4-32 壱拾六話 ミレニアムの反逆者 6
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KingとQUEENが施設正面に続々到着する府警を玄関先で制圧する。
府警を操っていた村瀬の魅了の力もその肉体を失った今や衰えフルスペックの
魅了の力を持つミヤコの前にその奴のハンパな力は容易に上書きされた。
相馬の語る口調、警察用語を駆使した警察同士の情報共有もあり、府警側に
犠牲はおろか怪我人を一人も出さず、さながら無血開城の如く英雄達三名は
この場を掌握した。
とは言え、捜査のために数名を残し、府警は撤収し屋内の四課を殲滅した
ダニエルは不測の事態に備えKingとQUEENの影となり護衛を努めた。
この間10分と満たない手際だ、全く恐れ入る。
結果、府警は私立病院に押し込んだ武装集団がたまたま入院していた米兵と
イギリス兵によって殲滅されたと云うトンデモシナリオを飲むしか無かった
ようだ。状況が常軌を逸しているから、こんな嘘もそれなりの説得力を持って
罷り通る。相馬の機転の速さと狡猾さがなせる技だ、恐れ入るよほんと。
後はお定まりのカバーストーリーが発布され真相は闇から闇だ。
政府も黙認するしか無いだろう、日本政府の組織と世界最古の異能力組織
が事を構えるとなっては今の政府に扱える枠を一気に飛び越える訳だからな
施設内のパニックルームに退避していた医療スタッフによって、逃げ遅れ
負傷した医療スタッフとCASINOの長のロイやジョン、そして美咲の治療や検査が
被害のほぼ無かった四階のICUの各部屋でで実施された始めた。
さすがは高給取りのCASINOに属するエッセンシャルスタッフだけ有り、治療も
迅速で的確だった。此方の負傷者は一往に命に別状はなく、軽傷とはいい難い
ものの、回復まではさほど時間を要するものではないようだ。
我々はこれ幸いにと府警の邪魔が入らない四階を、さながら戦闘指揮所として
利用していた。
「ジョン、アラート状況はどうだ?」
ICUで応急処置を終えたミイラのように包帯だらけの彼は、私のその問いに対し
浮かない顔で首を横に振った。依然、幾つもの核攻撃の軌跡が北米大陸に降り
注いでいる、この内のどれかが此処へ向かってくるのか、旧アメリカ側の核が
誤認した報復行動として此処を攻撃対象にするのか
見当も付かない状況が続いている。
「奴が語った核という表現の曖昧さもあってな。実際の兵器としては小規模の
戦略核、それ以上の戦術核、さらなる壊滅的な被害をもたらす大陸間弾道
ミサイルなど戦略的効果も運搬・運用方法も様々だ」
「幸いなのは旧アメリカ側から我々の制御を外れた核がまだ無いのが救い
といった所だ。時間的猶予も奴を乗せた衛星が、我が国の偵察衛星網と同じく
楕円軌道を描いて地球を周回している関係上──────」
「あぁ1時間は地球の裏側だ、急がなければ成らないが今すぐどうこう成る訳
じゃあ無い、とは言え早急に方針を出して行動せねば手遅れになる」
村瀬が語った京都への核攻撃が本当に行われてしまうのかあるいはブラフ
だったのか現段階では判断も付かない、だが奴の話には現実味が有った以上
見えない何処かで核発射に関し水面下の攻防が行われてる可能性はある。
奴が馬鹿が付くほどの国粋主義者である以上この国が誇る歴史を有する古都
を自分の理念のために犠牲にするとは考え辛いが、その上でチェロを乗せた
ヘリがこの数時間の間に移動できる範囲かつCASINOが建設中の拠点を同時に
焼くとすれば、戦略核あるいは戦術核となるが──────
クソッ何にしても選択肢が多すぎて対抗策の打ち様がない
「ねぇみんな聞いて、さっきの話がマジならもうあれこれ悩んでる
時間も無いって事でしょ?」
「アタシにいい考えが有るのだけど」
車椅子の少女がICUに現れる。モヒカン頭に屈強な体の熊のような医師に
連れられ美咲が姿を表した。美咲によると、私が彼女の蔵で解凍した未来より
持ち込んだ村瀬を屠る最終兵器を転用し、核攻撃を防ぐ何らかのアイディアが
有るようだ。
「是非もない。彼と対等に渡り合えるものは彼女しか居るまい諸君」
彼女の後ろから姿を表した眼帯姿のロイ。相馬やダニエルにとって自分等を
絶体絶命の窮地に追いやる謀をしたロイと私の元凶二人が一同に会したこの場は
一瞬にして凍りつく。腕を組んだまま俯く相馬、舌打ちをして明らかな嫌悪感を
顕にするダニエルそして、すべて許すかのように静かに佇むミヤコ。
「──────警備状況を確認してくる、何かあったら呼べ」
と、云い残しダニエルは部屋を出ていった。
「ともかく切迫した状況だ、ひとまず危機に対処するのが先決」
「ミヤコ、それでいいな?」
対して相馬は現状の打破を優先、嫌悪をひとまず棚上げにしながらも
我々に対する不信感は拭えていない様子だ、当然の反応だろう。
悪いとは思っているよ──────
♠
あの時、私の頭に語りかけてきたエメスと云う男。
ミスターソウマが魔女の力で事の成り行きを少女の目を通し俯瞰し
驚きと共に信用した男。
会してある意味納得した。まるで兄弟のような身形もさることながら
奴から感じ取れる意思の力強さはミスターに勝るとも劣らない。
私が戦士として、いや武士と認めたミスターをライトサイドとするならば
奴は状況に応じ、自身を光と闇へ姿を変え渡り歩く忍びの者とでも形容すべきか
もしくは唯の道化に他ならない訳だ。が、奴が為して来た結果だけ見ればその
やり口は決して褒められた物ではないにせよ、QUEENを守護する者として確かな
信頼を置ける、まさにトリックスターだ。
だが奴の立ち振舞、手当り次第に関わった者達を救いに掛かる様は私や
ミスターから見れば、無茶にもほどが有る。
それは最早、理想やロマンと言った私達が過去に置いて来ざるを得なかった物。
其れだけでは無く奴は美咲はおろか別の何か大きな物をも守ろうと奔走して
いるフシがある。
ミスター曰く、己が有する器以上に正義と云う名の苦水を注ぎ続け、手ずから
その器を割るような物だ。では破滅的とも言えるその行為、奴を突き動かして
いるものは一体何だというのだ──────
「貴殿──────、あの病院に居たな?」
「フン、だとしたらどうするのだ、少年」
四階フロアの入り口付近の柱に背を預け、白鞘の木刀を手にした海軍礼服
を纏った少年。俯きながらに片目だけ開き蒼く煌いて見えるほどの鋭い眼光で
私を睨んでいた。
もはや懐かしささえ覚えるな。村瀬の死を確認しに行った東京の病院
燃える刀でミスターを追い込み私が遠距離から一方的に制した少年か。
ん? そうか、エメスが事切れた時に抱いていた少女は同じく病院で
魔女に敗北していたカキツバタの片割れ。ミスターがスクリーンに使って
いた例の少女──────
状況は定かではないがエメスを一度は殺した者達、敵対していたはずの
日本政府所属テクニシャン。ミスターが我々の手駒に使おうと提案し私が
断固拒否したかつてのカタキか。
この状況において敵側に寝返りでもしたら目も当てられん。
真意を探っておく必要もある──────か
「少年、貴様なぜ事此処に及んだ上いまだ此方側にいる?」
私のその問いに白鞘の少年は暫く考えた後、意を決したように口を開く。
「──────チッ、私達兄妹を使い捨てにした主、今の状況を引き起こし
ている悪鬼からあの御仁が救い出してくれたのだ。事がこの様になった今や
彼の側に付くのが事の成り行きと云うもの」
「仮に其れが貴殿だったら、どうする──────」
質問を質問で返す、子供特有の背伸びか。仕方ない暫く付き合ってやる
どうせあの場に戻ってロイの顔を観ていても気分を悪くするだけだからな。
「どうもしないさ、私は貴様が助けたあの老人、私に戦闘術その他を叩き込んだ
いわば師であるロイに一度は殺された身だ──────」
そうだ、私とて少年と同じだ。ただ一点の違いが有るとするならば少年が
歩むかも知れなかった結末。私は信じた主に命を奪われながらに生還した者。
故にかつての師であろうとも同じ場所に居るのは虫酸が走る。だからこうして
こちらから身を引いてきた。結果は違えどこの少年と立場はイコールではないが
大きく違っても居ない。
「私と貴様は偶然似たような境遇に置かれたポーンに過ぎないわけだが
私と貴様とでは決定的な違いが有る。私は代わりの師を探さずとて一人で事を
為すつもりだ。姫の護衛という宿命をな」
「否ッ! 私とて──────クッ」
悔しいか少年、だが其れでいい。お前は己の信念をその身一人で貫くには
実力不足なのだと理解している、故に悔しいのさ。お前はまだ若い、学ぶべき
事、いや学ばなくては成らない事が多い。守護者として己の能力を行使する
立場に付くつもりならば一層研鑽を積まねばならん。
その次の師となりえる者にエメスと云う男を選んだとするならばお前の
選択は間違っては居ない。私が危機に直面した際、模倣した存在。
ミスターと同じ様に奴は数々の修羅場をくぐり抜けたであろう者、そして
お前達を何らかの理由から窮地より救い出した者だ。
「学べ少年。奴の狡猾さを全て奪い取れ、それだけの価値が奴には有る」
一通り語り尽くした私は、懐から黒い包みのひしゃげたタバコを取り出し
一本咥え、ミスターより預かった守護者のエンブレムがあしらわれた
ライターを探すが懐に確かにあったそれは見当たらなかった。
先のエレクトラの一撃で失われてしまったのだろうか、そう思った時に
向かいの少年がやりきれない面持ちで俯いたまま火を灯したそれを私に
差し向けた。
「─────御仁、仮にも此処は病院です、一本だけで控えて下さい」
そう云いながらも私に向けた灯火は、確かに私がミスターソウマより預かり
今まさに失われたと思ったライター其の物だった。私はその事実に驚きの余り
口が緩み、落下しようとしたタバコが下唇にぽろりと張り付いた。
「お前───、ソレを何処で!」
「なんです突然に! これは私が失ったライターの代わりに御仁───エメスが
貸し与えてくださった物です」
ミスターソウマが美咲の護衛を私に託した際、共に託された彼の決意の品。
それがいつの間にか私の手を離れエメスへ、そして今それがこの少年の元へ?
これがあの魔女の謀だとすれば、願いが宿るこのライターをこの少年が手に
している事実。私の疑いはもはや邪推にも満たない些末な事なのかも知れない
と悟る。忌々しい、私は今だエメスの謀の上で踊らされているのやもしれんな。
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「良いかな諸君、事は一刻を争う自体と言える。
幸いにして今建造中の我が居城は、山間部の治水の為に一度は計画され後に
放棄された巨大立坑跡地の直上に位置している」
「つまりは核攻撃にも耐えうる深度を有し、かつ人口密集地から遠い山間部の谷に
位置している。仮にも奴の攻撃が成功したとして、人的犠牲を最小に留められるで
あろう。今現在そこへエレクトラがチェロを退避させている」
ロイの判断は現状最も有効な手立てにほかならない。だが──────
「───ロイドさんよ、ここにダニエル坊やが居なくてよかったな」
「それはつまり、奴が命がけで守った少女を三度囮に使うって事だぞ?
理屈はわかるが見る角度を変えたら大義の為に犠牲を厭わない村瀬と
同じに見える。両手を上げて大賛成とは言えない──────違うかロイ」
相馬の主張は一理ある、これは所謂トロッコ問題だ。
この場の皆でウンウン唸って結論の出る話じゃない。正論を解く相馬に対し
ロイは彼の気持ちを逆なでするような言葉をイタズラに付け加えながらに
こう続ける。
「フム、さすがはKingという事かな、このような窮地に立ちながらに矮小な
存在に心を向ける。いやはや流石としか言いようがない──────」
「が、そこへ我々全員。CASINOに関わる皆が避難するとしたら、どうかね?」
つまり、敵である村瀬の目標をあえて一箇所に集中すると云うことか
死なば諸共一見にして無謀とも取れる提案だ。自殺行為とも取れるその提案に
対し、美咲が続く──────
「そう! そこでアタシの出番ってわけ」
「実はね──────」
美咲はクロサキに抱えられ、我々と出くわすまでの数十分間
奴のヘッドセットから漏れ聞こえる奴の声に耳を傾けていた。
その会話の中で何度か核保有の極東第三国の名が出ていたという。
おそらく現状、奴の手で操れる不安定なシステムだ、可能性は極めて高い。
「良いかな諸君、美咲君が言う事が事実とするならば、彼の地から放たれた攻撃が
此処へ達するには10分と無い。今は決断を急ぎ生存率が最も高い手段を講ずる
のが得策と思うが──────」
私達は皆一様に美咲の提案に頷く。事が決まれば連中の撤収の手際は見事の
一言に尽きた。屋上には先程までエレクトラ達を乗せたヘリの羽音が鳴り響き
地上にはエレクトラが乗るロールスのリムジンを筆頭に何台かのバスが
横付けされた。
「───では諸君、急ぎ移動を。振り分けは各自に任せる」
ロイのその言葉にこの施設のスタッフはバスへ直行し、定員に達すると即座に
建造中の車屋に向かい出発していく。ジョンは熊医師に肩を借りながらヘリへ
相馬とミヤコ、そしてミヤコを睨み一方的な敵意を向ける美咲、その車椅子を押す
ダニエルはエレクトラが率いる陸路へ。
「私はヘリで先に赴き受け入れ準備をするがエメス、諸君らはどうする?」
残されたのは私と、安定剤を投与されたアヤメ、その兄のシラユキだった。
「今は戦力を集中したい、陸路で向かう」
その私の言葉に負傷のために眼帯姿となったロイは、聞かずとも判っていたよ
と言葉を残し屋上へと別れた。
薬で眠っているアヤメをおぶり、シラユキと共に玄関へ向かい院内を進む
中、俯いていたシラユキが唐突に声をかけてくる。
「御仁、貴方は己の命を賭してでも一体何を守ろうというのです?」
何だ、政府お抱えの鬼を狩る者が年相応に随分としおらしくなったもんだ。
話を聞くに、どうやら戦闘指揮所から出ていったダニエルとなんぞ話し合った
らしい。なる程おおよそ正義がどうとかいっちょ吹っ掛けられたんだろうさ
よくよく話を聞くと、騎士様は相馬のライターについてなにか感じる所が
あったらしい、さすが冴えてるぜ騎士様。
「御仁、私の問にまだ答えて頂いていません。貴方は──────」
「──────あぁ、俺が護るものについてだったな」
「お前たち全員の未来だよ」
これ以上無く端的に解りやすく言ったつもりだったがシラユキは頭に幾つもの
クエスチョンマークを浮かべていた。そんなやり取りをしているうち、施設
入り口に辿り着く頃には、屋上からヘリが飛び立ち、いつもの防弾ロールスと
レンジローバーを残すだけと成っていた。
「偽物さんよ、この車に乗れるのはあと2名だ、どうする?」
相馬のその言葉に助手席のダニエルが降り、その席をシラユキに譲った。
シラユキが乗り込む寸前に、ダニエルは彼の肩に手を置き、一言何かを語り
掛けている。私は背の少女をロールスの後席にいるミヤコに預ける。
「相馬、すまないがこの娘を頼む」
「はいよ兄弟。呼び捨てかよ、ったくエレクトラ出してくれ」
私はこの場で恐らく一番安全な相馬達の元へアヤメを預けロールス
を見送った。横を向き顔も合わさない騎士様にため息を付きつつ放って
置き私は残る一台の後席へ乗り込む。ダニエルはきっと何か聞きたい事が
有っての判断なんだろう。
「───ダニエルさん! 良かった、ご無事だったのですね」
「あぁミヤタ、話は後だ、急ぎ車を出してくれ」
乗り込んだ車の運転手の名を聞いて私は思わず溜息を漏らす、それを隣の
騎士様は横目で疑うような視線を寄越すと一つだけフンと鼻を鳴らした。
♥
「なんだ美咲、随分とご立腹のようだな。プリプリか?」
「──────べつに! 怒ってなんか無いわよッ」
自覚の無さに怒鳴ってしまった。だってそうでしょ? アタシの前に座る
ソーマは、ズーーっと横の誰かも知らない女の手を握ったままなんだもの!
何ヶ月もずっと音信不通だったくせに、突然帰ってきたと思ったら何っ?!
あーなんかどんどん腹立ってきた。
揺れてるフリしてギプス脚でスネ蹴ってやろう。
「元気だったか美咲、その脚まさか膝が──────」
「ご心配なーく! なんか勝手に手術されて成功したのよ」
「両足がこの膝なら100mを9秒で走れるそうよ。今度アンタが逃げても
何処までも追いかけられそうねッ!」
なによ! 他人行儀に元気だったかーって、アタシがどれだけ探したと
思ってるのよ知りもしないくせに! その膝まさかーってバッカじゃないの?
あーモウ! 頭キタから死んだ黒服から取り上げたノーパソ、フトモモに投げ
置いてやる。喰らいなさい!
ケーブルでノーパソとエメスから受け取った衛星携帯を繋ぐ。
やっぱり、エメスが言っていたテレメトリとアイツのPCを繋いだら出るものが
出た、これならどうにか成りそうね。
「どうだ美咲、何か引っ張り出せそ ッって痛ってぇ!! 蹴るなスネを!」
「ウルサイ! 今大事なの。アンタは隣の美人さんとイチャイチャして」
「──────やっぱダメ今のナシ」
「ハァ。ミヤコすまないがキミの魅了で、何卒一つ──────」
「ダメです!」
通信記録から奴の発信先をトレースしてやる! やっぱりあの国だわ
でもこの回線速度じゃ落とせるのは精々画像一枚──────
「皆様、まもなく到着いたします」
エレクトラさんが車を地下に! 衛星回線が、クッそ間に合えッ!
「────す、凄いタイピングの速さ、凄いのね美咲さん」
「で、どうだ美咲ッなにか掴んだのか!!」
うるッ! さいッ!! なッ!!! って
「避けるなバカソーマ!! ハイっ! どーぞ!!」
地下をどんどん進んでいく広大な地下空間、これが一企業が扱える規模なの?
あの爺さん一体何者なのよ──────
そんな事より、この施設にアタシが望む以上のマシンスペックを持ったサーバ
と回線が無ければそこで終わりよ。あの爺さんが言った「任せなさい」を今は
信じるしか無いわね。
永遠と続くかのように、オレンジ色のライトが灯る地下道を何台かのバスに続き
最奥に向かって私達は京都の山奥を潜行していった。
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最後尾となったこの車に乗り込んでからずっと横を向くダニエルに痺れを
切らし語りかける。前を走っていたロールスはあの魔女の手綱によりもはや
視界の外だ。
「──────何か、聞きたいことが有るんじゃないかダニエル」
私のその問いに、騎士様は相変わらずだんまりを決め込んでいた。
呆れた私は溜息をつきながら、こちらの疑問を投げかける。
「あの時何故私を助けた。いや、お前にこれを聞くのは筋違いか」
「なぜエレクトラが私を救うと思った?」
黙りこくった騎士様は初めて私を直視して語り始めた。
彼自身、確証はなかった。だがあの場で最後を遂げるべき者ならば
エレクトラは絶対に救いはしなかっただろうと語った。
見事な回答だった。私もその点について未だに答えが出せないでいた。
彼女は私が仕事を終えた際、この身と記憶を抹消せよとの私の願いを
了承し、今まで私に付き従ってきた。度々予想外の行動を差し挟みはした
ものの、明確に命令不服従の動きをしたのはアレだけだ。
彼女は理のすべてを見通す力を持っている。真に最も近い私のメンタルモデル
を帰還させた場合と私を生かしておく事、この両者の危険性も見通ししていた
はずだ。故に私は彼女に対し適切なタイミングで
私を殺せと命じたのだが──────
「──────ひとついいかエメス、貴様一体何者なのだ」
唐突にダニエルが語り始めた。奴が私と相席した目的をであろう話を。
「何者だと思う? いやすまない純粋な疑問だ他意はない」
「シラユキが持つライターの意味についてもおおよそ理解している、だな?」
「それを理解した上で判らないから尋ねているのだ!!」
「貴様の目的は一体何だ!」
ダニエルはは懐からH&K P7M13を取り出し私に腰溜めで向ける。
ルームミラーでこちらを伺っていた宮田がそれを察し、リムジン仕様の
レンジに装備された前後席を隔てる防弾パーテーションを上げた。
「構わん、撃てよ。 だが私はそれを受け止めるぞ? この手でな」
その言葉に大きくため息をついたダニエルはその銃を降ろした。
こうなってはすべて話す必要がある。私の最後の望みを託せ、且つ完遂
できる能力を持つ彼に、私自身の真実を──────。




