4-14 壱拾三話 不穏なまなざし4
エレクトラが生み出したとされる精神世界で、私はその男と再び出会った。
ミスターソウマ彼の時間は、二ヶ月前その消息を絶ってから、数時間しか経過していない
らしい。つまり、彼と私の体感時間は、約二ヶ月ほどズレが有るということだ。
要約するに、やはり此処には時間という概念がないようだ。
だがだからといって、悠長に構えているわけにもいかない。私達が守るべき少女
ミサキに危険が迫っている。私達はこの彼女に最も遠き場所から、一体どうしたら
彼女に迫る驚異を退けることが出来るのだろうか考えていた。
光子で再現された英国大使館貴賓室を、手がかりを求め歩き回る私を気にもとめず
ミスターソウマは長椅子に座したまま膝に載せた肘の上で両手を組み、目を閉じ祈る
ように佇んでいる。
「・・・・・・、ダメだ」
「美咲に意識を重ねようにも」
「串刺しにされたお前さんを見たようなイメージが頭に浮かんでこない」
「イメージ?」
「あぁ、お前さんが串刺しになった時の状況だ」
「言ったろ? お前さんが死ぬ所を見たと」
「──────パパに向かってオレが貸し与えた1911をブッ放し」
「赤く染まるお前さんの視野、お前さんは胸から抜き出た透き通る槍を掴み」
「振り向くとそこにはこの城の長。赤毛の彼女が居た」
「あの時か」
「・・・・・・・」
「ミスターソウマ、一つ疑問が浮かんだ」
「貴殿はエレクトラが私を貫く際、私に警告を与えることも出来たのではないか」
「もしくは──────エレクトラを止める事が出来たのではないか」
「都と逃げる時、お前さんがヤッてみせた思念通信みたいなものか」
「待ってろ、試してみる」
そう言うと、ミスターソウマは再び祈るように、精神世界へ思いを馳せた。
そしてその世界で見た映像を、私にも分かるように解説を始める。
「お前さんが部屋に入ったぞ。たしかこの後・・・・・・・」
「あぁダメだ。見事に死んだ」
「お前さん、全く聞く耳も持たず、パパに銃を放って、ママがブスリと
お前さんを串刺しに。お前さん血を吐きながら彼女を見てる」
「──────聞いていて気持ちのいい話ではないな」
「よし、もう一回」
「──────ダニエル 撃つな!! 逃げ・・・・・あぁ」
「やっぱりダメか。また死んだ。何度見ても華やかだなぁ」
「光の粉になって爆ぜたぞ」
「すまないミスター頼む、もうやめてくれ」
彼の視線の中で、何度も絶命する自分を想像すると、そう言うしか無かった。
それに、ミスターソウマは私が絶命するのを、何処か楽しんでいるようだしな。
「──────そうか、なるほどな」
「お前さん、聞く耳を持たないんじゃなく、俺の声が聞こえないんだ」
「なるほどな、俺が見ている世界の音がないのはそういう事か」
「あの時、お前さんはどうやって俺に思念を飛ばしたんだ?」
宛もなく室内を歩き回るのを止め、彼の隣に腰を下ろす。
「どうやって──────?」
「エレクトラが私に語りかけてきた、そう頭に直接」
「私はそれに答えるよう、無意識に──────」
「──────特段、何かを意識したわけでもなく、か」
「俺達をココに呼び出したこの場を統べるエレクトラ」
「そして召喚の際彼女が使った、俺達の感情というファクター」
「彼女の力を借り受ける要素が怒りなど、感情の強さだとするならば──────」
「ココに来る直前、美咲に引っ叩かれたお前さんなら」
「美咲のお前さんに対する感情は強いはず──────」
「お前さんはどうだ、美咲をイメージできないか?」
ミスターソウマに言われるがまま、彼のようにあの少女に思いを馳せるが
私の頬を引っ叩いた少女の気の強い顔と、その瞬間だけが頭に何度もリフレイン
するだけだった。
「──────ダメなようだ」
「脳裏に映るのは少女が私の頬を打った瞬間の記憶だけだ」
「感情の繋がりという要素なら私と彼女より、貴方方のほうがより強いはずだ───」
私は小さくため息を付きながら、隣に座るミスターソウマに手のひらを差し向ける。
「オイオイ騎士様、何のつもりだ? 気持ち悪いな」
「なっ、失敬な! 貴殿の能力のように」
「彼女の思いを皮膚接触で伝搬できないかと、ただ私は!!」
「あぁ、ちょっと誂かっただけだそうマジになるなダニエル──────」
そう言いながら彼は、差し出した私の手に触れようとした、刹那私達の手の平はまるで
磁石の同極を近づけたようにお互いを弾くような力場とともに、お互いの手のひらに凍る
ような痛みを感じて、私達は慌てて手を引っ込める。
「──────ッてぇ! 一体何だ!?」
「──────ッそこの電話と同じだ」
詳しい理屈は定かではないが、先程触れた電話の破片のような感触。
私とミスターソウマの間には、体感的な時間のズレが有る。時間軸が異なる物同士が
混在するこの空間では、時間的整合性のない者同士の接触を阻むような力場が
働いているようだ。
結局、闇雲にあれこれ試していても埒が明かないと理解した私達は状況を整理し、現状を
推理をする事にした。
♠
「あの時車の中で、俺はエレクトラのエメラルドのような瞳を思わず覗き込んだ」
「その時彼女の瞳の奥に、虹のような光の帯を見た」
「それが彼女の視線を借り受ける事になった原因だとするならば──────」
「貴殿のように、私があの時エレクトラより受け取り行使した力は──────」
「伝えたい相手に思念を送る力」
「おそらくはな。俺はエレクトラが“彼女と俺に縁のある者”の視線を限定的に
見ることが出来る。試しに都に思いを馳せてみたが──────」
「白いワンピースを纏い大きな麦わら帽子を風に攫われない様抑えた彼女が
夕日でオレンジ色に染められた白い砂浜、憂いを秘めた瞳で遠くの海原を
眺めているのが見えた」
「都も俺やお前さんと共にあの時一緒に居たからな」
「あれはおそらく都の今の姿だろう。つまり都もまたエレクトラと縁が結ばれている
って事だな。」
「ミスター、貴殿が言うように発動条件が“彼女と私達の”縁というのであれば」
「私が、少女に意思の伝達を行使する条件は──────」
「あぁ、エレクトラと美咲の縁が結ばれなきゃいけない」
「端的に言えば、二人が出会わなければならない──────か」
そう口にしたミスターソウマは、俯き暫く言葉を失った。
私が目の前の彼に託され守護すべき少女。
ミサキは現在、世界中で彼女しか有していない能力を備えている。
それは電子の世界を自由に渡り歩く能力。能力者の出現が予言され、世界中の
unseeableが今現在水面下で血眼になって探している能力者。
今後のIOT社会に於いてそれは文字通り全世界を掌握できる力、いわば
全知全能の神となりえる力だ。
世界の覇権を狙う組織からすればその力は是が非でも欲しい力であり
秩序の均衡を目的に動いているCASINOからすればその力は、人類が触れては
成らない力のはずだ。つまり、目の前の彼が悩み項垂れるように、彼女の存在を
我々の世界で表沙汰にすることがすでに彼女にとって危険なわけだ。
彼女を守護するために、エレクトラと出会わなければならないが
それは同時に彼女の存在が少なくともCASINO側には表沙汰になるという事と同義
守るために危険に晒すという矛盾にミスターソウマは頭を悩ませていた。
「なぁ──────騎士様よ」
「このまま手をこまねいていて、電脳世界に逃げ込んだ村瀬が」
「電脳世界を自由に歩き回る美咲を見出したとしたら──────」
「おそらく、QUEENが発見され捕らわれるのも時間の問題だ」
「だとするならば、僅かだが可能性の有る方に掛けてみるしか無い」
「─────か?」
「それは私が決められる決断ではないミスターソウマ」
「その決断は、彼女のKnightsである貴殿が下すべきだ」
「──────」
「もし、俺たちが想像するサイアクな結果が訪れたとしたら」
「俺はロイドさんやエレクトラ、CASINOを倒さなきゃ成らんだろうな」
「──────そして騎士様。場合によってはアンタもな」
「愚問だ。それこそ王道を征かず、狡猾に立ち回るべきだ」
「そうなんだろ? ミスターソウマ。」
彼は私に今まで見たこともない鋭い眼光を向けていたが、私のその言葉に
へへへと薄ら笑みを向けながらに、一つうなずいた。
◆
Error...
Bad address.
Accessing a corrupted shared library
address not available
Cannot assign requested address.
...Connection reset by peer
......hungup systems.
「ほう、流石に一筋縄には行かないようだなカジノめ」
「だが──────、クックック」
「キミが隠し通していた何かを見つけたぞ」
「一体どんな宝物か、見せてもらおうじゃないか」
「なぁ──────、相馬よ。」
壱拾三話 不穏なまなざし・終




