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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
四章 Y2K RebellioN
84/99

4-33 壱拾六話 ミレニアムの反逆者 7



                   ♠



 エメスが自身の正体を明かす、私はその荒唐無稽な話に呆れを通り越し

怒りさえ覚えた。しかしこの状況において下らん作り話や嘘を重ねても誰の

得にも成らないし、ましてや戦略的に優位にもならんだろう。

つまり奴の語った話は真実だという事だ、全く厄介な──────


 まずはエレクトラについて。

エメスはこの時代に降り立ってロイにエレクトラの同行を求めた。

その理由は勿論兵器としての優秀さも有るが、己の行動が正解であるかの

指針であると語った。仮にエメスが選択を間違い歴史が正史へ向かわなく

なった時、エレクトラは世界からその存在を消す。

 彼女自身が常に受動的立場を執っているのは、自身が歴史に干渉すること

を避ける目的が有る、彼女はこの世界に組み込まれた装置として徹して

いるのだと云う。


 次にエメスだが奴は自身を未来人と語った。曰く未来の人類はタイム

トラベルに興味を失っているそうだ。人にとって過ぎたる力シンギュラリティ

その一端であるタイムトラベル技術の有用性を、彼らの失意の内に閉ざす。

それがロイ率いるCASINOと彼のオリジナル共通の願いだそうだ。

 故に彼は己の目的、ヒビヤキサミをムラセから守り抜く為にこの時代に

降り立ち、エメス自身の目的を遂げた後、未来に意識や情報としても

還れぬ理由だと語る。


 その為に彼は全てを終えた後エレクトラに自分の生命を記憶もろとも

経つよう命じた。彼女が歴史の観測者で有るからこそ正しき歴史を迎える

為にエメスが死を迎える必要があるのなら、彼女が手を下すのが最も確実

という理屈だ。


 彼が云うには、エレクトラの成す生殺与奪はどちらにせよ一度きり

私が命じ彼女はエメスを死の淵から救った。そして彼はエレクトラによって

死を与えられるチャンスを失った、私のせいでな。


 エメスが云うように、確かにエレクトラはこの世界にとってマイナスに

なる事象を決して看過しない。故に私があの時エメスを救えと命じても彼の

魂を未来に還す事が世界にとってマイナスに成るならば、エメスが蘇生した

この結果には至っていない。


奴は云う。

「彼女が私を救った理由がいまだ理解できない」


 フン理解だと? 理解なんてする必要はない、貴様が生きてこその正史。

それに他ならないだけだ。この男は私より彼女───と云うより世界の理を

承知しているが、真の意味で理解していないようだ。


 この時間軸はエメスが元居た歴史、言わば世界線とは異なるそうだが

指針たる彼女が存在しているのならばこの世界線、エメスが生きている

今こそが正史と何故理解出来ないのか?

私はため息が出るばかりだ。


どうやらこの男は私の見立てより遥かに理屈っぽく、頭の固い頑固者らしいな



                   ≒



 立坑の最深部へ至る薄暗いトンネルを宮田が操るレンジローバーの中で

私はダニエルに自身の正体と存在理由を伝えた。話の最中彼は何度かフンと

鼻を鳴らしながらもどうやら概ね私の話を理解したようだが、まるで不貞腐れ

たように景色も変わらぬ窓の外へと顔を背けている。


「ダニエル頼みが有る。村瀬を倒した後お前の力を持って俺を殺してほしい」

「頼めるか?」


「まだ云うか戯け!」


「いや、解ってないのはお前だダニエル! 絶対生存の能力者ならば過去へ渡り

 事を成しても無事戻れると云う過去改変の可能性を実証してはならんのだ!」

「なにより、私のオリジナルが生まれて来なくなる危険があるのだぞ」


「貴様ッ、私を何だと思っている!」

「殺せと命じられ、誰彼構わず殺す殺人装置ではないのだぞ!」


 私はその言葉にそれ以上言葉を切り結ぶ事はできなかった。

確かに失礼な話だ。彼が云うように、私は彼の気持ちを一切考えて

いなかった─────

 余裕がないんだな。私が彼の立場だったとして一方的に能力を行使しろと

命令されたら確かに不愉快にも成る。能力はそれだけ個人にとって正と負

の両面を併せ持つ繊細な物だからな。


 私のこの依頼は彼にとってこの上なく失礼な物言いでしか無い。

仕方ない、この願いはすべてを終えた後に今は棚上げするしかない───


「よろしいですかお二人、到着しました」


 その言葉にダニエルは私を残して車を降り、CASINOのスタッフから受け取った

PSG-1を点検する、私の事など眼中に無いと言った様子だ。


まいったなこの時代に於いてもまたケンカだ。


 私はダニエルとオリジナルが衝突しながらも解りあえ、お互い高めあった

関係性を最後まで築けないかも知れないな。

そう思いながらも車を降り、たまたま目のあった宮田に語りかけた。


「茜はもうあなた達ご夫妻のもとに?」

その言葉に宮田はあきらかに動揺し、無意識下でミヤコをチラと観て──────


「貴方に伝えて良いものか判りかねます。すいません」

いや、今の行動でもう解ったよ、貴方の名を聞いた時に感じた私の心配も解けた。

恐らく奥様と茜もこのシェルター(立坑)の何処かに居るのだろう。


「済まなかったな、困らせるつもりはなかった。行ってくれ、ありがとう」

彼はひとつ頷き、ロールスやバスが停まる一画へ車を移動させて行った。


さて、ここからが正念場だ。まずは美咲のところへ行こう──────



                   ♥



「揃ったわね、じゃぁ作戦を説明するわ。ロイ回線をつないで」

「みんなスクリーンを見てちょうだい、ロイ詳細よろしく!」

ソウマに投げつけた、地下に入る直前にギリ落とせた写真が映し出される。


「諸君、これが美咲君が得た8分前の写真だ──────」


 ロイがここに向かって飛んでくるだろうミサイルの説明をしている。

あのクロサキと言う男のPCとこの衛星携帯を繋いでムラセとかいう黒幕が

最後に通信していたのがアジアにある小国の軍事施設と突き止めた。


 そこからはお手の物、ミサイル発射管制のシステムに潜り込み

発射準備を観測するカメラネットワークをハックしてリアルタイムの映像を

このPCに送るよう細工した。


 発射管制を全てデジタルで取り仕切っていたら、こんな手間はないの

だけれど、ロイが今みんなに向けて語っているように、このロケットは小国が

急造した兵器らしく、要所要所で物理的な仕組みが組み込まれている。

ロケットの燃料も枯れた技術の液体燃料を使っている。古いけど正確

でも腐食性のある燃料はロケットに入れっぱなしには出来ない。

今現在スクリーンに映るように発射直前にロケットに入れる必要がある。


 こういう直接人が関わるシークエンスが幾つもある以上、アタシだけで

発射を止めることが出来ない。


 ムラセって奴もこの仕組に手を焼いたのでしょうけど、ソウマが言う

奴が、あのクロサキを操っていたようにきっと、あの国の高官や発射を司る

技術者を操って発射まで漕ぎ着けたのでしょうね

マジ厄介だわ絶対に許せない。


 最初にこの写真を見たソウマはたしかこのミサイルをスカートER?

とかそんな事を言っていた。クロサキがあの時言っていたように

ソウマが言うには確かにこのロケットは核ミサイルらしい。


 バッカじゃないの! なにが核ミサイルよッ、ノストラダムスの大予言じゃ

あるまいし、そんな物を私達の国に落とさせはしないわ、絶対に!!


「──────液体燃料が充填され発射体制に入るまで恐らく残り時間20分」

「では仔細を説明する。美咲君、後は頼んだぞ」


「ラチェットおいで。 みんな聞いて!」

「あなた達とアタシで、この子と京都を全力で守るわよ!」

「手分けして倉庫から部品をここに集めて!」

「ソースコードを直に読める人! 居たらアタシのバックアップをお願い」

「立ち上げの時間も加味して作業時間は10分よ! さあヤッてやりましょう!」


 任せたまえじゃないわよロイ爺! 今現在世界一と言ったHPC(スーパーコンピュータ)はまるで

箱入りで倉庫に積んであるだけじゃない、ホンっっとうにギリの時間しか無いわ

エメスが用意している変移軌道演算プログラムがアタシの思うようなものじゃ

なきゃ絶対に間に合わない。




                   ♦




 美咲の堂々とした指揮統率力にオレはただ目を丸くする。

オレが初めてアイツに出会った時はパンツ一丁で走り回っているような奔放な

娘っ子だったってのにな。

 でも確かにあの時も普通の人間なら臆してしまうような巨悪に対しアイツは

真正面から向き合っていた。あの時はうまく行かなかったがあの経験が今の

美咲に成長させる要因だったのは確かだ。あれだけ一緒に居たってのに

美咲の成長に気付いてやれなかった。そんなオレが兄を自称していただなんて

聞いて呆れるな。


親や兄ってのは、近すぎる故にそんな貴重な時間を見逃してしまうのだろうな。


「美咲さん、すごいわねあんな堂々と」


「あぁ自慢の妹だ」


「あら、そんな言い方したら彼女が可愛そう」

「相馬さんも気付いているのでしょ?」


「誂うのはやめてくれ、今はこの方がいいんだアイツのためにも───」


「フフッ───相変わらず硬いのね貴方」

「一八歳って言ったかしら、ならあの子はもう立派な大人よ」

「しっかり未来のことを考えてあげなきゃ男として最低」

「彼女のことをちゃんと観てあげて、おねがい」


 この場を掌握しながらもこの女神様はそんな普遍的な感情で関わる者を観ている

照れくさくも在るが彼女の云うことも確かだ。


離れるのか共に歩むのか。決める時期が来ているのかもな──────



                   ♠



「ミスター!」

 私はQUEENの指示により蜘蛛の子を散らす様にごった返すスタッフの合間を

縫ってロイ達主要メンバーの集まる一画へ合流する。

 武士様は変わらす不死能力を発揮し続け、この場の人間全てを魅了の力で

掌握するミヤコの手を握り続け不死の力を分け与えている。

流石だ、この状況にあっても彼は誰一人信用せず己の正義を行使し続けている。

ならば私も自身の力で今出来る事を成すまで──────


「ダニエル遅かったな。見ての通りだ、俺達は最後の瞬間まで出来ることをする」

「あの施設から大急ぎで全員撤収したからな、知らず識らずのウチに村瀬の手下が

 紛れ込んでいる可能性もある」

「ダニエルはスナイピングポイントで待機してくれ」


「ジャックすまない。私は情報解析と指揮官殿の補佐に当たらせてもらう

 悔しいがこの怪我だしな」


「了解だソウマ、ジョン。何かあったらチャンネルスリーで呼んでくれ」

「シラユキ! 私はこの場が見渡せる高台へ上がる

 我らが姫指揮官の護衛はお前に任せたぞソウエントウ」


「───承知」


 必要な連絡は済ませた。高台に登ったら事が起きてもスナイピングポイントから

即座に地上には戻れん。後は頼んだぞシラユキ、そして頑固者。



                   ≒



「美咲ッ!」


「なによ、今忙しいの後にして!」


 どうやら相馬とダニエルも私と同じ考えで動いているようだ。

なら私の役目は、2040年代からこの1999年に渡った主目的でも有る

美咲の直掩。


「──────ホラ」


「なにそれ」


「手だ手、アレを見ろ相馬とミヤコを」


「なにアンタ、アタシを慰めてくれるって言うの?」

「やーよおことわり!何勘違いしてるのよ! アンタにはアヤメが居るでしょ」

「怒るわよあの娘」


「なに───バッ、違う! 相馬はああやってミヤコを守ってるんだよ!」


 そうか、美咲は相馬の能力を知らないのか。

素手で触れていれば不死の力が伝播するその力を。

仕方ない、とにかく今は美咲にこの手が届く

そばに付いているしか無いか。


「───じゃあせめて近くでお前の盾になるよ」

「すまないがもう一度作戦を聞かせて貰っていいか?」

美咲の車椅子を押すシラユキに視線を送ると彼は今までにも増して

決意の視線を返し一つ頷いた。


「はぁ?! アンタさっきのアタシの話聞いてなかったの?」

「ハァ、作業しながらでイイ? 時間がないの」

美咲は溜息を付きながらに作戦の概要を語った。


 私が2040年代から持ち込んだ村瀬の乗る衛星の軌道を狂わせる

プログラムコード。彼女はそれを加工しステイツの情報収集衛星網が周回

する軌道上でコンステレーションを組む衛星同士を衝突させブレークアップを

引き起こす。


 ブレークアップによって出来たスペースデブリの物理雲で京都上空を覆う。

ブースト域を抜け、カーマン・ラインへと出たスカッドERの弾頭はこのデブリ

内を通過。浮遊する多数の金属片の中へ相対速度秒速800mで飛び込む

再突入体は、さながらバードショットで無数に撃たれるようなものだ。

これにより宇宙空間で核兵器を無効化するという算段だ。


あの修羅場でこんな事を考えつくとは、非常識な発想力だよ全く。


 だが、京都上空にできるだけ高密度でデブリの盾を展開させるには精密な

軌道計算が必要だ、そこで今この場の皆が必死で組み上げているHPCと

私が持ち込んだプログラムそして、とてつもないスピードでキーボードを叩く

美咲の能力が必要不可欠。


「エメス! 変移軌道プログラムの解凍時間まで後何分?」


 その言葉に時計を観る。カウントダウンは30秒を切るところだ。

腕時計を外し美咲へ渡すと、彼女はタイミングを合わせ宮城の自宅から

オリジナルが組み上げた軌道変移プログラムをHPCの端末へと

ダウンロードした。


「へぇ凄いじゃないこのプログラム、とても綺麗」

「コードに一切無駄がないアタシ以外にこんなの書ける人がいるなんてね」

「ぜひ会ってみたいわ」

その言葉に私はフッと呆れに似た笑いが鼻から抜けた。


 本来は村瀬の座標にロックした衛星電話を宮城のシステムに直結して

使うように組まれた物。カウント0のタイミングで使用してこそ最大効果が

ある物だ。それを美咲がデブリの盾に利用する為に改造を始めた。

これで村瀬を太平洋上へ葬る本来の討伐方法は使えなくなった訳だ。

村瀬討伐はこの状況では諦めるしか無いのか──────


「コッチはいいわよ! みんなどうかしら?」


「HPCブートアップ完了。軌道計算演算開始!」


「電力初期設定終了、クロックアップ130%まで行けます!」


「臼田パラボラ、7GHz帯指令電波送信回線の乗っ取り成功!

 回線直結問題なし、いつでも!!」


 美咲のバックアップに当たるCASINOのスタッフ、中でもコンピューターに

明るい者たちが揃って声を上げる。


「へ、ヘルメス・・・ミサイルがッ!!」


 ジョンが絶望したような表情で叫ぶ。

ミリタリー仕様のゴツイPCを自身が横たわるベッドの上で回転させ

駆け寄った私にその画面を見せる。相変わらず続いていた東側大陸の主要

ミサイルサイトから北米大陸へ幾つも線を引いている幻の核攻撃。


 そんな中でただ一つ、ロシヤの東沿岸部の小国から上がった軌跡が日本

列島の中心部へ向かう予想経路が現れた。同時にスクリーンにはスカッドの

発射映像が映し出され、立坑へ避難した大勢から悲鳴に近いどよめきが上がる。


「美咲ッ、来たぞ! NORADから核発射警告だ!」


「まって──────よしイイわ、カウントダウン初めて!」


スクリーンにあからさまなカウントダウン表示が画面いっぱいに現れる。


 画面の表示は -00:07:59 の表示から刻一刻と数を減らす。

弾頭の再突入まで残り七分と数十秒、いよいよだ。


『ククク、ようやくコネクトできた。御機嫌如何かな京都の同輩諸君』


「これは何事だね!!」


「ロイド様、外部より不正アクセス。ダメです、切断できません!!」


「クッ・・・村瀬──────」


 立坑に設置されていた非常用スピーカよりの不穏な声に、避難した皆の表情が

一応に固くなる。相馬は苦虫を噛み潰したような表情をスクリーンに向けた。


『散々時間を浪費したよキサマ等、寄生虫の巣を見つけるのにな──────』

『見事に存在を隠していたようだが我の敵(チェロ)の場所のおかげで測位できた』


「美咲、こちらの声は──────」


「ダメよ、一方的な出力みたい」


 物凄い情報量の数式や記号を端末に叩き込みながらそのスクリーンを一瞥もせず

美咲は答えた。


「みんな無視して衛星の軌道変移を続けて!」

「声の主が乗った衛星もブレークアップに巻き込まれて黙るから!」


 美咲は村瀬の乗るBLOCK6 DSPインテルサットもブレークアップの

目標に数えていたようだ。村瀬討伐を半ば諦めていた私はその言葉に驚いた。


「アンタが倒せって言ったんでしょエメス。ソウマが帰ってこられるようにって」


『ほう、なかなか賢しい事を考える者が居るようだなCASINOよ』

『だがな、ククク残念だったな。私は既にそこには無いのだよ』


「なにッ──────!」


「エメス! 落ち着いてあの衛星からの通信はトレースしてる。今は無視して」


『貴様らの企──────


 立坑に響く銃声が三度轟くと、その忌々しい声はプツリと途絶えた

ダニエルが立坑に設置された非常用のスピーカを全て撃ち抜いたようだ。

直後に大スクリーンのカウントダウンの00:04:38と記された下に

奴の声が文字となって幾重にも走る。


「負け犬の遠吠え、まったくしつこいわね。みんなどう?」


「入力・・・完了」


「コッチも終わりました」


「すいません! コッチはまだ!!」


「いいわ、コンソールをコッチに回して、みんなありがとう」


 美咲は変わらすコンソールから目を離さず怒涛の勢いでキーを叩き続ける。

京都上空を覆うための膨大な最終調整とオペレータから引き受けた

コンステレーション衛星の軌道変移命令を同時並行で進めている───


 彼女はロケット発射管制室に詰めた一流技術者数十名で演る仕事を

たった一人でしかもこの数分でこなしている。常人の成せる所業じゃない

現に美咲の作業を手伝っていた数名は、まるで恐怖の表情を浮かべていた。



 その存在を予言され、世界中の電子情報上を自由に闊歩する存在。

電子の妖精。確かにこの光景を見せられたなら誰もが信じざるを得ない。



「美咲、どうだ?」

相馬とミヤコが歩み寄り彼は美咲の直掩にまわっている私を観て一つ頷く。


「さぁ、どうかしらね。失敗したらみんな丸焦げよ、邪魔しないで」

ヤレヤレと首を横に振った相馬が私を見る。


「私を観たって美咲がやっている事は理解できんぞ、それより──────」


「あぁ、ロイと警備スタッフが名簿を元に面通しをした」

「2人紛れ込んでいたよ。恐らく四課の残党はこれで最後だ」

「公安外事四課もこれで壊滅だな」


相馬は美咲の服の裾を握ったチェロの頭をさらりと撫で、少女とも手を繋いだ。


「ヨシ! 終わり。これでアタシ達の上空はデブリの雲で覆われた」

「成功率は──────そうね80%ってとこかしら」


「なっ! 低くないか?!」


「エメス、アンタ意外と臆病なのね。歴史上誰もやったことのない偉業よ」

「SDI計画の折、理論だけ論文上で語られ運用実績なんて一切無い

 一発勝負の実験にしては、これでもかなりの高水準よ」

「オロオロしないでドンと構えてなさい」


この自信は一体何処から来るのか見当も付かん。


「皆、まもなく時間だ!!」

「体を低くし頭を覆い、目と耳をふさぎ口を開けろ!」

「男集は近くの女性を庇い守るのだ!」

独眼のロイが対ショックをスクリーン横の高台から叫んだ。その言葉どおりに

皆一応に彼の指示に従う。


 私と相馬も美咲やチェロ、そしてミヤコを庇うよう覆いかぶさりモノクロに

なりゆく景色の中でスクリーンのカウントを注視する

同じく隣の相馬もその行方を見守っていた、恐らく同じく灰色の視野で




 所々で悲鳴が上がる中、スクリーンの数字が3.2.1と減って行き

遂にゼロを迎える。


その数字が正数へと反転し+10を示す頃、場がざわめきはじめる。




「美咲さん!! これを」

オペレータの一人がケータイに映るラジオの文字放送を見せた。

それを観て一つ頷いた美咲は、スクリーンにTVの報道番組を

写すよう端末を操作する──────



『繰り返しお伝えします。たった今近畿地方上空で鋭い閃光を見たとの

 多数の通報が相次ぎ、警察及び自衛隊が合同で調査しています──────』


『それでは天文学者の星見さんと電話が繋がっています。星見さんこの現象は

 天体現象と見て間違いないのでしょうか?──────』


「ヘルメス!! 成功だッ!」

「幻の核攻撃も嘘のように消えデフコンが一気に引き下げられたッ!」



その言葉にスクリーンを観ていた者たちが歓声を上げる。


 相馬は美咲を抱き上げくるくるとその場を周り、ミヤコはチェロを抱き

涙する。いつの間にか戻ったダニエルはシラユキの肩に無言で手を置き

彼をねぎらう。




 歓喜に溢れるこの場で、私は一人歴史の指針たる彼女の姿を探すように

この場を見渡す──────


 プロジェクターのスクリーンが吊るされた高場のタラップに眼帯姿のロイ

そして──────、その横にひっそりと佇む漆黒の胡蝶蘭を見つけた。


 一気に力の抜けた腹筋が私の横隔膜を緩ませ、情けない溜息とともに

かすかな笑みが堪えきれずに漏れ出した。


「終わったのね──────」

「ねェエメス、貴方の任務も、これでおしまい?」


 いつの間にか目覚めたアヤメが私の手を握り、身長差に私を見上げ

表情を伺っている。


「あぁ概ねな。お前たちに依頼した仕事もこれで──────」

この場のほぼ全員の歓声が更に大きくなり、私とアヤメはその歓声の元

エレクトラ横のスクリーンを見上げた──────



 TV画面が映し出されたスクリーンには、すっかり暮れた夜空に

ライトアップされた清水の舞台が写る定点カメラの映像に切り替わり

その上空にキラキラと輝くデブリの残光と核爆発に至らなかった核弾頭の

火薬による小規模爆発によって弾き出された無数のデブリが

まるで、しだれ花火のような流星となって

美しく京都を彩っていた





                   ♦





1999年12月31日 23時55分 宮城県仙台市 富山邸、蔵

 


「ソウマ最後よ、なにか話すならこれで──────」

「彼から話すことはもう出来ないでしょうけど、聞こえているわきっとね」

 

 そう云い美咲はオレに薄汚れたイリジウム携帯を渡す。

「──────村瀬、聞こえてるか? 雨量の監視任務はどうだ?」


 かねてより美咲は、この数分後に訪れたであろう世界的な危機に

対処するため独自の活動をこの蔵から行っていた。


 コイツがまだ幼い頃、その不正をただ観ているしか無かった

近畿地方を襲った大地震。当時の大人たちは、災害復興に当てる公金を

自分達の私腹を肥やす為に隠し闇に葬った。

 その動きを自身の能力によって事前に悟った美咲は、自分の父親と

共に行動を起こすも失敗。美咲は知っていながら救えなかった人々に

対し深く悲しむと同時に不誠実な行動を取った大人(政治家)たちに向けた

反抗を虎視眈々と狙っていた。


この理不尽を二度と繰り返さぬようにと──────。


 2000年を迎えるに当たり、世界中のコンピューターが暴走すると

予想された事態、所謂Y2K問題に対し美咲は政府の各省庁や電気ガス

水道と言った生活インフラ網、さらには銀行や証券会社などの金融

放送施設などの社会インフラ網など、つまりは今この国の根幹を成す

重要なコンピュータネットワークに対し数年前より用意していた

自己増殖型のウイルスを連鎖感染させた。


 うっかり感染した一部マニアたちのPCを通じFTPやP2P、遂には

WWWネットワークに接続された一般家庭の個人用コンピューターをも

不可抗力で感染。つまり、日本中のコンピューターが美咲の手に落ちた。


 ウイルスは1999年から2000年に変わる際に暴走を起こさない

システムには、そのエラーに対する免疫以外一切変更を加えないが

暴走を起こす古いシステムにはまるで猛毒のように作用し、強制的に

システムの根幹を破壊、再使用出来ない様にするプログラムが

仕込まれていた。


 結果2000年を迎える今より数ヶ月も以前からエラーを起こす恐れのある

コンピューターネットワークは事前にシステムの総入れ替えを迫られ、美咲は

この問題を利用し社会不安を煽って私腹を肥やそうと企む連中の三歩先を行って

潜在的被害者の人々を陰ながらに救った訳だ。


 ただひとつ──────、気象庁の地域気象観測システムの

閉鎖ネットワークを除いて。


 京都での一件の最中、美咲は最後の最後までコンソールに齧りついていた

そこには美咲と村瀬にしか分からない攻防があった。

 美咲は、ステイツのインテルサットから逃げ出そうと地上へ自身をダウン

ロードする村瀬の通信経路の一つ一つにパッチを当て一箇所へと奴を導いた。

そして最後のゲートウエイのポートを開き、2000年に不具合を起こす

地域気象観測システムへ奴を閉じ込めた──────。


「時間よ、話さなくていいの?」

オレは腕時計に目を落とす。23:59


「村瀬、お前の国を思う気持ちは本物だった。だがアンタの思うその理念は

 誰か一人が教え説くものじゃない。この国に暮らす人々が自発的に心に

 芽吹かせる願いだ。そこがアンタの踏み間違えた大義、いや正義だ」

「心配することはないさ、次の時代はきっと──────」


00:00


「終わりよソウマ。システムが1900年と誤認し無限ループに入った」

「もうじき彼は時の牢獄で一人、意味消失するでしょう」

手にしたイリジウム携帯の表示が消える。


 この終焉を見届けるため、エメスとダニエルも仙台に来ていた。

彼らの戦いもこれで一先ずの区切りがつくのだろう

彼らは彼らなりに思う所があるようで先程から席を外していた。

二人でトミさんの家を出る奴らの顔は、何か決意に満ちた面持ちで

他者が入り込む余地など無いほどだった。

そんなダニエルにオレは事が終わったと一報を入れ、先に蔵を出た美咲を

追って庭に出る。降り積もった雪のなか除夜の鐘が遠くで鳴り響いていた。


 長く続いた一連の騒動もこれで一応の終わりを迎えるだろう。

再び雪を降らしそうな朧月が浮かぶ夜空を美咲の肩を抱き

二人で新世紀の空を見上げた。




                   ≒





 富山邸よりほど近い高台に私とダニエルは居た。

私の最後の願いを達成するにはこの場所がいいとずっと思っていたんだ。


「終わったそうだ」

ダニエルが携帯を折りたたみ、私の隣に立ち麓の町の光を遠い目で見つめた。


「──────そうか、これで私の大冒険も終幕だな」

あの時垣間見た今は見えない一番星の位置をただ見つめる。


「ここはな、美咲の大切な場所なんだそうだ。まだその自覚はないだろうがな」

「私も好きだったんだよ。情報としてこの脳に記録されていたここがさ」


 そう云いながら、懐からタバコの包みを取り出すが運悪く

切らしていた。マッタク、最後の最後までシマらねぇ事。

JPSと記された漆黒の包を握りつぶしコートのポケットへ突っ込む。


「──────」


 無言で隣の騎士様が同じ漆黒の包から一本振り出し私に差し向ける。

思わずこみ上げた笑みがフっと鼻を鳴らす、それを受け取ると彼は

レンジャー徽章が記された古いライターの火を灯す。


 私は彼の黒い革手に握られたそれを、両手で自分に引き寄せ

灯った火が風で消えないように囲いながらタバコに灯す。

追うように彼もタバコに火をつけ、寒空の中、二人で紫煙をくゆらす。


「結局アンタの元に戻ったんだなそのライター」


「シラユキがまだ自分にはこの火種は重すぎると云ってな、返してきた」


フフと煙たい笑いが吹き出す。アイツ、私が貸したのに騎士様に返したのか?

まぁこれも因果の収束かな──────


「チェロはどうしてる?」


「暫くはミスタートミヤマの元で世話になるだろう」

「その方が私も彼女達二人の護衛もし易いしな」


「フゥー・・・そうか───京都には結局戻らないんだな」


「あぁ、エレクトラの事は貴様からあらかた聞いて行動原理は判った」

「だがロイの真意は未だ掴めん。近くに居ては見えないことも有るからな」


 確かに。今と成ってはまぁ、私にはどうでもいい事だが──────

私をこの時代に送り込んだのは間違いなくロイとオリジナルの意思だ。

が、俯瞰で見れば初めからずっとロイの思惑通りだったんじゃないかとも

思うよ。


結局、最後の最後まで私は、技術的特異点を閉ざそうと暗躍するロイの

手のひらで転がって居ただけなのかもしれんな──────



「──────で、貴様は私を呼び出しこうして今共に村瀬の最後を聞き

 届けた訳だが、貴様の真意はこの場で最後の願いを私に託すつもりだ」

「違うか?」


 結局騎士様に辛い役目を押し付けちまう形になったな、悪いとは思っているよ

ダニエルは紫煙が含まれた大きなため息を吹き出した後タバコを自前の携帯灰皿

へもみ消しながらにつぶやく。


「断ると云ったら──────?」


 この体の遺伝子には、時限装置が組み込まれている。遅かれ早かれ私の寿命は

まもなくだ。だが相馬の子が美咲の腹に宿る前に、私はこの時代から退場しなきゃ

ならん、確実性を担保するなら任務を全うした今この瞬間が最も適切だ。


 コイツが介錯してくれないのなら私は自刃するしかなくなる

私はこう見えてビビリなんでね、それは避けたい。それにこの体には相馬

から受け継がれし能力が宿っている。恐らく自刃は成功しないだろう。

だからこそ私や相馬の力、絶対生存と対をなす存在。一撃必殺の槍の持ち主に

願いを託すしか無かったんだ──────


「結局───、貴様は自分の生きる意味について何も見出していないのだな」

「シラユキが云っていた──────」

「貴様が事切れる瞬間、魂の色が二重に重なって見えたとな」

「現に私があの施設に呼び戻される寸前、貴様は自身をオレと呼称してたそうだ」

「とんだお笑い草だ。貴様はあの時、限りなく本物に寄って居たのではないか?」

「実際、エレクトラによって生き返った貴様を観たシラユキはその魂が澄んだ

 青色一色に成ったと云っていたぞ」


 自分でも気づいていなかったなそんな事、オリジナルへ魂が寄っていたからこそ

観たあの景色。では彼らが私を置いて去って行った意味は

まさかな──────


「貴様は魔女によって生かされたのではなく生まれ変わった。そう、考える事は

 出来ないのか、生まれ変わりならばその仕組まれた寿命も奴の手によって消え

 去ってるだろう。そうだとすれば、これから生まれてくるオリジナルと貴様は

 同一じゃ無い」


「エメス、貴様は一片の疑いもなく他人になったんだ。違うか?」



「もしそうだったとして確証なんてありゃしない」

「確認する方法なんて有りゃしないのさ──────」


 そう、これは己の命欲しさで言ってるんじゃあない。

エレクトラに見せられたあの景色、果てしなく暖かく優しいあの感情

まさしくあれは愛だ。私が欲しくて手を伸ばしても決して届かない尊いもの

私は己の生命を賭してでも───、なんとしてもそれを護らねばならんのさ。


「全くつらつらとよくも語る! 無責任な奴だ貴様は」

「あれもこれも見事にミスターソウマとそっくりだよ!」


突然とダニエルは感情的になり、これ迄にない声色でまくし立てた。


「私に守れと途轍もなく大きな物を背負わせ、肝心の自分は手の届かない所

 へ行ってしまう。言っちゃなんだがな私は守護者として彼に学ぶ事も

 多かったがまだ半人前にも満たんのだぞ! ソウマの血を引き同じ力を持ち

 同じロジックを受け継いだアンタに──────

 私は・・・エメス、貴様に最後まで稽古をつけてもらわなければこの先

 彼女達を守り抜けんのかもしれん!

 なにせ私は(シールド)ではなく(ソード)なのだからな」 


よく言うよ全く・・・


「フン、どうするかは貴様次第だ」

「貴様は絶対の盾(イージス)を受け継ぎし者──────」


みなまで言うなよダニエル


「ここで終わるもよし。生存の希望を未来へ託すもよしだ。たとえ貴様の云う

 パラドクスに抗えず対消滅を迎えるとしても、その責任を負うのは貴様自身だ。

 私が引き金を引いた後にだって、貴様は結果を自由に決められる立場なのだから

 せいぜい勝手にするがいいさ」


 年相応の抑揚の在る感情的な声色で騎士様は、まるで自分に言い聞かせるように

可能性を唱え終えると、彼は決断の面持ちでゆっくりと革手を脱ぎ、懐から

P7M13を取り出しそのスライドを引く。


慣れない感情故か眉間に皺を寄せ、震える目尻で私を見つめる彼は

私のこめかみにその銃口を突きつけた。



ダニエル──────最後まで私の死に抗ってくれてありがとう

アンタはもう──────立派に俺たちの守護者だよ。



「色々世話になった。ありがとう──────ダニエル」


「クッ、あぁ! サヨナラだ──────」



「マコト」



 真っ白く染まった大好きだった景色の中で、私は最後の任務を終える。


乾いた銃声が一つ懐かしい景色にこだました。




                   ♣




 京都亀丘に在る人足も疎らな我が家ゆかりの神社。

わたくしと兄様は、宮城に行った彼の身を案じ初参りに参じていた。

参道を進み大鳥居をくぐったその時に、背筋にヒヤリとした悪寒が

走り街を見下ろす階段の方へ振り返る。虫の知らせ──────

わたくしは心から何かが抜け落ちるような感覚に思わず足を止た。


「どうしましたアヤメ────── アヤメ?!」


兄様? ()めて。

何故か溢れ出して止まらないの。

お願い止めて。


 参道で初参を終えた人々がすれ違い様に、お目出度いこの場で一人

涙するわたくしを不思議そうに一瞥しては通り過ぎていく


そんな中、参道の向こうに彼の優しい笑顔が見えた気がして駆け出す

でも──────


 頼もしくも優しかった恋慕を抱いた彼の気配はすぐに人影の中に消えゆき

鳥居から一陣の風が本殿に向かいわたくしの背を押すように吹き込んだ。



「アヤメ、きっと大丈夫です」

「彼の色は──────とても力強かった」


すぐに走り寄ってきた兄様は、呆然と立ち尽くすわたくしの背から肩を抱いて

そんな事を言う──────



 振り返り兄様の胸に顔を埋めて、彼への気持ちが溢れ出てしまうのを

ひっしに抑えようとするも、溢れる彼への思いが紋付きを召した兄様の胸を

どんどん濡らしてゆく──────




煌々と赤とオレンジに輝く、この記念すべき新世紀の元旦に

わたくしは兄様の胸の中でひとしきりに泣いた──────




                   ♥




 エメスが討てと言っていたアタシ達の敵は

相馬に看取られるようにして人知れずにひっそり消滅した。


「これで、ずっと一緒に居られるんだよね。ソウマ──────」


 アタシの問いに彼はただ黙って空を見上げている。

その横顔をずぅっと見つめて聞きたかった答えをただ黙って待つ。


 実はねソウマ、アタシ分かってるんだ。

貴方から見たらこんなお子様がいくら背伸びした所で

貴方に見合うなんて思ってない。貴方はきっとこの先ずっと兄という立場を

崩さない。


 みんなは默まっているけど、パパはもうこの世に居ないって事も判ってる

アタシはきっと、貴方に父のような温もりをずっと求めてたんだと思う。


甘えて


しかられて


愛されて──────


でも、それは家族としての感情。

このままだと貴方はきっとそれを超えるような事はしない。


 でもね、追い求めてしまうの。

この感情はもう父や兄に抱くものじゃない、これはきっと憧れなんだって

理解したの。憧れを追い求めても待っているのは悲しい結末。わかってる

わかっているけど何も行動を起こさないままにその結末が身近に迫ってる

気がして焦ってしまう。


 壊れないように、大切にしてきた距離感を壊しても構わないからもっと距離を

詰めたくなってしまう──────



「──────実はな、美咲」


「イヤ! 聞きたくない!!」


 再び降り始めた雪が周囲の雑音を全て吸い取って静まり返った庭

貴方の声だけがストレートにアタシの心に響くような今この場所で

世界の色が変わるような、そんな言葉は聞きたくないよソウマ。


 除夜の鐘がさっきから遠くで聞こえる。その音に紛れるように

近頃たくさん聞いた悲しい音が響くのを感じて

アタシは思わず走り出した。


今は大好きな彼の側にいたくなくて──────


「美咲ッ、行くな!!」

嫌だよ、こんな気持のまま彼の側にいても辛いだけ。


 それに私を命がけで助けてくれた彼──────

エメスにまだアリガトウも言えていないのに、もう会えないような気がして

居ても立ってもいられない


きっとエメスとダニエルはあの場所にいる──────



 家から裏山を登りお気に入りの丘に向かう山道に二つ並んで続く足跡

私はリハビリの為にとロイから貸し与えられたエグゾのアシストモード

をDynamicに切り替え、駆けるようにあの高台を目指す。


 やがて高台の広場が見える頃、膝に負担が掛かったのをエグゾの安全装置

が読み取ってアシストを停止し、盛大に転んだ。痛みとその情けなさを言い訳に

泣きそうに成るのを鼻をすすって心から追い出し

這うように二つの足跡を追う。


 町が見下ろせるお気に入りの高台にたどり着くも周囲をいくら見渡しても

ダニエルもエメスも見当たらなかった。



 エメス。

最初はソウマの偽物みたいで気味悪かったけど今考えれば、京都の施設で

救われ彼に抱えられた時に感じたあの安心感。自分の命を顧みずに、オカシクなった

アヤメの刃からアタシを護ってくれたヒト──────


常にアタシの側で見護るような、あの頼もしい横顔。


 そんなエメスに感じたあの感情は、ソウマに初めて出会った時

アタシがソウマに求め、でもそれは大人に成るにつれて変わってしまった

兄という存在に他ならない、あれも憧れだったんだと

ソウマを思う自分と向き合った今やっと判った。


「なのに──────どうして・・・」

「どうして!! みんなアタシの前から居なくなってしまうのよッ!!」

「もう、アタシ──────」


「もう、一人ぼっちは・・・・イヤだよぅっ──────」


 東京でパパと別れてから、ずっとずっと我慢してた気持ち

寂しいという感情が、実体となって目から溢れ出して止まらない──────

大好きだった景色が、とめどなく溢れる涙でぐしゃぐしゃになって歪む






「──────ハァ、ハァ、ッ美咲!」


どうしてこのタイミングで現れるのかなぁ──────


今、貴方に優しくされたらアタシもう我慢できなくなっちゃうんだよ?


貴方が好きっていうこの気持ちを──────


ねぇソウマ。

貴方は私の事をどう思っているの?


アタシ、あなたの妹を演じるのは、もうムリなんだよ?




街を見下ろす事ができる場所。一本松の袂で二つの足跡は途絶えている

火薬が燃えた熱で積もった雪を溶かした小さな円の中に

金色の空薬莢が一つ転がっていた。







壱拾六話 ミレニアムの反逆者 終





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