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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
四章 Y2K RebellioN
52/99

4-1 報せ

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Trying 192.##.##.##...

telnet: Unable to connect to remote host: Connection refused


$ telnet 192.$$.$$.$$

Trying 192.$$.$$.$$...


randNum:#########

challenge=############wj9f2

verify:OK

Open:OK


$ telnet

Trying 192.$$.$$.$$...

Connected to 192.$$.$$.$$.

Escape character is '^]'.

LocalHost login: root

Password: *************


ok...


2018-08-30 ...38°18'26.7"N 140°43'04.4"E


.....Access


ok...




「あースッキリした、職場でちょーとイラッと来ちゃってねぇー」

「あの部長さぁ、耳の形が激似なのよーアンタに」

「ジャね!いま仕事中だから・・・」

「あ、ちゃんとお風呂入りなさいヨー、だらしないとモテないわよ―」


 スマホの画面に映る通話終了の赤いピクトグラムから指を離す

相変わらず素直な気持を真っ直ぐ伝えられない自分に心底呆れる。

声を聞くといつも照れが先に立って息子を誂ってしまう。


 一呼吸置いてスマホの画面はフェードアウトするように暗転し

素直になれない自分の憂いを帯びた顔が鏡写しに映り込む。

ハッとして笑顔を向けようとするも、画面はまるでソレを阻むかのように

ロック画面へとフェードインするように切り替わる。


 今はもう取り壊された主の居ないトミ爺の家。

庭にあった桜の木の下で満開の桜をバックに、水色のベビー服を着た真

小さな両手を泣き顔の横で力強く握り、その顔にピッタリ頬を寄せる

満面の笑顔をしたアタシ──────

 ロック画面に映るこの写真は、生前にトミ爺が撮ってくれたもの

懐かしさに擽ったい思いがクスッと鼻から漏れる。


 開け放たれた窓の外には夏の景色が広がり、ベランダの手摺には

たぶんつがいの野鳥が降り立ち楽しそうに囀っていた。

ほっこり風景にフフフと笑みが漏れ、幸せそうな光景を見ながら

アタシは改めてPCデスクに向き直す。


フェイスタオルを鉢巻のように巻いて癖髪をまとめ上げ

顕になった頬を両手でぺしりと打つ


「さって! 仕事を終わらせないとね」


 網のような座面の高級チェア、その上で胡座をかきながら

机に並べた3枚のキーボードを何時ものように流し打つ。

VESAアームで机に設えた数枚の画面に

人が読めるソースコードとマシン語が同時に

滝のように流れ出す


「あとは──────、これを本社のサーバーにアップして終わり」


 まったく──────

このアプデのインストーラー書いた人のセンスを疑うわ

デリート領域の指定ミスってクライアントのルートディレクトリはおろか

パーティションごとぶっ飛ばしちゃうってなにこの物理。

どんなギャグよ


コアフレームの設計がずさんなのよね。

いくらオンラインゲームでも毎週アップデートするんだから重複データの

検索と統合ぐらい視野に入れて設計なさいな。


ま、色んなとこから“実装急げ”って尻叩かれたんだろうけど


「──────さ、っと」


ftp> open bittech 9365

Connected to bittechserver.

220 Service ready for new user.

User (bittechserver:(none)): hibiya339

331 User name okay, need password.

Password:***********

230 User logged in, proceed.

ftp> bin

200 Type set to I.

ftp> put debugger.zip

200 PORT command successful.

150 Opening BINARY mode data connection for debugger.zip.

226 Transfer complete. ftp: 3850364 bytes



 依頼を受けた修正プログラムを圧縮したフェルダごとFTPで東京本社に

送信。ひとまず泣き声で部長にせっつかれた仕事はこれで終わりね。


 最近はブロックチェーンの仕事も減ってきて、アタシらIT土方のお仕事と言えば

大手ゲーム会社、ネットバンクやeコマ関係のメンテやらアブデやらの

アウトソーシングばかり。そんな中でも、今回みたいな誰かさんの後始末。

中でも確実性とスピードを要求される仕事が、アタシのとこに回ってくる。


「──────んまっ、そのおかげでこんな田舎でお馬ちゃんを愛でて

 いながらでも食べていけるんだけどねー。」


「トルクちゃーん、ビットテック本社に電話」


了解(Roger)。』

接続しています(CONNECT...):+81 3-5555-*****』


 子供の頃に開発し、アップデートを繰り返し成長した汎用エージェントAI

“TORQUE” 優秀な秘書代わりの彼女はアタシのシステムはおろかこのスマホ

の中にもセキュリティアサルトとしてインストールしてある。通信の安全は

誰あろうアタシが保証する。


『.....SUCCESS 』


「あ、もしもし部長ぉ」

「チャオー! アタシー。」


「そ、ヤッといたわよー、例の修正プログラム。」

「───そ! 鯖に上げといたから確認して」


「あー待って!」

「泣きついてきたクライアントの担当に──────」

「死ね!って言っといて」

「んじゃ、あーとよろしくぅー」


 なんか追加がどうとか言ってた気がするけど聞こえなかったことにする。

眩しかった太陽が傾き始めてる。ベランダに居た小鳥たちもいつの間にか

居なく成って窓の外からはひぐらしの声が他の蝉に混ざって聞こえてくる。


「さーて、ジュンに会ってお買い物行くかしらね」


『テロリッ』

玄関先で陶器の器から部屋の鍵を取った時、ポケットのスマホがメッセージの

着信を伝えた。ポケットから取り出したトルクの画面には知らない番号からの

SMS着信が記されている。そのメッセージはHTTPのリンクのみで、お得!とか

あなたが当せん!など、わかり易い誘導もまったく無い不躾とも呼べる物。


「はぁーん、なにこれ? 詐欺サイトのリンクとかだったらいい度胸ね。」

「なにこれ、アタシに対する挑戦かしら?」


ドクロ頭が砕けているアイコンのラピッドファイアウォールAPPを通して

そのリンクを開くと、画面にはロンドン時計塔の画像と至急の文字が映し出された。


「ん───?コレ」

「もしかしてスティグ(電子透かし)かしら?」

「うーわ懐かし!」


ロックボタンを押し画面を閉じ、スマホをコートのポケットに突っ込む。


「さー待ってて愛しのジュンジュン今行くからー!!」



 家から車で10分ほど走った先に、昔なじみで行きつけの乗馬クラブが有る。

アタシがコッチにつれてこられてからだから──────もう20年になるかしら?

そこにアタシと一緒に大会を戦った愛馬ジューンブライド号がいる。

管理人はトミ爺の幼馴染のタキさん。


そこはアタシがトミ爺の家に連れてこられてから

最高の遊び場であり、逃げ場だった。


20年前に改築されてから規模も一回り大きくなり、今や県内にある学校の

ほぼすべての馬術部が利用する施設に様変わりした。


 車の窓からは学生さん達が練習を終え談笑したり、帰り支度をしている姿

が見える。アタシはそんな景色を観ながら駐車場に車を止め、目的の旧馬房

に併設された放牧場へ向かう。そこに目的の子とそれを見守る牧場主の姿が

みえる。


「じゅーーーーん、きーたよー!」

「んあえ? おぉ、今日もきたのかぇみっご」


「やほ瀧さん。」

「ジューンブライドは今日も元気?」

「あぁ元気だぁ。ホラぁ、向こうがらくっべ」


馬齢25歳、もうすっかりお婆ちゃんだけどアタシを見つけると“嬉しい”

と頭を上下に揺らしながらにまっすぐ駆けつけてくれる。


『テロリッ』

「やあぁぁぁぁん!ジュンジュン昨日ぶりぃ!」

「アハハハよだれ飛びまくり! なまぐさー♡」


『テロリッ』

「こらー! 肩かじるなコノー」


『テロリッ』

「な、みっご。おミャさん電話ナッてんべ」

「あーあー、いいのいいの。ネー、ジュンジューン♡」


『テロリッ』

「あーーーーッもーーーーーうるさいうるさいうるさーーーい!!」

「くのおおぉぉオラァァァ!!」


「これーみっご!電話さ、まだ折るのよせわ!!」

「物そまずにすんなっでぇ、トミにいわれでたっべ!」


「チッ!」


 愛馬との再会を邪魔しやがってあのメッセージを寄越した奴ねきっと。

良かったトミさんが止めてくれて。またこのスマホ折ったら京都の弟子に

数時間お説教を賜る羽目になる。


「ほれぇ、呼ばれってば!」

「また来ればいんべ? はよ家さ()れ」

「どうせ今日も乗らねぇんべ?」


「あーうん。乗るのはいいや」

「じゃまた明日ねジュン」


 ちょうど日も傾き辺りがオレンジ色に染まり、表の学生さん達が乗る

マイクロバスも全部帰路についた頃、アタシも瀧さんとジュンに別れを告げ

軽自動車でマンションへの帰路につく。


 タキさんの牧場からの帰り道、マックスなんたらっていう行きつけのスーパー

に寄って夕飯の食材を買い出し、黄色ナンバーの背の高い4輪駆動車を駐車場に

突っ込んで今日も無事帰宅。


「んーー・・・ なーんか忘れてる気がするわね。

 ま、いっか!御飯つくろー。生姜焼き豚汁茶色い食べ物~♪」


夕食を終え、ひとっ風呂浴びてリビングへ。

ストロングでダメなレモンを冷蔵庫から取り出しプルタブを人差し指で弾いて開け

肩から掛けたバスタオルで髪をワシワシ拭き取る。そんないつものルーチンが

今日も終わる、壁の時計に目をやると時刻は23:30を回るところだった。


「さーてニュースチェックして寝ようかね」

「──────あれ? そういやスマホどこやったっけ?」


「あぁ・・・・・・忘れてた。コレか」


 タキさんに怒られたからウルサイスマホの電源切ってたんだ。

ボディバックから弟子特製のスマホ“TORQUE”を取り出し、ケーブルを中継の

外部ファイアウォールを通してPCへ繋ぐ。

昼からさんざん届きまくっているステガノグラフィーをPCへアップロードして

解凍、枯れた手順で画像を開く。


 出てきたそこには、至急の文字と共にロンドンのパブの住所が紙切れに

手書きで記された読みにくい画像データが現れる。


「へぇ、随分アナクロニズムな手法ね──────でも素敵」

「これが一番確実なのよね」


 G-MAPでパブを検索して電話番号を見つける。

PC上で追跡プログラムを走らせて、あと一応虫払もしておくか。

外部ファイアウォールでありTORQUEのオリジナルで母でも在る

メカ蔵。スイッチを入れると、メカ蔵の目が赤く細かい点滅を始める。


「さーて、そんじゃぁ謎の挑戦者のお声でも伺いますかねぇ」

「──────まぁ、大体見当付いてるけど」


「トルクちゃーん! 繋いじゃって」


了解(Roger)

G-MAP世界地図が映し出された画面に赤いラインが走る。


 まずはロンドン、転送でムンバイ、そしてNZウェリントンからのー。

トロントの大学のVoIPゲートウェイを経由して

──────京都か、やっぱり彼ね。



『.....SUCCESS 』



「───もし?」


「───あーらやっぱり、えらく久しぶりじゃない?」

「1年ぶりかしらこうして直接話すのは」


「遅いって──────? さぁ、時差じゃない?」

「今?─────ううん、仙台」


「それより、あの子はどお?」

「──────、え?」


「はぁぁぁ! あの子CASINOのお姫様たちと出会っちゃったのッ!!」


「で? ママの許可でも取ろうって事」

「ダメって言われるの判ってて」


「──────うん、ムリ」


「───は?」

「うわ、ダッサ! アナタが付いていながら」


「──────別に、心配なんかしてないわよ貴方達が居るもの」

「それで?」


「──────え? また湧いてきちゃったのアイツ!!」

「懲りないわねぇ・・・それともアップデートしたのかしら」



「許可ぁ?」

「バカなのっ!! そんなんじゃ許可するしか無いじゃない!」

「愚か者ぉ!」



「──────は? バイトぉ、まさかウソでしょ、あの子が!?」

「ふぅん」


「──────しょうがないわね、必要な時は預けてあるアタシのチップ使って」

「───、うん。じゃそっちは頼んだわよ」


「あ、そうそう」

「あの子は? 根暗なアタシの一番弟子ぃー」


「───へぇ、元気にやってるんだ」


「え、ますます似てきた?」

「───知らないわよ」


「──────ふぅん」

「ろくな大人に成らないわよって言っといて」



「じゃ、何かあったらまた──────あ! そう」

「あの爺さん達に伝えて。もしあの子に怪我させたら今度こそCASINO潰すって」

「あとアナタも少しは暗号知識アップデートなさい」

「まぁ───、センスいいのは認めてあげる」



「───そね、こっちも気をつけるわ」

「じゃ、またね──────()()()()()


懐かしい声の通話を切る。

トルクから物理SIMを抜き出し灰皿へ落として火を付け、引き出しから

新しいSIMのパッケージ開いてその物理SIMをトルクに差し込む。

ベットサイドの机にスマホを置きながらふと思う。


「ふぅ──────、やっぱりそうなったか」


でもまぁ、成るように成ったのかもね。

そう、この方がよっぽどあの子にとっても安全かも。


ベットサイドのジュエリーボックスから、古びたエアメール封筒を取り出す。


封筒を開くとそこには、つけペンで記された几帳面な文章が綴られた

数枚の便箋。英国大使館と記されたメモ帳に走り書きされたボロボロの

小さなメモ。そしてそれらと同じ筆跡で書かれた暗号文字のような紙片。


便箋だけを封筒に戻し、二枚のメモをそっと両手で包み、胸へ押し当てる。


「何処に居るかわからないけど、お願い。」

「──────あの子を守って。」


一呼吸置いて、二枚のメモを元あったように丁寧に封筒に戻す。


連絡が取れなくなったあの日。

あれからもう18年よ。


「思い出してしまうの、アンタがいなくても」

「アタシ、頑張って育てたんだよ?」


「ねぇ・・・ソウマぁ」



久しく忘れていたあたたかい痕の痛みに、涙が溢れる。

はるか海の向こうに居るだろう彼も同じ願いでいると信じてる


私は、久しく忘れていたあの激動ともいえる数日間を思い出す──────





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