男子と女子、双方から慕われるような存在だった。
クラスの中でのヒエラルキー。
勉強熱心タイプ、運動部活に打ち込むスポーツタイプ。
そしてその頂点に君臨する、悪目立ちするパリピタイプ。
そのパリピ連中の中心にいる不良娘に目をつけられちまったんだ
ガレンは、彼女は直接関係ないのにな──────
それが上級生ともなればなおさら厄介だ・・・
学校なんて閉鎖空間じゃ度々そんな理不尽な事が起こる。
オレはそんな、くだらねー人間関係が嫌でずっと一匹狼で居たんだ・・・
仙台から一人でコッチに預けられたあの日からな──────




