4-19 壱拾四話 ニアリーイコールアイソトープ 4
「遅かったな、まぁいい」
「後は──────よろしく頼む」
そう一言残し、頭を気取った一番偉そうな黒子がタラップを登り
機内へ消える。続いて一人、もう一人と専用機へ乗り込む中、久坂部という
一番偉そうな雑魚がタバコを咥えたまま片足だけをタラップへ乗せ
わたくしたちを真っ直ぐに睨んでいた。
「────────────」
その久坂部と数名を残して、小型機のタラップが静かに畳まれた。
「フンっ──────! 何かしら? これは」
「あぁ、悪いな、花菖蒲だかのお二人さん」
「──────やっぱ、アンタラは信用ならねぇんだとさ」
靖国で御祖父様の御神霊に御挨拶した後、私達は空港へたどり着いた。
厄払いはしたはずだった。
御祖父様に祖国を必ず守ると誓った。
迷いも捨てたはずだった。
でも────────────これは何?
「アヤメッ!!」
「な、何ッ? ──────ひゃん!」
直後、わたくし達の後ろにブレーキ音を伴って、黒塗りのバンが止まると同時に
その横の引き扉が開き、ガンガンと大きく酷く不快な音が響き渡る。
するとほぼ同時に、私の三節薙刀と兄様のダンヒルが、そのバンの扉に
向かって引き寄せられ薙刀がバンの側面に突き刺さった。
「──────う・・・くぅ」
「き、キサマ等──────、卑怯なッ恥を知れ!」
「悪りぃなお二人さんよ。俺達あんたらとマトモにケンカするつもりはネェんだわ」
「MRIってのは、ビョーキを見つける他にこんな使い方もあるんだよ」
「おっと、お前らがそのビョーキだったか──────? なぁバケモノ」
後ろ手にした得物ごとその磁力で振り回され、わたくしは憐れにも地に膝をついた。
直後、傍らに兄様が駆け寄り、白木刀を横一文字に構え、対峙する黒子たちの
前に立ちはだかる。
「おっと、ヤろうってのか白ラン!」
「燃えてもいないそいつで?」
「ただの木刀で拳銃相手に何処まで持つか試すか?」
「──────あぁ!」
久坂部は、腰から取り出した手錠を指に掛け回しながら、他の黒子が銃を構える
中心、わたくし達の元へと、ゆっくりと歩み始める。
「兄様・・・・・・」
「アヤメ、今は耐え難きを耐え、時を待ち──────」
「御祖父様の御霊、神託を待ちましょう。」
「くぅぅ・・・・・・」
♠
手持ち無沙汰で光の貴賓室を歩き回る私の名を
少女の目に乗り、状況を俯瞰する武士様が突然叫んだ。
「どうしたミスターソウマ!!」
「コイツはチィと不味いことになった!」
「お嬢たちがZeroに囚われちまった」
「なん・・・・だと!!」
「やっぱりな。お嬢達だけじゃなく、Zeroの連中も村瀬が姿を消した事で
自分達の存在意義が揺らいで疑心暗鬼になってやがる」
「誰が敵で、誰が味方か。誰も解らなくなっちまったって事らしい・・・・・・」
「愚か者ッ、冷静に分析している場合か!」
「少女に思念通信を試みる!! いいなミスターソウマ!!」
「あぁ、こうなりゃっちまったら出し惜しみもなしだ、ダニエルッ全力でやれ!」
日比谷 美咲の守護者。狡猾なる作戦の立案者であるミスターソウマの了解を
一応に取った末に、私はアヤメと言う名の少女に思念を飛ばし語りかける。
かといって、思念リンクが成功したとして、少女達を助け出す方法なんて
今は考えも及ばないのだが、そんな物は後でどうとでもなる!
「──────ダニエル、どうだ!」
「今やっているッ!」
(娘ッ! 聞こえるか!! アヤメ!!)
兎にも角にも、こちらの呼びかけに応えてくれない事には、彼女らを手助けする事も
美咲を守ることもままならない。私は必死にPoleSwordの巫女に呼びかける。
(アヤメ!! もうこの際どちらでも良いッ、アオイシラユキ!! 応答しろ!!!)
「──────────────────」
「ダニエル・・・・まさか──────」
「──────クッ、聞こえ・・・・・・ないようだ」
私は絶望に打ちひしがれ、思わずその場にひざまずいた。
♣
久坂部は、わたくしと兄様に手錠を掛け、さらに腰紐でわたくし達を繋ぎ止めた。
「チョット! 何処触ってんのよヘンタイ! この下衆ッ! サンピンっっ!!」
「おっとと、わりぃわざとだ。まぁそう怒んなよ」
「揉まれりゃデカくなるって言うぜお嬢ちゃん」
「──────久坂部、どうだ?」
「あぁ、繋いだぜ」
「久坂部、この期に及んで逃げられては困る」
「自身と娘、少年どちらでも構わん、繋げ」
そう言うと、黒子の一人が久坂部とわたくし達の方へ手錠を放り投げた。
それはわたくし達の手前にガチャリと音を立て、地面を滑るように
久坂部の足元に達する。
「──────だとよ」
「わりぃなニーさん。おれはお嬢ちゃんと仲良しするわ」
そう言うとこの下衆は、わたくしの腕をひねり上げ手錠を掛け
もう片方を自身の腕に掛けた。
「イタッ! 乱暴にしないで! 切り刻んで殺しますわよ!!」
「そんな事言わず仲良くしようぜ、お嬢ちゃん」
「ちっとばかりナマイキな方が燃えるってもんだ」
「久坂部!」
「あぁ、仰せの通りした──────ぜ?」
そう久坂部が仲間の黒子に合図した次の瞬間
連中の手元からわたくし達に向け、一斉に光の明滅が走る。
直後、久坂部は右へ左へとよろめきながら地に崩れ落ちた。
「ガアァ!! 足ッ・・・・・・何処狙ってやがるクソがァ!! 足がッ!!」
「悪いな久坂部、貴様の最後の任務だ」
「そいつらの足枷になってもらう」
「クソッ──────、なにィ?」
「アヤメッ!」
「えぇ、兄様は?」
「無傷だ──────。しかし」
足元に血塗れで転がる久坂部は、見事に膝から下を撃ち抜かれている
引きずって逃げようにも鎖で繋がれた、わたくしの力ではそれも敵わないのは
試すまでも有りませんわ・・・・・・。
黒子たちは仲間の一人を犠牲にし、車より長物の飛び道具を携え
再びわたくし達にそれを向ける。
やっぱりあの時あのタイミングで、あの彼女とあの男が現れた
その事実こそが、御祖父様が託した神託でしたのね・・・
(御祖父様、不遜な孫で申し訳有りません。)
(もし許されるのであれば、わたくしたちも、まもなくそちらに参ります)
「嬢ちゃん伏せろ!!」
「シラユキィ、受け取れッッ!」
その突然な声に、わたくしは思わず何の疑いもぜず従ってしまった。
同時に思わず固く閉じてしまった瞳を、改めて見開き、兄様の方へ向けると
何かが兄様へ向かって中を舞う。
わたくしは時がゆっくり流れるかのようにただそれを見つめた。
兄様はその希望の光を、まるで当然のように、空中でそれを掴み取った。
その希望の光は、あちこち凹みところどころ色の剥げ落ちた
緑色のオイルライターだった。
♠
「クソッ、どうなったんだミスターソウマ!」
「わからんが──────、どうやら主役様のご登場らしい・・・・・・。」
「──────主役? 一体誰だ!」
私のその問いに、ミスターソウマは返答もせずに
ただ唖然とした表情を浮かべ、再び願うよう両手を合わせ、彼女の視線に
戻っていった。
すっかり蚊帳の外に追いやられ、何も出来ず意気消沈した私は
武士様が座るソファーの横におずおずと歩み寄り力なく腰を下ろした。
一方、隣の武士様はというと、時折驚いたように片目を見開き、しかしながら
もう一方の瞳は、まるで片時もリンク先の出来事を見逃すまいと
片方の眉だけを斜めに固く結びながら瞳を閉じていた。
♣
腰紐と私達をつなぐ鎖を、兄様の蒼義刀が溶断し、わたくしと兄様
そして例の男が、空港の車両の影に向かい駆け寄る。
そんな我々に向かい、黒子の連中がライフルを連射し、わたくしたちを決して
逃さんと追撃を重ねる。
兄様はすり足で後退りしながら、剣を振り回す乱舞で奴らの放つ銃弾を切り落とす。
かたや駆けつけた例の男は、黒い銃を片手撃ちで奴らに応戦しながら、現代的な戦闘服の
上に薄いトレンチコートを羽織り、私の手を握りしめ障害物となり得る
空港特有の四角い大きな車両に向かう。
男は、腕や手首ではなく、わたくしの手をしっかりと握った。
その男の温かい手そして、わたくしが見上げるその横顔と瞳は
やはりあの男に似ていた。
「──────アンタ、まさかソーマの双子の兄とか、そんななの?」
手を引かれながらそんな事を語りかけた時、わたくしの横顔めがけて
信じられない速さで彼の手が伸びた。
「ひぅ──────!」
「兄かって? そうだな、今の歳だけで言えばさして変わりはない」
「出来れば、せめて弟って言ってもらいたかった──────かな」
そう云う男の手は、私の顔の直前で固く握られていた。
ゆっくりと開かれたその手から、3つの小片がこぼれ落ちた。
その直後、なんとか車両の影に到達し、車両の角からオレンジ色の火花が舞う中
少し遅れて兄様が滑り込んできた。
「怪我はないな、シラユキ!」
「・・・・・・」
「──────ダンマリか。こうなってもキミは、まだ私が信じられないかぃ?」
「いえ、しばしお待ちを──────」
「あ──────、おいコラどこへ!!」
「兄様ッ!!」
兄様はそう言い残し、血振りのような剣の舞を繰り返しながら
元いた場所へ走り戻っていってしまった。
「兄様ッまさか!! 無用な殺生を!?」
「いけません──────。兄様ァァ!!」
「いや待てお嬢ちゃん。シラユキの征く先を見ろ」
「アノままだと動き出したPJの車輪で足を撃たれたアイツが踏まれちまう」
「ったく見上げた心がけだ、クソッ。いいな! お嬢ちゃんはここに居な!」
「このトーイングカーの影から絶対に顔を出すなよ、アイツを連れてすぐ戻る」
そう言うと、ソーマっぽいその男は、コートの裾をマントのように翻し
先を征く兄様を追った。私は兄様とその男を、隠れた車両の下から覗き込んで伺った。
まるで獣のような低い体勢、獣のような速度で、またたく間に兄様に追いつき
兄様を狙う者たちの足元に向け、腰から取り出したもう一丁の拳銃で
今度は両手撃ちを披露しながら敵を牽制──────いえ、圧倒した。
そして二人は久坂部を連中のジェット機、そのタイヤの動線から
引きずり出して、なんとか奴を轢死から救った。
「うぐうぅぅ、テメェ等。な、なにしに来や・・・がった」
「シラユキ、ソイツをどうする気だ?」
「・・・・・・・どうすべきでしょう?」
「ノープラン? ノープランだったのかよ」
「──────って、やべっ!ありゃ・・・・・・M134じゃねぇか?」
「ガキ相手に容赦ないもの持ち出してきやがって」
「オイ、シラユキ! カッチョ良く刀構えて仁王立ちしてんじゃねぇ!」
「ありゃオメェさんでもしのぎきれん、とにかく伏せろッ!」
地を這うオレンジ色の大蛇のような火花が、真っ直ぐに兄様たちに向か合う。
ハラハラしながらその光景を見つめていると、突然タイヤを鳴らしながら
まるで陛下の御料車のような黒く、大きな車が彼らと銃弾の間に割ってはいった。
「エメス様、遅くなり申し訳有りません。お待たせいたしました」
「遅せぇぞトライデントッ!!」
車からオレンジ色の火花が散る中、大きく立派なドアが前後同時に開いた。
「シラユキ!! 乗れッ!」
あの男はその車の助手席へ、そして兄様が久坂部を抱え起こし後席へ乗り込むと
まるで踵を返すようその車は、俊敏な動きとはうらはらに、音も静かに
わたくしの元へ駆けつけた。車体後部を滑らせながら、その助手席が空いたと思うと
そこから伸びた男の手がわたくしの腕を掴み、その車大きな車の中へと引き込まれた。
一瞬の出来事で信じられないまま、わたくし達は絶体絶命かと思われた、その修羅場を
後にしたのだった。
≒
「ふぅ、やれやれ」
「なんとか鉄火場は抜けたが──────」
私はそう言いながら助手席から振り返り、背もたれにM9の銃口を押し付けたまま
後席の、招かれざる客へ視線を向けた。
「ぐあぁ!・・・クソックソッ、い、イテェ」
「フン、いい気味ですわ」
私の膝の上で紫装束の少女が嫌味たっぷりに重症を負った久坂部に言い放つ。
「・・・・・・・」
対象的に、アオイシラユキと言う少年は、思わず助け出す形になった
久坂部の傷口に応急処置を始めている。
「へぇ手際が良いんだな、処置も悪くない」
「兄様は医学に明るいんですの」
「でも本来は、そんな下衆を救ける為の物ではないんですのよ!」
私は膝の上の少女が、今にもその男を呪殺しそうなのをなんとか押し留め
救急セットをグローブボックスから取り出し、後席の少年に手渡す。
「左足は救えそうです。ですが右足の骨が粉砕し、破片が動脈を切り裂いている」
「今、締めているこのベルトを緩めたら──────恐らく数分持たない」
「んだと!じゃぁなんで助けたんだオレを、クソッ眼が!!
眼が見えなくなってきた!!」
「燥ぐからだ、バカ。血圧が下がったんだ、失神したくなかったら怪我人は
おとなしくしてろ!」
「シラユキ、ケースの蓋の裏の赤いニードルペン───、そうそれを奴の太ももに
打ち込め、止血剤だ。次にその青い蓋の奴も打っとけ、痛み止めだ」
「それで幾分まともに話せるようになるだろう」
「クソッ・・・・・なんで、オレがこんな──────」
「おっと、途端にしおらしくなったもんだな久坂部さんよ」
「事の序でだ、教えてやる」
「君等もよく聞くんだ」
「君等を縛り付けていた村瀬、奴は今チットばかり説明の難しい場所にいる」
「感じてるはずだ。奴に従わなければならない」
「そんな強迫観念が薄らいでるのを」
「・・・・・・」
「そしてそれは、久坂部。お前さんやお仲間全員も同じなのさ──────」
「お前さん、四課に配属されて間もない」
「そうだな?」
「──────あぁ。クソッ、なんでそんなことまで知ってんだアンタ」
「今は気にするな、ちっとばかり事情通なのさ」
「続けるぞ──────」
「公安局外事四課ともなりゃ、この嬢ちゃんや、そこの兄ちゃんも所属してる能力者と」
「能力者に対するスペシャリスト、言わば精鋭なわけだが──────」
「皆、有能ゆえ、村瀬という必要悪の箍が外れちまった今、いつ自分が背中を
撃たれかねないか、誰を信じたらいいか分からなくなる」
「究極なるトップダウン組織のいわば性、──────弱点だな」
「そこで本作戦、宮城の目標を押さえる為に、形だけでも保険が必要だった」
「本作戦が、自分をハメる為に仕組まれた偽装なんじゃないかと、皆一様に
疑ってたろうよ。そこで作戦に招集された奴らにとって、自分は狩る側で
狩られる側は別に居る、そういうお題目が必要だった」
「そういう保険がな──────」
「つまり、狩られる側。それがわたくし達だった。──────というわけ?」
「あぁ、組織の歯車ってのはとどのつまり、何処まで行ってもそんな歪なもんだ」
「嬢ちゃん達はチットばかり違う立場だから、ピンと来ないかもしれんがな」
「つまり、宮城で予定されている作戦は自分を嵌める作戦じゃない。露払いと
ばかりに、生贄の祭壇に君等の首を捧げ、これでひとまず奴らは安心して
任務を遂行できるってわけだ」
「・・・・・・・理解不能」
「まぁお前さんは久坂部の傷口押さえてなシラユキ」
「まって、そうまでしてでも押さえる必要が有る訳よね! 宮城にこの国にとって
仇なす敵が居るって訳でしょ? なのに──────、アンタはそんな巨悪を
見逃せと言った。なぜですのよ!」
「あなた達一体何が目的なのよ!」
「なんだ、目標の詳細も動機も知らされないまま、命がけで大立ち回りを
演じてたのか君等は? アヤメ嬢ちゃん、幾つになる?」
「な、なんですの突然!? じゅ、17よ!」
「なら、お前さんのひとつ上の少女だよ、その目標ってのは。傍目から見たら
キミとさして変わらぬ女学生さ。そんな少女を大人が寄って集って狩ろうってんだ」
「大した任務だぜ全く」
「歳なんて関係ありませんわ!」
「この国に仇なした悪鬼、ソーマの仲間なんでしょ!」
「その娘も、アンタも!!」
「やれやれ、村瀬の呪縛が消えてもまだそんな事言ってるのか、お人好しだな全く」
「キミらの御祖父様──────元総理、蒼 清史郎氏。」
「氏を暗殺した首謀者、相馬。そう聞かせれていた、──────だな?」
「蒼 清史郎氏の死に関する真相。君等が聞かされていた登場人物、相馬」
「そしてそれを語る村瀬──────」
「仮にも元総理だ、政界に及ぼす影響力はいまだ計り知れん、そんな有力者を陰ながら
葬って一番得する登場人物はこの中で一体誰だと思う?」
「ヘヘッ、どう考えたって──────む、村瀬しかいねぇ」
「アンタは黙ってなさいなッ!!」
「1994年、近畿地方で大災害が起きた混迷深まる時期の首相。権力を手にしたい者に
とって、これほどの機会逃す手はない。混乱に乗じて政局を打壊するチャンス
という訳さ。たしか、清志郎氏は能力者の暗躍に対し否定的なお考えだったな?」
「──────えぇ」
「先の大戦で使い捨てのコマにされた英雄たち。この国の為にと、その若い命を
捧げた能力者の彼ら。そんな英霊に対し、氏は負い目を感じていた──────
いやもとい。彼ら異能の力を借りずとも、これからのこの国は国民一致の民意
民族性と掛け替えのない文化を持ってして、この国を後世に残すべき。
そう氏はお考えになられたからこそ、今この国にとって特異能力者不要論を
陰ながらに唱えていた」
「幸か不幸か。自身の孫にその能力者が産まれたことで、氏の気持ちは更に揺るぎない
ものとなった。自身の孫を戦火送り出し、矢面に立たせ不幸にするような世に
したくはなかったから」
「──────」
「公安局内の特課設立。つまりその能力者に関する組織設立に、誰よりも確固たる信念と
意思を持ち、反対票を投じ続けられた」
「そんな氏に、煮え湯を飲まされ続けた奴が──────」
「主様・・・・、だったというわけ?」
「あぁ、村瀬は氏を葬り、自身の力が及ぶ議員を籠絡し特課設立法案を通した
はれて念願の四課設立。そして────、自身は国外の異能組織と政治的に
対等以上に渡り合うため、外事一課課長へと上り詰めた」
「結果対等に渡り合っていたはずが、米帝の罠にがっつりハマっちまったんだがな」
「──────」
「大人の話は難しすぎるか?」
「じゃこう考えたらどうだ? 仮に村瀬の言う通り、相馬が氏を暗殺する
動機は何だと思う、私怨かい?」
「当時、一介の捜査科の人間が、一体何のために?」
「──────そうよ! 相馬は能力者の地位を高めたかったのよ!」
「だから・・・・・だから! 御祖父様をっ!!」
「アヤメ。もうわかったはずだ。キミの今の涙がその何よりの証拠だ」
「村瀬の能力、魅了によって信じさせられ続けてたのさ。相馬が蒼 清志郎氏を
暗殺したんだとな」
「──────ッ」
「相馬への疑念が、全て奴の策略だったとして今度は宮城の少女だ」
「彼女の生死を問わず捕らえる作戦、ソーマの残した関係者だと言うだけで?」
「君等の御祖父様の死と直接関係のない、そんな少女を捕らえて陥れる」
「正当な理由なのか、それが?」
「清志郎氏の意思を継ぐ。誰よりも可愛がってくれた祖父の残したこの国を
祖父が望まない力を使ってでも守り抜く。」
「君の一つ上の少女を陥れることが、君等の信じる正義なのか?」
「・・・・・・でも!」
「全て信じられなくてもいい、今はまだ」
「ならとりあえず、逢って話してみたらどうだ、彼女と。同世代、普通の
女学生同士。彼女をどうするかは、きっと──────それからでも
遅くはないはずだ」
「・・・・・・・スン。──────えぇ」
「クッ・・・気持ちのいい話じゃねぇぜ全く」
「オレは結局、アンタラ化物連中のいいようにされただけってか?」
「踊らされ両足撃ち抜かれて、俺はただの噛ませ犬だったって訳だオレは────
オレはただ・・・刑事とし──────て、誰かの役に──────」
「エメス様」
「おい久坂部、しっかりしろ!!」
「シラユキ、久坂部はッ!」
「脈が弱まり始めている。このままでは、長くは持たない」
「蒼 シラユキ!」
「君はなぜソイツを助けた?」
「見殺しにするだけの理由を伴う扱いを妹が受けながらも」
「それでいて自身の命を張ってまで、なぜあの時その男を助けた!!」
「ただ──────、彼の心の色が、澄んでいたから・・・・・・」
「トライデント! 止めろ!!」
「彼に対し、今ここで処することを許可する!」
「承知しましたエメス様」
「なに? きゃぁ!!」
「アヤメ!シラユキ!! 見るな!!」
私はそう言うと、膝の上のアヤメの瞳を手のひらで覆った。
急ブレーキで車を止めたトライデントは、後席の久坂部へと振り返り
その腕から生成した氷のように澄んだ短刀で、彼の太ももより下を
一太刀で切り落とす。
彼の傷口から紅の飛沫が後席に飛び散る。
「うぐあぁ──────!!」
「何ィ!! ・・・・・キサマ! 何をするッ!!」
返り血を浴び、目の前で起きた斬撃に対し怒りを顕にするシラユキを
私は片手で制した。赤々と中を舞うその飛沫はやがて光の粒に変わり、切断された
彼の両足と共に光子となって散る。
直後、意識を失った久坂部の足が虹色に輝きながら光子が寄り集まり
切断された衣服以外、元あったように彼の足が光子によって再構成されていく。
「これは・・・・一体」
「何っ! 何したのあなた達!!」
私の手を払い除けた少女が、兄とともに人知を超えた光景に眼を丸くしていた。
「出血量が多かったから意識が戻るまで多少時間がかかるが、これでひとます彼は安心だ」
「意識が戻れば歩けるようにもなるだろう」
「あなた達は・・・一体」
「言ってなかったか? この国を含む東アジアの平穏を望む者たち」
「人は、そんな彼らを────。CASINOと呼ぶ」
♠
「ダニエル、朗報とばかり言えんが──────なんとか鉄火場は抜けた」
「全員無事だ」
「一体何が有ったミスターソウマ!」
「色々有りすぎて正直オレも混乱してる」
「結果だけ言うとだな──────今、嬢ちゃんの隣にエレクトラが居る」
「彼女がロールスで駆けつけ、全員逃げおおせたようだ・・・・・・」
その話を語っているミスターソウマ自体が一番困惑しているだろう。
出来れば登場を、一番ご遠慮頂きたかった彼女自体が
謎の主人公様に、事もあろうに付き従っているのだからな。
「ミスター、我々はこの後ここで、どう立ち回れば良いものか──────」
「私は結局、カキツバタの二人との思念リンクは繋がらず、戦線離脱」
「貴殿は何が起こってるか、見守るしか無い傍観者に過ぎない」
「このままでは私達は──────」
「ダニエル、チョット待て!!」
「なん!──────これは・・・・・・」
そうとだけ言い残し、ミスターソウマは再び少女の眼となり現場に赴いた。
≒
私は子どもたちに仮眠を取らせた。そのお嬢はと言うと、私の膝の上で今は
静かに寝息を立てていた。
「──────しかし、危機一髪だったな。最高のタイミングでご登場とはね
まさか、この車を取りに京都まで行ってたんじゃないだろうなトライデント」
「いえ、これはダニエル様の迎えが空港に置きの残していたものですが」
「なにか問題が?」
「──────いや、まぁいい。トライデント、そこで止めろ」
深夜の街道、仙台へ向かう東北道の入口付近に車を止めさせた
お嬢を乗せていた膝もしびれてきたしな。
「エメス様、どちらへ?」
「タバコだ、タ・バ・コ。待機だトライデント、俺を置いていくなよ!」
「いいな!これは命令だ!!」
「承知いたしましたエメス様」
なんでそんな絶対服従命令をトライデントに言い渡したのか
自分でもわからないまま、私は車を降り、ボンネットに寄りかかって
ポケットからくしゃくしゃにひしゃげた、日の丸にも似たその包みを取り出す。
ほじるようにヨレヨレになった一本を取り出しそれを丁寧に伸ばし咥えた。
「──────多分、見られちまったな、嬢ちゃんの目を通じてコイツを。」
「ソーマ、アンタ達の出番はもうちょい先だ。無駄に落ち込んでなきゃいいけどな」
「繊細で融通の効かないダニエルさんよォ」
そう呟きながらながらそのJDFRanger'sと紋章の入った古いライターで
火をともした。そしてポケットから革手帳を取り出し
私のオリジナルの本名と生年月日を書き留める。
「ねぇ! あなた。エメスといったかしら?」
助手席でトライデントに寄り掛かっていたはずのアヤメが、車を降り私の横に並ぶ。
「あぁ、まぁ芸名みたいなもんだけどな、どうしたまだ寝ててもいい」
「しばらくは安全だ。それにあまり私に近寄ると煙いぞ?」
「貴方のさっき語った御祖父様の話。もし仮に全部アンタがついた嘘だとしても
昨夜言ってた契約───あれはホントでしょうね?」
「この後に関する二人の処遇か? あぁ本当だ」
「どうだ、引き受ける気になったか?」
「仕方ないわね、わたくし達が必要なんでしょ?」
「力を貸してあげるわ」
「そうか、良かったよ。じゃさっそく、これを見てくれ」
「口に出さずに読め」
「なによ・・・・・・」
「これ! 一体どう言う──────」
「しっかり見たか? ならそれで契約完了だ。よろしく頼むよ蒼 菖蒲くん」
「おっと、言い忘れたことが有る」
「な、なによ?」
「悪いが転校することになるだろう、すまない」
「なーんだ、そんな事。別にいいわ、多分兄様も異存無いはず」
「どうせ心を許せる友人なんか作れずじまいでしたもの」
「それよりどういう風の吹き回しだ? あれだけ私を疑っていたのに」
「あきれた、解らないのかしら? 意外と鈍いのねアナタって」
少女はおもむろにボンネットによじ登るような形で私に整った顔を寄せ
唐突にも私の頬に口づけをした。
「だって、もう報酬の一端を受け取ってしまったんですもの!」
「助けてくれてありがと。おやすみなさいエメス!」
そう言い残し、車内、トライデントの隣へ戻っていった。
私はそのくすぐったい頬を指で掻いていると、車内のトライデントが真っ直ぐに
こちらを見ている、その汚れないエメラルドの瞳で。
「チッ──────、こっち見んな!」
私は走り書いた手帳のページを破り取り、咥えていたタバコで火をともした。
静かに燃えゆくその紙片は、炎を伴って浮力を得、じき白み始める寒空の東京の空へ
高々と舞い上がっていった。




