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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
三章 キリングハウスへようこそ!
51/99

3-15 壱拾話 再会は花の香のENGAGED 2



いいか小僧。


接敵した相手は必ずと言っていい

なにがしかの武器を手にしているだろう。

身に着けているもの、手元にあるもの何でもいい

それを使い初手を凌げ。


相手が仕掛けてきているという事は

その場の流れは相手に有る。

初手を凌いで流れを絶て




 壁を背にしたオレに向かって両手に得物を手にした彼女が駆け出す。

呼応するように彼女に向かい駆け出し、丸めた冊子の入った封筒でなんとか

初撃を往なしそのまま水面へ飛び込む様にスコールが降り注ぐ路地へ転げ出る。


すぐさま立て膝に体を起こすが、丸めた封筒は見事に斜めに切り落とされている。

っブねぇ、初撃を往なす程度には役に立ったか───

まだオレの首がつながってんのも、奴の特訓のおかげだな。


オレは奴に教わった戦術をそのまま続ける。

何かしらを語らせる事で相手の呼吸を乱すだっけか───


「あのさぁ、理由もついでに教えてもらえねぇか?」

フードを被りながらゆっくり再びオレに歩み寄る彼女に問う。


「理由? ふふっ」

「お話していたら誰かに見つかってしまうわよ?」

「でも───まぁいいわぁ、そのときは一緒に活けてしまえばいいものね」

「瑞々しい野花達が咲いていれば活けたく成るものよ」

「そんな理由ではおかしい?」


ったく、こんな修羅場でもそんな理由とは見上げたプロ根性だ


待て───いまコイツ

達って言ったか?

たしか裏口から出てきたよな?

まさか咲夜!


「テメェ!咲夜に何をした!!」


「あら?可笑しい事言うのね。」

「アレンジメントを創るのに先に花を活けるなんてナンセンスだわ」

「まずは引き立て役の葉物でしょ?」

「それも───ふふっ」

「こんなに猛々しい」

「さぞかし引き立つわネ。あの娘の首も───」


オレに飛びかかるように水色の雨合羽を翻し駆け出す死の揚羽蝶



殺られる!



思うまもなく周囲の景色がモノクロに成る。



そう───



いつもなら

「──────ウグッ!!」


「フフフ、つかまえたぁ───」


ウソだろ?

いつもの感覚が無ぇ!


後ろに回り込み脇から片腕を絡め取られ首を締められる・・・


「あら? あらあら?」

「おかしいわねぇ。聞いていた話と違うわぁ───」

「まだ育ちきってないのかしら?」


「グハッ───」


細腕からは想像できない力で締め上げられる・・・・・・

意識が。



あぁ──────ヤべぇ



「オイ!そこで何をしている!」


薄れゆく意識の中でも、数えることしか会ってない筈だが

彼のその特徴的な背格好で、すぐにその声の主が彼だとわがった。

何度もメンチ切ったあの警備員。

仕事終わりに私服で裏口から出てきたのか?


「ホラぁ見つかっちゃった、ねぇマコトくん?」

「言ったでしょう?早く決めないと関係ない人が死んじゃうよって。」


オレを羽交い締めに、首に特徴的なナイフを当て彼女がオレの耳を噛みながら囁く。


「ヤメ───ロ・・・アイツは、関係ない」



「そこで何をしてるかと聞いている!」

「警察に連絡した。少年を離して立ち去れ!」

「消えるなら追わない。な、少年を離せ。」


片手に携帯電話を手にした彼がこちらへ歩み寄る。


(よせ!コッチに来るな!頼む!!)

 オレは正義感の塊のような彼に、そう願うしか無かった。

オレを拘束してる奴はアンタの手に負えるタマじゃない!

確実に殺られる。


「ウフフ。追わないですって?」


意識を落とされる寸前で後ろの揚羽蝶が羽ばたくと、視界がそのまま横倒しに成る。

クソッ、体に力が入らねぇ───


「──────めロぉ」


横倒しの視線のままオレは必死に彼らの方へ手をのばす・・・



視線の先で真紅の帯がたなびき、屈強な大木が崩れ落ちるのが見えた。



ヤメロオオォォォ!!



再びこちらに歩み寄る死の揚羽蝶の細い足が

オレの視線から倒れた彼を遮る。



 冷ややかな突風が地面の雨水を吹き飛ばす

咄嗟の出来事に思わず目を閉じた。


風が止み瞳を開けると宙に浮く揚羽蝶の足越しに

漆黒の蝙蝠傘を差し、立膝で倒れた警備員の首を押さえる白髪白髭の男性が見えた


「──────カハッ!」

「こん、な───所に───Edelweiß・・・・が───」


今度は彼らを遮るよう水色の揚羽蝶が眼前にひらりと落ちた。



「ご無事ですか?」

「マコト様」


そう語りかけられながら体を支え起こされる。


「かっ・・・彼は!?」


「まったく、キミの英雄気質には呆れるねミスターマコト。」

「あぁ、ここが病院で幸いだな、傷は深いが助かるだろう。」


「ロイ先生」

「───らが。」

「オレの、力が・・・効か、ゲホッ!なくて」


「あぁ、話は後だ。とりあえず風邪を引かれては困る。」

「エレクトラ頼んだよ。」


裏路地を塞ぐよう付けられた例の高級外車の後席へと乗せられる。

直後重厚な音とともにドアが閉ざされた。


 なんとか動くように成った体を起こして裏口を見るとストレッチャーを携えた

数人が彼を乗せるのが見える。


 そしてエレクトラが雨に濡れた地へ落ちたデイジーを小脇に抱え

こちらに歩みだすと、トランクが静かに空き、直後にドスンと軽い衝撃と

ともに、再び静かにトランクが閉じた。



一体何だったんだ・・・


安堵が広がり、オレは座席の背に力なく深々と沈む。




?月??日


「───ハァ」

「ハァ・・・ハァ・・・」


「終いか? 小僧。」

投げられ、床に打ち付けた首の嫌な痛みに思わず手を当てる。


 オレが裏側の世界に迷い込んで半月になるが、今までの訓練と言えば

棒切れやゴムのナイフでダニエルに襲いかかる、そんな攻め側の訓練だった。

咲夜を守るってんなら、護身術や躰術。いや、もっと端的に

永遠と柔道の受け身を続けたって妥当だろうと思えたさ。

だがこれはなんだよ。


「ゲホッ───ハァハァ。なぁ、ダニエル先生よぉ」

「こんな訓練に意味はアンのかよ?」


「何故そう思う?」


「オレが思ってたのは、攻撃を仕掛ける方じゃなく寧ろ」

「受ける方なんじゃないかってな?」

「だってよ、襲われた時どう逃げるか。」

「これはそういう時の為の訓練じゃねぇのかよ」


「一つ問う。」

「小僧、武器と殺意を元に迫る脅威に対し」

「お前は、それをどう退けるつもりだ?」


 ダニエルは床に沈んだオレに対し一切目も合わせず棒立ち

革手袋の指先に付いたホコリを気にして指をこすり合わせながら

オレに問を投げた。


「それを学びに来てるつもりなんだけどな?」


「つまり、現時点で策はない。そういう事か?」


「だーかーら!、それを教えてくれるんじゃないのかって!」

「そう聞いてんだよ。ったく、問を問で返すな、そういうトコだぜ?」

「アンタの悪いとこ」


「フン───。」

「それではまず、小僧の問いに答えよう。」


「私は驚異を退けるすべを教えている。」

「承知の通り、私は口下手だ」

「故に、体に叩き込んでいる最中だ。」


「だからよぉ───」


「では私の番だな。改めて問う。」


───聞いちゃいねぇよ。


「小僧。」

「お前は盾を得ようと此処に居る。」

「そう言ったな?」


「あぁ」


「では仮に、私が授ける盾を得て」

「迫る脅威に対し本気でそれを退けられると思っているのか?」


「は? 何言って───」


「小僧の攻撃が何故私に届かぬのか。」

「まだ気づいていないようだな?」


「お前は(つるぎ)を手にした私に対し」

「幻の盾で応戦しているからだ」

「お前の戦いには───」


「───意思がない。」

「殺意が乗っていない。」


そうはっきりダニエルはオレに言い放った。


 殺意が乗っていない?意思がないだって?

当たり前だ。オレは迫る驚異を退け咲夜を護る。

その為に襲撃者を(あやめ)るなんて考えても居ない。

魔の手からどう逃れるか、それしか考えてないからな。


 もちろん、訓練だからって手を抜いちゃいない。

散々っぱら世話になっといてこういうのも何だが、ダニエルと出会ってからこっち

この師匠に対したオレの感情と言えば、尊敬より憎しみの方が遥かに勝ってるからな

いつだってマットに沈めてやる気満々だぜ。


攻撃の意志がないからソレが叶わない、攻撃は最大の防御なり。

理屈は分かる、が。理解は出来ない、いや───

したくない。


 オレは護るための訓練を受けている。誰かを殺す訓練じゃない。

花火の日、あんな事がまた起きたとしても、あの河原で凶弾に倒れた

無関係な人たち全員を救うことが出来なければ

オレが今此処にいる意味すらない。


 ロイは言った。護るべき者を見誤るなと。

つまりそれは、守護者として護る際に一方の犠牲には目をつぶる。

片目を潰してでも守り抜く、そうオレはロイに約束した。


つまり、咲夜の守護者として、その責務を全うするならばだ

時に襲撃者を殺す事だって考えなきゃならない。

あぁそうさ、理屈じゃ判っていたさ。


ただな、常識的な規範を元に信用も信頼も、尊敬すら出来るロイ先生に

オレが何故、心から全て預けられないのかが、ソコなんだ。

少なくとも裏の出来事で表の人間が犠牲になるのはやっぱ許せない。

ここ数日この連中に仕込まれて改めて思った。


裏から世界の動向を操って来たって連中だ。

俺たちに迫る相手が、心を操られた一般人だって不思議じゃないさ。

もしかしたら、オレすら既に連中の手駒として操られているのかもしれない


出来ることなら、何も知らずに巻き込まれちまった人

全てを救いたい。


巻き込まれ役はオレだけで十分だ。



「チッ・・・・・・クソっ!」


「───フン。思う所有りと言った所か。」

「それが甘いということも理解している。」

「そうだな?」


「───あぁ!」


「ふむ、己の力も理解せず、身の丈以上の正義を求めた結果」

「どうなるか私は伝えたなミスターマコト。」

「護るべき者を見誤るなと。」

ロイ先生?


「だがミスターマコト、キミはそうしなかった。」

「そうしたキミの身勝手でこうしてみな死ぬのだ。」

「後ろを見てみろミスターマコト」



振り返るとスポットライトが映し出す血溜まりの床の中で

茜と咲夜と母、美咲が見開いた瞳のまま重なり合うように倒れている。


「───!? そんな、何だコレ!!」




『嘘だぁぁぁ!!』




「ハァハァハァ」


「起きたか小僧。」


「ハァハァハァゆ、夢ぇ?」


ここは、アジト地下の貸し部屋?

ベット脇の質素な机に設えた木製の椅子に跨るようダニエルが腰を据えている。

そうだった。妖精さんの車で気を失ったんだった。


「茜は?咲夜は!?」


「燥ぐな。」

「問題ない」


「そ・・・そうか。」


辛辣すぎる夢だぜまったく・・・


「真、吸っていいか?」


「あ? あぁ・・・」


入り口上の質素な時計は23時過ぎを差している。

だいぶ死んでたな、ずっと気が張っていた疲れも出たんだろうな。


ダニエルは跨った椅子の背に掛けられたジャケット懐から

いつものタバコを取り出すと古びた深緑のライターでタバコに火を灯した。


「私が何故常に革手袋をしているか、解るか?」

唐突にダニエルはそんな事を言いだした。


「いや───」

「これもなにかの訓練か?対審問とかの」


「そうではない。」

「茜の能力はおおよそ見当がついているな、真」


「あぁ、多分だけどな」


「己の能力も。」


「あぁ、アンタ方と知り合ってから確信に変わっちまったけどな」


「そうか───」

ダニエルはその革手を脱ぎ、まじまじと自身の両手を眺めた。


「私が素手で物に触れる時、それは必殺の凶器となる。」

「例え、ありふれたペンであっても文字通り。」

「そこに私の意思や殺意も関係ない」

「この手が、相手を殺してしまうのだ」


「私のこれは生まれ持っての能力───。」

「他の誰かへ継がせることはできぬ力。」

「いわば私は───。」

「常に抜き身の剣。」


ロイ先生が言っていた。自分の能力をたとえ気の許せる相手にも語るなと。

こっちの世界ではそれは自殺行為だとも───


言っちまうと禁忌だ、それを今このお師匠が破ってる。

つまり、カマかけや訓練じゃなくマジな話だってことか。


「アンタが一流の殺し屋だってのは今更聞かなくても解るぜ」

「んでアンタが一流の剣様で、そんな剣様が対抗する一流の盾を授ける為に」

「毎日オレに付き合ってくれてんのも───」

「でもなんで今その話を?」


一流のツルギ様は自身の両手を眺めながら暫く言葉を失った。


「盾か───。」

「昔話。」

「そう小僧がこの世に生まれる以前の。」

「少々長くなるがな。」


「あぁ、イイぜ。」


ダニエルは机の上に置かれた深緑色のライターを手に取り

見つめながらに話を続けた。



「私はこの国で、ある男と出会った。」

「その男は私にとってある意味、師とも呼ぶべき男だった。」


「彼は自身に迫る如何なる驚異をも往なす能力者であった。」

「私が究極の剣であるように、彼は生まれ持って究極の盾だった。」


「彼は私の能力とは違い、他者にもその力を分け与えられる男だった。」

「故に彼は、この国の諜報機関で警護の任についていた。」

「護衛対象にも不死の力を分け与える事が出来るからだ。」

「いわば究極なる護衛官だ。」


「しかしある時、彼はこの国───」

「付き従ってきた祖国から追われることと成った。」

「自身の信ずる正義の為に───。」


 そう語るダニエルは、目元だけに憂いを宿し、大事そうに愛でていたライターで

立て続けにまたタバコに火をともした。


「つまりその男は、その究極の盾のせいでお尋ね者になっちまったって訳か───」

「それはそれとして、そんなパカパカ吸っちゃ体に悪いぜ、センセ」


「───あぁ、そうだな。」


「本来。」

「盾を得る為に小僧にとっての最良の師となり得るのは」

「私より彼だったのかもしれぬな。」



「私は剣。盾にはなれない。」


開いたままで居たライターの蓋をパキンとした端切れの良い音とともに閉じた。


「ハァ?」

「散々っぱら人を投げ飛ばしておいて」

「今更そんな事言うのかよアンタ」

「まさかとは思うが、此処まで来て」

「ケツ捲くるってんじゃねぇだろうな?」


「さっきっから似合いもせずなんかセンチ入ってっけど」

「さっきの襲撃はオレの油断が招いた事だ。」

「アンタが責任感じることじゃないし」

「アンタがオレを投げ飛ばす度に偉そうに説教してた戦術!」


「アレがなけりゃ今頃オレは首チョンパだ───」


あれ?なんで俺コイツのこと庇ってんだ?


「まて、それとも───もしかして」

「オレの力」


「無くなったってことか?」


向かいの男は漆黒のワイシャツの上に着たホルスターから銃を抜くと

その銃口を自身の顎の下へと押し当てた。


「すまなかった真。もっと早くにこうしておくべきだった」


「バッ───やめ!」


オレは奴の手にした銃を取り上げようと

ベットから飛び上がるが銃なんて触ったこともない。

どうすりゃいいのかわからないまま

なんとか銃を握る奴の手首を掴んだ。



同時に、カーンと乾いた破裂音が地下の部屋に鳴り響いた。


 モノクロの景色の中、目を瞑るダニエルは

首だけを横へずらし銃弾を避ける。

頬をかすめた弾丸が頬骨をかすり

頬に一筋、赤いラインを描いて

天井へ向かうのが見える。


着弾したコンクリートの天井から降り注ぐ破片がまるで粉雪のように

二人の男に降り注いだ。


セピア色へと色を取り戻しつつある向かいの男の顔

それ目がけてオレは非難の叫び声を思いっきり叩きつける。


「ハァハァ───バッ馬鹿野郎ォ!」

「アンタ!一体何のつもりだ!」


眉間にシワを寄せ、固まっていた向かいの男。

まもなく石化の魔法が解けたように、周囲の酸素を求め短く呼吸を始めた。


「クハッ───、ハッハッハァこれは───」

「なかなかにクるな。」


「心臓に掛かる負担が尋常ではない。」


「ウルセェ!こん───」


「真。」

「私は剣、そして───盾は既に此処にある。」

「伝え、授けるまでもなく」

「お前こそがAigis.」


「何人たりとて奪うことのできない絶対生存の継承者だ」


「───はぁ?」

 あっけにとられるって言葉はきっとこういう時のために有るんだろう。

オレは握った奴の手首を奴の胸に叩きつけるように離した。


「オレが?」

「アンタの師匠と同じ能力者だって言いたいのか?」


「然り。」

「現に今お前が救ってみせたではないか。」


「私を、私自身の手から。」


確かに、オレがよく見る白黒の世界では、普通に動けるのはオレだけだった。

でも今はダニエルも普通に動いてたよな?


「だが待てよ!百歩譲ってその能力をオレが持ってたとして───」

「オレが絶対の盾だってんなら、なんであの時、咲夜が怪我しちまったんだ!」


「仮説。」

「おそらくその時、彼女の素肌に小僧が触れていなかったのだろう。」

「今の我々のように」

花火の日か、はっきり覚えてないが、たしかにそんな気もしなくもない。


「だが、危険だったのは彼女の事ではなく」

「寧ろ小僧。お前の方だ。」

「あの時、お前自身の能力が喪われていても不思議ではなかった。」

「そして今日も。」


「───オレの?」


「然り。」

「能力者として、自身の能力を理解した上で」

「その能力が至らないと自覚した時。」

「能力者はその能力を失う。」

「一時的な喪失もあれば───」

「永遠に失う者もいる。千差万別」

「こればかりは誰にもわからん」


「自信の喪失こそが我々、能力者にとって命取りなのだ。」

「小僧自身がその能力を無自覚に行使している事は───」

「私達が初めて出会った日のあの河原、そして真の部屋での不死テストで理解していた。」

「真自身がすでに自らその能力を開花させ、そして行使していると。」

「バイクの事故を見てもそうだ。」


「は───!? バイクでコケたのも知ってたのかよ!!」


「言ったはずだ。ずっと見ていたと。」

「だが幸い。無自覚故」

「咲夜の一件から小僧はその能力を失う事は無かったという訳だ。」

「今日の襲撃に合うまではな。」


 確かに。オレが今まで、なんとなくで使っていた

チットばかり自慢だった身体能力が、ここの連中のような

非日常で特別なものだとオレ自身マジで理解してたなら。

咲夜の一件で完全に自信喪失してただろう。


 能力者として自覚しないでも、咲夜の一件であれだけオレの心が掻き乱され

なんとか紙一重で立ち直った今ならダニエルの言う

能力者の命取りって話も痛いほど判っちまう。


「しかし、これからは今までのようには行かぬ。」

「理解し、自覚した上でその力を己の物としなければ。」

「誰も救えはしない。」


「言いたいことは判った。」

「だがよダニエル先生。」

「今日の襲撃はちと違ったぜ?」


「力が発動した上で無効化されたってんならちっと自信なくしちまうかもだけど」

「今日に限ってはそもそも発動すらしなかったんだ。」

「経験した今なら分かんだろ?アンタも───」

「ドロっとしたあの感じ。」


「あぁ、貴重な体験では有った。」

「仮説。───でよければ」


「イイぜ。聞かせてくれ」


「真、お前。喧嘩は得意か?」


は? まぁ自慢じゃないが負け無しだな

「あぁ、まあな」


「その際、力は使っているのか?」


はぁ?バカにしてんのかこのオッサン!

「ばっ!バカ言うな! そんな卑怯者じゃねぇよ!」


「使っていないのだな?」


「使うっつーか、そもそもヤベェなんて思いもしねぇよ」

「いつもどおり相手を伸すだけだからな!」


「そうなると発動のトリガーはなんだと思う?」


「そうだな、マジヤベェ!って感じたときか」


「つまり、生命の危機を感じた時。」

「というわけだな?」


「あぁ、まぁそんなトコか」


「今日の襲撃者。奴からそれは感じたか?」


「無かった───」

「すげぇプロ根性の花屋さんだと思っちゃいたが」

「今考えりゃありゃ違う。」


「殺意を持たずに殺し回るって、単にイカれてたんだあの女」


「結論。」

「トリガーの一つは、対峙した相手の殺意感じた時だということだな。」


 ダニエルの力はさっき自身で語ったように、素手なら意志に関係なく

マキシマム殺意って事なんだろう。オレに向けられた殺意じゃないのに

オレの力は発動した。


 バイクで事故った時もオレの力は発動し、飛び出したネコも救った。

つまり殺意を持った相手と対峙するか、本気でオレが死ぬと思った時

この力が発動するってわけか。


 花火の日、刑事みたいな連中に撃たれてからコッチ、ダニエルに何度となく

暗殺銃で撃たれてる。撃たれてるのに生きてるって現実。


最初はあの銃がニセモノか、なんかタネがある手品的なもんかと疑ったが

逆にソッチのほうが非現実なんだと、ココの連中と付き合ってると

非現実がすっかり日常になるほど今までの常識が

すっかり消し飛んじまってる。



いまさら


お前は不死身だ。


そう言われても


ハァ。やっぱそっすか!


そんな具合だ。




「───そうか、いろいろ納得だ。」


「安心するのは早計。」

「今まで無自覚に感覚(SENSE)任せだったその力───」

「己の意思でコントロールするように成らねば」

「これまでの苦労も元の木阿弥だ、一層に励め。」


「チッ、相変わらず棘あんな。」

()()()()()()がよく知ってるなそんな言葉」

「だいたい、自由意志でコントロールなんて事・・・」

「できるのかよ?」

「んで、なんでコントロール出来ると分かるんだアンタ」


「相変わらず小理屈だな小僧。」

「前任者は当たり前のようにやっていたぞ?」


「ならオレだって出来る様になるまでだ。」

「あぁ、そりゃそうと、ダニエルさんよ」


「何だ?」


「さっきの真に迫った芝居、あんなのはもうこれっきりだ。」

「オレがシクってたらどうするつもりだったんだ。ったく」

「今度やったらマジでボコすかんな!」


「了解だ。」

「だが小僧。」


「私がお前に真実を語り聞かせたとて」

「心から理解しないだろう? お前という男は。」


「チッ、それは───確かに。」

「でも今度やったらまた殴るからな、いいなオラァ!!」


 言葉足らずと本人が語るように、新聞に載っちまう問題教師みたいに

このセンセーはマジで身を以て教えるタイプだ。

そういうのをなんていうか知ってるか?

「───ったく不器用なんだよ朴念仁め。」


「フン───」

「では今日は休め。」

「明日から本番だ。」


そう言い放つとダニエルは再びタバコに火をともした。


「あぁ、明日からがマジバトルだかんな!」


椅子を丁寧にもとに戻すと、ジャケットを背負って

くわえタバコのダニエルは部屋を出ていった。



(───そっくりだよ)



閉まる扉から、そんな言葉が聞こえた気がした。




3章 キリングハウスへようこそ! 終

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