表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
四章 Y2K RebellioN
82/99

4-31 壱拾六話 ミレニアムの反逆者 5


 同時攻撃とはな、ちとばかりズルかったぜクロサキ──────。

しかもスゲェいいタイミングだ、これはかないやしねぇ


ズシリと胸に衝撃が走り同時に鈍い痛みが腹から背に抜ける、直後両足の力が抜け

その場に少女を抱いたままへたり込んだ。


「──────あレ? わたく・・・し、えっ なん・・・で、エメス!!」

「い、嫌アァァッ!!」


 そんな顔するな、きれいな顔が台無しだ。

泣くなアヤメ、こんな事で力を失っちゃダメだ、大丈夫、大丈夫だ。

仕方なかったんだこうするしか──────。

そんな事よりよかった正気に戻れたみたいだな・・・


「ガハッ!!」


 胸に抱いた少女の震える肩を両手で抱きしめながら、紫色の髪をただ撫でる

口を開くと命が紅の帯となってこぼれ落ちていってしまいそうで、小声で何度も

大丈夫と語りかける。


 どうやらクロサキは宮城から京都に向かう際、牧場でジョン達パラミリの

対能力者用の弾丸を鹵獲していたんだろう。もしかしたらトライデントが

暴れまわっていたあの瞬間を観戦して使い方を目にしていたのかもな。

トライデントの槍を握ったアヤメを一時的にでも殺したのはこの弾丸か。

身を持って知ったよマッタク、こんな物を開発していたとはステイツめ────


「──────ジョン、アラートは・・・クッ ど、どうなってる?」


 私の問に彼はただ黙って首を横に振る。ここまで来て結局、成術もなしか

自分の行いに震えながら銃剣の付いた儀仗用小銃をいまだに握り絞めて

しまってるアヤメの手をとってゆっくりと解きながら、後ろの少女へ語り

かける。


「美咲・・・怪我はないな?」


「バカッ! アンタ何言ってるの───今それどころじゃないでしょ!」


「いや、それ・・・どころなんだよ──────」

 そう、それどころなんだ。お前にもしもの事があったらこのまま死んでも

死にきれん。というか──────生まれてこれんのだからな。


 懐から軌道上の村瀬にロックしたイリジウム携帯を取り出す。

血まみれのその携帯、液晶にべったり付いた血を親指で拭い美咲に渡す。


「これは相馬の(かたき)、村瀬の乗った衛星・・・クッ」

「液晶のソイツが奴の居場所。奴を倒せえば相馬は帰ってこられるきっとな」

「オマエが奴を倒──────」


「なっ、御仁! これは一体!!」


 アヤメを探しに行ったシラユキが戻り駆け寄ってくる

すまなかったな、妹はここに居たよ。あの頭痛は村瀬の呪縛が呼び起こし

た物だったらしい。ほんとうにすまない、気付いてやれなくて。


「み、美咲・・・ロイは? 白髪白髭の爺さんはどうした?」


「えっ、奴らに撃たれて奥の部屋に──────」


 やはりロイもあの弾で撃たれてたか。ロイの先読みの力もこの弾が無力化

したのかあるいは、クロサキと村瀬、重なった意思をロイが読み違えたか


「シラユキ──────奥にいる爺さんを・・・観てきてくれ」


「し───しかしエメス貴方の怪我が。ジョン氏も重傷を──────」


「聞いたろ俺たちはいい! お前も戦士なら命令を遂行しろ、行けボウズ!」


 シラユキをそう怒鳴るジョンとへたれこむ私をを震える瞳で交互に観る

その哀情の眼差しを固く閉じ結んだ後、奥の手術室へ駆け出した


 このフロアに敵の姿は恐らくもう無いが下の階と地下にはまだ大勢居る

はずだ。奴がこの場に我々を足止めさせていたい理由がある以上な


なんとまぁ狙いすましたようにいいタイミングだな──────

外から幾つものサイレンが近づいて来た、手駒の総動員だな。


「上から銃声だ! 2Fか、こっちだ急げ──────」


 言わんこっちゃ・・・ねぇな。

四課の残党だ、こちらの戦力は────この有様だ、万事休すって奴か?

押し込まれたらそこで終わりだな──────


隠し玉はもうちっと温存しておきたかったんだが

それより──────


「美咲ッ!ハァハァ、奴を・・・クッ・・・倒・・・せ」


「ムリよ! アタシにどうしろって言うのよッ!!」


「オレのこの時計──────」

「表示が0になったら・・・そのイリジウムで仙台の家に電──────」

「電話しろ・・・村瀬と蔵のシステム・・・が繋・・・り・・・で」


クソが・・・ダメそうだな、視界が白く霞んでもう声も出ねェ

おまけに耳まで怪しくなってきやがった、アヤメ?

ハハっ高貴なお顔が・・・もうくッしゃくしゃだな──────


気高いお前の、こんな顔を誰にも見られないようにオレの胸に埋めてろ・・・


『なに? 電話してどうするのよ、聞こえない! しっかりしてエメス!!』

『ちょっエメ──────、──────」


『そ、そんな鼓動が・・・嫌ッエメスだめよ──────!!」




 情けない。

ここまで来て、結局最後まで世界を・・・連中を救えずに(しま)いか



 でもまぁ─────、心配することもないかもな、後は上手くやるだろう。

なんて云ったってコッチには電子の妖精、日比谷 美咲が付いている───。

村瀬が核のトリガーをイジれるなら、当然美咲にだって核を止めることも

出来るさきっと・・・な


 いけねェそうだった、事切れる前に隠し玉を──────

最強の守護天使を呼び戻してやらないとな。


「トライデ・・・いや、エレクトラ──────彼を」


憎たらしくて、バカが付く程実直で、融通のきかない奴だけど

とてつもない程強くて・・・いつだって頼もしく、常に正義に対し真っ直ぐだった

オレの先生。オレの・・・


憧れの英雄──────。



「ダニエルを──────此処に呼・・・べ」



かすれ行く景色の中、オレの前に眩く煌く騎士様

無敵の彼が───足元から青白く実体化していく──────


後は、頼んだぜ。騎士様──────




                   ♠



 マッタク、やっとであの忌々しい部屋から実世界に呼び戻されてみれば

一体何だこの状況は! 目も当てられん。


 振り返ると、少女を胸に抱いた血まみれの男。

その後ろ、男に庇われるように座し震える()のQUEEN。

それに同じく血まみれで、壁に背を預けてへたれこんだ戦力外の戦友か。

よくもここまで見事に追い詰められたものだ──────


「よぉジャック、遅かったな・・・受け取れッ」


 戦友が投げ渡したMk14EBR、弾倉を外し残弾を確認する。

ジョンの隣に片膝立ちで正面へと集結しつつ在る驚異に銃口を向ける。


「フフッ、あの時とは立場が逆に成ったなジョン」

「くたばる前にすまないがひと仕事頼む。背中を任せていいか?」


 プレートキャリアのポーチから7.62ミリのマガジンを取り出して床に

並べ終えたジョンは、GLOCK21の銃口を後ろの廊下先へ向け頷いた。 

正面に敵の気配が集結しつつある。戦端が開かれてしまう前に

この愚かな功労者をどうにかせねば──────か


「オイ、トリックスター!」

「默まって観ていれば見事な程に散々引っ掻き回してくれたな!

 だらし無く俯いている暇があったら遣りかけた仕事を完遂しろ、間抜けッ!」


「な、なによ・・・貴方ッ 彼は──────」


「お嬢さんその彼から離れていろ!」

「エレクトラ聞こえているな! この場は掌握した私が許可する、やれッ!」


 力なくうなだれた男から少女の首根っこをつまみ上げて引き離し

エレクトラに命令を下す。その命令を発した直後に、青く煌くそれは

屋上、天井、床と物理的な障壁を全て無視し、鋭く薄い三つ刃が

甲高い反響音を響かせ、奴の傷口目掛け飛来する。


 周囲の空気を切り裂き凍てつく青きトライデントは

一瞬にして項垂れていた男を貫いた。ひぃと小さな悲鳴を上げる少女の目の前で

男は、かつて私が()()()()()ように

青くきらめく粒子と成って爆ぜ、再び人を形作るように寄り集まる。


「チッ! ジャック来るぞッ!」


 戦友が叫ぶ。正面から押し寄せる黒子に対し

いつものように私は素手で握り込んだライフルで迎え撃つ。

雪崩込む敵に弾丸が吸い込まれるように一つまた一つと黒を朱色に染め変える。

ボルトストップ(弾切れ)に合わせジョンが床のマガジンを私へ投げ渡し

リリースレバーを倒すと自重で落ちる空のマガジンとそれを空中で交差するように

受け取り、迫る黒い驚異を紅へと再び染色を開始する。




                   =




『──────ね、キレイでしょ。ここはアタシのお気に入りなのよ』


 茜色に染まりゆく見覚えのある景色。

聞き覚えのある柔らかでどこか懐かしく優しい声と暖かな左手

オレの右手はその優しく暖かな手が握られている。その手から腕そして肩へと

見上げるように顔を伺う。その懐かしく優しいはずの顔は

美しい夕日の織りなすライトシャフトに阻まれよく見えない

目を細め必死にその顔を見ようとするオレの手を彼女は穏やかに握り直した。


『この場所はね、アタシの思い出の場所なの──────』

『悔しいこと、辛いこと、悲しいこと、そして───嬉しいこと』

『その全部が詰まってる、きっとアンタも気に入ると思ってさ』

『こうしてジュンに連れてきて貰ったのよ──────』


 そんな言葉を聞いた時、私は堪えきれない何かが

頬にひとすじの線を引くのを感じた。



 判らない、この感情はいったい何だ?

作られた存在である私に、母という概念など存在しない。

そう、これはオリジナルの記憶のはず──────なら

ここに居るのは私ではなく彼のはずだ。


ではこの涙はいったい──────


 そう思った瞬間に、景色が一点に寄り集まるように収束しはじめる。

離れたくない、このままこの感情を忘れてしまいたくない。

そう思いを馳せる中、繋いだ手が離される──────


待ってくれ!

離さないでくれ!

ずっと私と一緒に居てほしい!!


そんな思いをよそに、その手は空の一点を指差して彼女は云った。


『ホラ、観てごらんあそこ、一番星だよ──────』



「 真 」



 止めどなく溢れる涙が暖かなその光景を押し流して歪めてゆく

夕暮れの空へ眩く輝いた一番星に向かい、景色が吸い込まれていく


 私はこの穏やかで暖かな時間から離れたくない一心で

必死に母へ手をのばす──────

世界は私から母との邂逅、穏やかな時を引き剥がすように

輝きを増す一番星にどんどん吸い込まえていく


 遂に周囲は私をすっかり置き去りにして、母とその手に繋がれた少年

二人の背中を映し出す──────


 母と手を繋ぐそれまで私だと思っていた彼は

最後の一瞬振り返って私を見つめ、何かを語るように呟いた。


なんだ、今何と言った?!


聞こえない

待ってくれ

私だけ残して行かないでくれ──────


少年は私に何かを言い残し彼女の思い出と共に光の中へ。


 次の瞬間には、夜空に輝く一番星が、これ以上無いほどに眩く光り輝き

私はその眩しさに思わず瞼を固く閉じた──────




 クッ──────

何だったんだ今のは、走馬灯とでも言うのか 

そんな余韻を打ち砕く銃声に一気に意識が現実に引き戻さ──────

待て、現実だと?!


「ジャック! 最後のマガジンだ、キリがねぇぞどうする!!」


 成す術なく無念の終りを迎えたはずが──────

まさかと思い、私を屠った痛みの元を弄る


傷がない。


 なんだって! 最悪の事態だこれは。この時間軸で得た経験と記憶を

生き延びることで未来に還してはならない。

その為にエレクトラの力によって、この生命を記憶ごと完全に断つ必要が

あるってのに

 一度しか使えないその力をまさか私を生かす為に使ったというのか

また勝手にあの魔女がッ!


「──────目覚めたか、戯け」


 ダニエルのその言葉に、私はこの結果をもたらしたのが誰でもない

彼だと悟った。


そうだったな、彼は極限の事態に置いて思考しない

無意識下に英雄的行動を成すだけ。まさに稀代の騎士。

だが──────こればかりは私の意に反するぞダニエルッ!


「貴様・・・一体・・・何──────」


 いまだ感覚のはっきりしないこの体、精一杯の抗議を振り絞っていると

トスンと軽い衝撃を胸に受ける。


私の血で紅く染まった紫色の少女が、私の胸の中で肩を震わせ泣いている。


「もう持たんぞ! どうするんだトリックスター!!」


 状況は悪くなる一方だが、まだすべてを諦める程終わっちゃいない。

今は可能性にかけるしか無い、そう思い私は呼び戻された時に見た

()()()()()()、母と共に居た彼に思いを馳せた。


「お、おいジャック何が起こっているんだ、彼らは一体──────」


 ジョンが力なく銃を降ろし、光の中から現れた彼らに圧倒される。

非常階段に続く廊下の角より、青く輝く光が明かりの落とされた空間を

眩く照らす。

 確信があったわけじゃないさ勿論な。だがあの魔女が今まさに昇天しよう

とする私を引き戻す瞬間にアレを観せたと云う事は──────

つまりそういう事なんだろうってな、ただそう思っただけさ



「参ったね──────」

「南の島で楽隠居している間に、まさかこんな事に成っちまってるとはなぁ」


「あら、こんな事だからこそ、私達が呼ばれたのではなくて?」


「そんな・・・まさかソウマ───なの?」


 美咲のその言葉に、私は天を仰ぎ目を閉じる。

我ながら都合がいい話だと思って呆れるよ

遥か彼方の島に居た二人を、まさか本当に呼び出す事が出来ちまうとはね

 可能性とは、可能では有るが限りなく不可能な事象に対し抵抗する希望に

相応しい言葉だと私は理解していたんだが。


私は有る種の確信をもって力の入らぬ体で、私に並び立った彼を見上げる


「都の言った通り、確かに似てるがなァ。ま、俺のほうが男前だ」

「なぁ、お前さんもそう思うだろ?」

「偽物さんよ──────」


その言葉の主は私の隣に並び立つと、屈んで私の肩からぶら下がっていた

M4を取り上げ立ち上がる。彼の手が固く結ばれた彼女は、私の肩に手を

置いて微笑みながらに一つ頷いた。


「偽物さんよ、一つ言っておく。悪いがな、これは俺たちの戦いだ」

「勝手に主人公されちゃ困る、なぁダニエル。後は俺たちに任せて寝てろ」


「フフッ──────、真打ち登場だな武士様」


「あぁ、出遅れてしまったみたいだな騎士様」

「我らが姫をお連れした、そこで物は相談だここからは不殺で行こう」

「連中は村瀬によって操られているに過ぎん被害者だからな」


「──────まったく貴方って人は、了解だ」


「そういう事でしたら、私の出番ですね武士様と騎士様」


「・・・と、いう訳だ偽物さん。そこの大切なお嬢さん達は任せたぞ」



 私は、メインキャスト達のやり取りをこれ以上無い頼もしさで観ていた。

希代の英雄たちに肩を並べられないのは、いささか残念だがこのままならない

体でもできる事はまだある。


 私はアヤメと美咲の手を固く握り、彼らの圧倒的で一方的な戦いを最前列から

参観したのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ