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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
四章 Y2K RebellioN
85/99

4-34 願い

 


                    ♥




「ソウマ・・・あのね──────」


 新世紀が始まったあの夜、あの丘で倒れたままのアタシは

見上げた貴方に自分の気持ちを先の絶望の涙のまま、すべて打ち明ける。


 仙台のトミ爺の元に預けられたあの日から兄と慕い、やがてそれは憧れと言う

淡い恋心に変わり、今ではそれはアタシの中でどんどん大きくなり自分ではもう

抑えが効かない程に、心が貴方の事でイッパイになっている


もし、もしねこの憧れが叶うならたくさん愛してもらいたかった。

でも心のどこかでわかってた、それは叶わないって。


 ソウマはどんな時だってアタシの安全と将来を考えてくれていた

でも、そうならなぜ怪我をしたあの時アタシのそばにずっと居て

くれなかったの? アタシはたとえ乗馬を諦めても貴方がそばに居てくれたら

それで良かったそう考えて一晩ずっと泣いた夜もあった


「オレはお前の隣に居ちゃいけないんだ」

「だからな美咲、オレはお前の気持ちには──────」

「答えられない」


「──────ッ、ズルイよそんなのッ!」

「貴方は自分の都合を押し付けてるだけ!!」

 

 ううん、本当は判ってた。貴方もアタシの得意な事と同じように不思議な力を

持っていて、それが危険を招き寄せているんだって。そして、それに巻き込まない

様にこの何年かはあえて自分からアタシを遠ざけていた事も──────

だからそんな兄の立場を崩さない貴方の優しさが、今はただ辛かった。


「あのねソウマ、わたし・・・あなたが好き。もうお兄ちゃんじゃ嫌」


 もうそれしか貴方に伝える言葉は出てこなかった。

そして貴方は、そんなアタシを抱き上げて初めてのキスをした。

でもそれは、アタシの告白に対しての答えではないのだとすぐ解り

溢れ出した涙が止まらなかった。


そして──────


「ごめんな美咲。やはりオレはお前の気持ちには答えられない」

「普通の男に恋をして、普通の家族を作って穏やかに将来を過ごしてほしい」

「残りたくても──────お前の隣に居たくても」

「オレは、この国には居られないんだ」


アタシは、ファーストキスと共に

ずっと隠して思いを募らせていた初恋相手に失恋した。


「・・・ならせめて居なくなる前に貴方との思い出をちょうだいソウマ」

「貴方の全てで、わたしに刻みつけて──────」

「わたし・・・貴方の事を一生忘れないような(きずあと)が欲しい───」


お気に入りの景色の中で、アタシは彼と二回目のキスをした。

彼の唇は、最初の時よりも温かかったような気がした





 翌日、彼はこの国を去った。

CASINOの隠れ里に匿われた、あの人のナイトと成るために。



「──────これが、あなたのパパとアタシの馴れ初めよ」

「フフッ、きっとあなたが生まれてきたら照れくさくて話せそうにないから」

「今の内に伝えておくね」


「おぉい、ミッコ! 病院の予約時間だど、はやぐ下さおりてこい!!」


「うーわ、おじいちゃんがお冠だー」

「アタシのもうひとりのお兄ちゃんのお話はまたこんどね」

「さぁ病院であなたの心臓の音を聞きに行きましょ」



「ね、真」




                    ♣



 

日比谷 美咲 様へ


拝啓 美咲様

 早春の候、来たるべき誕生の日を、共に待ち遠しく思っております。


 京都、亀丘の隣町。CASINOが用意して下さったマンションにわたくしと兄様は

移り住み、わたくしはこの町の高校へ転入、兄様は京大の医学部へ通う事になって

もう一年になります。

 ここはCASINOの勢力範囲内という事も有り、わたくし達は “鬼を狩るもの” と

呼ばれたカキツバタである必要も無く、わたくし達がかつてそう呼ばれた能力者

だった事を知る者もこの穏やかな町には居ません。



 ご自身の事をエメスと語った、今や懐かしい彼。

彼はあの時わたくし達兄妹にこう約束しました。

“普遍的” な学生の生活を送らせてくれる───と。


彼はその約束を結果的には守った事になります。


 この町で暮らし始める時に、CASINOの長であるロイド様は

CASINO元で、ディラー(構成員)として所属する気はないかと

提案をして下さいました。ですが、わたくし達はそれをお断りしました。


 ふたたびかつての主であった村瀬のような上下関係をもう持ちたくない

ということもありますが──────

わたくしの理由は、能力者の力をわたくし自ら捨てた為。


 あのお姉様の力、能力が見せる最大級の可能性をわたくしは

実際にこの身で痛みを伴い体験し、本来の自分の力との落差に

自信を失ったというのもあります。ですが、わたくしがカキツバタとして

本来お祖父様の御神霊に誓ったこの国の守護者と言うものは

あの時の驚異を退けた彼らや、あなたのような方々こそが相応しい。

そう思ったのが理由の一つでもあります。


 実際、そう確信したあの時からわたくしの能力は減衰の一途を

辿っています。


 そしてなにより──────

わたくしは、あの時お慕いしていた彼を一度はこの手で殺めてしまった

もう二度と、あんな思いをしたくない。


きっとこれが、一番の理由かも知れませんね。



 兄様は、あの時知り合ったダニエルという騎士殿に研鑽を積めと言われた事に

CASINOでの修行を最後まで悩んでいましたが結局、己の師となり得る彼の帰りを

待つと云い、彼が戻るまで、彼に褒められた医学の研鑽を積むと心に決め

今はひたすらに邁進しています。


美咲───、お兄様はまだ諦めてはいません。

お兄様らしいと言えばらしいですわね

あなたもそう思いますでしょう?



 ロイド様───、いえCASINOは

件の出来事に対する“報酬”と云って、わたくし達に住まいと学校の手配を

してくださった事に留まり、それ以上わたくし達兄妹に肩入れして来る事は

ありませんでした。

 しかしながら、なにか困った事が出来た際には遠慮なく頼って来なさいと

さながら後見人としてわたくし達を見守って下さっています。


 ロイド様は当然、能力者のわたくし達に何か思う所があるのでしょうけれど

わたくし達はおそらく彼を頼ることはもう無いと思います。


きっと──────これも全てエメス。

彼のはからいが有ったのだと、今はただおぼろげに思っています。



 でもわたくし達は、能力者ではない今の生活が嬉しくも在るのです。

お祖父様がかつて尽力なさったのは、わたくしや兄様がこの力を持たずしても

幸せに暮らすことのできる国を作るといった志でしたので

今のわたくしと兄様の暮らしをきっとお祖父様は、微笑みながらに見守って

くださっているような気がして──────


そう考えると、少し気持ちが落ち着くのです。



今はとにかく体に気を付けて、美咲。

いつか必ず、そちらに伺い元気なマコト様と会えることを楽しみに

今日も勉学に励もうと思います。


お互いに、女心の分からない “アイツ” は忘れて

新しい未来を歩んでいきましょ!


あなたの親友、蒼 アヤメより。

                                   敬具



追伸──────

 チェロの事は此方に任せて。

毎月欠かさずに届くあなたの宿題を待ち遠しくして居るこの子は

近頃どんどんあなたに似てきて、わたくしも親友がそばに居てくれる

ような気がして毎日が楽しい。


それでは、またいつかきっと会えることを信じて。





 宮城県に暮らす、わたくしの全てを包み隠さず語れる

唯一とも言える友へ宛てた久方ぶりの手紙。

わたくしはそれを送る為に、卒業までもう幾ばくかもない

学校へ向かう道すがら、駅前のポストの前へ立つ。


 投函口へと、手紙を持つ手を伸ばした時、唐突にあたたかな春風が吹き

その手紙を青空へと拐われそうになり必死に手を伸ばした。


ダメ、届かない!


そう思った時、わたくしの背後から手が伸び

手紙とわたくしの手を包み込んだ。


「っとと──────危なかったな大事な手紙なんだろ、これ」




あれからずっとセピア色だったわたくしの周囲が

一瞬にして色鮮やかにうつろう春先の光景へと変わる。


でも、眩しく輝くようなその景色はこの胸から溢れ出る

押さえきれぬ感情に押し流されてあっという間に滲んで歪む──────


この涙を、背にした彼に観られたくなくて咄嗟に下を向いた。


 地面にパタパタと、一つまた一つと雫が落ちるのを観ながら

口を真一文字に強く結んで想う。自分はうしろの彼に怒ったらいいのか

喜びを伝えたらいいのかと


でも結局わからなくてただ、うつむいて胸の奥から押し寄せる耐え難い

嗚咽をひっしに堪る──────



「いろいろ考えて、選択をした」

「その事の顛末を、真っ先にお前に伝えないと。そう思って戻ってきた」

「すまない。随分待たせちまったな──────」



「アヤメ」



 名を呼ばれ思わずハッとして振り返る──────

迂闊にも帰りを諦めかけていたその声の主を見上げ

泣き顔を彼に向けてしまう


「フフっ、またあの時みたいにきれいな顔がくしゃくしゃだな、お嬢」


「──────誰の、せいだと・・・思っていますのよ・・・ ばか 」



 お慕い続けた彼に向かい合う、つま先立ちの学校指定の革靴。

そのすぐ横に落ちたわたくしの手紙は、新緑が芽吹く彩り豊かな世界

その大空へ高々と舞って行った──────。





こうして──────

わたくしの物語も大団円のうちに幕を閉じるのです。


今にして思えば、この幸福な終わりを迎えられたのも

これから産まれてくる彼のおかげのような気がします。




ただ、なんとなくね──────




                    =




2007年 12月某日深夜 千葉県館山市州ノ崎神社境内



 任務完了。と言っても奴が干渉できないように物理回線でデータを送るために

房総半島の外側に在る海底線中継所へ忍び込んだだけだがな。


「T.任務完了ですか?」


「あぁ、もう脱いでいいぞS」

そう確認しながらあからさまに怪しいバラクラバ(目出し帽)を脱ぐ若造。


「───マッタク、私が来る必要は無かったのではないか?」

そんな愚痴を言いながら長身の彼も同じく怪しい覆面を脱ぎ去り溜息をつく


「仲間はずれにしちゃ悪いと思ってなD」

「まぁ、同窓会とでも思ってくれ」



 どういう訳か復活の兆しを察知したジョン・ドウからの連絡を受け

俺は奴を縛り付ける為、思考迷路のソースコード書いた。それを海の向こうの

ジョンへ届ける為にと、こうして懐かしの騎士様を呼び出す

口実を作ったわけだ。彼も部外者ではないのだから

当然付き合ってもらわなきゃな。


「マッタク。まぁ貴様の真意は見え見えだがな───エメス」


 俺はバラクラバを脱ぎ、我慢していた欲求に一本付けた時

彼はそんな事を言い出す。理解が早くて助かるというか

最早バレバレだったな。


 私は聞きたい話を彼に求める様に尋ねた。

その問いに彼はただ淡々と答え、いつの間にか彼の横で目を輝かせる

俺の弟子の肩にぽんと手を置いた。


「──────そうか、一先ず安心したよ」


「あぁ、彼女の能力も息子の存在も此方の世界には一切露見していない」

「悔しいが、またあのロイに先を越されたなエメス」


「なぁに、グレイゴーストとフェアリィが動いてくれるなら手間も金も

 掛からなくてそれはそれで良いさ」

「そんな事より──────」


「あぁ、奴の息子の存在も無視できんな」

「彼の成長に呼応するよう、公安内部にかつての四課に近しい部署が

 復活すると云う兆しがある」

「この事、アヴァロンの彼らには──────」


「───伝えないほうが良いな」

「要らない心配を掛ける事もない、今は状況の推移を見守るほか無いだろう」

「っと、アヴァロンで思い出したコレを彼女に」


「──────手紙?」


「あぁ、ロイから隠して持ち込むのには苦労したがな」


 その手紙はセーシェルに居る相馬から美咲に宛てたものだ

恐らくこれが最後になるだろう直接的な接触。だが彼女にとって

ずっと待っていた連絡に他ならない。結構なリスクとコストを掛けたが

俺の思惑に巻き込んじまった贖罪だと思って俺は相馬の要望をのんだ。

あの時はな──────


「どうした、貴様の手柄だ。直接渡さなくて良いのか?」


「今更どんな顔して会えっていうんだよ、近衛のお前が渡してくれ」


「貴様はそれで良いのかと聞いているのだ!」

「全く、何年立っても貴様は変わらんな」

「まだ他者の願いにその身を焦がし続けるつもりか?」


そういうお前こそ変わらんよ──────


 あの時、お前の放った弾丸はそれを掴み取ろうとする私の手をかすり

寒空の彼方へと消えた。結局、お前は私の最後の願いと決断を見事に不意にした。

だがその事がお前の “守護者” という立場に着く、決意の現れだったと理解して

俺は事の成り行き、つまりは俺と真の同一世界線上における共存の行方を

一人姿を隠して見届けた。


 コッチは途轍も無い不安の中で、毎晩自分の頭にM9を突きつけ眠れずに

いたってのに、お前はそんなことすら無駄だとばかりに全てを悟ったような態度で

俺に連絡を寄越し続けやがって──────


 まぁ結果、それが京都で見守らなきゃならん子供達に再会する

決心をしたキッカケにも成ったんだがな──────


「いや、あの日から俺も変わったんだダニエル──────」


 世界を救うと粋がっていたが結局──────救われたのは俺だった。

これは贖罪なんて決して一方的で恩着せがましいものではなく──────


「この手紙は俺の願いだ。たとえこの血は繋がっていなくても俺は」

「彼らと繋がっていたい──────と云うな」


「フン───やっと思い至ったか、世話の掛かる奴だ。全くな」

「それで、今回もその彼女への報告まで私に任せるのか?」


そうやってまたお前は、俺に選択を与えるようなフリして押し付けるんだな


「いや、またしばらく話す機会も無いだろうからな」

「俺がメッセージでも送るさ、そう()()()()の方法でな」


 俺の言葉に弟子であるシラユキが生意気にクスクスと笑い

その肩の上でダニエルが手を弾ませヤレヤレと言った表情を浮かべる。


 彼らのそのやり取りが、懐かしい()()の中で、常に上から目線だった先公が

時折見せた師匠と弟子のような関係に重なって見え、俺はため息交じりに

ポケットから出したラピッド(せっかち娘)からの預かりものを投げ渡す


「今回も特注だ、いいか今度こそ絶対に壊すなよ!」


「すまない手間を掛けさせた──────、ん? 前回と形が違うな」


「あたりまえだ! 強化ガラスだからって盾に使うような真似しやがって!

 お前が物を壊すたびに、俺がラピッドにドヤされるんだからな」

「美咲そっくりのあのネコ娘にッ、勘弁してくれよ───ったく」


「──────私はむしろこちらのほうが好みだ」


「あぁそうかい、そんじゃしばらくパカパカしてな!」

「それと、今回の報酬はいつもの口座で良いのか?」


替えのケータイを受け取った彼は、私のその問いに暫く考えた後──────


「今回私は何もしていないぞ」

「気持ちはありがたいがムリはするな、私立探偵の稼ぎも楽ではないのだろう?」


そんなこっ恥ずかしいこっちの懐事情をよくも気前よく晒して下さるな騎士様


「ロイからの餞別だと思って默まって受け取れ!」


俺の負け惜しみの言葉に、彼は一つ鼻を鳴らしポーカーフェイスのまま

蒼い二つ折りのケータイを背広の懐へと仕舞って背を向けた。



「では私は仙台に戻るぞ」

「またな──────カキツバタの長、エメス」


「あぁ、じゃぁなダニエル」


「それと最後に云っておく──────Truth.」


「今の俺の名はトゥルース(真実)だ」





 あの時見せられた夢の中で

彼女と共に光の中へ歩みながらに振り返り

俺に『アリガトウ』と語った私のオリジナルである真。


()達の母である美咲の守護者

そして俺と将来の真の師でも有るまだ若きダニエルは

守護すべき彼らの元へと去っていく。



彼らの影となり身を隠し、側で常に見守る

影の黒騎士と成るために。



そんな彼は最後に、俺とシラユキの方へと横顔を向け

横目で俺たちを見ながらに、少しだけ口元に笑みを浮かべた。








4章 Y2K RebellioN  終



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― 新着の感想 ―
[一言] 泣いちゃいました 応援しています!
2023/06/24 03:29 退会済み
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