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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
四章 Y2K RebellioN
55/99

4-4 壱拾壱話 ローン・ウルフの鎮魂曲 3

 娘の元へと突っ走ろうとするカルロスを“急がば回れ”となんとか言い聞かせ

ガス欠寸前のローバーを閉店後の小さなガソリンスタンドへ滑り込ませる。

叩き起こされ不貞腐れる店主を1000M$の紙幣八枚で黙らせ、タコスとデカフェではない

Regularのエスプレッソをそれぞれ2つ手に入れた。


仏頂面で太い腕を組んだままの口ひげ店主を背にし、スチロール製の飲み口がついた

紙コップ2つと軽食の紙袋、それにはなはだ遺憾ながら、やっとシャツを手に入れた。

2つ有る給油機に隣接したその小さなCAFEを出ると、扉が閉まりきる前に店内の

明かりが消え扉が閉まるとすぐにガチャリとあからさまな施錠音が響いた。


「──────娘が居たとは驚いたよ、名前は?」


 切れかかった電灯が点滅する看板の下にある砂埃にまみれ茶色く赤錆びた

スクラップカーの上に軽食を預け、その扉に寄り掛かりジャケットの下に鼠色柄の

開襟シャツを着込む。シャツの襟をジャケットの外へ出しながら

まずいエスプレッソを啜る。


 私が娘の名前伺うといった人情気概が彼にはよほど不釣り合いに写ったようで。

彼は私を、おおよそ未来からやって来た銀色髑髏のキリングマシーンのように

思っていたのか面食らったような顔をしたが、すぐにヘヘッと肩を震わせ薄ら笑いを

浮かべたままローバーの給油を再開した。


多少落ち着きを取り戻したカルロスが給油口を操作したまま、呆れたように片方の

口角だけを持ち上げ“直角三角形”な笑みを浮かべながらにその名を答えた。


La Chelo(おチビなチェロ)。5才になったばかりだ」


「母親は?」


「ブラックキャット時代の同僚。死んだよ──────。」

「寝取って一緒に逃げた間男に撃たれてな。バカな女だ」


「・・・・・」


「それで俺がChurchの孤児院からチェロを引き取ったんだ。2才の頃だ」

「子供には親が必要だ。ダニー、そうだろ?」


「違いない。ただお前さんのような副業持ちは別だ。」

「黙ってDEALERに徹してりゃ別だったがな。」

「それで──────、いつから組織の仕事を?」


「カルテルか?二年前だ──────、養育費。分かるかダニー」


「DEALERの仕事だけでもRicky Martinと毎晩遊べる(豪遊)くらいは稼げるだろ?」

「金じゃない。違うか?」


「──────あぁ、そうさ。仕事だよ、あんたにスカウトされる前からのな。ダニー」

「理屈じゃねぇんだ。それは今のあんたなら分かるだろ?」

「舞台を降りたってんなら黙って観客席で三文芝居を見ながら暮らしていけたのに」

「そうはしなかったなダニー。」

「なぜだ──────?」

「日本だって?あんな極東の島国に一体何がある?」


「・・・・・」


「何もありゃしないさ」

「そりゃな、何処に行ったって見つかりゃしねぇ」

「俺たちのココにあんのさ。ずっとな。」


そう語るカルロスは立てた親指を自分の胸へ押し当てた。


「信念か、私に関しても語る言葉もない。」

「お前がそういう男だからこそ、あのトレーラーを預けたんだ。」

「摘み食いには目を瞑るつもりで居たが」

「まさか鍋いっぱい平らげるとは思ってなかったがな」


「まだ怒ってるのかよダニー。言ったろ、認証システムが刷新される。」

「あの認証システムを黙らせるにはHPintegrate57000。」

「100万$のプリンタが必要だったんだ。」

「アレがなけりゃあんたの日本行きも困難になる。」

「いいや無理だ。どんな偽造パスでも不可能な話だ。」


「怒っちゃいないさ、ただ教えてくれ。」

「あのビーチでトレーラーに一体何があった?」


 高級リゾート地域にあるプライベートビーチに私のトレーラーハウスは存在していた。

───が、銃痕で風通しが良くなった上、なぜあんな納屋に移さなければ

ならなかったのか?私には今の状況を知る上でその理由が必要だった。


「あんたらPlayerは興味ないかもしれないが」

「カルテルと米麻薬局がずっと戦争してるんだ。」

「なんでもカルテルのボスがアメリカ政府高官のヤバイ秘密を握ってるとかで」

「そりゃもう目の敵さ。」

「──────で」

「あのトレーラーハウスがカルテルの隠し金庫の一つだって当局にタレコミがあって」

「黒尽くめの部隊が強襲したのさ、映画みたいなhelicopter(ガンシップ)でやって来てな」


カルロスは満タンになった給油口から給油ノズルを引き抜くと、給油機に戻しながら

人差し指を立てて頭の上で回しながらそう語った。


「ほら、何か腹に入れとけ。落ち着く」

紙袋よりレンジで温めただけのチープなタコス味ブリトーをカルロスへ放る。


「あぁ、ありがとよダニー。」

受け取ったタコスに齧りつきながら運転席へ乗り込み、カルロスは話を続ける。

寄りかかったスクラップのボンネットから紙袋とカルロスの分のコーヒーを持ち

ローバーの助手席へ乗り込む。


「──────で?」


「あぁ、あんな連中、頭脳派のオレが束になって掛かったって相手にできるわけねぇ。」

「だからカルテルの私兵に偽情報掴ませて擦り付けてやったのさ。」

「ドンパチやってるスキを見て、トレーラーをコイツ(レンジローバー)で掻っ攫って」

「夜陰に紛れて()()()の家に隠した。」


「流石だ。──────で、そのBLACK OPS」

「アテはあるか?」


「アテもなにもありゃラシーア(CIA)が差し向けた特殊強襲チームしか考えられねぇ。」

「この国じゃあんな装備見たこと無いね。」

「ダニー──────その顔、想像付いてたって顔だぜ」


「で、いつの話だ?」


「4日前だよ。」


なるほど、私がキューバで目覚め、ジョンが私を開放したアノ日か。



───繋がったな。



 車窓に流れていた闇夜の雑木林。

それを貫くハイウェイを抜け、景色は漆黒の闇が統べる海岸線の町プログレソへ

とたどり着く。程なく一箇所だけ煌々と灯る施設らしき光に差し掛かる。


「いいかダニー、ココはオレに任せて大人しくしていてくれ。」


 メリダ沖に浮かぶ人工島。遠浅のこの海域にパナマックス級のコンテナ船を着ける為に

作られた埠頭施設とヤードがある島だ。

その島へと続く海上連絡橋、その入口を閉ざすゲート前にカルロスは車を寄せると

ゲートハウスよりSecurityと胸に大きく書かれた屈強なアミーゴが現れる。


「よぉエンリケ!調子はどうだい?」


「良くも悪くもねぇよ、昨日も今日もいつもどおりさ」


 カルロスはゲートの守衛にIDカードとその裏に二つ折りにした1000M$を添えて手渡す。

守衛は紙幣だけ胸のポケットへ仕舞い、カルロスへIDを戻すとともに、逆手にした

MAG-LITEで助手席の私を照らした。呼応するように私は腰のP7M13へ手を回し

スクイズコッカーを握り込むのをカルロスがシフトレバーに添えていた手で小さく制す。


「フン、───ま、今日もいつもどおりさ。きっと明日もな、通っていいぞカルロス。」


 守衛はそうつぶやきゲートハウスの壁に設えられたボタンを押すと

錆びついたゲートが偶に軋みを上げながらゆるゆると開いた。

車がなんとか通れるほど開いた所でカルロスはゲートをくぐって

連絡橋へと車を走らせた。


「ヒヤヒヤしたぜダニー、任せろと言ったろ。」

「あそこで悶着起こして夜が明けちまったら娘はどうなる?───ッタク!」


良かれと思い、とっさの判断に備えたつもりだったが責められ居心地の悪くなった私は

ミスターソウマのライターの中より取り出したメモをカルロスへ手渡す。


「これ、なんだか分かるか?」


 片手でハンドルを捌きながらシフトに添えていた手でその小さなメモ紙を

二本の指で挟み取り表裏を交互に眺める。


「ケ ズィ ゲ ヤ 205?」

「こりゃ一体なんの雑誌の謎解き問題だ?」


「その模様、何か心当たりはないか?」

私は記された文字の下にある幾何学模様を指差す。


「そうさなぁ・・・。」

「まぁオレから見りゃこれはピンタンブラー錠のキー山を写し取った図だが」

「───妙な点が一つある。」


指で挟んだ紙片を助手席の私に戻しながら、カルロスは話を続ける。


「妙?」


「そうさ、妙なのさダニー。」


 カルロスはローバーのイグニッションに刺さる鍵束から一本鍵を外し私に手渡す。

私は手渡された鍵とミスターソウマのメモを交互に眺め、彼の説に耳を傾ける。


「その図の幅を見ろ。キー山の数に対しキーの幅が広すぎる。」

「そのキー幅を見るに一般的なシリンダーキーの鍵と見て間違いないが──────」

「その図のようにキー山が3つとなると、一般的な鍵としては短すぎる。」


 確かに、今手渡された鍵、扉の鍵か車両の鍵か定かではないが、鍵の幅だけ見れば

メモの図形とほぼ一致する。しかし図形の横幅、つまり長さで言えば手渡された鍵の

半分ほどしか無い。


「いいか?ピンタンブラー鍵ってのはな、シリンダー内に収まったピンの数。」

「すなわち、そのキー山が多ければ多いほど錠前としての堅牢性が増すんだ」

「キー山とシリンダー内のピン数は対なるもの。」

「つまり、たった3ピンの鍵なんて錠前としてナンセンスって訳だ。」


 容易く開いてしまう鍵。

たしかにナンセンスだ。そしてミスターソウマほどの男がそれをわざわざ紙に写し取り

こんな謎解きにする理由もまたナンセンスだ。


「なぁダニー、他に図はないのかい?」


「とりあえず今はその一枚だが、なぜだ?」


「その図、コの字に開いてる方に続きがあるなら納得だ。」

「そうさな──────、あと2~3山分のな」


「───なるほど。探してみることにしよう。」

「その文字の方はどうだ?」


「ダニー、悪いが暗号解析は専門外だ。」


 カルロスの手癖の悪さ、私と出会う以前の彼の仕事。

そしてこの錠前に対する見識の深さ。実のところ、彼は以前スペインで名を馳せた

宝石専門の金庫破りグループの一員だった。

そんな彼にミスターソウマの置き土産を見せたことは Give us a de(鬼に金棒)cisive

いや、ここは A bolt and(閂と鍵) lock といった所か。

状況が一方向へ私を導くようで若干の気味悪さもある。ただこう考えることもできる。

昨夜カルロスに再会してからミスターソウマの置き土産に気付いたこのタイミング

絶望の淵へと落ちていた私に対する神の御手。導きだったのやもしれぬ

と──────。


「最後にもう一つ。カルロス、コレが鍵だったとして、この鍵を破ることは可能か?」


「ま、秒だな。」


「私ならどうだ?」


「練習を重ねて60秒ってとこか───、やめとけやめとけ、ダニー」

「何処の鍵だか知らねぇがピック中に人に見つかるのがオチだ」


「そら、着いたぜここだ」


 行き止まりのガントリークレーンがそびえ立つ人工島の一角、港のコンテナヤード。

その端に、凹み、穴の空いた物や錆びて朽ちたコンテナが乱雑に積み重なっていた。


 私は言われるがまま車を降り、そのコンテナに近づき手のひらを扉に当てる。

左右の扉にそれぞれあるロック機構の基部に大振りな南京錠でロックされている。

持ち上げた南京錠の鍵穴を眺めていると、カルロスが昨日のように例の

ワイヤーカッターを携え私の横に並び、その刃先から火花を散らすように

バチンバチンと南京錠2つを破断して当然のように扉を開く。


「なんだ、伝説の金庫破りの試技が今度こそ拝めると思ったのに、またそれか?」


 扉を開き、入り口の壁に備えられた懐中電灯でコンテナ内を灯しながらカルロスは

またもや口角を直角三角形にした笑みを浮かべ


「ほらな、だから止めとけといったんだ。」

「鍵穴見つめて扉を見てねぇ。」


 カルロスが開いた扉の裏側を頭を振って指し示すと、そこには

セムテックス(プラスチック爆薬)の塊に二本の雷管が刺さり、そのコードの先には

014の文字が赤く灯るカウンターボックスが付いていた。


「今さっきのアンタのように鍵に触って30秒」

「見事ヘブンズ・ゲートを開けばHAPPY(裏声)


「開けなければ?」


「BooooM!」

「残念無念のGo to HELL(地獄行き)


 仕掛けた主のカルロスが世界一物騒な警備員を気にもせず薄暗いコンテナ内を進んでゆく

私はそのカウンターを横目に一つ鼻を鳴らし雷管を引き抜いて後を追った。



 突き当りに数個の黒いダッフルバックと黒いスキューバ装備一式が4人分

カルロスに照らされ姿を表す。私は片膝を着いてそのダッフルバックの一つに

手をかけ中を見る。


「どうだダニー、お探しの得物だ。これで足りそうか?」


「あぁ、十分だ。」

「所でこれはトレーラーに有ったはずの私のか?」


「Yāp」


「売れなかったのか?」


「Yāp」

「と言うか、オレはまだカリブ海にプカプカ浮かぶ気はねぇよ」

「そいつが世界中のどんな魑魅魍魎よりヤベェ連中の得物か誰より知ってるしな。」


「そうか、賢明な判断が出来る奴で良かったよ。」


「だよな。」

「さぁ、車に積んで行くぞ。夜明けまでもう時間もねぇ。」



私と彼は、装備を車に積み込み、丑三つ時の人工島を後にした。





ブラックキャット。



カルロスの口から出た懐かしい名だ。

彼らの名を一躍有名にしたのが双子のホープダイヤ事件だ。


フランスの至宝と謳われ、また呪われた宝石の異名を持つブルーダイヤ。

元は一つの巨大な石だったそれはある時、何らかの理由で幾つかに切り分け

られたとされる。スミソニアン博物館に収蔵された真ホープと対をなす

大きさの双子石。長らくその行方は謎に包まれていた。


1989年ミラノで開催された展覧会にある王家に代々伝わる頸飾が出品される。

搬入の数日前、何者かによってその頸飾は管理会社の金庫より持ち去られた。


その頸飾の章飾の中央にメインの石としてとして収まっていたブルーダイヤ。

それこそがホープダイヤの双子石だった。

実のところ、持ち去った彼らにとって不運だったのが呪われた宝石とされる

ブルーダイヤのカット前の親石こそがこちら側(Unseeable)のRelicだったことだ。


巷に流れる噂や陰謀論よろしく、呪いのダイヤに関わったブラックキャットの

メンバーも怪死を遂げる者や、姿を消す者が相次いだ。私から言わせれば何と

いうこともない。

Relicに導かれた者の中にまだ見ぬテクニシャン(能力者)が眠っていると世界中の

Unseeableに目をつけられたからだ。


アンシーもまた違う原石を探していたということだ。


そうした経緯からカルロスをスペインの()()()()から()()()()()CASINO。

その後、彼の故郷でもあるこの地で働くようにロイがDEALERとして彼を雇用し

私は個人的に彼に武器庫の管理を任せた。


南北アメリカ大陸のほぼ中心地。

パナマ運河やキューバにも近いこの地に錠前破りとDocuments偽造の専門家を

配置するのはギャンブルハウスの世界行脚の為、地政学的にも理にかなって

いるというわけだ。



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