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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
四章 Y2K RebellioN
69/99

4-18 壱拾四話 ニアリーイコールアイソトープ 3


 先程のあの男、あの声。一瞬ソウマかと戸惑った。

後席に忍び込んだ奴に気づかれないよう、兄様が傾けたルームミラー。

その鏡越しにわたくしは彼の()()顔を確認しようとした。

でも座席の影から時折見え隠れしたのは奴の目元だけだった。

 わたくし達のあり得たかも知れない未来をバカにしながら語りながらも、その瞳は

真剣そのものに見えた。あの病院で女狐と鍔争いをしていたわたくしの傍らを駆け抜けた

まるであの瞳のように──────。


 彼が語った、有り得たかも知れないわたくしたちの未来。その可能性。

兄様は、彼が降りてから一言も口を利かず、ただ合流地点の空港へ至る道へと

車を走らせていた。


「兄様──────、先程の話」


「アヤメ──────、この数ヶ月。同じ年頃の民草と変わらぬ暮らし」

「主の手駒などではなく、一人の“人”としての生活。充実していたか?」


「──────、正直退屈でした」


そう、答えねばならないはず。

だって、わたくし達は同級生たちとは生まれも育ちも、そして何よりわたくしたち兄妹は

この世に生まれ落ちた理由からまるで違うんですもの。


「──────ハズ、ですのに・・・・・・」


「アヤメ、ならば──────」


「兄様、ヤメてよ? わたくし一人ここで降りろなんて言うの」

「さっきの男が言ったように、もし連中が襲ってくるのを私一人で凌ぐなんて無理ですわ」

「もう、どうにもならないの。宿命からは逃れられな──────くっ!」


「アヤメ? またですか?」


「──────ッ、えぇ。でももう大丈夫ですわ」


「なら、準備なさい。もうじき御祖父様の御神霊です」


「えぇ」


 数ヶ月前の普遍的な学生時分から、唐突なめまいが出始めた。

兄様はともかく、わたくしだけに現れ始めたその不吉な前兆。

やっぱり奴らに捉えられた時、あの女狐に何かされたんじゃないかしら?




                      ♠




 ミスターソウマの語る“狡猾なる作戦” を実行すべく時が止まった英大使館内貴賓室で

我々は行動を起こす。が、CASINOの連中や村瀬の息の掛かったZero、そして都を付け

狙っていたステイツ。その中でも私たちの手駒に使える人物。普通に考えてそんな

都合のいい間諜候補(ダブル)など居ない。


 勝算すらも思い浮かばないそんな私にミスターソウマは、予想もし得ない人物の

名を挙げた。ミスターソウマの言うところのZero刺客“カキツバタ”。

例の病院でミスターソウマを屠るために配された2名だ。


彼は言う。

CASINOや他の組織の連中との関わりが極力薄く、且つ。それなりの戦闘能力を

有する、できれば手練。それでいながらエレクトラや我々と出会ったことがあり

我々に対し感情的な何かしらの意思を有する者。そんな人物、考えるまでもなく

奴らの他に居なかった。


 しかし仮にも敵として対峙した能力者。私はそんな彼らを籠絡するのは無理がある。

そしてなにより、寝返ったと見せ裏を掻かれたら元の木阿弥。QUEENに近づけさせるには

危険すぎるとミスターソウマの提案に断固反対した。

そんな私に対しミスターソウマは、私が抗えぬほどの説得力を持って、こう反論した。


「奴らも村瀬のヘイトに抗えず従わされていた。それは間違いない」

「そしてその村瀬が能力者の贄としての肉体を失い、Zeroの精鋭共と同じく、もはや村瀬や

 組織への求心力を失っている可能性は極めて高い」

「ダニエル、考えようによっては──────」

「かつての俺と立場はそう変わらんはずだ。違うか? 」


 私はそんな彼の経験を元にした説明を聞かされ

もはや口を挟む余地など残してはいなかった。


 アヤメとアオイ、彼らを操り仙台に導き美咲を助ける。

ミスターソウマはアヤメと言う少女とあの病院で一度は対峙し、言葉をかわしている。

そしてその際エレクトラもその場に居た。

 つまり少女の目にエレクトラの能力で“相乗り”出来るはずと考えた。

そして実際にミスターソウマは彼女らがCASINOから開放され、今に至る数ヶ月の間の

出来事を彼女の目に乗り一瞬のウチに垣間見た。


「ダニエルさんよ、やはりお嬢と俺はエレクトラを通して縁が結ばれてるらしい」

「だがお嬢さん方も仙台へ向かうようだ。おそらく村瀬の指示でな──────」


「なッ! どうするつもりだミスターソウマッ!」


「どうもこうもない、お嬢さん方が敵として美咲に出会っちまう前に何とかするまで」

「だが──────ダニエルさんよ、悪いことばかりじゃない」

「やはりお嬢は村瀬への忠誠心を失っているようだ」

「おそらく奴からの指示メールを受け取り、その内容を確認した後ケータイを

 壊そうとして踏みとどまった」


「Mr.Mの魅了は消失しかかっている──────と?」


「あぁ、脈はありそうだな──────」


 そうして私達はあの兄妹には悪いが、美咲の守護者として利用させて貰う事とした。

何もこんなまどろっこしいやり方をぜずともQUEEN(美咲)を助ける方法は有るには有る。

一番手っ取り早い方法は、エレクトラ本人をQUEENと出会わせ縁を結ばせれば良い。

そうとなればミスターソウマは彼女の目を、そして私は彼女に助言を与えられる。

 騎士と武士、二人で美咲に対し陰ながら加勢できる訳だが──────

正直、このエレクトラの動向も不透明な部分が多い。


 ロイの忠実なる従者のように振る舞ってはいるが、彼女は彼女の信念に基づいて行動

しているフシがある。そんな不確実さを持つ彼女にミスターソウマがQUEENを預けられない

のも理解できる。私から言わせれば、ロイと共にメキシコでチェロを生贄に捧げ、それ

どころか私を串刺しにし葬った張本人だからな。


どれほど釈明を受けようとも、少なくとも私は今更彼女を信用などできまい。


「よし、仙台へ向け東京を発つ前のお嬢の目に乗った」

「だが、やはりアオイの目に乗るのは無理みたいだ」

「戦闘単位としては、アノ白鞘の方が理想的だったんだがなぁ騎士様よ」

「なにせアノ時、彼が妖精に出会う前にお前さんがショットガンで

 彼の意識をブっ飛ばしちまったからなぁ」


「ほう──────、ではあの時私は、武士様が溶断されるのを黙って見ていれば

 良かったな」


「へっ、とっさにそんな上等な嫌味が言えるほど柔らかくなったとはな」

「俺の知らない数ヶ月で随分成長したようだな──────」

「ダニエルさんよ」


「──────、まぁ色々と」

「では私の番ですね、彼女に思念通信を──────」


「チョイ待ち!! クソッなんてこった!」

「ダニエル、最悪だ──────」

「お嬢たちの前にエレクトラが現れた!!」


 私達は仮にも彼女(エレクトラ)の生み出す精神世界で、彼女の力を借りているに

過ぎない。私達の考えや企みが彼女に筒抜けになっていてもおかしくはない。

まさかエレクトラは我々の作戦を阻むために現れたか


「ミスターソウマ! 今すぐ少女とのリンクを切れ!! 」


「待った!どうやら様子がおかし。」

「エレクトラはこちら(アヤメ達)に接触する様子がないようだが──────」

「なんだ! 隣の白鞘とともにお嬢、手を上げたぞ?」

「お嬢ちゃん達の後ろに──────誰か居るのか?」


「ミスターソウマ! 何が起きている!? 声は──────」

「聞こえないのだったか、クソッ!」


「どうにもできない以上、黙って見守るしかないだろう?」

「ミラー越しに・・・クソっ暗くてよく見えんな、男のようだが」


 ミスターソウマはそう言うと、しばらく彼女の目に乗りエレクトラの動向を見守った。

結果、彼女らはその不審者と何かの言葉をかわした後、その場を何事もなかったように

立ち去ったようである。


「結局───」

「エレクトラはお嬢ちゃん達から数m先に現れた()()みたいだな」


「もしや足止め、──────だとすると」


「あぁ主役は後ろの何者かだ──────、何が起きたかわからん以上仕方ない」

「俺はこのまま嬢ちゃんの目に乗り続けるしかないようだ」


「──────一体何者が」

「それはそうと武士様、婦女子の瞳を借り受けている以上不必要なところは見るなよ」

「紳士的に、いや貴殿の場合は倫理的に──────」


「ひどい言われようだな。でもま、チットばかりは役得がなきゃな」

「──────冗談だよ。そんな目で見るな」


 訝しげな視線を送る私にそんな言葉をかけた後、彼は再び祈るように両手を重ね

その瞳を閉じ一分の希望へ視線を巡らせたのだった。




                      ≒




『───クッ! 前のバイク止まりなさい!! 事故る前に止まれ馬鹿者オォッ!』

「こ、こちら交機202! 連絡の有った対象は依然ノーヘルでC1を汐留JCT方面へ東進ッ」



「クソッ、しつこいな──────よりによって今度は交機のお出ましか?」


 ガキ共に“みんなで幸せになる唯一の方法”をあっさり拒否られた私は、靖国へ向かう

ガキ共より先に、次なる歴史の分岐その可能性となるAdditional Point.へ向かう。

ガキ共と、ガキ共を消そうとする連中をも遥かに追い越す速度で都内を駆け抜け

首都高へ駆け上がった。


 一般道ですれ違ったパトカーの制止を振り切っちまったんだから、首都高に登れば

たちまち出るもんが出たという所だろう。しかも追ってる相手が同じ二輪とも成れば

彼らの闘争心にハイオクタンのガスをブチ込んじまった挙げ句、亜酸化窒素(ニトロ)をドライで

焚いたようなもんだろう。白バイさんときたら完全にキレちまってる。


 深夜だけに一般車両は少ないながら、通行料が割安な深夜帯を利用する事業者の

トラックが多い首都高。片側二車線を左右にヒラリヒラリと障害物(トラック)をかわしながら

ハンドル端に垂れ下がるバックミラーに目をやる。すると数百メートル後ろから

相変わらず私が追い抜いた障害物の側面を、赤々と赤色灯が染めながら高速隊の

白バイが必死に追いすがる。


 そんなお巡りさんにため息を付きつつ、アクセルをさらに握り込むと、メーターの

針が遂に200の文字を通り越す。血気盛んで腕自慢の白バイ交機を気にかけつつ、バック

ミラーから再び視線を前に戻すと、私の前には二車線を並走するよう箱車が行く手を

見事に塞いでいた。


「クッ! 仕方ない、頼むから自慢の腕前で乗り切ってくれよお巡りさんよッ」


 前方に迫る相対速度100Kmの(トラック)に向かいアクセルを更に握り込むと同時に

フロントブレーキを力いっぱい握り、即座にそれをリリースする。すると、前後の車輪は

即座にその接地力を失い、白煙を上げながら悲鳴のような甲高いスキール音が東京の夜に

響き渡る。


 グリップを失った前輪は、なおも前に進もうとする後輪に押される形で横を向き

スリップダウンする形で車体が横倒しになろうと急激に倒れ込む。

直後、後ろタイヤは一瞬にして強烈なグリップを取り戻し俗に言うハイサイド状態を

引き起した。

 二輪車をそこそこな技量で操れる人間なら解るその最悪な事態。

しかも速度はゆうに200Kmを超えている。死を覚悟しないものなどは居ない。


 スッと寒気が背筋を走るとほぼ同時に、肩甲骨から吹き出すそれは焼け付くような

痛みと同時に周囲の空気密度が水中のように重苦しくまとわりつく。

聞こえていたスキール音が、女の断末魔のような高域から獣の唸りのような低域に

波長を変える。


 私はワザと高速ハイサイドを作り出し、オリジナルから引き継いだ能力を発動させた。

車体は今まで左側へとスリップダウンしていた状態から急激に逆向きへと倒れ込む。

その反動を利用し、まるで2車線をジャンプで飛び移るようにトラックと側壁との間に

飛び込み、追手共々行く手を阻む障壁をやり過ごした。


 直後、腕自慢のお巡りさんを気遣って再びバックミラーに目をやる。


『ばっ、馬鹿野郎! 言わんこっちゃない、ジャンキーがッ!!』

「こちら交機202! 交通事案発生の恐れあり場所は──────」


「丸の内から交202! どうした──────応答しろ交202!現状を報告しろ」


 バックミラーに映る白バイが放つ赤い光が、徐々に色を失う中。追いすがっていた

白バイは車体を横にしながら、オレがすり抜けた二台のトラックの手前で

相対速度を何とか殺し、一般的な首都高の流れに戻れたらしい。


「こ、こちら交機202。つ、追跡中の被疑者が──────消えた」




 白と黒で構成された視界の中で、T(トライアンフ)マークが冠されたメーターの針は

ついに限界で高止まり、前後の車輪から白煙を上げながら、私のバイクはまるで氷の上を

滑るかのように右へ左へと、迫るカーブや他車とは逆向きに倒れ込む。


 全てのコーナー、前に迫る全ての他車をフルカウンターの逆向き二輪ドリフト状態で

次のカーブに備え突っ込み、二輪はおろか四輪車両でも不可能な速度域のまま、夜半の

首都高を馳せる。まもなく見える大きなコーナーのはるか手前でリアブレーキを一度

蹴り込んで真横を向いたまま、汐留JCTを滑り抜けた。


 しばらく首都高上をスノーボードのようにバイクを滑らせていると、高速上の看板に

見えてきた飛行機のピクトグラム、その看板が灰色から緑色へと視認できる様、徐々に

周囲の景色が色を取り戻していく。


 私と周囲の相対速度も0に近づくにつれ、CASINOより借り受けたバイクは

不愉快な振動を繰り返し始め、空港西の出口を抜ける頃には、それはすっかり役目を

終えた。

 タイヤはおろか、空冷のエンジンからも漏れ出たエンジンオイルが即座に気化し

白煙を上げやがて何かの火種をきっかけにゆっくりと燃え始める。


(ごくろうさん、んじゃ最後のお役目(陽動)頼んだぜ)


 そう口元だけで別れを告げ、奴らのPJ(プライベートジェット)が駐機する空港内へと

フェンスを乗り越えた。





「なんだ!外で何かが燃えてるぞ!」

「消化器ッ、いや消防へ連絡だ!」

「煙で視界が閉ざされる可能性もある、タワーとグランドにも連絡急げ!!」


 空港の地上スタッフが慌ただしく騒ぎ始めた中、あの時ロイドさんから拝借した

パイプ型電子タバコを咥え、彼らの横をポケットに手を入れ通り抜ける。

彼らはまるで、私がそこに居ることが解らぬとばかりに私の傍らを駆け抜け、中には

私にぶつかるような動線で駆け寄ってくるのを、慌てて避ける。


( おっとと、忍法 隠れ身の術ってな )


そうして私は彼らがチャーターした専用機の傍らまで難なくたどり着いた。


「なんだ?! 外がすいぶん騒がしいな」

「あぁ、なんか車両火災らしいな」

( なん!どっから出てきやがったコイツ等! )


「イデッ! 何だよ突然!!」

「はぁ、何もしてねぇって」


「あの娘の事まだ恨んでんのかよ!」

「バーカ!オメーが勝ち取ったんだろうが、そこまで女々しかねぇよッこの色男ッ!」


「あぶねぇ・・・ あ──────」

 すれ違いざまに肩にぶつかった整備員らしきふたり組、よろめいた末に思わず赤いタグが

ぶら下がる細い管を掴んじまったが、こんなに脆いとはな。ま、見なかったことにしよう。

おっと──────、黒子の皆々様のご到着だ。


 ガキ共より先に先発したZeroの面々が黒塗りの車で次々に現れた。

連中にこの仕掛(隠れ身の術)は効かない。私は駐機エリアの物陰に身を潜めた。


あとはガキ共の到着が先か

我らの誇るトライデント様のご到着が先か。


「昔から──────、鉄火場は好かんのだがなぁ」


位置についた私は、手に取るM9の装弾を確認しながら、後者を祈るばかりだ。




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