表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
三章 キリングハウスへようこそ!
50/99

3-14 壱拾話 再会は花の香のENGAGED 1

八月一九日 朝

 


 姐さんから知らされてた通りのバイト休日。

まぁ夜には、あの先公に小突き回されに行くのだけど───。


「あーら、よっと!」


 空キックで上死点まで圧縮されたシリンダー内圧。キックアームに体重を載せ

1ノッチ分押し込み、圧を抜きキーをONへと回す。

リターンスプリングの反力でキックアームが初期位置へと戻ると同時に

そのまま一気に蹴り降ろす。

すると何時ものように小気味好い連続音が轟いた。


「空気圧よし、オイルレベル、燃料共によし。」

「じゃ、今日もよろしくなTyphoon.」


 小ぶりな帽体のジェットヘルメット。額に収まっていた革のゴーグルを掛け

市内に向かい走り出す。

朝の天気予報では夕方から崩れるって話だけど、今はそんな気配が微塵も感じられない

夏草で覆われた鮮やかな山々を貫くバイパスの上には、青々とした夏空が広がっている。


「トルク、午後の天気教えて」


『了解。気象台の気象データ照合───。』

『19日午後、近畿地方の天気予報。』

『14時からところにより一時雨。』


 姐さんに猛反対されながらも、便利だし、現代っ子には必要だと

なんとか勝ち取ったハンドルのスマホホルダー。


そこに収まる唯一携帯を許されたスパイ道具。

特製のスマホがネット上の情報を元に午後の天気をオレに伝える。


「雨ねぇ、こんなにいい天気なのに?」


別に、納得がいってないとかそんなじゃない。

あまりにも気持ちいい夏空にうかれて

ただ独り言をつぶやいただけだ。


了解(Roger)。追加検索。』

『JTWC及びNOAA秘匿回線へ接続。』

『DMSP衛星管制掌握まで20.19...』



「ちょ待!」

「なにそれ?よせ! 止めて」

「トルク中止! スリープスリープ!!」



『了解。回線切断。』

『アクセス記録消去成功。』

『スリープモード実行。』

『じゃ、まったにゃー』


よくわかん内容だけどヤバそうだってのは判った。

このスパイスマホ、現代っ子には高性能過ぎる。


ジェームスなにがしか、イーサンほにゃららバリのやり取りをトルクとしていると

程なく山々の先に市内の町並みが見え始める。


 先日、あれやこれやが有りつつ、オレを思い出した咲夜。

あの日彼女が落ちついたのを見計らって、その日は引き上げることにしたのだが

帰り際イケメン看護士に呼び止められた。

声をかけてと言われていたのをドラマティックな展開で

すっかり忘れていた。


まぁ一応ね。と手渡された封筒には、カウンセリングの予約票と

案内の冊子が入っていた。


 全く───、あの花屋さんと言い、周りの大人のプロ根性には頭が下がる。

咲夜に泣きつかれて以来、2日にいっぺんはこうして見舞いに病院を訪れる事に

なったのだから事の序でと言っては、彼の温情に対して失礼だ。

断る理由もない以上、オレはその好意に甘えることにした。


 そうはいっても、まぁまずは咲夜の見舞いだ。

別れ際に必ず次回の約束を分単位で指定し、それを時間きっかり守らないと

あの小動物は納得しないどころか、肩パンでも済まない。

今度は怒りに任せてオレの頭に噛みつきそうだからな。


 いつものように、受付でガタイの良いゴリラ面の警備員に睨まれながら

手続きを済ませ、コレまたいつものように花籠を買って、高層階行きのエレベータを待つ。

ただ今日は、いつものカードと鉄壁のラッピングがないのがちと寂しい。

この間までの花屋さんはこの病院のテナントから撤退したらしく

別の花屋さんのスタンドに変わってた。


「あのゆるふわお姉さんともお別れか」

「うん、ちと寂しい。」


 新しい花屋のおばちゃん店員さんはチットばかりセンスが大人向きだった。

小娘に持って行くにしてはゴージャス過ぎで大げさになっちまう。そこでオレは

以前のゆるふわ花屋さんから教わった頼み方、花の色指定で花籠を作って貰った。


『ポーン十階です。』


「花屋の注文スキル教わってて良かったぜ───あ。」

到着したエレベータ内の男を見て、思わず声が出た。


「見舞いか? 小僧。」


「まぁな、そういうアンタは護衛か?」

「アンタが此処に居るってことは───。」

「来てるのか? 彼女。」


「然り。」


「そうなるとだ、改めて聞くが問題ないんだよな?」


「何がだ」


「チッ───。」

「記憶が戻った俺達が一堂に会するってことにだよ!」

「判れよそんくらい。」


「あぁ、問題ない。」

「───只。」


「ただ、何だよ」


「燥ぎ過ぎて、訓練に遅れるなよ。」


「あーハイハイ、わかってんよ。」

「んじゃ、あばよ先公」


後でボコってやんから覚えとけよ。


 どうやら咲夜の姉、茜も咲夜の病室へ来ているようだ。

彼女もあの日、俺の事を思い出したようで、夜にはスマホへSMSが飛んできた。


 ダニエルが最も危惧する襲撃時の記憶。その記憶を彼女達に思い出させないよう

上手いこと話を合わせながらだけど、花火や屋台巡り等、俺達にとって大切な時間は

取り戻すことが出来た。

 やり口は気に入らねーけどひとまずコレでスタートラインに戻れたわけだ。

とは言え、オレが逃げ出してから茜に直接会うのは初めてになる。

ちと緊張しちまうな。


看護ステーションに目をやると、電話中のイケメン看護士が

どうぞと言わんばかりに、受話器に耳を当てたまま

手のひらを上に咲夜の病室を指す。


───コンコン


「はい、どうそ。」


ノック直後に茜の声が聞こえる。

茜が咲夜の病室へ、来訪者を招き入れた。


「───よ、よう」


「あ、真君!」


「おっそーい真兄ィ!」


「時間通りだろ! あ、茜さんコレ。いつもの花籠」


「わぁ、いつも有難うね真君、あ。」


「───っ」

 花を手渡す際に茜の指先とオレの手が触れ合った。

心臓から全部持っていかれて体が裏返しになりそうになる。

出会ったあの時と同じだ。


「オホん。」

「なーに二人で見つめ合ってるのエロ兄ィ!」

「口あいてる!!」

「茜姉ェも!」


「違う違う! 」

「私だって真くんのこと思い出してから今日初めて会うんだから」

「なんで忘れちゃったのかなーって。それだけ。」

「心配しないでーとらないから怒らないで!」


「な! なんで心配なんか───」

「し、して無いんだから!」


「あの、お二人。そういうの、照れるんで止めてください。」


 ダニエルが語った、茜が能力者と言う話、あぁ。今なら満額で信じられるサ。

初めて会ったあの時も、似たような感覚に立ち尽くした。ロイ先生やエレクトラさん

何度か遭遇した能力者とその能力。これが茜の能力なのだろう。


 思えばあの時も───。

いくら失意の少女がバス停に居たからって、その場のほぼ全員が

茜に声をかけるなんて改めて考えれば、チョイと異常だ。

茜の能力がなんて名で呼ばれ、ダニエル達大人がどう利用しようとしてるのか

今は全くわからないけど、これだけは解る。


たぶん茜は無意識のうちに年齢性別に関わらず、人を惹き付けちまうって事だ。



「───ねぇ、真兄ィ!聞いてる?」


「あ? あぁどうした?」


「───もう。聞いてないし!」


「退院日が決まったって言ったの!」

「咲夜明後日のお昼に退院。」


「マジか!おめでとう咲夜。」


「あ、ありがと・・・・へへっ。なんか照れるね」


「マジ───。良かった。」


 退院の言葉に鼻の奥がガツンと痛む。

とりあえずコレで一つ、オレが護りそこねた人が助かった。

その事実がただただ嬉しかった。


「え。真兄ィ?泣いてるの?」


「ばっ!!な、泣いてねーし。鼻水出ただけだし!」

「お前こそ、この間オレのシャツ涙と鼻水でべしょべしょにしたろ!」


「ななな何言ってるのバカ兄ィ!」


「そうなの?咲夜ちゃん。」

「えへへ、なんか私も、もらい泣き」


「だから泣いてねーし!」

「だから泣いてないよっ!」



 茜を病院外のバス停へ送る。本当なら退院日当日、退院祝いのサプライズを茶店か

ドコかで計画したかったけどな、二人きりで。まぁ当然そんなのは無理な話だ。

今も何処かでダニエルが監視───、いや護衛してるんだろうサ。


 ヤベェのが、護衛の事実を知っていても、一切気配がないってんだから

悔しいけど超一流って事なんだろうよ。


「じゃぁ真君はこの後、カウンセリングなの?」


「あぁ、別に具合が悪いとかそういうんじゃないんだ。」

「ただ、せっかくあのイケメン看護士が気を利かせて手配してくれたんだし」

「断る理由もないかなって。」


「そっか、チョット心配しちゃった。えへへ」

「あ、バス来た。」


「お、おう。じゃ明後日な茜さん」


「うん、またね真君」


 茜のバスが出るのを見送ると、その二台後に、見覚えのある

黒くて小さな古い車。すれ違うその車内で黒ずくめの護衛者(ダニエル)が目だけで

オレを捉えると小さく一つうなずいた。


「じゃあとは任せたぜ、センセ」


茜の乗るバスと男のクラシックカーを見送ると病院へと引き返す。

カウンセリングの予約が近づいている。スマホの時計で確認すると、その画面に

映る三人の写真。その写真に映るオレの頬の位置に雫が一筋流れる。


「あー、やっぱ降ってきちまった。」


 その雫はすぐにパタパタと音を立て始め、すぐにスコール状のシャワーとなり

地面を黒く染めてゆく。表門を通り例の受付へ回ってたらずぶ濡れだ。

オレはバス停手前の路地へ飛び込み、病院の裏口を目指して走り出した。


救急搬入口を兼ねる裏口が見えるころには、曇天でおひさまを覆い隠し、漆黒へ

緊急の文字と回転灯の赤い光が、予報通りの雨で濡れた路面を赤々と照らしていた。

残念ながら既にずぶ濡れに成っちまった。


裏口横でシャツを脱いで絞り、そのままそのシャツで頭をかきむしっていると

水色に花柄のかっぱを着た人物が横の扉よりふわりと現れすれ違う。 


「あら?あらあら、アナタはマコトくん?」 


その声にオレは聞き覚えが有った。

何度もオレや咲夜の心内を見事に写し取ったような花籠を用意してくれた

ゆるふわ花屋のお姉さんだ。


「あぁ!もう会えないかと思ってました。」

そう言いながら慌ててシャツを着る。


「ウフフ、偶然。」


「──────なんて」

「思っているのね?」


 そう言ったとほぼ同時にポンチョタイプの合羽が

まるで翻したマントのようにはためくと、その下に広げられた両腕の先には

鈍く光る特徴的な鎌状の刃をしたフローラナイフが両手に握られていた。


「え?」


「待っていたのアタシ、ねぇ日比谷 真くん。」


裏口と言えど、大病院だ、救急車が二、三台付けられる程には広さの有るコンコースを

彼女はそう言いながらゆっくりとした足取りでオレに歩み寄る。


水色のポンチョのような雨合羽の下には、サデスティック女王様が着てるようなボディスーツのような

つや消しの戦闘服が見える。明らかなのは、再開した彼女はもはや花屋さんじゃないってことだ。


「───、アンタ一体何者なのさ?」


何も考えずに、ズボンの背に挿していたカウンセリングの封筒に手を回し

適度な細さに丸めながらに、元花屋の彼女にそう問う。


「あら?知ってどうする気なのかしら?まぁいいわー教えてア・ゲ・ル」

「私はデイジー、職業はそうね───。」




「───アナタの敵よ。ヒビヤマコト!」


そう言うと彼女はオレに向かって駆け出した!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ