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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
三章 キリングハウスへようこそ!
47/99

3-11 真の休日 -押しかけ女房と手強い姑-

八月一日


『にゃははは!起きろ!! にゃははは!起きろっ新人!』


「もう起きてるよトルク」


 デジタル的に変調された、姐さん声のスマホアシスタントにそう告げると

オレは、ベットに仰向けになったまま、枕元のスマホを手に取る。

自動的に映し出された画面を確認すると、3人の顔に透過する様

9時16分の文字。


クソ、ほとんど寝れてねぇ。


 昨日、オレはあの後、ダニエルに駅まで送ってもらい、電車で

帰路についた。体と心を休ませるための休日だってのに、

HP・MP・SAN値、オレのステータスは見事に全て底をついちまった。

 シャワーも浴びず、そのままベットに転がり込んだものの

2時間おきに目をさますこと数回。寝たのか寝てないのか、わからないまま

気がつきゃ9時過ぎだ。


 とにかく、今日は何も考えず泥のように眠ろう。そう思ったときだった。

額の汗を無ぐった逆の手に持つスマホのバイブが短く振動する。

画面を見ると、ショートメッセージ、一件の表示。

オレは、また何かよくない知らせじゃないか?そう思いながらも

SMSアプリを開いた。


シュコッ。『おっはー新人ちゃん。もう着くから』


 姐さんのメッセージはそんな一方的なものだった。

予感的中。待ってくれ、デートのお誘いも、約束も何一つ交わして

ねぇっつの! オレは、恐る恐るそのメッセに返答した。


シュポ『おはようございます。えっと、どちらにお着きに成られるのです?』

嫌な予感はしていたが、あえてそう送信した。


シュココ『ドコって、ココだにゃ』

【作業着ネコが親指を立てたスタンプ】


 そう返信が入った次の瞬間、ウチの呼び鈴がなった。

「やっほー新人ちゃん!」


やっぱり───。休ませてくれるんじゃないのかよ!


 ため息を付きつつ、すぐに開けるから待ってろと姐さんに伝える。

一秒も待てないセッカチな彼女に、玄関を爆破されちゃかなわないからな。


 オレはパン一のまま姐さんの前へ出るわけにもイかないので

(てーい!と言いながらパンツ降ろされるに違いない)

そのへんに放おって置いた短パンを履き、腹を掻きながら玄関を開けた。


「やほほ新人ちゃん! 君の彼女を連れてきたよ、さぁさぁ来るのだ!」


 「なんスか!」そうオレが彼女に言う暇も与えず、いつものように

オレの腕を SUGOIDEKAI 谷間に挟み、グイグイ外へと引っ張る。

コッチの都合も意思も関係なしだ。だが───。

まぁいい、朝パイ挟みに免じて許そうではないか。


 一瞬そんな事を考えたが、裸足で表に連れ出されそうになるのを

すんでの所でタタキのクロックスを突っ掛ける。アブねぇ。

真夏の日照りで焼け付くアスファルトだぞ!


 それよか、彼女を連れてきた。だって?

まさか茜を連れてきたんじゃないだろうな?

いやそれはないか。なにせダニエルが直接触を避ける存在だ。

なら今度は一体誰に会わされちまうんだ?

 茹だる熱気の中にほおり出されたからなのか、または冷や汗なのか。

額に汗が吹き出る。挟まれたまま、オレはアパート横の路地まで

連れ出された。


 そこには例の姐さんのボロい愛車───いや失礼。

詫び錆ペッタンコのアメリカンピックアップが、デロデロ言いながら

停まっていた。その荷台には、カバーに覆われてタイダウンで括られた

彼女が居た。


「姐さん、あれ。Ratchet Typhoon?」


「うん、そう。押しかけトツギ(嫁ぎ)ーノ。」

「ハイハイ!下ろすの手伝ってー。」


 姐さんは、手慣れた手付きでタイダウンを外し、ゲートにラダーを

掛け花嫁衣装(ボディカバー)に覆われたTyphoonを下ろす。


 姐さん?持ってくるのはいいんだけど。

オレは彼女をまだ手懐けてない───。

いや───失礼、乗っていいよとお許しを貰ってない。

Typhoonのエンジンをまだ一度も掛けれてないんだ。


「ハイ、新人ちゃんはコレとコレ持って!」

「あとオレンジ色のツールボックスも!」

「さぁ!愛の巣へレッツゴー!」


 そう言いながら大きなダンボール箱をオレに持たせ、その上に

オレンジ色の箱を載せた。グッ! マジ重い。


 彼女はと言うと、Typhoonをオレの居城の方へと押して行った。

オレの腕に積み上げられた荷物は頭の高さを優に超え

なんとか横から視界を確保しつつヨロヨロと姐さんを追った。



「ふー。これでヨシヨシ!」


「よくねぇよ!なんで持ってきちまった姐さんッ!」

玄関先にビンテージバイク。玄関にはオレが部屋に入れないほどの

荷物が積み上げられた。


「ハァー?なにそのリアク、マジウケる。」

「なに?嬉しくない感じ?」


「いや、嬉しく無くは無いんですが。」

「でも───なんで?」


「だって新人ちゃん、足無いとあの時間に家出るっしょ?」

「アレは流石にツライって、続かないって。そう思ってねー」


昨日の朝の事だ───。朝七時前、オレは駅へ向かう際

姐さんに出会った。


「まぁ、そんな話は後、あーートゥ!」

姐さんはいつもの調子でカバーを引き剥がす。

磨き上げられたその車体。陽の光のもとで改めて見るとマジ渋い。


「ヨシ、そんじゃーとりあえず掛けてみ。」


「はぁ?イキナリ?ココで?」


「そ、何?」

「怖くなっちゃったのぉー? ウブなんだからぁ。」

再び挟まれそうになるのをすんでの所で逃げた。


 何度と無くチャレンジしては、姐さんに後頭部をネコマークの黄色い

スリッパではたかれ、今日はココまでとリトライを断られ続けた

神聖な儀式。


 オレはゴクリと生唾を飲み込み、クロックスをスニーカーに履き替え

Typhoonへまたがる。


「や~ん、これから少年の初めて(ヴァージン)を奪うのねー」

「ア・タ・シ・の・娘ちゃん。」


「チョ! 言い方ァ!ご近所さんが見てる!」

まぁそれも、掛けられたらの話だけど───なッっと


 教わった通り、キックの重さでピストンの圧縮上死点を探り

一気に踏み降ろすと、あっけなくそのエンジンは小気味良い鼓動を始めた。


「あレ?なん───ウソ。こんなあっさり」


「あー、やっぱしだったかー。」

姐さんが自分の額を帽子の上からぺしぺしと叩く


「一体何したの姐さん!」

その瞬間、姐さんの大きな瞳は、オレに刺さるような視線の

ジト目に変わった。


「不本意! まーーったくの不本意なのよ!」

ヤベっ。地雷踏んだ───。そう思った。


「いーい?新人ちゃんはね、初爆をアクセルで拾えないからって、無駄に

 アクセルパカパカ開けるからカブるんだって! そんでー、そんな少年

 でも扱えるようにCVキャブに換装するんだけどもー、そもそもがね!」

「こーんなダルな代物つけるようなマシンじゃないのよ! ワカル?

 でもって、換装って言っても大変なのよ?」

「ファンネル込みの吸気経路を最適な長さになるように計算してね!

 パイプにフランジ溶接して仮物作るじゃない?」

「 でもそのままじゃ美しくない。コレは絶対認められないのよ!

 だ・か・ら・借り物のソレを叩き台にしてロウを削り出して

 鋳物で吹き直───」


オレは呼吸を制御し、そっと意識の扉を閉じた。



 朝の玄関先でご近所のオバサマ達が見守る中。オレは正座し、

キョウボウな胸部をお持ちの姐さんの御高説賜った。

当の姐さんは気が済んだのか、晴れ晴れとした顔つきで

いそいそと車へ乗り込んだ。


「じゃーねー新人ちゃん。後は任せたから、あ。もうこんな時間」

「開店に遅れちゃうにゃー」


「あっ!姐さん!!空ぶかしは───」

 時既に遅し。デカイエンジン音と共に、ドギャギャギャと音を

立て路面にタイヤ痕を残し、煙とともに去っていった。


あー。近所のオバサマ方の視線が痛てー。


 頭を掻きながら、引きつった会釈を交わしつつ、視線から逃れるように

アパートに引っ込んだ。


 積み上げられた段ボール箱にため息を付きながら、出入りに支障が

無いように積み直すが、やっぱり狭くて目障りだ。中身を出して

ダンボールを畳むことにした。


 その箱のなかには、彼女の指示書と共に、車検書や

公道を堂々と走るための書類が入っていた。

そしてその下には、ヘルメット、ブーツ、グローブ等、装備一式。

そして一番重かったオレンジのネコのマークが付いた鉄箱には

最低限の高級工具一式そして───。

オレンジ色の着古したツナギが入っていた。


あぁ───これは───。なかなか・・・・・・・・

あれ?よく見りゃコレ、女性用ってわけでもない。あー

だから袖を腰に結いてズボンとして着てたのか姐さん。

()()()()()()()───。


フシダラな妄想を振り払い、早速指示書とやらに目を通す。


新人ちゃんへ───

 約一週間、キミを見ててわかったことがあるにゃ

 キミは暇を持て余すと思い込む()()があるの

 今日は一日、我が娘。Typhoonと戯れるのもいいかもね。

 強制はしないよ。キミが望むなら。

 彼女の声を聞いてみるのもいい気休めになるかもにゃー。


 オレは姐さんの気遣いにグッと来た。こらえきれないものが溢れ出そうに

なって、思わず鼻をすする。


その時、片手に持った姐さんのツナギから小さなメモが、

するりと床に落ちた。それを拾い上げてそのまま目を通す。


 アイドリングはするけど上のセッティング出す時間がないにゃ

 このままじゃまともに走れないけどまぁいっか!

 たぶんこの三種類のニードルとメインジェットで大丈夫なはずー

 あと、ミクスチャーは1と2/3ぐらいかにゃ?

 いいやこのまま箱に入れちゃえ!


 じゃ───頑張れ新人ちゃん!

 ラチェットより愛を込めて。

 

「強制じゃねーか! 姐さん!!」


 オレは、キスマークが付いたその紙を握りつぶした。

現在11時。明日迄になんとかしないとバイトに、訓練に行けない。

只今より整備タイムアタックの始まりだ。


ひぐらしが鳴く中、姐さんが置いていったBPと書かれた緑色の

ペール缶に腰を下ろし、コーラを一気に煽る。

「ふぅ、なんとかフケ上がるように成った───か。」


具合の悪い機械を、自分の手で治すということが、これだけ達成感のあるものだと

オレはこの時、初めて知った。

心なしか、明日からもまた頑張れるような気がする。


「よし、調子見ながらラーメン食いに夜走に行くか。」

「な、Typhoon.これからヨロシクな」


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