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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
三章 キリングハウスへようこそ!
40/99

3-4 七話 盗んだ車で学校へ行こう!4

 あれからロイ───、いや先生はオレに色々なことを語ってくれた。


能力者たちの組織は国に属する物もあれば、どの国にも属さない物もあるらしい。


「───と、つまり。国という概念が出来た当時と比べると」

「我々異能の民はその大多数が国家間の戦乱の下に姿を消した。」


「特殊な能力が兵器として利用された・・・からか」


「Correct. 悲しい話じゃないか。誰もが正義を信じて戦乱へ身を投じる」

「それは能力者だけに限ったことではない。」

「生命を途してまで平和を望み、その命、捧げても争いが止まることはない。」

「幾星霜の時を経ても、人は戦いを捨てる進化が出来なかったのだ。」

「今もなお。」


「・・・・」

壮大過ぎて語る言葉なんかない。

 これまで俺はいろいろ考えて最善を選択肢して歩んで来たつもりで居たが

大多数の人たちと同じくぼんやり生きているって事を、痛いほど感じる話でもあった。


 先の見えない危機?が迫っていて、時間もあまりない。それは判った。

じゃぁ次の疑問、いや懸念か。オレと茜と咲夜がその事態に備えて先生たちに

必要とされている理由だ。


 壮大な話を聞かされて、今はっきり俺たちにはコレが出来ます。

なんて心当たりがまったくない。

無いが───

 散々腹世話になってるけど、最終的に利用されるだけ利用されて

事が済んだらサヨウナラだけは絶対に勘弁だ。


その話を、俺たち3人に関する彼らの真意を聞くまでは

ただのモヤモヤ話を聞かされただけになっちまう。


「・・・・・・」


「時にミスターマコト、君は性善説という言葉はしっているかね?」

エロイ話・・・じゃ無さそうだな、あっ!しまっ・・・

俺は先生の能力について失念していた。思考が筒抜けだったんだ!


「フフフ。性善説、数千年前この地域、東アジアの教え、儒家思想の一つだ。」


『人間の本性は基本的に善であるとす』

「と言った思想だが、私はこの思想を面白い説だと思っているのだよ。」


「でも待ってよ!先生、それが事実とするならば・・・」


「うむ、そもそも争いなんて起こらない。」

「ではミスターマコト、一つ問答を始めよう、簡単な思考実験だ。」


「君には確か・・・ 母上が居たね?」


その言葉に、俺は背中がスッと寒くなるのを感じた。

そんなことまでお見通し・・・だって!?

俺は基本的にまだ彼等を信頼できないでいる。

そればかりか、この先生───、ロイのチート能力を知ってから

美咲のことは努めて考えないようにしていたってのに!


「心配はいらないよミスターマコト」

「私たちは基本的に母上に接触することはない。」

「ある者との協定・・・いや、この場合は約束と言おうか。」

「彼の約束を反故にするのは私たちはもちろん」

「彼が命がけで紡いだ正義に反するのでね。」


そう言われても・・・なぁ

そんな感情を読み取られたのか、ロイはそれまでにない微笑みで俺を見つめた。


「よし、その感情ならこの思考実験は非常にわかりやすい解を得られるだろう」

「ミスターマコト。」

とりあえず今はロイの講義に付き合うほか無いだろう・・・



「始めよう。ここにキミと母上の住む家がある。」

「少々離れた所に茜くん、咲夜くんの住む家がある。」


「あぁ・・・」


「ある日、キミと母上の住む家に茜くんの家から咲夜くんがやってきて

 キミの母上を殺そうとする。」


「キミはどうする?」


「はぁ!?・・・・。」

唐突な展開に思考停止しそうになる。


「おれは・・・咲夜をコ───、止める。」


「そうだな、この際止めるも殺すも同じと考えよう。」

「辛い選択だが我慢してくれ。」


「・・・・」

この先生に虚栄は無駄だったな・・・


「では性善説。」

「この思想が正しいとして、何故このようなことが起きたのか?」


「・・・・咲夜にとって」

「・・・それが正しい行いだった・・・からとしか・・・。」


「そう、咲夜くんにとってそれしか選択肢がなかったのだ」

「愛する姉上、茜くんの命を救う為、とでもしておこうか。」


「なぜ───!」


「まぁ仮説にもならない思考実験だ、あまり思い込むこともない。」

「登場人物にキミの親しい人を選んだ以外に意味はない。」

「耐えてくれ。」


「・・・・・。」


「いいか?続けるぞ。」

「咲夜くんを止めた場合、母上は助かる。キミ達親子にとって」

「それは純然たる正義、キミの家にとって」

「ミスターマコト、君ははゆるぎない英雄だ。」

「だが───。」


「最愛の咲夜くんをキミに殺され、一人残され」

「その命も間もなく散らす茜くんにとって」

「キミは英雄と言えるだろうか?」


「言え・・・ないだろうな、妹を殺され、自分も間もなく死ぬ。」

「きっと俺を、いや俺達親子を呪いながら死んでいくんだろう・・・」


「そうだな、よろしい。実験はここまでだ。」


「辛い思いをさせてすまなかったミスターマコト。」

「では考察だ。」

「この話の中で悪人は登場したかな?」


「───。して・・・ない」


「だが悲しいことに、犠牲者が出てしまった。茜君と咲夜君だ」

「そう、悪意を持って他者を殺める意思を持ったものは登場しなかった。」


「では性善説とは。」

「つまり───、人は己の為ではなく他者に対し正しい行いを成すために」

「時として悪となる。」

「キミの家、茜くんたちの家。そのまま規模を大きくしてゆくと・・・」


「国と国との争い・・・戦争になる。」


「Correct. 良い洞察力だ。」

「ミスターマコト、つまり───」


 俺は心の痛みに耐えきれず下を向いたまま、悔しい気分で

俺はロイそうに答えた。母、美咲は言うに及ばず。

出会ってまだ数日しか立たないが、俺が最善として選択し

命を張ってまで守り抜こうとしたその名だ。

たとえ言葉遊びにしたって、これだけ

心にクる物がある。


 ここ数日の出来事を頭のどこかでは、今でも物語や夢みたいな

感覚で居たつもりだが、心ではこれ以上無いリアルとして

刻み込んだ証拠だ。


先生はそれを知った上で俺の魂をえぐる問をした。


これは───


試されてる。


「よいかなミスターマコト。」

「人は生まれながらに呪いを掛けられ生まれ落ちるのだよ」

「正しい行いを成す。善という呪いを・・・」


「ロイ、待ってくれ。」

「それじゃ正しい行いってなんだ? 善って一体・・・」


「そうだな・・・悲しいことだミスターマコト。」

「しかしだ、この思考実験の中で、唯一無二の絶対正義が存在する。」

「それはなんだか、わかるかね?」


「───わか・・らない」


「愛だよミスターマコト。」


は? 俺はその唐突な返答に呆気にとられそうになる。


「茜の家の事情を知らないまま───。」

「いや?そもそも茜の家の存在をも知らぬまま───」

「俺が咲夜から母を救ったと言う事実だけを胸に」

「母と共に生き続けるとしたら・・・それが───愛?」


「いいや、それは善、このたとえ話の中で許された正義の一側面だな。」


「だがなミスターマコト。」

「愛は違う。キミとキミの母上、茜くん、咲夜くん。」

「それぞれが愛という尊いものを胸に産まれ、生きていた。」

「そして同時に、愛する者を守る為に他者を殺める選択を余儀なくされた。」

「この事実を、時に人をも殺めてしまう愛を、キミは悪と呼べるかね?」


「いや・・・ 呼べ───ない」

「立場が逆なら・・・俺は茜の家に───」


「そうだな、それを悪と呼称した瞬間に人はただの鬼になる。」

「故に善、正義とは。一方的にしかありえないと言うことだ。」



「進むも地獄、退くも地獄のこの世の中で───。」

「キミは正義を信じ盲目的に隣人を信じ」

「産まれながらの呪いである善を貫き」

「愛する者を失うか。」


「または愛を信じ」

「時に一方の不幸に目を閉じ、いや───」

「片目を潰され隻眼と成りてもなお前を向き」

「対峙する相手に悪魔と呼ばれても」

「己の信ずる愛を守る守護者として生きるか!」



「日比谷 真。」

「オマエはどうする!」



 ロイは、今までにない恐怖すら覚える鋭い眼光を俺に向け、そう問う。

助けを求めるようにドアの横に立つ女性の方を見ると彼女も真っ直ぐに

俺を見つめていた。



俺は───



少しの沈黙の後、マトモにロイの顔を見れずにいた。

下を向いたまま俺は答えを出した。


「愛を・・・俺は愛を胸に生きる、隻眼の守護者として!」

「だって───!そんな世界じゃそれしか救いが・・・」


「Great! よろしい、ミスターマコト。」

「キミは我々の側に付くべき人間だ。」


「いいかね、この英雄問答は仮説にもならない、ただの思考実験だ」

「ミスターマコト、この世界はそこまで残酷ではないよ。」

その言葉に、ザラザラとした辛い心の内が、多少払われた気がする。


「いいかなミスターマコト。」

「仮に今論じた説がこの世の理、定説ならば」

「これまでの歴史に絶対正義の一方的な英雄しか存在してはならない。」

「どちらかを根絶やしにしない限り」

「歴史は必ず二面性を持って語り継がれる物だからね。」

「では我々の世界史はどうだ?」


「・・・あぁナポレオンが英雄だったり宿敵扱いだったり。」


「そうだ、故に考えるに値する思想では有るが、性善説一本で語れるほど」

「───この世は単純に出来てないのだよ」


俺はゆっくりと顔を上げた。


「ミスターマコト、良い顔付に成ったな。」

俺の向かいで講説したロイは、それまでのように糸目で微笑みながら

スコッチを楽しんでいた。


「ミスターマコト、ここまで話したのには訳がある。」

「理解はしているね?」


またしても先生は、鋭い眼光を俺に向け、そう問う。

この先生の目が開く時、俺に真理を説いている。


「大体は・・・それ、俺が思ってることなら、断りはしませんよ」


その俺の答えを確認した先生の目は再び細くなり、にこやかに頷いた。


「咲夜君を頼んだよミスターマコト。」


その時、扉の横で静かに佇む女性、エレクトラがスッと顔を上げた。

「ロイド様、到着なさいました。」


その言葉にロイはただ一つだけ頷くと、エレクトラはエレガントな仕草

といった表現がぴったりな優雅さでその扉を開いた。


 扉の外の暗い廊下から人影が近づいてくるのが判る。

廊下とこの部屋の対象的な明暗の差で、足元から徐々にその人物が

誰なのか顕になっていく。

影の正体がそいつだと予想はしてたが、やっぱりハッキリ認識すると

思わず悪態が出ちまう。


「───、チッ!」

「───、フン!」


 現れたのは数時間前に俺の前から消えた嫌な奴だった。

このまま消え続けてくれればよかったのにな!!


「フフッ、戻ったなダニエル。茜くんの方はどうだった?」

ロイがダニエルに報告を促す。


「問題ない、脅威は排除した───。だが、今回も奴が。」

「ふむ、やはりそうか・・・彼もそう簡単には引き下がる気はない」

「ということかな?」


ロイが立ち上がり、ミニバーからグラスを取り、ダニエルに差し向ける


「いや、結構」


 そっけない言葉で労いの酒を断るダニエルに、ロイは残念そうに肩をすくめ

今度はエレクトラの方へグラスを差し向ける。

彼女は優雅に了承の会釈をし、両手でそれを受け取った。


 エレクトラにデキャンタからスコッチを注ぎながら

ロイは今更な紹介を始めた。


「ミスターマコト、紹介しよう。───、あえてその必要は既にないかな?」

「ミスターダニエル。キミのもうひとりのTeacherだ。」


「はぁ!?」

「───フン!」


 そんな俺達のやり取りに、エレクトラとスコッチを楽しみながらロイは

フフフと、ただ笑みを浮かべ、まるで兄弟を見守る親のような表情で

ただ、エレクトラと酒を楽しんでいた。


「私が座学の講師だとするなら、彼は実技の講師だよミスターマコト。」

「これからキミは咲夜くんのKnightsになるべく学ばねばならない。」

「いいかね?キミには素質がある。だが素質だけで彼女は守れない。」

「それはもう経験したな?」


彼女の命が俺の腕を流れ落ちる感覚を、改めて噛み締めていた。


「あぁ・・・あんな思いは二度とゴメンだ」


「よろしい、磨くのだ。その才能、SENSEを研ぎ澄ませ。」

グラスを回しながら先生はそう言うと、再びスコッチを啜る。


「ではミスターマコト、本日の座学はここまでにしようか。」

「もうじき夜が明ける。キミに部屋を用意した、そこで少し休むといい。」

「家に戻るなら、ダニエルに頼むと良い。彼がキミの家まで送ってくれる」


頼む?コイツにか?コイツにアタマ下げなきゃ帰れないって───?

───そりゃ、今日一番の難題じゃねぇか・・・


「何をしている小僧、往くぞ」

「───、チッ!」


舌打ちして立ち上がる俺にロイはスっと手を伸ばした。


「ミスターマコト、楽しいひと時をありがとう。」


「先生、色々ありがとう、これからお世話になります。」

「フフフ、ミスターマコト。講義以外はロイでいい。」

「───特別だぞ?」


部屋を出るよう急かすダニエルを横目で牽制しながら、俺はロイと握手を

交わす。その手は───


驚くほど冷たかった・・・




 扉を開いて俺を待つダニエルは、苛立ちの表情で俺を睨んでいた。

それを知っていながら俺は、あえて焦らすように、ロイとの握手を長引

かせてていると、ロイがフフフと微笑みながらまた俺の耳元で小さく

ささやく。


「ケンカするなよ?君らがやり合うと、この星が滅んでしまうからな。」

そんなアメコミヒーローみたいなパゥワー、俺は持ってないよ。


「何をしている行くぞ小僧、着いてこい」

苛立ちが頂点に達したのか、奴は遂に直接口走った。

まったく、大人のくせに沸点低いんじゃないのか?


「はいよ!───ったく、いちいち威張るなよ、せ・ん・せ!」

「───フン!」


両手をポケットにツッ込み、俺の前を歩く長身で無駄にダンディな奴の

後を追うように、俺は部屋を出た。




「───ロイド様」

「あぁ、心配するなエレクトラ。彼等はああ見えて馬が合う。」

「面白いじゃないか、まるで───。親子のようだ」

「少年にとって、ダニエル坊やが師であるなら」

「ダニエル坊やにとって、少年は師になりえる。」

「ダニエルの抱えてる無念をあの少年の実直さが溶いてくれるだろう。」


「おかわりは?エレクトラ」

「はい、いただきます」



七話 盗んだ車で学校へ行こう! 終


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