4-30 壱拾六話 ミレニアムの反逆者 4
「ビッグブラザー、まもなく到着します。」
コパイロットが操縦席から振り返りキャビンのジョンへ着陸体勢に入る事を
伝える。その言葉に私は隣に座るアヤメが手こずっているベルトを締め直し
向かいのチェロのベルトも確認する。チェロの隣のトライデントはそもそも
ベルトをしていないようだが、まぁ放って置いてもいいか。
「シラユキ、ベルト締めとけ。ジョン事の序だ伊丹からの足も借りられるか?」
「ったく! 抜かりはねぇよ岩国から呼んだブラックホークが待機中だ」
陸路を想定していたが驚いたことにジョンの手際により空路が確保されて
いるようで願ったり叶ったりだ、おかげでTzeroまでの貴重な残り時間
数十分は稼げそうだ。改めて腕時計を確認するとのこり5時間を切るところだった。
ロイが語った美咲の手術が終わっているか確認するために、座席の肘置きに
ある機内電話で京都の医療施設に連絡を試みるが不通。CASINOの施設だけあり
通常回線では繋がらない仕様なのかやはり駄目だ。
「ジョンすまない、たぶんこれがラストだ例の手段でロイに回線を繋げるか?」
「何から何まで世話の掛かるやつだッ、待ってろ」
「ん? おかしいな話し中だ──────って、おっと」
「皆様、当機はまもなくITAMIに着陸いたします。座席を立て
中指も立てこの不遜なヘルメスにFワードと共にお向け下さい────」
機内の米兵たちがドっと豪快に笑う中、常に余裕のロイに繋がらない状況に
若干の不安を覚える。
伊丹空港へ着陸後、そのまま機は隔離された駐機スポットへ。駐機場すぐ
脇にジョンが用意したUH60がメインローターを回して待機しており
そのまま我々は機を乗り換えCASINOの医療施設へ飛んだ。
伊丹から京都の施設に向け40分程経った頃、山間を幾つか抜けた先に
医療施設と思しき白い建物が見える。地上4階建て低い建物の上空を
ヘリは旋回し安全と着陸地を確認する。ジョンが屋上のヘリパッドへ向け
指差すとパイロットは速やかにヘリをそこへ下ろすよう降下を開始した。
「いッ!──────ツツ」
「アヤメ? 大丈夫か───」
施設屋上のヘリパッドに近づいた頃アヤメが頭痛を訴える。急速降下による
気圧の変化によるものだと説明するが、シラユキによると以前も何度か目眩や
それに伴う頭痛を起こしていたらしい。
アヤメの頭痛を兄のシラユキが把握している事に胸をなでおろすが
それより施設の異様な静けさに思わず身構える。降りてくる機がドクターヘリ
では無いにせよ、人っ子一人屋上に顔を出さない状況はあきらかにおかしい。
「ヘルメス──────」
「あぁ、ヤバイ雰囲気だ。ステルスエントリーで行く」
私はチェロとその護衛の為にトライデントに機に残るよう指示する。
頭痛を起こしたアヤメとシラユキにも機に残るよう勧めたが、今更何をと一蹴
され仕方なく同行を許可した。ドクターヘリ用に用意されたヘリパッドだけに
より重量のある軍用機の強行着陸は避け、ホバリングで屋上へ降り立つ。
ジョン達、兵4名そして我々3名を下ろすと指示通りにチェロとトライデントを
機内に残したUH60は上空へ退避した。
私はM4のセーフティを解除し、屋上の扉前まで一気に走り寄り扉に手を当て
中の様子をうかがう。Mk14を携えジョンが私のすぐ後ろへたどり着き肩に
手を置いた。アヤメとシラユキも後に続き、扉を挟んだ向かいにパラミリ三名
が同じ様にサイレントエントリーの体勢につく。全員の準備が整ったのを視線で
見回し確認すると皆一様に頷いた。
ゆっくりと扉を開けると、中より散発的な発砲音が聞こえる。
時計を確認すると残り時間三時間と二十数分、いよいよ猶予もない。M4を構え
何者かが襲撃しているその只中へ潜入しようとしたその時、ジョンが肩をたたき
ハンドサインで先行すると伝えてくる。私はそれに頷くと、ジョン達パラミリは
手慣れた動きで施設内にステルスエントリーを開始した。
一拍置いて、私はカキツバタの二人を引き連れジョン達特殊部隊の後を追った。
≒
屋内に侵入すると、すぐさまエレベーターホールに出る。電源が落とされて
いるのか屋内は暗く、非常用発電で優先的に電力が回されているエレベーター
や非常灯、そしておそらく生命に関わる機器だけが機能しているようだ。
手練のジョン達はエレベーターには目もくれずに横の非常階段をゆっくりと降りて
ゆく。しばらく明かりの落とされた非常階段を進むと、非常口を示すグリーンの
光の元でジョン達が立ち止まり私の到着を待っていた。ジョンが壁を指差すと
そこには避難用見取り図が貼られている。
一般的な医療施設に習った間取りだ。屋上にヘリパッド、ヘリからの緊急搬送に
アクセスの容易な四階にICU及びその他緊急手術室、三階には入院用と思しき
病室が多数、そして二階には手術室がいくつかとレントゲンやCT、MRIなど
放射線科の検査区画がある。美咲の外科手術を行うにはこの場所しか無いと
悟った私はM4のレーザーポインタで二階を指し示す。
ジョンは一つ頷き再び兵とともに非常階段を降りはじめるた。
私達も一拍置いて彼らの後を追った。
♣
ヘリから降りた辺りで大人たちの雰囲気が一気に変わる。ヘリに乗り換えた
辺りから彼らの口数が減って、いよいよ美咲の囚われている場所へ近づきつつ
有るのが、ピリピリとした張り詰めた空気で否でも応でも感じ取れる。
それはまさしく【狩る者たち】のそれで、最後尾の兄様も仕事時の
【鬼を狩る者】へと変わっていた。
わたくしはそんな彼らに対し、悔しいけど気後れしてしまう。
使い慣れた得物を失っているというのも勿論あるしかし、一番この心を締め
付けている感覚は、間違いなくあの牧場での一件だった。
お姉様の槍を手にしたあの感覚。無敵にも思えた力の本流それが今や、弱々
しく吹けば消えてしまいそうな灯火にも思えた。自分自身の力がいかに儚い物
だったかを今となって痛感する。
でも今この前にいる男の背中を見つめていると、最初に相馬と相対した
時のような不思議な感覚にとらわれる。病院特有の匂い、そんな中で見た
あの強い意志を秘めた眼差し。時折見えるエメスの横顔から覗くその瞳も
まさしくあの時見た相馬の瞳のように映る。それが今は何物にも代えて
頼もしく思えて、恐怖に折れそうに成るわたくしの心を支えていた─────
「痛ッ──────」
また? 以前はめまいと酷い時にはめまいに伴う若干の頭痛だったの
だけれど数十秒耐えればその痛みは嘘のように引いたのに、伊丹に着いた
辺りから断続的に襲うこの痛みはあきらかに別物のように思える。
「アヤメ、大丈夫ですか?」
「平気、チョット疲れが出てるのかも。大丈夫よ兄様先に行って───」
後ろの兄様とポジションを入れ替わり、痛む頭を押さえながら後方を
警戒する。大丈夫、わたくし達を率いている彼は、わたくしと兄様が全力を
持ってしてでも適いそうにない程の手練。そんな彼が近くにいるんですもの。
そう思い心を奮い立たせ連中から借り受けた銃剣を握り直す──────
「──────あ・・・レ?」
連中の後を追って征くエメスの背中。頼りたい甘えたいその逞しく大きな
背中が遠のいていく。必死になって彼に向かい手をのばすが、暗闇の中で彼の
背中がゆっくりと横倒しに──────
≒
非常階段を進む先頭の兵が3Fの非常扉を、静かに少しだけ開き中の様子を
うかがう、直後ジョンがその兵と入れ替わり二本の指を自身の目に当てその指を
私に向ける。静かにジョンの傍らに近づき彼の背中越しに3Fの中を窺い知る
───と病室の並ぶ3Fはまるでソンビ映画のワンシーンの如く、倒れた者達が
点在し白い壁に血飛沫が所々に飛んでいた。
「──────どっちだ?」
「黒服の方」
小声で最低限の情報を伝える。なるほど三沢で交戦した連中の多くが道警
SATだったのを思い出す。四課の連中の多くは端から三沢強襲に参加せずに
美咲の跡を追っていたと云う訳だ──────。
おそらくジョンとロイが目標の少女達を連れ二手に分かれた際に
村瀬はチェロを。クロサキ率いる四課はロイと美咲を追跡したということだ。
村瀬が監視し追尾しているチェロが、クロサキ達が強襲したこの場と
重なった。此方の動きもいよいよ筒抜けとなった今、恐らくは全力で此方の
思惑を阻止しに掛かるだろう、いよいよ鉄火場だ。
先行の兵が再び2Fに向かい歩みを進めた。私もジョンの後を追いらせん
状に非常階段を下り征くと、いよいよその扉が見えてくる。一般的な手術室
があるこのフロアに間違いなく襲撃者のクロサキは居る。安否は定かでは
無いが美咲もこの扉の向こうに居るはずだ。
兵が扉を素早く確認し、トラップの可能性を否定した。直後ジョンは握り
拳に鈎状にした指を当て素早く引くハンドサインをしながら私を見る。
私が頷くとほぼ同時に兵が扉をあけフラッシュバンとスモークを投げ込み
素早く扉を閉ざす。一秒立たずして二度小さな破裂音がしたのを合図に
ジョンとパラミリが2階のフロアになだれ込んだ。
「行くぞお前たち私の背から離れるなよ!!」
粘度の高い煙が広がる中、ジョン達を追ってエントリーすると
すぐさま私の能力が発動し、視界がモノクロになる。非常口付近を張っていた
四課の黒子を、兵が見事な手際で次々に無力化しながら進み、フロア中央を
目抜きに貫く廊下に至る最後の角に差し掛かる。
先程と同じ様にフラッシュバンとスモークを角の向こうへ投げ込み、一瞬角に
伏せた後、立ち上る煙の中へ一人また一人とM4を構え中腰の兵たちが消え
同時にサプ付きの独特な射撃音が響く。
角に続く壁に張り付いていたジョンが此方を見て頷く。私もそれに呼応し
突入する。───が、先を征くジョンが煙る角に消えた直後、先方の兵の一人が
角から紅の帯を頭からなびかせ倒れ込んでくる。咄嗟の出来事に目を丸く
しながら思わず立ち止まる。
「HeFREEZE!!」
ジョンのその言葉に、私は角で立ち膝になり銃を左に持ち替えて角の向こうを
俯瞰しながら倒れてきた兵の首筋を指で確認するが額を撃ち抜かれ既に事切れて
いた。先発したもうひとりは廊下の先で腹を抑えながら血溜まりの中で倒れて
いる、もはやこの場で唯一の戦力となった残り一人はフロア中央手前の壁に張り
付き、敵と思しき人影に立膝でM4を向け照準していた。
ジョンはフロアの中央の看護ステーションの奥に対峙する人影に対し、廊下の
中央でMk14を放り投げ両手を上げる。クソッ! 最悪だ、この状況もそうだが
三沢で初めて見たジョンは銃弾を全く恐れていなかった。
戦士としての死生観を見出した者特有の動き。死に場所は常に自分の足元に有る
弾が当たる時は当たる、その覚悟が既に完了した状態。
奴は最後の賭けに出ている、角から飛び出すタイミングを見計らっていると
煙の中でアヤメが居ない事に気づく、なん──────だとどこではぐれた!
「シラユキ! アヤメは、妹はどうした!」
「後ろに──────なっ!」
「この状況だオマエの刀の出番も暫く無い、探しに行け」
「──────クッ、恩に着ますエメス」
悪い方向に場が流れているようで目眩がする。非常階段へ消えゆく蒼炎刀の光
を見送り再び、フロア中央に意識を向けた。
「──────離せ! 離しなさいよこの、サンピン!!」
「美咲ィ!!」
「えっ───ウソ、ソーマなの?」
美咲だ間違いない、間違えようもない美咲の声。私はその声に不覚にも
その名を叫んでいた。
「ほう、そうかオマエだったのかエメス。一足遅かったな、捕まえたぞククク」
声の主はあきらかにクロサキの物。しかしその口調、不愉快な
テンポとピッチの声質は紛れもない、奴───村瀬の物だった。
「Shit! He出てくるな───ッタク!」
「そうか、もうひとりの少女も連れてきたのだな。結構、よくやったエメス」
両手を上げたジョンの横に並び立ちM4を照準、遂にその悪鬼と対峙
する。フロアに充満した煙が医療施設の強力な換気システムによって徐々に
薄まり、遂にはその姿が顕になる。クロサキ──────
奴は事もあろうに右脚にギプスを巻いた術後の美咲を正面に抱えあげて
盾にしていた。そして右手で美咲の頭に銃を突きつけ左手にはM4を腰溜め
に構え、此方に睨みを効かせていた。その瞳を支配の色に赤く光らせ
ながら─────
「これで必要な駒は全て揃った。ご苦労だったなステイツの諸君」
その言葉と共に、奴の構えたM4からマズルフラッシュが上がり、隣で
両手を上げていたジョンが右に左にと衝撃を受け、紅霧の咳をしながらに
その場に崩れ落ちた。
「ジョン!!」そう叫び彼の傍らに片膝を突く、その弾の多くはプレート
チェストに阻まれ急所を免れていた。咄嗟に肌の出た彼の首筋を掴んだ
のが幸いした。
「───村瀬ッ! アンタ遂には人に憑依する術でも得たってのか!!」
「美咲ッ! 絶対にその脚地面に足を突くなよ、いいな!!」
クククと不快な笑いをしながら奴は続けざまに、壁際に身を隠して
いたジョンの最後の部下に向け、凶弾をフルオートで全て浴びせる。
彼は力なく片膝のままパタリと横倒しになり赤々とした血溜まりが
彼の下に即座に広がった、クソッなんて状況だ!
「おっと、弾切れのようだ。美咲くん入れ替えてくれたまえ」
「この通り、両手がふさがっているのでね──────」
「お断りよバカ! さっさとアタシを離して自分でシゴいてみせなさいよ!」
気が強いのか、記憶にあるように只の馬鹿なのか判らんが、この期に及んで
敵を煽るようなマネは止めてくれ頼むから。
「美咲、今は言う通りに──────」
「だいたいアンタも誰ッ! 命令しないで!!」
そういえば初対面だったな。それはさておき、美咲の言う通り奴が美咲を
離しでもしたら術後の脚を痛めかねない、場合によったら二度と立てない体に
成っちまうんだぞ。
「美咲ッ! 頼むから、今はおとなしく従ってくれ!!」
「なによ──────。わ、わかったわよ」
美咲はおずおずとクロサキの持つM4の弾倉を入れ替える。
「さて、楽しい再会もそろそろ終いだ。最後に何か伝えておきたい事はあるかな」
美咲の影に隠れながらに、クロサキは美咲のこめかみに突きつけたP228の
ハンマーをこれ見よがしに起こした。
「クロサキ、いや村瀬サンよ。アンタココまで事を大きくして逃げ切れるとでも
思ってるのか? ステイツはおろか、世界中を股にかけるCASINOにも追われる
ことに成ったぞ」
村瀬はかつて、私や相馬の能力でもある不死の力の一端をを有していた。
だが能力が宿る先である肉体を消失した事によって、奴が有していた力は
すべて無に帰った。
対峙するクロサキがずっとあのヘッドセットを付けているのは、村瀬の声を
聞き続けるためにほかならない。村瀬の指示を仰いでいたとクロサキは
思っていたんだろうがな、クロサキは村瀬の声を聞き続けた結果、操り
人形のように村瀬を受け入れちまった。だが奴は能力などこれっぽっちも
受け継いじゃいない。このM4で打ち倒すことも可能だ。
「まもなく、まもなくな屋上にヘリが到着する」
「我はこの娘と共にココを去る、上空にいる我のカタキ
あの娘は葬り去る、いかなる手段をもってしてでもな」
「そいつは残念だったな、チェロは今CASINOのトライデントと一緒だ」
「ほう、ならば容易くは撃ち落とせんなククク」
奴が有していたもう一つの力、支配を司る村瀬の能力、魅了。
その力が及ぶのは、村瀬が生前に直に相対した者と村瀬の演説でも聴いた
者に限られる。道警SATの連中はきっと後者だ、おそらくSAT
設立時に村瀬のありがたい訓示でも揃って賜ったんだろう。
肉体を失う以前に奴と関わりを持ってしまった連中は、奴の声を聞くことに
よって、奴の支配力がぶり返しでもするのだろう。そう、この哀れなクロサキ
のようにな──────
「今の内におとなしく諦めたほうが良いぞ村瀬」
「今ならまだ存続の可能性───」
「聞こえなかったかな? 言っただろう、いかなる手段をもってもと」
「おいそこのステイツの犬。まだ息は有るかね、そのヘッドセットの周波数を
国防省の緊急チャンネルへ切り替えてみたまえ」
「ジョン、奴の話を聞かなくていい! オイ、ジョン!!」
「ゲホッ・・・クソッ、ヘルメス核が!!」
まさか本気で核を? しかし旧合衆国の核はすべて二段階の物理鍵で管理されて
いる。いくら村瀬がセントラルコンピュータに近しい所に居たとて物理的な鍵を
操作できるわけはない、ブラフ──────? いや、奴の戦術にも一理有る。
チェロとCASINO、村瀬にとって消し去りたい主要目標二つが揃って
今ここに──────
そういう事かやられたッ!
「お解りかなエメス君。この国は三度目の被爆によって目を覚ますのだ」
「ヘリでチョロチョロ逃げ回るのを追う必要はない。核の業火がまもなく
京都に降り注ぐ。CASINOの隠れ家共々皆消し飛ぶのだよ!!」
奴はどこまで見越していたか判らないが、ここに私がチェロと共に
来ることを察していた、その上でまとめて目障りな者全てを葬ろうと
云う算段だ。国粋主義の奴にとって気に入らない平和に浸りきったこの国、
平和を享受し、あたかもそれが当然と宣う国民の思想をも含めて
全て焼くつもりだ──────
「つまり、ココでこうして話しているのも──────」
「タダの時間稼ぎかムラセェェ!!」
私はずっとクロサキの隙を狙っていた。美咲を傷つけずに奴を無力化出来る
方法を探っていた。そしてこれ以上無い標的を見出した。怒りを込めて
奴の名を叫ぶと共に、私の意思はマズルフラッシュを伴って放たれる。
それは即座にクロサキの耳を吹き飛ばした。
奴の付けていたヘッドセットを共にして──────
「美咲ッ!!」
辛くも足を着かずにカウンターへ上半身を倒れ込むよう預けた美咲の元へ
駆け寄り彼女を胸に抱く。ひとまずこの状況を好転させる一歩を踏み出せた。
そう──────思ったんだがなぁ・・・
「ヘルメス!!」
今や糸の切れたマリオネットとなった哀れなクロサキから美咲を少しでも
離そうとこのフロア中央のカウンターより、やっとで見つけた姫様を抱きかかえ
ジョンの元に歩みだしあと一歩と云う所で、倒れたジョンがMk14EBRを
匍匐で私に向かって構えていた。
察した私は、美咲をその場に座らせ振り返る。
フロアの中心に円状に囲われたカウンター奥から、赤い不穏な輝きを湛えた瞳を
した影が、美咲に向かい一直線に飛び込んで来る。
その影の向こうで緑色のマズルフラッシュが光るのを、私は己の能力で咄嗟に
掴み取る。
それまで灰色に纏わり付いていた景色が一気に現実の色を取り戻し
背から吹き出していた不死鳥の羽根のような炎の感覚が消え去ったのを感じた。
オレンジ色の弾倉が装填されたM4を構えていたクロサキが、紅霧と伴い
カウンターの奥へと倒れるのを見ながら私は、美咲と飛び込んでくる影の間を
遮るように体を滑り込ませる。
色を取り戻してハッキリわかった、美咲に向かっていた影が紫色の髪を靡かせた
見覚えのある少女なのだと。
銃剣を腰だめに構え走り寄るアヤメを
私は両手を広げ全身で抱き止めた──────




