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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
四章 Y2K RebellioN
59/99

4-8 壱拾二話 信念へと続く道 2


『よぉ騎士様、アンタならたどり着くと思っていたさ───。』


 セルフォンから、先月御苑のアンダーパスで別れたのがまるで

つい今しがたのように語りかける彼。貴方の影を必死に追ってきた私の手が

今、やっと貴方の背に触れようとしている。


あぁ、何とかたどり着いたさ。

地球の裏側からここまで、だいぶ遠回りしてしまったがな。


『これはオレが、陸自時代からもしもの時の為にと───』

『この国のあちこちに用意して来た緊急物資の一つだ。』


『このピッチ(PHS)を聞いてるってことは、バックの中身はもう確認したな?』

『頼りないだろうが何かの役には立つと思う。』

『使うことがないように祈るが、もしもの時は───まぁ使ってくれ。』


『同封のキャッシュカード、中身は好きに使ってくれていい。』

『──────おっとそうだ』

『まさかバックの中身に目がくらんで()()の外身を捨てちゃいないだろうな?』


『バックに縫い付けられた工具メーカーのタグ。』

『ソイツを剥がして見ろ。』


 私は彼の指示通り、真っ赤なバックの外側に縫い付けられた“Snap Tools”と記された

ロゴワッペンを、取り出したナイフで剥ぎ取る。するとワッペンの裏に隠されていた何かが

ベッドの上に座るチェロの隣へぽとりと滑り落ちた。


『──────取れたか?』


『いいか、ここまで謎解きに付き合ってもらったのには訳がある。』

『ま、察しのいいお前さんの事だ、だいたいの予想はついちゃいると思うが』

『──────その通りだ。』


『オレはお前さんが、今一番知りたい事を語れないし、またどこにも記して残せない。』

『おそらく、オレ達が明日向かうアンタ等の言う“約束の地(アヴァロン)”までの道のりでも』

『お前さん一人に耳打ちする機会なんてのも、ないだろうな。』


『明日、俺たちはこの国を立つ。』

『敵の目星は米帝、公安、そして裏社会の連中()()だ。』

『たとえ舞台を引っ繰り返しても、安全とは言い難い旅だ。』


『お前さんに伝えられる最後のチャンス。』

『舞台の幕が上る前に、伝えといたほうが良い気がしたんでな。』

『こんな形だが伝言を残した。』


『騎士様よ──────、悪いがもう少し謎解きに付き合ってもらうぞ。』


 私の口から意もせずため息が漏れ、ベッドに滑り落ちた紙片と鍵を見つめ

ながらにその声を聞いていた。二つ折りにされた紙片には──────


“S-11 dist. ② N↑後ろ 2 1-8 ③”


──────と、記されている。


 先月の彼は、私に最後の謎を投げかけた。回りくどい謎解きだが、その場所の断片を

ライターを託され、このセルフォンへたどり着いた者にしか解けないよう

場所や手がかりの直接表現を巧妙に避けながらも、最後の砦へ私を確実に導いていた。


『──────いいか? そこがオレのセーフハウスだ。』

『そこで()()()()()()()を探せ』


『最後に、ラストダンジョンの長は手強いぞ。』

『もし、交渉に行き詰まったらこう伝えろ。』

『戸棚の奥に酒が隠してある。お前さんと二人で呑んでくれとな。』

『いいか騎士様。そこ(ラストダンジョン)へなるべく早くたどり着け』

『季節が周囲を染める前にな。』


「・・・・・・。」


『さてと───。コレで()()()は済んだ訳だ。』

『それじゃオレは、これから騎士様、アンタに会いに行く。』

『無事にこのライターを受け取ってくれりゃ良いが───』

『警戒心の強いお前さんの事だ、うっかり撃たれなきゃ良いんだがな。』

『まぁ、そっちのアンタも祈っておいてくれ。』

『じゃぁな騎士様。』


『──────頑張れよ。』



『ク ガツ ハツカ ゴゼン イチ ジ ジュウ ナナ フン』

『ピィー・・・ピピ』


 ベッドに座りながら、飽きたように親指の爪を噛みながら

足を交互にバタつかせているチェロの頭を撫でつつ、時の向こう側より

語りかける彼の指示を聞き終えた。5秒経っても自動的に消滅しないそれを

CLRのボタンを長押しして消去する。


「──────なるべく早く・・・か。」

「ミスターソウマ、急げというならば」

「タイムマシンの一台でも用意しておいて貰いたかったな。」

ため息を付きながら、私はチェロを抱き上げた。




 私とチェロは退室の準備を整え、二階のフロントへ向かった。

フロントには日々の残業に疲れきった冴えない支配人が立つ。

その下がりきった目尻の細い目を、輝きを宿した丸い目へと代えながら私達を迎えた。


「ジョンソンさん!」


「支配人。」

「世話になりました。そう──────色々と。」


「いいえ、お役に立てたのなら良いのですが。」

「───それで、ご上司様との“賭け”には勝てましたか?」


「あぁ、一先ず1勝という所かな。」


「そうですか! おめでとうございます。」

「お役に立てたようで光栄です。」


「──────、支配人。」

「私は貴方に謝らなければならない。」

「私達親子は、貴方が思うような人物ではない。」

「それが証拠に、先程貴方から借り受けた鍵は役立てることが出来なかった。」

「仮に私が貴方が思うような役回りなら、あの鍵は見事、閉ざされていた扉を

 開いたでしょう。」

「だが結局、私は鍵を紛失した際の“正規の手続き”を踏んで、このバックを

 取り出したという訳です。」

「騙すような真似をして、すまなかった支配人。」


「そう──────ですか。」


「───ただ、私も少しワクワクさせて貰いました。」

「それと自慢の大浴場とスイーツ。この()も、よい思い出になったと思います。」

「そうだよな?チェロ」


 私のジャケットの裾を掴み、パフェを食べた食堂の方を見つめていたチェロが

支配人に向け咥えていた親指を前へ突き出す。


「───でしたら、私どもは本望でございます。」


 支配人は少年のような表情を、年相応の落ち着いたものへと代え

私をまっすぐ見つめた。その表情は心做しか、今までよりいくぶん前向きに見えた。


「──────支配人。」

「私と娘はこの宿がとても気に入りました。」

「今後こちらに着た際の定宿にさせていただきます。」

「いつかのその時、思い出のこの場所が無くなっているのは、とても困る。」

「どうか、頑張ってください。」


「ジョンソンさん・・・・・・。」

「お任せください。」

「残すだけではなく、きっと貴方に見合ったスイートルームを

 ご用意してお待ちしております。」


 その言葉に私は、彼の瞳を見つめたまま一つうなずいて部屋の鍵を返す

彼は部屋の鍵を受け取り、私に変わりの領収書を差し出した。


 その領収書に記されたリーズナブルな宿代流し見て、フロントカウンター越しに

彼の前にあるモニターを自分へ向る、不思議な物を見る支配人を気にせず

領収書に記された数字と同じ物をモニター内で見つけ、手をカウンター内へ伸ばし

キーボードでその末尾へゼロを2つ付け加えた。


「ジョンソンさん!? なにを!! こんな事いけません!」


「支配人。貴方は昨日、この国の仕来りに私を従わせた。」

「次は私の番です。これは、私の言うなれば───ココロイキです。」

「その代わり──────。」

「わかっているな?」


私は悪い顔をしながら彼にそう言ってクレジットカードを差し出す。


「ですが・・・・・・」

「いいえ、わかりました、お預かりします────。」

「エージェント・ジョンソン!」


精算を終えた私はカウンター越しに支配人と握手を交わし、一路梶が谷駅へ向かった。



                     ♠



~~『バッグを見つけた場所で()()に尋ねろ』~~


 駅へ舞い戻った私は、改札()横の券売所に居る昨日世話になった駅員に向け

ミスターソウマから指示されたように()()場所を聞く。


「あぁ、あなたは昨日の。」

「無事ホテルに泊まれたみたいですね、良かったです。」


「その節は世話になりました、ありがとう。」

「厄介ついでにもう一つ教えてくれ。」


「───えぇ、構いませんが?」


~~『徒歩15分圏内の“イレブン”の場所を、全て聞き出せ。』~~


「この近くのイレブン、徒歩15分圏内の場所をすべて教えてもらいたい。」


このイレブンが何を指すのか解らないままに聞いた私に、彼は当たり前のように

“イレブン”の場所を語った。


「15分ですか───、時間まではわかりませんが」

「歩いていける距離のコンビニ『イレブン』でしたら・・・」

「──────そうだ。ちょっとお待ち下さい。」


 駅員は改札脇の券売所から出てくると、券売機の隣りにあるスタンドから

フリーペーパーの街だよりを一冊取り出し、再び券売所へ戻ってきた。

そして、その巻末に記された、梶が谷の略地図に赤いペンで印を付け始める。


「えーと、ココと、ココですかね。」


「二箇所──────ですか?」


「えぇ、そう記憶してますが・・・」


“S-11 dist. ② N↑後ろ 2 1-8 ③”


革表紙の手帳に挟んだ紙片を見ながら、略地図を確認する。

二箇所、それならミスターソウマが暗号文でわざわざ②と記す必要もないだろう。

そう思った時、後ろから私越しに何度か聞いた声が語りかける。


「鏑木駅長ぉ~。246のマックの先にある元牛丼屋さん。」

「あそこも、春からイレブンよ。」

「まー、ココから歩いて15分で行けるかって言われると、ギリだけど。」


「おいたん・・・・・・おしっこ!」


 足元の少女がモジモジしながらそう言うのを、一言添えたパンク女子の

ミズサトウがチェロの手を引いて、レストルームへ連れて行ってくれる。


ミズサトウが口添えした場所を駅長は新たに略地図へ記す。


「えーっと、ここか・・・・・・。」

「だもんで、イレブンでしたらこの三箇所ですかね。」


「すまない、助かった。」


私は駅長のミスターカブラギに礼を伝え、チェロとミズサトウの帰りを待った。



 駅近くのバーガーショップで遅い昼食を取りながら、与えられた地図から

((S))からコンビニエンス(11)三点間の距離(Dist.)を図る。

チェロの口元から、ケチャップの赤い髭を拭いつつ懐から手帳を取り出す。


 手帳から革表紙外し、ペンを取り外す。革表紙に止められていた“しおり紐”を

ペンに結び付け簡易的なコンパスにして、略地図の駅を中心とした同心円を書く。


「わぁーまんまるまる、なーにそれ! おいたんカッくいいー!!」


 チェロの賛辞を聞きながら割り出したそれらのDistance。

②、つまり駅から二番目の距離にあるコンビニエンス、イレブンが最初の目印だ。



バーガーショップを出て5分弱歩いたそこに“ELEVEN”と記された大きな看板が

見えてくる。“S-11 dist. ② N↑後ろ 2 1-8 ③”

イレブンの敷地に立ち、北を背にした正面。つまり真南が目的の場所だ。


 そのコンビニエンスで、昨日からずっと気になっていた、子供用の歯磨きセットと

軽食それに、私の紅茶とチェロのオレンジジュースを買う。コンビニエンスを出て

沈みゆく太陽へ、腕時計の時針を向ける。

私の裾を掴み、目を擦り始めた少女を抱き上げながら方角を割り出す。


 4時過ぎを指している時針を太陽へ向ける。文字盤の頂点に変わらず有り続ける

12の文字、その中間点である2時の方角が南。つまり私達の目の前にある

あの建物が目的地だ。ペントハウスに向かい階段状へ駆け上がる様な形状。

この国の住居としては一般的に立派な部類に入る、少し古びれたマンションが

暮れゆく夕日にオレンジ色に染められ立っていた。



 エントランスには、外界との境界を取っ手の類が一切ない二枚の大ガラスの扉が閉ざし

地面より銀色に輝く、くの字コンソールだけがそこへの訪問者を迎えている。

 そのコンソールにある鍵穴へ、ツールバックのワッペンから取り出した

鍵を差し込み回すとエントランスの2mはあろうガラス扉が音も静かに開く。


~~『Highlands Farm───.いいか? そこがオレのセーフハウスだ。』~~


“S-11 dist. ② N↑後ろ 2 1-8 ③”


 エレベータで2階に上がり、それを降りる頃には、すっかり大人しくなった少女が

ポカポカと暖かくなり、若干だが重みが増したような気がした。

うたた寝を始めたチェロを抱き直し、()()()()()ある()()()、203号室の前に立つ。


 表札を仰ぎ見ると、そこには高田と記されている。なるほど・・・Highla()nd Farm()ね。

ここが彼の示した第一目標地点だろう。一日中連れ回した少女も限界。

今日は一先ずここまでのようだ。コンビニエンスで物資を調達しておいてよかった。


扉の鍵穴に鍵を刺し、回す。開かれた扉のその先は整えられた室内が私達を迎えた。


 一流よりは一枚劣るものの、二流とまで零落れない家具と調度品の数々。

壁に飾られた抽象画などは、このマンションが立てられた、当時の価格で購入できるだけの

収入がある者ならではの調度品だろう。ここは生活に余裕のある、この国の模範的な

中流家庭の屋内空間そのものだった。


 だがその“模範的”は、あえて演じて飾られたような、出来過ぎた調和で、それは

まるでモデルルームのような不自然さを物語る。その不自然な模範が私に、ここは正しく

ミスターソウマの持ち物だと確信させた。


 普遍的を演じるにしても出来過ぎていて情報過多なこの雰囲気。

ここは紛れもなく裏社会の人間のセーフハウスそのものだった。



 玄関にスーツケースを残し、胸にチェロを抱いたまま、腕を吊っていたアームホルダー

を外し、革手袋を脱ぐ。スラックスの背に差し込んだM1911を取り出し、音がしないように

静かに初弾を装填し、念入れにスライドを親指で押し込む。


 警戒しながら室内全てを見回り、一先ずの安全を確認した後、再び薄暗い

ダイニングへ戻ってきた。ダイニングに隣接したリビングのソファに、一先ずチェロを

寝かせ、脱いだジャケットを上に掛ける。

ため息を一つつき、ソファ前のローテーブルに乗っているリモコンで暖房を入れる。


「──────今晩は此処に世話になるか。」


 ダイニングのテーブルに設えられた4つあるうちの一つの椅子を引き出し腰を下ろす。

ダイニングのライトを灯し、ハンマーをデコックしたM1911を腰から外した

革ホルスターへ収めテーブルに置く。

 明かりに照らされたダイニングを改めて見回すと、生活感の無いセーフハウス中で

逆に不自然な人の痕跡が明らかになる。


 コンロに乗せられた、所々に凹みや焦げがある使い古されたシュウ酸アルマイトの

伝統的なケトル。シンクに残された数枚の皿と缶コーヒーの空き缶が十数本。

リビングとダイニングを隔てる壁際のTelephoneTableの電話から不自然に引き抜かれた

電話線が床に転がる。視線を再びダイニングに戻す途中、足元にくずかごを認め

中を覗き込むと、二人分の軽食の包装に紛れ、レシートが一枚丸まって入っていた。


「──────。」


 それを取り出し、日付を確認すると約一ヶ月前の9月中旬の日付が記されていた。

忘れもしない、私とミスターソウマが初めて出会ったあの日。

ミスターソウマにとって耐え難い“Tough Day”となった日、その前日。


ミスミヤコと共に彼は此処に居たのか───。



 無理やり起こされた挙げ句、慣れない手付きで口腔内を散々かき回される。

だがアレだけ甘いものを食べればどうなるか、想像するまでもなく明らかだ。

私はギャーギャー悲鳴を上げ嫌がるチェロの歯を、念入りにブラッシングした。


 寝間着に着替えさせる前にと、バスルームのタオルに湯を染み込ませ固く絞っていると

洗面所の隣にオートマチックランドリーが有るのを認める。


 歯ブラシ前にスイッチを入れた主寝室は適温になり、ベッドの上のチェロは

私にタオルで体を清められながら前後に船をこぐ。


 寝かしつけた少女の寝顔を確認し、主寝室のライトを消す。

Yシャツの袖を腕まくりし、先程認めたランドリーで、父子家庭2日分の

洗濯を終える頃には、時計は夜23時近くを指していた。


「──────私は何をしに苦労してまで、此処に着たのだ?」


 思わず夢中になってしまった自分に呆れ、ダイニングへ戻る。

シンクから空き缶を一つ取り出し、換気扇を回してその下のガスコンロで

シガーに火を灯す。


「ロイがずっと探し求めていた“血の継承者”ミスターソウマ」

「娘を人質に、その彼を連れ出す役を押し付けられたミスミヤコ」


「そして、踊らされ、異国で大立ち回りを演じた私」

「───ここへ導かれるものは皆数奇な運命を背負ってしまっている」

「私達の明日が“Tough Day”でなければよいのだがな」


 短くなったタバコを空き缶のプルタブへ押し付け消す。

時計の針がてっぺんを指す頃、再び腕まくりした私は、先月彼が汚したままだった

シンクを片付け始めた。



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