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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
三章 キリングハウスへようこそ!
42/99

3-6 八話 トレーニング・デイズ 1

 先日の花火の日に知り合った姉妹、茜と咲夜。

二人は普通という世界からほど遠い裏側の世界の住人だった。

それは銃弾の飛び交う世界だ。


 突然現れた襲撃者から彼女たちを守るうち、オレもどうやら裏側の世界に

迷い込んじまったらしい。紆余曲折有った末、どうにか二人の安否と彼女たちを取り巻く

裏世界の仕組みの一端を知ることになった。そして危機に晒されている姉妹の妹、咲夜を守る為の

守護役をかって出ることになった。そう、CASINOという組織の元で。



二〇一八年七月二四日 多分早朝


 CASINOの秘密本部、地下何階だかの廊下を外に向かい

デコ撃ちが得意な殺し屋先生と長く続く地下の廊下歩く。

ひとまず家に帰ってシャワーを浴び、一眠りしてHPとMPを回復しなきゃ

咲夜や自分自身に何か有っても対処できない。


 結局、徹夜で講義を受けちまったオレに、ロイ()()は寝場所を

として、オレ用の個室を用意してくれたらしいが───。


ココの貸し与えられた部屋で休むか。

アパートへ帰るために、前を行く男に頼むか。

本来ならどっちも願い下げだ。


 だがアパートから郊外の山奥にあるここまでバイパス使って約一時間。

とてもじゃないが、疲れ切ったオレに歩いて帰れる距離じゃない。

残念だけど、ここは前の男に頭下げるしか無い・・・か。



「・・・・・・・・」


「───、なぁダニエルさんよ」


「何だ、小僧。」


「事情は大体判った。アンタが茜だけを守るって理由は解らないが」

「今ソレはいい。」

「アンタが守らないってんならオレがやる。咲夜はオレが守る。」

「もうあんな思いはゴメンだからな。」

「ただ、先生も今のままではダメだと言った───。オレもそう思う。」

「今のオレには自分自身を守ることすら危ういってのも理解してる。」


「そうか、では励め。」


「チッ───。」

「で、でだな。色々聞きたいことも有るが───」

「ひとまず───アレだ。」

「ど、どうなんだ?」


「何がだ」


「オレは家に帰れるのか?」

「アパートに戻ってその・・・あ、安全───なのか?」


「・・・・・・」

「何をもって安全と言うかにもよる。」


「だっ───!」


「まぁ聞け。」

「差し当たって問題はないだろう。」

「だが腑抜けていられた生活には二度と戻れない。」


「そうじゃなく!」

「あーもうほんっとアンタはアレだな!」


「なんだ。」


「───寝てぇんだよ、とりあえず! 送ってもらえるのか聞いてんだ!」


「フン、了解だ、そうならそうと早く言え馬鹿者。」


何この無駄なやり取り・・・このオッサン壊れてんの?


 そうこうしながら俺と忖度出来ないダニエルさんは

昨晩下りてきた螺旋階段を登る。

先を行くダニエルがガレージに続く扉を押し開いた。

そこには昨日、オレが先生を乗せて無免許運転してきた

あの小さい車が止まっ───

あれっ?


「チョット! わんこ君!! あ、新人ちゃんだ。やっほー。」


 大型ダンプにでも踏まれたんじゃないかって位ボッコボコの

高級スポーツカーの横で、スパナを持って仁王立ち

オレンジ色ツナギ(作業着)姿のせくしぃオネーサンが居た。

 

年頃の美少年にはとーても、目に毒なお召し物のお召し方でございます事。


 後学の自習のため、あえてご説明しよう。

ツナギの袖を腰で縛り上半身は───、あの、それ下着っすか?

まぁ多分見せブラってやつに、ボインが大盛りバインバインだ。

ベースボールキャップを斜にかぶり、金髪の髪はサイドポニー。

その上から炎のマークの入った溶接面って具合だ。

ボインがバインバイン以外は、見たままいかにも整備士って感じだな。


「新人ちゃん、ちょーっとココで待っててね」

「ハイ!わこくんはここに来てお座りヨ!さぁ!さぁ!!」


 そう言うとツナギネーさんは、ダニエルの腕をわっしと掴み

事故車の横まで引っ張っていった。

あ、ダニエル氏のそういう運び方アリなの?

ま、流石にお座りはしてないようだけど。


 オレはというと、待てと言われちゃ待つしか、無いんだろうなぁ。

お仕置きは貞操的にまずいからな。眠気と疲れから、重くなった体を壁に預け

扉の前でズルズルと、そのまましゃがみこんで彼女らのやり取りを聞いていた。


「コラっ!イケナイわんこ君!」


「なんだ?」


「なんだ?じゃないワよ!」

「エンジンがバルクヘッドまで押し込まれてるし!」

「V12の片バンク潰れて6気筒に成っちゃってるじゃない」

「これじゃどうしたって、エンジン掛かんないじゃないのヨ!」

「フロントのマグホイールもダメ、割れてる。」

「あーそうそうカーボンルーフもクラックで真っ二つよ!」

「毎度毎度ほーんと! まったくどーいうつもり?」

「これでよくココまで帰ってこれたものね!」

「感心しちゃうわ!」


「世辞はいい」


「うるさい!」


すげぇ・・・あの冷酷な殺し屋が専門用語で怒られてる。

何者ッスか、(あね)さん。


「では頼む」


「何をよ!」


「修繕を」


「ムリ!廃車よ廃車!買ったほうが早いわ!」


「了解した。では上等なのを頼む。」


何あのやり取り・・・てか、ワンコって部分は拒否しないんだ。


 事故廃車間違いなしの高級外車の横で、ダニエルがズボンのポケットから

チップを数枚取り出し、バインバインの彼女に渡す。

彼女は親指をぺろりとひと舐めすると、受け取ったチップを数える。


 チップ。12とか13とか、ラスベガスの強盗映画で沢山出てくるアレだ。

CASINOって呼ばれるだけの事は有るけど、なんもそこまで───って

さっき迄、ロイ先生から教わった危ねー話と、あまりに不釣り合過ぎて

逆に気味悪くて笑えないって。


「8枚、確かにー!」

「へっへーまいどありぃ! あ、二十八番の子ね。」


あ、いいんだその支払い方法・・・


 つーか、映画で例えるなら

コンチネンタルホテルの通貨じゃん・・・まるで。

あー、ダニエル氏の誓いの血判、俺超ほしぃ~


 ツナギネーサンは、彼から受け取ったチップを胸の谷間に仕舞うと。

腰にぶら下がった鍵束の中より、電子キーを一つ取り出して

それをダニエルに向かって放り投げた。

 彼は宙を舞うキーを見ること無く、肩の高さでひらりとそれを掴み取った。

なるほど───。ワンコね。

フリスビー犬みたいだなと思った、悪く思うなよダニエルセンセ。


 地下駐車場の数十台と並ぶ高級車の中から

XXVIIIと記された場所に止まる車へとダニエルが向かう。

ツブした車と似たような、また超高級外車のスポーツカー。

アイツ、今あれ買ったのか?

あんなやり取りで?

マジか・・・


「ハァーイ!次、新人ちゃんの番よー、こっち来てー」


 出かけたあくびを噛み殺し、疲れで重くなった体を

膝を打って持ち上げると、即ネーサンにむんずと腕を取られた。


あの・・・当たってるんですが。

つか、腕、埋まっちゃってるんですが。

その、教育上よくない物二つの間に。

思いっきり・・・


 挟まっちまった状態で、オレはズンズン歩くネーサンに引きずられるがまま

奴が乗り込む車から見て、丁度向かい側にある扉の方へ連れて行かれる。


連行されるオレを奴は、乗り込んだ車の運転席から目だけで追っている。

必死にオレは奴を指差しながら思いを伝えた。


「なぁ!ダニエルさんよ!」

「いいか待ってろよ!」

「そのまま消えんなよオラァー!」


あの壊れた駄犬に、オレの思いが伝わったと願うしか無い。

全部言う前に扉の奥に連れ込まれちまった。



真っ暗な部屋に連れ込まれ、自分の貞操を心配する間もなく

天井の照明が、今くぐった入り口から奥に向かって順番に灯ってゆく。


「ヒュー・・・」


その光景に思わず口笛が出る。

 

 連れ込まれた扉の先のココは、部屋なんてもんじゃない。ホールだ。

地上の高級車が並んだショールームの、丁度地下に当たる部分。

そこいっぱいに、ドイツ、イタリア、イギリス製の高級バイクが整然と並べられ

右を見ても左を見ても、お宝バイクが目白押しだ。


バイクは多少判るぜ! 雑誌見てるからな。

とりあえずオレが買ってる雑誌には出てこない、高級大型外車ばっかだけどな!


「どぉ?みんないい子ばかりよ。」

「どの子がいい?どれ買う?」


何をだ。

菓子のオマケみたいに言うな。


色っぽいネーさんに腕を取られたまま

組んだ腕とは逆の手をひらひらさせて無心してる。

色仕掛けのポン引きみたいなことしたって、こーこーせーが

買える額じゃねぇ。無理なものは無理だ。


「あの、無理ッス」


なんでオレが毎月楽しみに買ってる雑誌に、ここに並んだ車種が

出てこないか判るか? 住む世界が違うからだよ、読者の!!


「えへっ、なーんてね。」

「こっちよ、新人ちゃん。おいで」


 おっぱいアームロックを解除され残念だが、うなだれてると置いてかれる。

モタモタしてると帰りの足を失う。

奥に向かい足早にスタスタ歩き出すおっぱいを必死に追う。


 地下展示場、その奥の一角は、見た目に立派な整備スペースとなっていた。

美しく並ぶ上等なバイク達に相応しい、きれいに整えられた作業場。

高級なメンテナンス工具の数々。壁から数えてバイクリフトが・・・・

7.8.10台分並べられ、そのレーン一つ一つにキャビネットが5台

あのツールキャビネット(工具入れ)一つで軽自動車が新車で買えるぞ?


 更には、きっと金持ちの客が、自分のバイクを眺めながら茶を啜ったり

愛車の解体ショーを楽しむような、カフェスペースも併設されている。


はぁ、有る所には有るんでこざいますわね。お金って!


珍しさにキョロキョロと見回しながら彼女の後を追うと

一番奥に見覚えのあるバイク()()()()()を見留た。

アレはまさか!デュラハン! 我が愛馬。デュラハン(250cc)じゃないか!


「はい!とーちゃくぅ!!」


「待って?」

「駅前の無愛想なオッサンが営むバイク屋に

 事故の修理をお願いして預けてたのに」

「なんで?」


「昨日ね、持って来といたの。」


「なんで?」


「解体屋に流れそうだったから」


「なんて!?」


「さぁ、治せないから売ったんじゃない?」


「なんでー!!」


「お金払った?」


「手付金¥5000・・・・・・」


「良かったね。」


「よくねぇよ! ファミレス5回は行ける額だぞ!!」


「まーまー、どのみちー。」

「結局治んないだけじゃなくてさ。」

「あの店でロクでもないセコハン掴まされてさ。」

「年中壊れて修理代に泣くことになったんだーって」

「勉強代として考えたらなーに、安い安い!」

そう言いながら、巨乳ネーサンがバンバンと肩をはたく。

巨乳ネーサンに慰められながらオレは───



両手の手のひらを上に向け。


両手のシワを見つめながらゆっくりと。


そのままその手を耳の上に当てる。


「嫌あぁぁぁぁー!」



あ、それにしたって何故エンジンまで外れてるん?


「でもなんでバラバラ?」


「バラしたの。ア・タ・シが」


「なんで!?」


「新人ちゃんに教えてあげるためよ。」

「丁寧に乗ってあげないと、どうなるかをネ」


「えっと、事故だったんですが・・・」


「ソレは新人ちゃんのミス。この子達は悪くないもの」

「むぅ・・・・・たしかに。」


痛いとこついてくる。


 それだけ機械に愛情持って接してるって事か、このネーサン・・・

そう言われちゃ猫がどうこう言えないな。どんな言い訳したって倍返しだ。

そもそも猫が飛び出しても止まれる、避けられる速度で、走ってなかった

って事だもんな。


「ほらほらーこっち来て見て見て、さぁさぁ!」


あぁ待て引っ張んなって! 当たる。挟まるぅ


「ココ見て、倒れたままお腹から街路樹にぶつかったのねー。」

「エンジンが下から押されてるでしょー。」

「だーからほら、エンジンマウントが持ち上がって」

「フレームのココが凹んでしまうのよー。」

「背骨も曲がっちゃってるの、ココよ」

「すると力がこーなって、ネック目がけて集中してー。」

「バキッ!とね」


「はぁ、で。治せます?」


「無理。」


「そこをなんとか。」


「ムリ!廃車よ廃車!買ったほうが早いわ!」


「では頼む」


「何をよ!」


「修繕を」


「へー、何それ。」

「わんこ君のマネ?」


「あ、ごめんなさい」

そっちが先に振ったようなもんじゃん。

出来心ですやん。


「へぇ面白いねキミ。フフフ」


怖い怖い怖い怖い!


「でもさー」

「これから通うんでしょ?ココに。」


「そうなるかな、やっぱ」


「毎回わんこ君に送ってもらうの?」

「お願いしますダニエル先生って、頼むんだ。」


「それこそ絶対無理な話ッス。」


 そりゃ完全にありえない。確かに足は必要だが

なんせ親に内緒で所有してるだけに、気安く金貸してと頭下げる

わけにもいかない。もちろん、ここのバイクを買う訳じゃない。

買えるわけない。

ごくごく普通の中古車買うにしてもだ───。


あ!ヤベ、親で思い出した、あの車の中に忘れてるスマホだよ! 

アレがないとマズイ。本当にマズイぞ。

北方より新幹線で悪魔が来る。


「あの───。」


「ハイ! 新人ちゃん。どうぞ!」


「あのぺしゃんこ車が止まってた場所に、昨日あった小さい車なんですが」


「あーBSR(ウチ)のバンプラちゃんねー。」

「あの子がどしたの?」

「惚れちゃった?」

「気に入っちゃった?」

「買う?」

「買っちゃう?」


「ではなく!」

「中に俺のスマホが───」


このネーサンもチョット、アレだな。

ここの連中はみんな、心か頭に問題があるんじゃないか?


「あーあー、ごめんごめん忘れてたわ。スマホねー」


「デスデス。」


「ちゃんと処分しといたわよー」


「なんでー!!」


「だってバックドア開けられてたんでしょ?危ないじゃん」


「あー! なんでー 借り物ォー・・・」


「あ、そゆことね。安心して新人ちゃん。」

「全部問題なしよ! もーんだーいナーッシング。」

「例の代替え品はちゃんと買い取って処分したの。」

「でー、キミのスマホもちゃんとお店から回収したから。」


後ですごい額の請求が、このネーサンから来そうなんですが・・・


「だーってさぁ。」

「キミの次に借りた人がね」

「キミと間違えられて、爆殺されたら夢見悪いっしょ?」


「爆───。なんて?」


「はい、そんでー、これ新しいやつ。」

「ウチの特製のだから絶対失くさないでよねー。」

「番号とか中身はキミのを移してあるしー」

「もちろん! セキュリティは万全よん。」


 そうして彼女が胸元から取り出した、全面ガラスっぽい黒いスマホ。

物理的なスイッチ類や裏のメーカー表記やロゴが一切ない。

表か裏かもわからないそのヌメッとした異常に軽いスマホ。

両面液晶らしく、表に向けた方が自動的に映る仕様だ。


その画面には、茜と咲夜と俺の顔。花火の日の写真が映し出された。


「なにこれ!すげぇ!しかも本当にオレのスマホになってる。」


「非常時に使える特番#8982もバッチリ搭載してあるわ! 」

「きゃぴん☆」


なにその横ピース


「で、その特番ってのは?」

通話モードにしてキーパットの画面にしながら聞く


「えっ、何?」

「もしかして、わかんない系?」


「は、はぁ」


「なんだぁ意外と鈍い子ちゃんだなぁー」

バ・ク・ハ・ツ(8 9 8 2)!」


「い、いらねぇー!」

慌てて顔よりスマホを離す。


「あとはー、そっかアシ(移動手段)ね。うーん───」

腕組みしながら細くとがった顎に手を当て考えるポーズ。


ネーサンネーサン! 持ち上がってる。

持ち上がっちゃってるってば!

このスマホ、カメラモードのアイコンは何処だ!

コレか?

あ、これじゃねぇや


「じゃ仕方ないっかー。」(まぁ丁度手が欲しかった所だし)


「えっ? 今なにか言───」


「はいはいはーい、いいから、いいから」

「さぁさぁ新人ちゃん。こっちおいでー」

むんずと手首を引かれ、また引きずられる。



Staff Only

そう記されたプレートの掛かる扉の中へ今度は連行される。


 さっきまでの綺羅びやかなホールと一転し、そこは鉄とオイルと

錆の匂いが立ち込める部屋。むしろこっちのほうが本物の整備屋っぽい。


 雑然と転がる様々な形の部品。傷つき汚れてながらもサビ一つ無い

使い込まれた工具類。その中で多分使用頻度の高いものは

壁に設えた木板に打ち込まれた鋲や鈎に、掛けられていた。

壁から取られたであろう工具のいくつかは、今さっきまで

使われていた様に床に散らばっている。


部屋の奥には、使い古しの橙色をした毛布が、丸まって載るくすんだ革製のソファー。

そのソファを取り囲むように、油染みとホコリに覆われた、布製の

カバーが掛けられた二輪車や三輪であろう物が何台もおかれていた。


その中の一台。

彼女はおもむろにその一台のカバーに手をかけ、一気に引き抜くよう

ひっぺがす。舞い散るホコリにネーサンが咳き込み

オレは慌てて腕で口と鼻を覆う。顕になったその車体に

思わず目を奪われた。


「ケホケホ、じゃっじゃーん! どぉ? すっごい美人でしょー」


 明らかに古いバイクだ。70年? いや60年?

軽く半世紀以上前の造形、そのバイクはネーサンが言う通り

旧車の知識がないオレが見ても美しい。

そう形容する他言葉が見当たらない。


「すげぇ・・・シブい。」


「んー?」

ネーサンが中腰で手を耳に当てる。


「び、美人さんですね・・・」


「うんうん、よろしい!」

「実はまだ改良と調整の途中なんだけどー」

「とりあえず、公道走る分にはフツーに乗れるかしら。」


「はぁ公道───ねぇ」


「Norton Manx.っていうVintageRacerよ」

「単車界の超傑作機なの!!」

「はい、ここテストに出しまーす。」


「は、はーい・・・」


「あ、もちろん当時の車両じゃないよお? 安心して。」

「そんな歴史的文化財に手を入れ(改造)ようとするなんて」

「沖田総司の刀で、ぶぶ漬けにつけ合わせる漬物切るようなものよ!」

「爆死罪に値するわ!」


「へ、へー。」

あー、完全にスイッチ入ったな。


「これは当時の図面から忠実に起こした復刻車でー」

「Tonkin Tornado.って言ってね」

「まーアタシが手を入れた(改造)からには、そーねぇ」

「さしずめ Ratchet Typhoon.ってとこかしら!」

「FRAMEは当時の設計が至極だからー」

「最低限のガセット追加にとどめて」

「主機は腰下までバラして一つ一つ磨き上げたわ。」

「オイル経路のオリフィスも最適化してー」

「ミッションのバックラッシュも完璧。」


「は、はぁ」


「もちろんポートも研磨してー あ、」

「ここだけの話、インテーク側だけは鏡面にしちゃダメよー」

「諸説あるんだけどね。それにアタシが図面引いた特製の

 ロングクランクと、冷却フィンを延長溶接したシリンダーを───」


「あの───。」


「あ? ナニ!!」

ヤベッ! すっごい睨まれた。


「お、お楽しみの所、大変恐縮なんですけど。」


「ブーブー。なぁに言ってご覧なさいな。」


「外に車待たせてるんで・・・その」


自慢だとしても、珍しいもの見れて楽しいのだが

ダニエルにおいて行かれるとマズイ。


「あー忘れてた忘れてたーわんこ君ねー」

「ん、そね。じゃこの話は、またにしましょ。」

「ってことで、この子貸してあげるから。」


「へ?」

貸す?ネーさんがあれだけ熱弁を振るってた

超オキニっぽいコレをオレに?


「いーい?ちゃんと面倒見るのよ。」

「あ、そうそうそーでした。」

「貸すのはいいんだけど」

「ちゃんと許可もらわないとだったわー」


許可?まさかこいつの持ち主にか?

持ち主ってロイ先生?

まさか、あのダニエルじゃないだろうな・・・


「あのー、許可ってそれは、もしかして・・・」


「うん! 本人に!」


ほ、本人?


「この子をちゃーんと起こすこと(エンジンを掛ける)が出来たら」

「乗ってもいーわよーってことだから!」


なるほど本人・・・ね。

見た所、そりゃセルスタータなんて、ハイカラ便利機構付いてないよなぁ。

つまり───、気難しそうな旧車をキックで始動できたら。

そういう事か。


「まー、次来た時に詳しく教えてあ・げ・る。」

「ちゃんと公道走れるように準備しとくから。」

「あ、ねぇキミー、ちゃんと免許持ってるー?」

「大型自動二輪免許よ。主機は600CCオーバーしてるから。」

「無かったらそうね」

「んーっと、そだ!」

「買う?」

「買っちゃう?」


いやそりゃダメだろ・・・

免許はある。金が無いだけなの。

手をひらひらさせるな。



 バインバインのメカ狂ネーサンは、自分をラチェットと名乗った。

結局、オレはここ、CASINOの施設へ通うためのアシを手に入れた。

彼女がタイフーンと名付けた、ラチェット姐さんの愛車。

そいつをしばらく借りることになったのだが───。


 なんでスマホやバイクの面倒等、今日会ったばかりの全くの他人。

それも小僧のオレに、彼女はそこまで親切にしてくれるのだろうか。


「そうそうそーう!」

「持ち主様からも一つ条件があるの!」

「訓練がない時はここで働きなさーい。イイわね」

「へーきへーき。オネーサンが手取り足取り」

「教えてア・ゲ・ル」


下心満載だった。


こうしてオレは───。

 咲夜を守る、その技術と知識を習得するために、これから始まる

高校最後の夏休みを人には言えない部活と、半ば強制的に決定された

バイトに費やすこととなった。


 そんな回想をしながら、にこやかにブンブンと手をふる

ラチェット姐さんを背にして、ホールの裏口から地下駐車場へ出る

扉を押し開ける。


あぁ、ひとまずコレで怒涛の一日が終わるのか。そう思った。

XXVIIIと記された空き駐車スペースを見るまでは。



「消えてんじゃねーかアノ野郎オォォ!!」



「あれ?新人ちゃんおかえり。」

「どったの?」


「あの・・・急な話なんですが、昼から早速バイト入っていっすか?」


「だーいかーんげぃー!」

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