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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
四章 Y2K RebellioN
62/99

4-11 壱拾三話 不穏なまなざし1

「ねーね・・・?」


「ねーね・・・!」


 季節は駆け足で深まりを見せ、昨日までのような雨も、じき雪へと変わるだろう

11月初旬。ゴンの朝散歩より戻った美咲を探し、お寝坊な子獅子が、今日も毛布を

引きずって家中を練り歩く。


「なしたー?チエちゃん。まーたみっ子と隠れか子かい?」


 婆様がそんな子獅子に、朝餉の支度をしながら語りかけるのを、新聞を流し見ながら

聞いていた。みっ子が聞き間違え、あだ名と言い張った少女の呼び名も、あの若造が

語った少女の本名も、そのどちらも発音できねぇ婆さまは、遂に嬢ちゃんの事を

チエと呼びだした。


「───まったく、せめて呼び名ぐれぇは統一してやらにゃ可愛そうだろうがよ。」


 不安だった少女の言葉の方は、みっ子がこさえた例の髪飾りのお陰で、コッチが発する

言葉は何とか少女の耳には届いているようだが、チェロ嬢ちゃんが覚えた日本語といえば

ねーね、じーじ、ばぁば。それとたまに語尾につく“にゃ”ぐれぇか。とは言え

あの若造がこの娘をウチとこへ預けてまだ数日だ、これからゆっくり覚えていけばいいさね

若造が戻っても、しばらくはウチに居ることになんだろうからよ。


「チェロ! コッチ来な。」


 おらのその言葉にチェロ嬢ちゃんは、恐る恐るおらが座るコタツの方へやってくる。

子供ってのは素直なもんでよ、肌感で誰に甘えて、誰を警戒すべきか感じ取る。

───はずなんだが。おらは、嬢ちゃんにすっかり怯えられちまってる。


 大事な親代わりのダニエル坊やを、出会いザマに思いっきり引っ叩いたのはみっ子の

方なんだがなぁ。当のみっ子は嬢ちゃんに一番懐かれていた。あのなぁチェロ、そりゃ

ちいとばかり不公平なんでねぇのかい?


 新聞をたたみ、戸棚の上のブラシを手に取る、しょんぼりしながら、指をくわえ

おらの脇にやってきた少女を膝の上にのせ、その“ライオンのたてがみ”のような

寝癖頭をとかしながら若造(ダニエル)の話を思い出す。


約二ヶ月前──────


 川崎の操車場跡で若造は対象二人と接触、連れ帰る任を帯びていたと語った。

対象に気付かれないように、対象を追う第三勢力の追手を退けながら、若造は若干遅れて

ポイントに到着、接触する機会を失った若造は、仕方なくその場で射線を確保出来る

汽車の上に登り、ライフルを構えたという。

 そのスコープ越しに見た光景、相馬と向かい合うように、自身をダブルクロスと語った

如月がお互いの銃を構えていた、その横で黄色いレインコートを羽織った小太りの男。

坂崎──────。そして坂崎の頭に銃を突きつける村瀬。


 若造は困惑した。その場で誰に対し引き金を引くべきかと。

そうこうする内、最後まで村瀬の呪縛から逃れられなかった相馬の相棒、如月は命を

落とし、坂崎は村瀬の凶弾に倒れた。


坂崎 美咲、そう、みっ子の父親が、村瀬に殺されちまった訳だ。


 その後、村瀬を追った相馬と若造は、自らが手を下すまでもなく、村瀬の最後を

見届けたらしい。とはいえだ、当の相馬すら生きてんのか、おっ死んじまったのか

解らねぇ今、美咲にこんな話出来やしねぇ。


出来ることならこの俺が村瀬の首の骨をヘシ折ってやりたかったよ。


 結局、おれや相馬が守るはずだったうちの一人を、オメオメ死なせちまったわけだ。

となれば、残された美咲は、何が有っても守りきらにゃならんわな。

おれや相馬の信念にかけて、絶対にな──────。


「そぉら、出来たよチェロ。」

「これで見違えるぐらいのべっぴんさんだ。」


「──────ぐ、ぐらしゃすにゃ・・・じーじ」


 ハァ──────、それともうひとり、この子猫もか。

なぁダニエルさんよ、アンタ何が有っても、無事戻ってこなきゃ───

ゲンコツ一つじゃ済まさねぇぞマッタク。




                ♥




「寒っ! やっぱり暖房の準備も考えないとダメね。」

「───それもそうだけど・・・」

「今のシステムじゃ、やっぱりココまでが限界かぁ。」

「──────はぁ、やっぱりバイトも考えなきゃダメかも・・・」


 ピンク色のラップトップを、蔵の中いっぱいに張り巡らせたケーブルから外す。

入口のブレーカーを落として母屋に戻る途中で、じっちゃんのおっかない声が

朝食を知らせるのが聞こえた。


「はいはぁーい! 手洗ってから行くー。」


洗面所で手を洗い、そのまま掬った冷水を顔に浴び、鏡に映る自分の顔を見る。


 やっぱり何かおかしい。最初はラチェットを連れてきた男の仕業かとも思ったけど

彼が去った後も変わらず、何かがこの辺りを探ってる。

この国の上空高くを、複数飛んでるインテルサット(情報収集衛星)のうち一基が東北上空を通る時間に

限って、臼田の研究所へ膨大なトラフィックが掛かってる。


 それに──────、三沢の()()も最近妙に騒がしい。


「ソーマの失踪と関係ないなんて考えるほうが不自然ね・・・」

鏡の中の頬を両手でペチンと叩いて、居間で雄叫びを上げるじっちゃんの方へ急いだ。


「ねーね!」


「おっはよーラチェッ・・・ト」

「なに、この三編みおさげ!」

「古っ! ダッサ。図書委員長かッ!」

「おいで、結い直してあげる♥」

「ラチェットちゃんは、ロリロリツインテがお似合いよねー」

「ん? 何、トミじぃ。」


「───なんもだ。」

「それよりみっ子、また蔵へ行ってたのか?」

「浮かねぇ顔して戻ってきて、また何ぞ変なことに首突っ込んじゃいねぇよな?」


「別に、そんなんじゃないわよ。」


「──────いいか美咲、相馬探すなと言わねぇ。」

「諦めろなんて勿論言わねぇ。」

「ただよ、アブねぇ橋渡ろうとだけはするな。」

「なにか気付いたことが有ったら、まず先にオラに相談しな!」

「イイな!」


「はいはい、むずこい話はあとあと、汁こが冷める前に」

「さぁお上がり。」


「ベ。」

「べーにゃ!」


 いい香りのお味噌汁をお膳に置くばっちゃんの影に隠れてぺろりと舌を出すと、きれい

な金色の髪を結われながら、ラチェットも真似をしてトミじぃにあかんべーする。

かぁーいいなぁモウ!


 でも──────、相談か。なんにしても、もう少し確証を掴まない限り、じっちゃん

には何も言えない。技術的な事話したって理解されそうにないもの。

それと───、それもそうだけどもう猶予が無い、12月末まで・・・


 切迫しつつ有る期限に、足並みをそろえる算段を考えながら、頭にいくつも青筋

マークを付けた、じっちゃん越しにカレンダーを見つつ、ばっちゃんの謹製の

お味噌汁を啜った。


「──────()ちっ!」






1999-11-02 ...38°18'26.7"N 140°43'04.4"E


.....Access





「ねーね・・・」


「ラチェットちゃん、学校だよ。が・っ・こ・う」

「夕方には戻るからね。」

「じーじがウルさかったら、ばぁばにへっついてなね。」


「みっ子ッ!」


 心配顔のラチェットの手を握るトミじいの頭から蒸気が吹き出すのを

ぺろりと舌を出して往なすと、乗馬用ヘルメットを被り、CT110に拍車をかけた。


「行って来まーす。」


 そんなやり取りをして、山道を下り学校へ向かう。

正直、学校なんか行きたくなかった。例の飛び降り未遂の一件から、先生方の当たりは

厳しいし、部活の方も足のことも有り、顔を出しづらくなって文字通り足が遠のいてた。

 そんな私の心内なんか、知ったことではないよとばかり、OHした110CC改め

124CCのエンジンは、タタタタと軽快なパルスを伴って、私を学校へと連れて行く。

山を降り、最初の信号で知り合いの軽トラが横に並ぶ。


「おぅ! みっ子でねぇか。」

「学校かい?」


「あ、モリのオジちゃん、オバちゃんもおはよ。」

「そう、これから学校だよ、サボるとトミじぃがキレるからー」


「あんましトミを怒らすでねぇど、トミの髪が無くなってしまうで」

「みっちゃん、コレ持ってきな、よーく熟れて甘めど、採れたてだで」


「リンゴだ! オバちゃんありがと!」

「───ん! ホントだ甘い」 


「ホレ、みっ子信号変わったで、気い付けていってきな!」


「ほーい、いってきま~す。」


 山に向かうおじさん達の軽トラと逆に、町の方へハンドルを切りしばらく走った頃、

バックミラーにここらじゃ見かけない雰囲気の高級車が映る。


 薄暗い車内には、サングラスを掛けた男が二人並んで見える。

明らかに怪しい雰囲気だけど、前に一度似たようなことが有った。その時は、どっかの

工場の社長さんの車に一方的に絡み、ボンネットに上がりこんで仁王立ちした怪しい

JKになっちゃったのを思い出す。


 今回も、きっとそんな、気のせいだと思ってたのだけど、ミラーで後ろを気にして

走って居ると、その車の二台後に、同じ車種で同じ雰囲気の車が見えた。


 まさかとは思ったけど、30m先の農道をギリまで引きつけ、ほぼ直角に曲がり

未舗装の細い農道を、競走馬騎手の姿勢で砂煙を上げながら突っ走って後ろを振り返る。


自分が上げた土煙の向こうで、先を行く車が急ブレーキでタイヤを滑らせながら

曲がった農道を通り越し、後の車がドリフト状態でこちらに曲がるのが見えた。


「───まさか・・・ウソでしょ!」


 以前、ソーマからこういう事態にはどう行動するか、耳に()()()()が生えるほど

聞かされてた──────。


『いいか美咲、もし誰かに着けられるようなことが有ったら───』

『わかってるわよ! その場をやり過ごしてトミじいに電話。でしょ!?』

『オマエが本当にその通りにするか、俺は心配だよ──────』


「わたしもそんなの有るとは思ってなかったわよソーマッ!!」


 前を向いてバックミラーに視線を移すと、二台の内一台が、荒れた農道を跳ねながら

追ってくる。後ろを振り返ると、その車の男たちは、必死にハンドルを捌く運転手の男。

その隣で上下に揺さぶられ、サングラスを斜めにしながら、天井とダッシュボードを抑え

激しくヘドバンしてる助手席の男が見えた。


嘘でしょ!? マジじゃん! そう思いながら前を向く、そこには、有るはずの農道が

T字になり、私の前には休作中の田んぼと、その前を横切る枯れた用水路があった。


「嘘ッッ! イヤアァァァァ──────!」





                  ♠





LocalHost login: root


Password: **???????


Error...

Invalid argument.

Invalid request code.


1999-11-01 ...35°12'30.0"N 135°24jsae:ass@???


Error...

Bad address.

Accessing a corrupted shared library


address not available

       Cannot assign requested address.



...Connection reset by peer


......hungup systems.




「ダニエル──────、ダニエル。」

「もう着きます。」


「──────あぁ」


 車での長旅もそろそろ終着だ、見覚えのある山並みの道へと、私とミヤタは

差し掛かっていた。

 車中で私は、これまでの事や、これよりどうすべきか、正直考えあぐねていた。

そんな自分を少しでも落ち着かせようと、彼に習ってメモに筆を走らせていたが

覚悟は有っても答えなど出るはずもなかった。

 そんな時、深緑だけが連なる道の一角が不自然な開け方をし、建設機械や

クレーンの類といった人工物が目に入る。


「──────だいぶ出来てきたな。」


「店ですか? えぇ、想像していたよりずっと立派になりそうです。」


 実のところ、新たな移転先である京都HQ(本部)へ戻るのは初めてに近い。

どの様な取引が何処と取り交わされたのか、山中のほぼ山一つを買い上げ、上物として

英本国の、今や名だけとなったコーチビルダーを買収し、そのアジア本部として

表向きのカーディーラーが建設の佳境を迎えつつ有った。


 ミヤタはその巨大な敷地内へ車を滑り込ませ、建機や建設会社の車両などを縫う

ように車を進める。暫く行くと、その敷地の地下へと続くスロープに差し掛かる。

ミヤタはそのスロープへと車を進め、間もなくその広大な地下へ達する。

地下駐車場には建設途中と言うことも有り、照明のたぐいが灯っておらず代わりに

工事用の移動照明が複数灯っていた。

 そんな薄暗い地下駐車場の突き当りに、車両を転回させるターンテーブルが地面に

設えられ、その付近だけは、しっかりとした照明が灯っていた。

ミヤタはそのターンテーブル上へ車を止める。


「──────ダニエル。」

「私の役目はココまでです。」


「───あぁ、色々世話になったな。」


「ダニエル、相談相手が居なくなっては困ります。」

「くれぐれも無茶だけは──────」


「あぁ、分かっているさ。」

「ミヤタも相棒によろしく───」

「失礼、今は奥方だったな。」


「えぇ、式の招待も出せずにすいません。」


「あぁ、受け取っていたなら駆けつけたさ、たとえ地球の反対側に居てもな。」


私はミヤタに手を差し出すと、彼はためらうこと無くその手を取った。


「では───、ダニエル。」


「ミヤタ。」


 私とミヤタはそんな少ない会話を交わし、私はミヤタがもと来た道に車を滑らすのを

見送った。ミヤタの車が灯すヘットライトが、地上へ向かうのを見届けると、私は両手に

履いた小豆色の革手袋に視線を落とした。


 腰からミスターソウマの.45(フォーティファイブ)を取り出し、スライドを引いて

装弾を確認する。エキストラクターに引かれ、その黄金色の実包が姿を表したのを確認し

スライドから手を離すと、カチンと小気味良い金属音が地下に鳴り響いた。


 ジョンが用意した一流のシルバーピンストライプスーツのジャケットから

漆黒に金で飾られたシガレットの包を取り出し、スナップを効かせ一本取り出すと

それを咥える。


火を灯すこと無く私は、両手の革手袋を脱ぎ、更に地下へと続く重い扉を押し開く。







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