4-2 壱拾壱話 ローン・ウルフの鎮魂曲 1
$ telnet:Trying 177.$$.$$.$$...
Connected to 177.$$.$$.$$.
LocalHost login: root
Password: *************
ok...
1999-10-06 ...20°58'33.7"N 89°36'46.6"W
.....Access
「───、チョチョチョ待てよオメーラ!」
「そんなもん仕舞えって!」
「今回もブツは役に立ったんだろ、え?」
「コレを?」
「仕舞えってか?」
「笑える。聞いたかよホセ」
「オレのナニの横にでも仕舞えってか?」
「早くヤッちまえよカンポス、誰かに見にられたらヤベェって」
「カンポス。いつもどおりの仕上がりだったろ、え?」
「あぁ、いつもどおり。完璧」
「そうだな? ホセ」
「あぁ、オレも完璧だと思ったさカンポス。」
「妹がマイアミの空港でしょっ引かれるまではな」
「待て待て、待てって。」
「ミケーラがなんぞへまこいただけだろ。」
「俺のパスは完璧だった。」
「な、そうだろ?」
「あぁ、完璧。サイコーだぜまったく! クソッ」
「カンポス! ヤッちまえって!」
「うるせぇ」
「オメェは黙って路地見張ってろホセ!!」
「ミケーラと俺らが、スーツケース一杯のコーク持って
「フロリダへシケる算段だって」
「ボスが疑ってんだ。」
「いいか? 仮にミケーラがセキュリティチェックでシクって」
「DEAの網に掛かっちまったとしてもだ」
「どのみち俺らの命はねぇ」
「そこでオメーだカルロ」
「オメーがこさえた偽造パスのせいでミケーラの密入国がバレちまった」
「ブツは押収され。」
「ミケーラは入管にガチャンコ。」
「つまり、全部お前のせい。」
「そうなると、落とし前は付けなきゃ許されねぇ。」
「オメーの風穴空いた頭をボスに納める」
「そういう筋書きだカルロ」
「だよなホセ!」
「ホセ?」
「誰だおめぇ」
修羅場にそぐわないダルな見張りをする男を排除し、馴染みの方へ向き直すと
異常を察知した片割れが私に銃口を向ける。
「一つ聞く。」
「シャツは有るか?」
「あぁ!? 何者んだてめ───」
私に銃を向ける輩に向け、路地より一瞬のうちに接敵し
下からシリンダを掴み上げトリガーホールで指を固め
そのまま腕を捻り上げる。
「Bulldog .44 ───か、いい銃だ、だがな」
「ハンマーも起こさずにリボルバーなんて持つなチンピラ」
「イッデデデデ指が! 腕が折れちまう!」
「その声・・・」
呆気に取られる馴染みの男は、東側陣営の島よりなんとか
渡りきったこの疲れ果てた風体に、私が誰だか気づいていない様だ。
二人の男に銃を突きつけられ、窮地に立たされている彼を
図らずとも助ける形になったが彼の生死は正直あまり問題ではない。
もはや、今はたさねばならない目的に、彼に預けた物が必要。
目的は只、それだけだった。
先を急ぐ私は、腕を締め上げた男の後ろへそのまま回り込み
耳元で最後通牒を言い渡す。
「ココで死ぬか、消えるか。」
「選べチンピラ。」
「わか───分かった!」
「消える! 消えるから離せ!」
「賢明な判断だ。」
「割り込んで悪いが。急ぎなんだ。」
押さえつけたままの銃を取り上げ、背後より男の脹脛を蹴り込み固めた腕を突き放すと
男は馴染みの足元へと転げる。
「クソが! ナメるな一丁だけだと思っ──────」
派手なTシャツの腹から2丁目を取り出そうとする地の男。
取り上げたサタデーナイトスペシャルで
持ち主の派手なTシャツを朱に染める。
「───そうか。」
「シャツ、無いみたいだな、残念だ。」
自分の足元で起こる咄嗟の出来事に、馴染みは驚きとも怯えとも取れる
顔を私に向ける。
彼の元へ歩み寄りながら、血まみれで転がるチンピラの額に、馴染みの目を
見たまま確実なる止めの銃撃を見舞う。
2年ぶりの再会に成るだろうか。二人に銃を突きつけられていた調達屋が
両手を上げたまま、前髪で覆われた私の瞳を下から覗き見る。
「もしかして───ダニー?」
「カルロス」
「アミーゴ!」
カルロスは、自身の名を呼ばれると、その表情をパァっと明るく変え
わかりやすいメキシコ人の反応を見せる。
「揉め事か?」
シリンダを開き、残弾を確認する私にカルロスは
其れまで演じていた弱者の態度を止め私の肩をたたく。
「いつもの事さアミーゴ」
「───に、しても。アンタ変わったな」
「いつもビシッとしたヘアスタイルでキメてんのに」
「今はなんていうか───」
「まるで野良犬だ。」
傷だらけ、泥まみれのウイングチップ。土埃にまみれ、裾や袖はほつれ
もはや自分自身の役目を忘れ、最低限の衣類と化したテーラーメイドのスーツ。
高温多湿の中南米。汗と湿気ですっかり溶け落ちたポマード。
そして、特殊な樹脂で不自然に青く染められた両手。
ムリもない、まさしく今の私は首輪を無くし、飢えた野良犬のようだ。
そんなみすぼらしい状態でも、有るべき物をを身にしていない事が
私は何より許せなかった。
「カルロス、シャツは有るか?」
「待て、俺も赤く染める気かい?」
「───な、訳ないよな。で?」
「今回は何が要る?」
「まずは着替えだ。」
「預けた荷。まだ有るか?」
「───着替え、ね」
「どうした?」
「あぁトレーラーハウスだったな。」
「有る有る。とにかくズラかるべ。」
「この有様をカルテルの連中に見つかるのはヤベェ。」
「車はコッチだ、ついてきな───」
あらゆる物事が最悪な方向へねじ曲がったこの世界で
私を突き動かすものはただ一つ。
スラックスのポケットへ収まるODカラーのライター。
約束を果たす。
それが今の私に残された唯一の行動原理だった。
車でトレーラーハウスのある場所までの道中、カルロスは私に
ひどく当たり前な疑問を向けた。
「しかし、ようダニー。」
「女王陛下へ仕えるアンタが、なんで今さら俺なんか頼って来たんだ?」
「しかもこんな辺鄙なとこまで。」
「御用とあらば、例のイリジウム携帯で即、お届けじゃないのか?」
「───近衛は止めたんだ。」
「あぁ、そうかい。そりゃ勿体無いことで。」
「さぁ! 着いたぜ。」
「───ココか?」
「あぁ、チョイとあの後いろいろ有ってな。」
「あのビーチは使えなくなったんだ。」
「まぁそもそも、アンタにゃ景色なんて」
「必要ないだろ?」
運転席のカルロスが、そう前置きした上で廃墟同然の家屋に隣接した
納屋の前に車を寄せた。
念入りに幾重にも鎖で閉ざされた納屋の扉前に私が立つと
カルロスはランドローバーの荷室から大振りなワイヤーカッターを携え私の横に立つ。
「言ったろ、色々有ったってな」
カルロスがワイヤーカッターでその封印を断ち切ると、銃弾で穴だらけとなった
私のトレーラーハウスが納屋の中で眠っていた。
「───な、有ったろ?」
古い7.66ヤードのキャンピングトレーラーをリノベートしたそれは
わたしの武器庫そのものだった。
数着の着替えのスーツ。偽名で登録される各国のパスポート。
小隊規模の小火器と支援火器。キャサリン・ゼタ・ジョーンズを一週間饗せるだけの
地元通貨建て現金とドル。これらを詰め込んだ移動拠点。
───だった。
「カルロス!」
「あぁ。」
「わたしの着替えがない」
「───の、ようだな」
「カルロス!」
「あぁ。」
「資金もなければ武器もない。」
「───の、ようだな」
「訳を聞こうか?」
「2000年を迎えるに当たり各国のパスポートやライセンスのたぐいが」
「こぞって一新される。」
「認証システムの刷新ってやつだ。」
「2000年問題。聞いたこと有るだろ?」
「───つまり?」
「新しいプリンタが必要だったんだ」
「それが理由か?」
「まさかこうも早く戻ってくるとは思わなかったんでな。」
「チト借りた。」
「カルロス。シューケースに意味はない。わたしが求めるのは中身だ」
すっかり失念していた、この男。カルロスの手癖の悪さを。
腰から残弾3のブルドックを取り出し、見せしめ的意味を持って
シリンダーを開き装填を確認した後閉じ、ハンマーを起こし
銃を握る手を逆手で押さえるように腰で手を組み、カルロスを睨みつける。
「分かった分かったって! そういきり立つな」
「何が要る。明日までに用意してやる。」
「調達屋の腕を信用してくれてんだろ?」
「あぁ、こうなったら最後まで付き合ってもらうさ。」
「高い投資だったとわたしを失望させないでくれよ?」
荒らされた引き出しよりペンとメモを取り出し、渡日に必要な物品を走り書く
「Okay.明日夕方までに持ってくる。」
「アンタはココで休みな、靴箱にしてはココは安全だ」
「じゃあなアミーゴ! また明日。」
そう言い残し、カルロスを乗せたランドローバーが走り去った。
ミスターソウマ。
アナタが語ったように、私の騎士道がゆらぎ始めている。
貴方が語った狡猾とは、どのような物か私にはまだ解らない。
しかし、学ばざるを得ない。
そういう事かもな。
ここ数日安息を得てなかった私は、この疲れ切った体をリビングエリアの
ソファーへ深々と沈めた。
root@localhost ~]# logout
$ telnet:Trying 192.$$.$$.$$...
Connected to 192.$$.$$.$$.
LocalHost login: root
Password: *************
ok...
1999-10-07 ...38°18'26.7"N 140°43'04.4"E
.....Access
「婆様ぁ、ミッ子どしたぁ?」
散歩より戻り、ゴンのリードを小屋脇の杭に戻しながらお勝手の婆様に
朝の散歩担当。嬢ちゃんの居場所を尋ねる。
「見てないよ、まっだ部屋で寝てるんでないのかい?」
───ったく、お寝坊さんは相変わらずだねどうも。
自宅謹慎食らった嬢ちゃんに俺は何も尋ねず咎めもしなかった。
勉学の遅れなんぞ、嬢ちゃんに心配するこっちゃねぇ。
ただなぁ、ならぬものはならぬ事と、罰のつもりで俺と約束した犬の散歩を
モノの2日で放り出すと成っちゃあ、ゲンコの一つも落とさにゃなんねぇなぁ
「ミッ子ぉ! 入るぞ。」
そう前置きした上で、美咲の部屋と書かれた板っこのかかる扉を開く
「あんだ、イねぇのか」
謹慎の言葉が聞いて呆れるぜ。
ともあれ、家に居ないとなれば行き先はあそこしかねぇな。
できたての味噌汁が香る中、居間の受話器を持ち上げ、馴染みに電話しながら
ちょいと昔の話を思い出す。
4年ほど前か、あの一連の厄介事を終えた俺は、程なく定年退職することとなり
坂崎 美咲を連れ、ここ仙台の田舎へと引っ込んだ。
当時、どっちかと言えばそこいらの子より幼く見える中学生だった美咲も
急成長と言えないまでも、すっかりべっぴんに育ち、今は高校三年。
ウチとの養子縁組も相馬のはからいで問題なく進んだが
苗字だけは相馬の考えで、俺や相馬、そして坂崎とも
縁もゆかりもない【日比谷】と改められた。
コンピュータにめっぽう強いハイカラな嬢ちゃんをこんな田舎へ連れ込んじゃ
すぐんでもオカシクなるんじゃねぇかとも心配したもんだがよ
程なくして、瀧んとこの馬の出産を手伝わせた際に、その子馬にすっかり熱を上げた。
東日本でも随一の偏差値を誇る中高一貫のミッション校へ異例の中途編入を果たし
そのまま馬術部に入部するなんて誰も予想も付かない順応振りを見せた。
その高校への志望理由も、瀧ん所で馬術部が活動しているという理由だってんだ。
驚きを通り越し、恐れ入るよまったく。
「───おぉ、俺だ。」
「瀧よぉ、ミッ子そっちに行ってねぇが?」
「───やっぱりそこかい。」
「わりぃがよ、朝飯できたっつって追い返してくれ」
「───おぉ、わがったよ。埋め合わせに阿部勘もってっからよ」
「今晩、刺し身で一杯やろうや。」
「いつもいつもすまねぇな。じゃ頼んだわ。」
なぁ、ミッ子よぉ。まいどまいど吟醸一升ツケてたら
俺の退職金も早々に底ついちまうんだがなぁ。
◆
「───へばなトミ、晩に。」
ふぅ。バレてっばよ。
内緒にしてけってば言ってもなみっご
いっぐらウチとこの馬っ子可愛がってくれんのは有りがてばって。
トミに内緒で、事あるごとにおめさん匿ってたら
そのうちオラがトミにどやされちまうヨ。
トミがコッチさ戻ってくって聞いてばいたが
あっちで独り身貫いたやぐざなトミが、まっさが孫っこ連れて
くっとは、だんれも思わねべな。
まわりの皆へば、おらがなーんとか言いくるめたばっで
ちいせぇ町だで、どしたって娘っ子の方は浮いてまうべな。
自分がよそもんだば思ったみっ子にとって、ここはいんまも大事な逃げ場なんだべ。
そったら場所が一個でも持てたで、まっごと幸せなごと。んでながったら
今頃どんなしゃしねぇ娘っ子になってたが。
今じゃ町一番のめんごい人気者にさ成ったばって、年頃の娘っ子ば
トミに話せね悩みごともいっぺぇ有るべな。この場所はおら達が残してやんねばな。
トミもそれ知ってば阿部勘持っで礼に来るべな。
みっ子。おめさんトミに感謝せぇよ。
「おぉーい! みっごぉ。」
「朝餉出来たってトミから電話だでー、はよけれー」
「はぁーい! じゃまた後でねジュン。」
(ブルルッ)
辛いこと、寂しいこと、悲しいこと。そんな事がある度わたしは
ジューン・ブライドの馬房へ来ては体育座りでふさぎ込む。
コッチにつれてこられて、この子と出会ってからずっと、一人ぼっちの
わたしにジュンはただそばに居てくれた。
慰めだったり、元気づけたりもぜず、ただこの子の瞳が、わたしの心を
癒やしてくれる。
わたしは立ち上がりお尻の土を払う。
事務所の窓から見てる瀧さんに右手を大きく振ってバイバイしながら
最近じゃすっかりアタシの物になってる、ジっちゃんの真っ赤なCT110に
拍車をかける。
あの日、屋上から引きずり降ろされた私はそのまま生活指導室に連行され
ツルピカ生活指導のセンセーから夕方までお小言を頂き、翌日から2週間の
停学になった。
なんでも、屋上の騒ぎを学外の人が偶然目にしたみたいで、飛び降りと勘違いして
警察を呼んでしまい、消防まで駆けつける騒ぎになっちゃった。一歩間違えば
新聞沙汰の出来事に、学内もこの話題でもちきり。イジメの懸案が徒労に終わった
先生方は、ケジメとばかりに私に停学を申し渡した。
停学。正直わたしは、この処分が嬉しかった。
何故かって、余計な事から開放されて、全力でソウマを探せるから。
最初は何処へ隠れようと3日もあれば見つけ出してやる気マンマンだったけど
わたしの力を持ってしてでも、ソウマの痕跡すら見つけられなかった。
泣き出しそうな時、叫びだしちゃいそうな時、絶望からマジで飛んじゃいそうな時。
ジューン・ブライドがいつも寄り添って支えてくれた。
ねぇ・・・ソウマ。
もうじき帰ってくるよね?
わたしの白馬の王子様。
root@localhost ~]# logout




