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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
四章 Y2K RebellioN
61/99

4-10 壱拾二話 信念へと続く道 4

同日深夜──────


 ミスターソウマが伝言で語った、ラストダンジョンの長は、やはり彼の言う通り

手強かった。私は取り付く島もなく長に追い返されるものと思ってはいたのだが、

どうやら私から何かを察してもらえたようで、明日改めて話を聞いて貰えるそうだ。

一先ずは及第点、といった所か。


 私は彼が手配してくれた部屋の窓際に設えられた、籐編みの椅子へ腰掛け

海沿いの夜景を眺めながら、明日Mr.トミヤマをどの様に攻めたらよいか考えながら

JDFと紋章の入るライターに視線を落した。

─────そうだな、このライターの持ち主がしていたように、まずは今日の

出来事を整理しよう。そう思い、彼との会話を思い出しながらメモにとり、頭の容量

を開けることにする。



 Mr.トミヤマ。ミスターソウマやクイーンの事を、彼は言葉巧みにはぐらかしては

いたが確実に知っている。彼はミスターソウマと共に、クイーンを守護する者なのは

間違いないだろう。私がそう確信したのは、二人の写る写真を彼に見せる前に、クイーン

が少女だと自ら語ってしまっていたからだ。おそらくは無意識だったのだろう。


 それともう一つ、ミスターソウマの車で突然乗り付けた私達を庭へ通し、私の話を

聞いたことだ。突然現れた私達を玄関先で追い返すことも出来た筈だが、彼は私の話を

聞く体でミスターソウマに関する状況と、私がクイーンの事をどこで知ったのかを言葉巧み

に聞き出した。

 Mr.トミヤマが本当にミスターソウマやクイーンを知らない者であれば、よほどのお人好し

でも無い限り、見ず知らずの異国人の事情にそこまで関わることもしないだろう。

彼は関わらざるを得なかった──────、そういう事だ。


明日はこの辺りの矛盾点でMr.トミヤマを攻めることにしよう。



 Mr.トミヤマ。彼は見知った車で突然現れ、その持ち主の行方を知るだろう私から彼の

状況を聞き出した際、一瞬だが激しい殺気を纏った。おそらくは私がミスターソウマと

クイーンを狙う者ではないかと疑ったのだろう。


 相手の懐に飛び込み相手にカマをかけて語らせる、仮に相手が馬脚を現し敵と判れば

その時対処する。なるほど──────、彼はミスターソウマの戦術を一枚研ぎ澄ましたか

のようなこの手腕。Mr.トミヤマからは、どこかミスターソウマのセンスを感じる。彼は

おそらく年齢的にミスターソウマの師に当たるような人物なのではないだろうか。

そう、まるで私とロイのように。


ロイか──────。


 ロイは私が日本へ戻っている事も当然承知だろう。コレばかりは、どれほど私が巧みに

この身を隠そうが、あの妖精王(エレクトラ)が隣に控えている以上、筒抜けとみて間違いはない。

事ここに至った上で、私に追撃の手が掛かって居ないのは、彼等(CASINO)は私を敵視していないと

おおよそ理解できる。が、ロイとエレクトラが、わざわざメキシコに現れ、今客間の布団で

寝息を立てる少女を生贄にするような真似をした真意だけがいまだ理解できない。

これ迄、正義のためと疑わず、師と仰いでロイに従ってはいたが、この一件だけは

私は理解も納得も出来ないでいる。


ロイは──────、CASINOは一体何を企んでいるのか?

彼等は果たして、私をこのままLordlessの身に置いているだろうか?


手帳を閉じ、視線を窓の外へ移す。

何気なく夜の水面にに映る月を眺めていると、宿の駐車場に、夜の闇と相反する色の車に

目が止まる。主人の話によると、もう一方の泊り客の持ち物だろうことは、安易に想像

できたが、そのナンバーを確認した瞬間、背筋にビリっとした戦慄が走った。


「川崎 わ 25-873──────川崎ナンバー・・・だと?」


 その瞬間に思い出す。梶が谷のホテル、住宅街の寂れたあの宿にも、私達の他に

泊り客が一人居た。偶然にしては出来すぎている。想定はしていたが、やはり何者かに

付けられていたということだ。私は、寝息の主が蹴った布団をその肩まで掛け直し

テーブルのシガレットとミスターソウマの置き土産、フルタングのナイフを素手に

握りしめ、表の白い車を確認するために宿を出る。


 非常口と記された緑の明かりを頼りに、宿の裏口より駐車場まで、低い体勢で

一気に詰め寄り、車のリアバンパーへ身を隠す。車内の気配を確認し、そのままサイドに

回り込み車内を見渡すが、簡素な作りの車内にはコレと言って追手の手がかりになるような

ものはない。ため息がこみ上げ、鼻を一つ鳴らして体外に追いやったその時──────、

中腰の私の肩に手が置かれた。


「──────!?」

「フッ!」


「だ、はっ!?・・・ぐわぁ!」


咄嗟にその何者かの手を取り、背負投て、その手を後ろへ締め上げ、うつ伏せに地面へと

抑え込む。


「──────だっ、ダニエル!!」

「私です! イテテテ」

倒した男が私の名を呼ぶ、そう、私は彼の声には聞き覚えが有る。


「ミヤタか?」


「そうです! お願いです、離してください腕が折れてしまう!」


「いや、まだだ。ミヤタ、ずっと私達を付けていたな?」

「訳を聞かせてもらおうか?」


「──────いっ、テテテ。訳って・・・・・・」

「貴方もお分かりでしょう?」

「帰国後帰還せず、連絡も無く出奔されては追跡もされますよ。」

「今回、追跡役が私だったということです。」


「───それだけか?」


「それだけ──────?」

「一体何を。私はロイド様から貴方を連れ戻せと命じられたまで」

「それ以上も、それ以下でもありませんよ。」

「私達Eスタッフ(DEALER)は詳細を何も知らされませんから!」


「・・・・・ふぅ」


 再びこみ上げるため息を今度は堪らず漏らしながら、後ろ手に倒し腕をとっていた

ミヤタの手のひらを掴み、そのまま引き上げると、彼は川崎ナンバーのシェアカーに

もたれ、自身の肩を擦った。


「ミヤタ──────、一人か。私を連行するにしては随分と舐められたものだな」


「待ってください。連行?」


「違うのか?」


「えぇ、私は迎えに来たつもりだったのですが?」


確かに、彼等(CASINO)能力者(Player)を本気で連れ戻そうとするならば、少なく見積もっても

中隊規模の実働部隊か、一個大隊と同格以上のエレクトラを差し向けても不思議ではない。


「ダニエル、冷えます。中で話しませんか?」


 そう言いながらYシャツを直すミヤタは、スラックスのポケットからスマートキーを

取り出し車のドアを開いた。これ以上無駄に警戒しても進展はない。私は開かれた助手席を

無視し後席へ乗り込んだ。察したミヤタも後席の隣へ乗り込む。


「──────連絡もなし、そう言ったな?」

「ロイは私からの連絡を待っていたということか?」


「通常任務であれば連絡して当然です。」

「ですが、その様子では通常とは少し違うようですね。」

「私にはロイド様のお考え──────、詳細はわかりません。」

「しかし、貴方があの日帰国されるとの事で、私は空港へ向かいに行きました。」

「まさか鉄道で移動されるとは思いませんでしたが・・・」


「──────それで?」


「空港に車を乗り捨て、同じ列車で後を追いました。」

「川崎のマンションから貴方が車で現れた時には──────」

「流石にロストしたかと肝を冷やしましたよ。」


「何故今の今まで接触しなかった?」


「ゲーム継続中と思いましたからね。」

「なにせ、少女の事は聞かされていませんでしたので──────」


 彼等ディーラーは、我々が行動中(GamePlay)に基本的には接触することは無い。

訓練は受けていても一般人と変わりない彼等が、うかつに我々のGamesへ首を突っ込むと

無駄に死にかねない、賢明な判断だ。


「──────で?」

「ロイに報告は」


「えぇ、一日二回。」

「ルーチンワーク、いつも通りですよ。」


 すると私の目的までは知らずとも、何かを元に行動しているのは、知られて

しまっているそう見たほうが良さそうだな──────。


「ふぅ、分かった。同行しよう、だが明日夜まで待って欲しい。」

「後片付けがまだ済んでないのでな。」


「───あの少女、ですか?」

「ダニエル、貴方まさか・・・」


「──────何を勘違いしている?」

「里親の候補を当たるだけだ。取って喰いはしない」


「それを聞いて安心しましたよ。」

「ではその様に報告させていただきます。」


「あぁ、手間を掛けさせたな。」


 後席を降り、ジャケットからシガレットを取り出し火を灯す。

追うように車より降りたミヤタにスナップをきかせ、一本取り出し差し向けるが

片手でそれを断ると、ミヤタは私に一礼して宿へ戻っていった。

波音がせせらぐ月の夜の空に、細い紫煙が立ち上ってゆく。


 CASINOを離れるにしても、ロイから事の顛末を聞く必要はあるな──────

再びこみ上げたため息を紫煙とともに紡ぎ出し、短くなったシガレットを宿の玄関先に

設えた灰皿へもみ消し、私は少女の眠る部屋へ戻った。





1999-10-28 ...38°18'26.7"N 140°43'04.4"E




.....Access


緑色の国産クーペと白色のセダンが丘陵地へ続く坂の途中、退避帯に止まる。

二台の車よりスーツ姿の男性二人が下車する。


「この先の民家に住む男に、用がある。」

「──────ミヤタ、ここで待っていてくれ。」

「そのまま消えるなんて事はしない。」

「私の騎士道に誓って約束しよう。」


「わかりました。ですがあまり時間を取れない事も理解してください。」

「私も板挟みは辛いのです。」


「あぁ、了解だ。」


 二台の車がMr.トミヤマ宅へ続く坂道で別れる。チェロと私は再びラストダンジョンへ

赴いた。彼の邸宅が見える頃、垣根の切れ間で門を表現した邸宅への入口に、伝統的な

防寒具を纏ったMr.トミヤマが立っていた。彼の指示通りに敷地内に車を止め、再び強面の

長と対峙する。


「おぅ、宿の方はどうだった?」


「おかげさまで。この子もトラディショナルスタイルは楽しめたようです。」


「そりゃ良かった、ま上がってくれ。」

「宿に負けず劣らずのトラディショナルハウスだがよ」


 そう言うと彼は驚くことに、いともあっさり我々を邸内へと通したのだった。

降雪地帯の古民家特有なのか、広いタタキで靴を脱ぎ私の横にチェロの靴を揃え

若干の高さが有る上がり框を登る。


「お邪魔致します。」


「へぇ、そんな気遣いも知ってるとは驚きだよ──────。こっちだ入ってくれ」


 通された居間には、こたつと呼ばれる暖房器具があり、私達がそれへ入ると

一拍おいて老婆が、私と家主の分の湯気の立つグリーンティ、それに少女のオレンジ

ジュースを携えて現れ()()()来客として訪れた私達を饗してくれた。


「今日は玉露だ、掛け値なしにうめぇよ。」

「とりあえず一息ついてくれ話は────まぁその後だな。」


私は、物珍しさにコタツの中に潜り込み、尻だけを出したチェロの首元を掴んで引き

ずり出して隣に座らせ一息ついた。そしてさっそく本題へと切り込むのだった。


「Mr.トミヤマ、聞いていただきたい事が──────」


「おっと、まぁまぁ、そう()ぐな。」

「とりあえずコレ見てくれ。」


そういって彼は、手にした写真立てを私に差し出した。


「──────!」

「これは・・・」


「あぁ、おめぇさんが相馬の隠れ家から持ち出した写真。そいつが完全版って訳だ」

「昨日は()()()()ような真似をして悪かったな。」

「ただよ、ああするしか無いってのも──────」

「相馬から護衛を任されたオメェさんなら解るだろう?」


「すると───、やはり貴殿が。」


「──────まぁそうなるな」

「なんだ?急に事が上手ぇ事運んで腑に落ちないかい?」

「いいだろう、なら教えてやる。」


 ミスターソウマより授かった彼を落とすパスワードも「そんな酒は無ぇ」で一蹴され

昨日も作戦の立案に遅くまで時間を割いたというのに、どうやら及第点どころか合格点を

貰えていたと言うことらしい。


「おめぇさん。オレに話し聞きに来てから、一度もウソや小細工しなかったな。」

「おらぁよ、アテも策も無いくせに信念だけはいっちょ前で、勝ち目もないのに体当たりで

 向かってくる馬鹿が付くほど裏表のねぇ奴。」

「そういうのが好きなんだよ。」

「それともうひとつだ。」

「おめぇさんその子、アンタの子じゃねぇだろ?」


「──────、仰るとおり。この娘は私の子ではない」


 確かに、ジョンが用意した身分書上は親子になっているが、チェロは娘ではない。

この世の多くの人が送る生活、子を持ち家族と暮らす生活など出来ない世界を私は

歩んできた。彼はそれを肌感で見抜いていたという事なのか?


「まぁ、俺や相馬のような人間のお前さんが、幼子連れて()()するなんざ」

「──────考えられんわな。そんなのは時代劇だけで十分さね。」

「と、まぁ、一先ずお前さんの話を聞いてみたくなった訳だ。」

「その娘。事情有るんだろ? 差し支えなければ聞かせちゃくれないか?」


 私はMr.トミヤマにここまでの顛末を話す。時々グリーンティを啜りながら彼は

一切口を挟むこと無く私の話を聞いていた。一通り話し終えると、彼は私の目を真っ直ぐ

見ながら話し始めた。


「──────この娘、日本語は?」

「いいえ、全く」


「はぁ・・・」

「──────で、お前さんはそのアメリカ人に預けること無く」

「日本につれてきちまった訳か。」

「まぁ、解らなくもねぇよ。ただなこの先の宛がある訳でもなし」

「ましてやこんな家業でこれから人一人護衛するってんだろ?」

「この娘っ子に危険が及ぶって事も考えなかったのかい?」


「──────クッ・・・」


「────ぐうの音も出ねぇか。」

「いいか若けぇの、最後まで責任持てねぇなら余計なことするもんじゃねぇ」

「人っ子一人の人生を、大人の半端な善意で振り回すだけになる。」

「この国じゃな、そういうのを()()と言うんだ」


「・・・・・。」


「まぁ、説教はこのくらいにしてだ。」

「いろいろ考えた末の判断だとは思うがよ、決め手になったのは何だい。」

「おりゃ、それが知りてぇんだ。」


「──────、ノブレス・オブリージュ。」

「持つものの義務です。」


 私は彼の目を真っ直ぐ見据えてそう答えた、すると彼はテーブルの上の写真立てを

手に取りその写真に映る人物をしばらく眺めた。


「持つものの・・・か。」

「おめぇさんもアレだな。正義の呪いってやつに掛かっちまってるのかもな。」


「えぇ。ミスターソウマ、彼からその話は聞きました。」

「そしてこうも言われた。私の騎士道は美しいがゆえに危ういと。」

「そして私に──────、狡猾になれと。」


「ほう、あのアマちゃんがそう言ったかい。」


「こうして今ここ(日本)に居られるのも、彼の助言が有ったからです。」


「──────そうか、奴さんもやっとイッパチの男になってきたってコッたな。」

「なぁ、ダニエルさんよ。相馬に一体何が有った?」


 彼はそう言うと、手にした写真立てを名残惜しそうにテーブルへ置き、私に改めて

向かい合う。私は彼に、ミスターソウマと出会ってからの出来事を詳らかに語った。


「──────ほう、おめぇさんが村瀬を殺ったのかい。」

「そうか、坂崎が──────。」

「それに加え相馬の相棒と語ったあの若造も死んだか。」


「彼の能力、我々は“絶対生存”と呼んでいます。」

「彼が縁あって助けた人々を、自身の力及ばず一度に失ってしまった。」

「直後、相当にショックだったのでしょう。彼は数時間気を失っていました。」

「我々の世界では自信喪失イコール能力喪失」

「すなわち彼の能力がそこで途絶えてしまってもおかしくはない。」

「おかしくは──────ないのです・・・・」


 私はミスターソウマ、ミスミヤコと別れた末の彼等を、そんなはずはない、絶対に

大丈夫と頭の隅へ追いやっていたのだが、新宿のトンネルで別れた時、彼の力がすでに

失われていたとしたら、やはり彼等は・・・・・


「──────で、おめぇさんはアチラ(CIA)さんに拉致られ」

「相馬達の行方も知れずって訳だ」


「──────はい。」


「まぁ相馬の事はわかったよ。で、アンタだよ。」

「おらぁそのアンタ方の力っちゅうのをな、悪ぃが全く信じちゃいねぇし信用もしねぇ」

「だがよ、その場にゃアンタの他に仲間が居たんだろう?そのボスの側近の女がよ」


「──────エレクトラ(ワルキューレ)。たしかに存在していたはずです。」


「アンタもおかしいとは思っちゃいるはずだ」

「その彼女はなんでアンタを助けずに」

「アンタはみすみす敵の手に落ちるようなハメになっちまったのか。」

「ダニエルさんよ、ソコん所どう思うね?」


「彼女のイレギュラーさは計り知れない。我々人間の良識や常識とかけ離れた信念を元に

 行動している。」

「仮に彼女が伝承上の人物で、その伝承が事実だとするならば現世の有能な戦士を見出し

 終末戦争に備え集める為に、彼女は現世に顕現したとも聞きます。」

「ゆえに私は彼女の御眼鏡には叶わなかった──────という事でしょう。」


悔しさから彼に向けていた視線を、大人の話に飽きてコタツで昼寝をしているチェロへ

向けるとMr.トミヤマは私の考察をいとも簡単に否定した。


「そりゃ違うな。おめぇさんチットばかり一流を見縊り過ぎだ。」

「一流ってのはな、私情で動かないから敵味方に関わらず一応に信用できるってもんだ。」

「いいかい? アンタがたのボス、ええとロイドさんだっけか?」

「アンタの言う伝説の女戦士(ワルキューレ)もそのロイドさんには従っていた。」

「──────そうだったな?」

「とすれば、おめぇさんの言う彼女の信念が確かなら」

「こりゃそのロイドさんの謀計なんじゃねぇのかなぁ。」

「おめぇさんどう思う?」


「──────なるほど、そう考える方がむしろ・・・」


「だろう?なら事は簡単だ、おめぇさんがウチの娘の護衛を買って出てくれる。

 有りがてぇ、是非とも 頼みたいところだ。」

「だがその前にそのロイドさんと膝突き合わせて真相を突き止めるほうが先だ。」

「アンタ、気付いていたかい?」

「昨日ここを出る時、何者かに付けられていたのを。」

「なんでも夜中にちぃとばかりその追手と戯れたそうじゃねぇか」


「────ロイの手下の者です。ですが、なぜそれを」


「言ったはずだ、馴染みの営む宿だってな。」

「────ったく、相馬がやっとこさ形になったかと思えば」

「オメェさんも負けず劣らず仕込み甲斐がありそうだわ。」

「まぁそれは置いといて、お宅のボスはおめぇさんを捨て駒に仕立てた訳じゃねぇ。」

「おめぇさんを“成り歩”として使()()()んだわ。」

「ともあれ、俺や相馬やアンタ以外の人間がこの辺りをうろつかれるのは迷惑だ。」

「ダニエルさんよ、あんたまず自分の身辺に決着付けちゃくれねぇか?」


 敵わない。この御仁はやはりミスターソウマの師でありマスター・ディテクティブ

なのだ、状況分析・推察を元に私が取りうるべき向後の身の振り方さえ即断してみせた。

それは私がキューバで目覚め、様々な苦労の末に、つい昨晩見出し決断した答え。

この御仁はその答えを、この数時間で導き出したということに他ならなかった。


「で、問題なのはその娘っ子となるわけだ。」

「まさか連れてくなんて言わんよな?」


この御仁に対して、虚栄やウソは通じない。

なぜならば、彼の頭にはもうすでに最善の策があるからだ。


「Mr.トミヤマ、お願いがあるのですが──────・・・」


「ま、そうなるわなぁ。」

「仕方ねぇ解ったよ。」

「ただし、匿うわけじゃねぇ、こりゃ人質だ。」

「おめぇさん、刺し違えてもなんて馬鹿な真似は許さねぇよ、いいな」

「必ずココへ戻るんだ。」


「──────恩に着ます。」


「──────ただし、条件がある。」


「条件?」


「あぁ、お前さん自身がその子にしばらく別れる事を説明し、納得させること」

「いいか?これは責任だ。方法は問わない、たとえ一時的に嘘をついても構わん」

「その娘の為に成る嘘であればだがな。」


「・・・・・・。」


「何だ?猫可愛がりしてれば、娘のために成るとでも思ったか?」

「勝手におっ死んだ無責任親父(おやじ)の、後釜を買って出たってんなら」

「これっぱし当たり前のことだ。」


 全くもって敵わない、この御仁は正義の王道を言っている。

外野に居るくせに、聞こえの良い一般論だけで人を品定めし、良し悪しだけの正論を

振りかざしているわけではない。それは彼もまた、訳合って少女を身請けしている。

今の私と同じ立場だからこそ出る言葉。私には抗うすべなど無かった。



                ♠



 Mr.トミヤマ宅の玄関で、私は片膝を付いてしゃがみ込み、チェロの目線に合わせて語り

聞かせる。これから暫くチェロ一人でここに世話になる旨を。

先程からチェロは、何かを察していたようで、私のジャケットの裾を掴んで離さない。

それが、私の心を抉る。

 チェロはただ首を横に振り、泣きながら私の話をすべて否定した。

ただこればかりは投げ出す事も他人任せにも出来ない。そんなやり取りをMr.トミヤマは

廊下の柱に体を預けたまま聞いている。彼女の為にと優しさだけで接してきたのが

完全に裏目に出ていた。


 少女の泣き声がこれ以上、何を語り聞かせても無駄だと言わんばかりに全てを

否定する様大きくなった時、上の階より乱暴に扉を締める音とともに、ドカドカとした

足音が近づいてくる。


「んぁ? おいミッ子!上に居ろと──────」


 Mr.トミヤマがその足音の主を静止しようとするも叶わず、ウエーブの掛かった髪を

靡かせ、少女が私とチェロの間に割って入るとほぼ同時に、私の頬に鋭い衝撃が走る。


「──────クッ」


「サッキからだまって聞いてれば、何ぃ?」

「大人の責任なんかアタシ達知ったことじゃないわ!!」

「巻き込んだなら、泣かせるような真似するんじゃないわよバカッ!!」


 私の頬を通り過ぎ、振り切った平手のまま、その娘は私を睨みつけながら怒鳴りつけた。


「じっちゃんもじっちゃんよ!」

「これじゃこの子をイジメてるだけだってなんで気付かないの!」


 そう大人を叱りつけながら彼女は、ジャケットの裾を掴むチェロの手をそっと取り

離させるとそのままチェロを胸に抱いた。



 その後、私はMr.トミヤマ邸の前に迎えにきたミヤタの乗る車に、後ろ髪を惹かれる

思いで乗り込み、玄関先を見つめる。


「よろしいですか?」


「──────あぁ、出してくれ。」


 固く握りしめた手で涙目を拭うチェロのもう片方の手は、私が守護すべき少女が手を

つなぎ変わらず私を睨みつけている。その後ろでバツが悪そうにMr.トミヤマが、自らの

頭を打っているのを走り出す車の後席で見送った。


「なぁ──────、ミヤタ」

「我々大人の責任は、子供達にとって無責任なのだろうか?」

「最善と信じ取った選択が、彼女達を苦しめているとしたら」

「我々大人はどう接するのが適切なのだろうか?」


「──────。」

「出過ぎた話になりますが、一人の大人としての話だと聞いてください。」

「彼女たちにとって最善は、そもそも悲しい思いをする事態を我々大人が起こさない」

「──────ではないでしょうか?」


「・・・・・・。」


「すいません。やはり出過ぎた真似です。忘れてください。」

「ですが──────」

「近い将来、私もきっと貴方と同じ苦悩に直面することに成るでしょう。」

「その時は、どうか私の相談に乗ってくれませんか?」


「無論だ。この経験を糧にしてきっと貴殿の力になるさ」


私達を載せた車は、ハイウェイへ続く道をまっすぐに進む。

すべての真実を知る人物が待つ京都へと車はひた走る。




                    ♥




 床の間の柱に背中を預けたその子は、体育座りのまま口を一文字に結び、何かに

耐えていた。寂しさ?悲しさ?それとも先の不安かな。

さっき玄関で(はた)いた男を私は知らない。ただどうしても重なってしまう。

そう──────、私達に。


 隣の居間でコタツの上に頬杖をついて床の間の少女を眺めていたけど、あの子も

落ち着いてきたみたいだし、日が暮れてきて部屋の中も肌寒くなってきた。

 私はある物を自室へ取りに戻り、再び一階へ降りると彼女の隣に腰を掛けた。

私は自分と隣の子にすっぽり被さるように持ってきた毛布を掛ける。


「ねぇ、あなたお名前は?」


「・・・・・・・」


「私はね、ミサキ。ミ・サ・キ」


自分を指差し、少女に名前を言い聞かせる。まいったな、やっぱり日本語わからない

みたい。


「──────La Chelo(小さなチェロ)


「へー、()()()()()かぁ。いいお名前ね」

「ねぇ、貴方にこれをあげる。」


 私はそう言って、夏祭りのくじ引き屋台でゲットしたネコ耳のカチューシャを少女の

頭に付けた。


「子ネコはね、例え親猫と離れ離れに成っても平気なの。」

「だって、百獣の王、ライオンさんのご先祖なんだもの。」


 そう言った私の目を、少女はつぶらな瞳でまっすぐ見つめながら、毛布の下で私の

部屋着の裾をつまんだ。もう間もなく白く染まる庭から差し込む夕日が、床の間に2つの

影を長く長く映し出していた。






壱拾二話 信念へと続く道・終



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