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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
三章 キリングハウスへようこそ!
39/99

3-3 七話 盗んだ車で学校へ行こう!3

乾杯を交わした後、ロイは更に踏み込んだ話を始めた。

茜と咲夜が何故狙われたのか。

そこにいた俺まで何故追われることになったか。


そしてココの連中が正義の味方か悪の秘密結社か。

ソレについて俺は知る必要がある。


仮にだ、俺がたった一人で迫りくるあの連中と渡り合うって考えた時。

多分ひとたまりもないだろう、なんせ常識が一切通用しない連中だからな。

銃なんてあぶねー物がわんさか出てくる世界線でどうしろってんだ。


残念だけど、こうなったらココに居た方が何倍も安全だろうことは確かだ。

なんせここの連中は俺よりずっと奴らの事に詳しいだろうからな。


茜や咲夜を守る為に、俺自身生き残るため。

奴らをもっと知らなきゃいけない。


幸いなのか不幸なのか。

俺が頼まなくてもこのロイって人は丁寧に語ってくれるという。

デコに銃突きつけて撃たれた痛みからすべて理解しろなんて事もなくな。


授業といったロイ。

あぁ、学ばせてもらうとも。


「よし、では始めよう。キミをココに招いた理由()を得る授業をね




「いいかいミスターマコト、この世の中には持つ者と持たざる者。」

「二種類の人間が存在する。いや、二種類しか存在しない。」


「SNSでよく聞く話だ、格差社会の話か」


「いやいや、権力や金銭的問題ではない、圧倒的力だよ。」

「世界中の金品を積み上げても、持たざる者は手にすることが絶対にできない」

「圧倒的にプライベートな力だよミスターマコト。」


「つまり、話の流れから言うと、ロイのような超能力者の事か。」


「Correct. なかなか察しが良いなミスターマコト」


察しも何も・・・その話を聞聞くための授業だからな。

腰を据えて付き合うほかない。


「古代より、我々はその力で人々を助け、共存共栄をしていた。」

「だが一部の持たざる者が抱いた妬みや嫉みが、その関係性を破滅へと導いた」

「そして、ある時その関係は一変する。」

「原因はなにか判るかね?ミスターマコト。」

そう語るロイはウイスキーを一口啜ると俺にそう問う。


「さぁ・・・」


「武具の登場だよミスターマコト。」


「たとえ話をしよう、狩猟民族の話だ。」

「AとBの狩人は自分の家族を養うために毎日狩りをしていた。」


「Aは超人的な石斧捌きにによって、毎日確実に獲物を仕留め、安定的な

 生活をする」

「一方、Bは経験と努力を持ってしても限界があった、故にBは仕留められる日

 うまくいかない日がある不安定な生活だった。」


「そんなとき、Bは遠距離から獲物を仕留められる新しい道具を発明する。」

「弓矢だ。」

「この瞬間Bは、狩りを効率的にこなせるように成ったと同時に───」

「遠距離では無敵のAとほぼ対等に渡り合える力も得た事になる。」

「経験と努力、知識の賜物、この際そういうことにしておこうか」


「こうしてBの生活は限りなく安定した、が完全ではなかった。」

「やがてBはAの毎日必ず獲物を仕留める力を欲するが」

「同時に自分の努力や知識ではそれが手に入らないことも理解する。」


「さて、ミスターマコト、ここで問題だ。」

「AとB、この両者が平和的に共栄するためには?」


平和的に?そんなの簡単だ。

「Bが仕留められない日はAが倍の獲物を仕留めてBに渡せばいい。」


「よろしい、半分正解だ。」

「AとBは安定した生活。平和を手に入れた。」


「だがなミスターマコト。これはある条件下でしか成立しない」

「両者が善人であることだ。」


「一日に倍の獲物を仕留められるAが善人でなかった場合。」

「Aは獲物を独り占めにしてさらに裕福な生活をするだろう。」

「Bに獲物を提供する際、見返りを要求する場合もあるだろう。」

「このときBはどう思うかねミスターマコト。」


「悔しい思いをする。それがさっき言ってた妬みや嫉みか・・・・」


「Correct. そういうことだよ。」

「ではBが善人でなかった場合はどうかな?」


「Aの力は奪えないんだろ?」


「よろしい、ではそういうルールにしよう。」


「Bが安定した生活を手に入れるには・・・・んー、」


「そうだミスターマコト、悩む。Bが悪感情を持ってしても」

「Aより安定した生活を手に入れる方法は───、」


「ないのだ。」


「Bが劣等感情に任せてAに対して弓を引いた場合。」

「一時の感情は成就されるが、B自身の狩りの成功率は変らない。」

「結局Bは狩りに失敗した日は飢えてしまう。」

「結局の所、Bが善であろうが悪であろうが、我々Aの民からすれば」

「さして問題ではないのだよ。」


不公平な話だ。B、つまり一般の人は、なすすべなく屈するしか無いのか

花火の日のあの人達のように・・・・

ただ見ているしか無かった俺のように・・・


「じゃぁどうすれば?」


「どうにも出来ないのだよ、故にAが善人であることを祈るのみ。」

「なぜかって? それはAが悪に落ちる時」

「AはBにとって最悪な存在と成るからだ」


「あぁ・・・・それはもう───体験したよ。嫌ってくらいにね」


「うむ。」

「だがAとBや善と悪。この相対する二面性は人間の本質でもある。」

「避けられないのだよ。かならず両者は存在してきた。今もなお存在する。」


「このたとえ話の中で起きた出来事はすべて───。」

「現実では起こり得ることなのだよ。善なるA、悪意のA」

「同じ様にBもまた二面性を持つ、それが人というものなのだよ。」


「・・・・・」


「故に、A。持つ者達、言わば我々も一枚岩ではないということだ。」

「結局の所、我々Aの歴史ノートには、血塗られた史実しか記されていない。」

「これが真実だ。」

「そしてAの中で心ある者たちは歴史の表舞台から姿を消した。」

「何故か?そう問いたいのだろう?」


「あぁ・・・」


「自らの存在自体が争いの種に成るためだ。」


「・・・・」


「Unseeable. 見えざる者。いつしか我々はそう呼ばれるように成った。」

「そしてBだけの世界が脈々と受け継がれていった。」

「神話や伝記で超人的偉業を成す者として、幻として我々は語られてきたのみ」

「そして畏怖の対象として・・・」

ロイは一通り語り終えると、空になったグラスに再びスコッチを注ぐ。


「・・・・・」

「なぁロイ───。」


「Teacher. ミスターマコト、授業はもう始まっているのだよ?」


「じゃ・・・先生って呼ばせてもらっていいかな?」

「Teacherって呼ぶのは何か・・・照れる」


「フフフ、構わんよミスターマコト」


「で、先生の言ってた話が全部。全てまるっと真実だったとして」

「先生達、そのアンシーってのは一体何を目的に動いているんだ?」

「Bが乱した世界を治す、世直しか? Aだけの世界を作る世界征服か?」


「フフフ、世界平和。私達は正義の側だよミスターマコト」

そう語りながら、ロイは注いだスコッチを一気に煽った。


「この数日間でアンタたちのオコナイを痛い程経験したオレにそう言うのか?」

「私たちは正義の味方って───?」


「ふむ、やはり信じてもらえぬか、ではそうだな───。」

「悪感情を持ったAの集ではないとしておこう、フフフッ」


「まぁ、信じるしか無いだろ?少なくとも今は。」


「ほう・・・」


「オレはこの後家に帰るつもりだからな、悪意のAなら帰してもらえないだろ?」


「ハッハッハ!明快だ」

先生はポンと膝を打ち残りのウイスキーをあおった。


「先生、オレがここに来た理由。おおよそ予想が付いてるだろう?」

「心が読めるんだから、お見通しのはずだ。」


 この人との話は楽しい。たとえ話も明確だ。

人に好かれるには、きっと先生みたいに話し上手、聞き上手にならなきゃ。


 だけど、今オレがココに居るのは、恐怖を裏打ちにした半拉致みたいな

連れ込まれ方されたけど、決定的に知りたいことを

まだ聞いてないってことなんだ───。


「茜と咲夜、そしてオレ。」

「大人達の揉め事に、何故オレたち子供が巻き込まれなきゃいけないんだ?」

「アンタラは俺たちをどうするつもりなんだ?」

 オレはあえて強気に出た。また話しをはぐらかされたんじゃ

帰るのが遅くなっちまう。


「ふむ、生半可な好奇心からくる質問ではではないようだ───。」

「だがいいのか?ミスターマコト、知ってしまったら───。」

「帰れなくなるかもしれんぞ?」


 先生はイタズラに悪い顔でオレの耳元でささやくようにそう言い切った。

そりゃ───、ここまで聞かされちゃ、オーラスまで聞かなきゃだろ?

どうせもう後戻りできないトコまで踏み込んでる。


「───、あぁ。こうなりゃ最後まで受講するさ。」


「よろしい、ではすべて話そう。」

 そう言うと先生はそれまで愉しんでいたウイスキーグラスをテーブルに置いた。

ほぼ同時に扉が開くと、先程の綺麗な女性が湯気が立ったティーカップを2つ

持って現れた。


 どうやらココからが本番みたいだ───。


「ではまず我々の目的から始めようミスターマコト。」

「我々は何故存在し、何を目的としているのか。」

「何故、我々が茜君を守護し、君を巻き込んだのか。」


「必要だからだよ。ミスターマコト。」

そう言い切った先生は紅茶のカップを頭の上まで掲げた。


 必要だから奪った。そのあまりに端的すぎるオレの知りたかった答えに

オレが苛立ちを覚えたのを見て、先生は講義に小休止を入れた

しばらく二人で紅茶を愉しんだ。


 そして講義再開。何故オレたちが必要とされるのか。

先生たちは何と戦い何を守っているのか。

こっからどうやらその説明らしい。。


「Lesson1、キミはシンギュラリティという言葉を知ってるかい?」

「ミスターマコト」


「シン・・・なんだって?」


「シンギュラリティ、技術的特異点と言ったほうが理解しやすいかな?」


「いや・・・知らない。」


「よろしい。ではまず聞いてくれたまえ」


「近年になって、人工知能技術は革新的進歩を遂げた。」

「仮想通貨の発展を足がかりに電子回路のブレイクスルーが起きている。」


「仮想通貨?───なんだっけ、ビット何とかっていうやつか。」


「Correct. そのとおり」

「仮想通貨の採掘、いわゆるマイニングと呼ばれる───

 まぁキミらしく言えば一種の“金儲けプログラム”だな。」

「では何故、人工知能が進歩発展したか。」


「そのマイニングをより効率的に行うために、並列接続された

 高性能な論理演算装置で、世界中の仮想通貨の利用情報───」

「つまりは仮想通貨を使った商取引による売買記録をより分散的高速に

 計算すること───」


「えーっと、先生・・・理解が追いつかない。」


「ふむ、要するにだ」

「金儲けと言う最も単純な人としてのエゴが、人工知能の進化を促した。」

「そしてある意味、人間を理解する技術が現実として存在するに至った。

 ということだよ。」


「欲をかいてたらうっかり生まれちまったってこと?」


「そう、そしてだミスターマコト。」

「仮想通貨より始まった高速演算技術が、現在多くの

 社会インフラの根幹を司るに至った。」


「収集された一見なんの意味も持たない膨大な量の数字をある法則性に

 基づいて解析すると、大多数の人間が取りうる未来をおおよそ

 予想できるように成ったのだ。」


「重要なのはここからだ。」

「ところが現在、並列に繋がれた高速演算装置はいつしか運用によって得られる

 利潤より消費する電力による経済損失が上まってしまった。」


「───。便利に使った分の何倍も電気代払わなきゃならなくなったのか?」


「YESだミスターマコト。」

「今や株式、小売販売といった経済活動はおろか、交通や気象。

 キミらが若者がよく使う動画サイトのトラフィック制御といった

 生活に密接した部分にまでこの技術が使われいる。」


「その経済損失は今や世界人類にとって不都合となり得るわけだ。」


「便利を手に入れた今や、俺たちは後には戻れないってわけだ。」


「Correct. そのとおり」

「深層学習。いわゆるディープラーニングと呼ばれる技術をより効率的に

 しかもより経済的にも優れた能力へと発展させるために───

 研究者は人の脳、つまりは脳内神経の接続を模した論理回路を開発するに至る。」

「そして其れは、すでにそれは実用段階へ差し掛かっている。」


「イイかなミスターマコト。理論上人の脳を模して設計された回路だ」

「従来の金属、(シリコン)で人の脳を作るより

 脳と同じ有機物で構成した方が小型化、高効率化が図れる。」


「ディープラーニング=深層学習。つまり、機械自身がすでに人の脳と同じ

 ロジックで人の深層無意識を学習しているのだ。」


「文字通りの人工知能ってわけだ。」


「YESだミスターマコト。」

「有機コンピュータや人工脳がすでに幾つか実用化され、可動している。」

「人の心を先んじて思い図り最良の生活へ導くためにではない。」

「人類のにとって最良の答えをくれる存在として設計されたのではない。」

「いわば人の傲慢。強欲さがそれを生み出したのだ。」


「しかるに、人類そのもののもつ悪感情すら内包している可能性もある。」

「まぁこれは邪推が過ぎるというやつかな。」


ウインクしながら先生は話を続けた。


「シンギュラリティ。それはつまり人ならざる者が現れ、生みの親である我々

 人類を超えるのかもしれない。」


「・・・・・・・」


「実感出来ないかね?」


「あぁ・・・・・・」


「ではミスターマコト、キミはスマートフォンを持っているね」


「あぁ。正確には持っていた・・・かな、今は奴の命令で車の中だ」

しかも見事にバラバラにしてな、ったく借り物なんだぜアレ。


「ふむ、キミはスマートフォンに話しかけるだけで、タイマーをセットしたり

 明日の天気を調べたことはあるかな?」


「あぁ・・・」


「ではキミはスマートフォンを手に入れた際に、キミ自身が発する声や発音

 の癖など、数万数十万もの単語をそのスマートフォンに登録したのかな?」


「いいや?」


「よろしい、スマートフォンに搭載された音声認識技術。何千、何万もの

 人たちの音声、発音、語りの癖、地域特有の言い回し、この国では訛りと

 いったかな?」

「つまり全世界の人々の話す言語を記憶として貯蔵し、キミが

 語る言葉と照らし合わせて、それに対して的確な回答を出している。」

「つまりこれもディープラーニング技術、クラウドコンピューティングの

 一端と言えるわけだな。」


「つまり、使う使わないに関わらず」

「すでに俺たちはその集合知を享受しちまってるってわけだ。」

「無意識下で。」


「YESだミスターマコト。」

「シンギュラリティ。」


「近い将来、それもそう遠くない未来に人知を越えるAIが現れる。」

「これは必然とされる、現にその事態を、ある学者は2045年問題として

 警鐘を鳴らしている。」


「・・・・・・」


「では人工知能が人を凌駕した時。ミスターマコト───」

「───キミはその時、この世界はどうなると思うかね?」


「マトリクスとかターミネーター、SF映画的なアレか・・・」


「そうだな、キミが理解しやすい思考で言うところのそういった未来が

 訪れるのかもしれない。」


「つまり?先生は人工知能が世界を、人類を滅ぼすって言いたいのか?」


「そうなる可能性もある───。」

「しかしな、AIが人の感情を理解したならば、最良の隣人になり得るやも知れぬ」


「つまりまだわからないと?」


「ウム、こればかりは誰もわからぬ。進化とは常に不確定なものなのだからね。」

「故に誰も想像できない事象の地平。技術的特異点と呼ばれるわけだ。」

「人ならざる者が現れた時、そして彼らが融和を求めて手を伸ばした時。」

「キミは疑いもせずそのもの達の手を取れるかね?」


「その不確定な未来と俺達が───。いや人類すべてがどう関わるか。」

「そういうことなのか?」


「シンギュラリティ。わかりやすく言い換えるならば技術的特異点。」

「なにか思うところはあるかね?」


「・・・・見ることができない、観測不能、理解・・・不能?」


「Correct. Unseeable. 皮肉じゃないか?我々を指す名称と同じだ。」


「狩猟民族Bは遂に自身の経験と努力、知識によって人工的に狩猟民族Aの力を

 手にするに至った。」

「いや、Unseeable.つまり機械仕掛けの能力者作り出すことに成功した。」


「・・・・・・」


「フフフ、もしくはそれは人造狩人Aではなく、弓なのかもしれんがね。」


「つまり、これから先、何が起こるのか、誰も全くわからないのだよ。」

「なにせ機械が人知を超えた存在となるのだからね。」


「機械の反乱が起きて人類が根絶やしにされる。その可能性もある。」

「AIと人類が融合し、さらなる上部構造へ人類が到達する可能性もある。」


「先程話した我々も一枚岩ではない、と言ったね」


「持つ者達の話───ですか。」


「YES シンギュラリティの到来をを許さず破壊しようと企む者。」

「シンギュラリティを利用し、全ての掌握を企む者。」

「または、我々の想像もつかない何かを企てる者もいるかもしれない。」


「・・・・・。」


「───フム。」

「これまでの話はいわば───。」

「持たざるものからの視点。狩猟民族Bから見た現在だ。」


「Aの民、持つ者たち。つまりあなた方は違うと?」


「──────フム、よろしい、ではLesson2に進もう。」

「たとえ話をしよう、キミが初めて私を認識した時、キミはどう行動した?」

「どう・・・って、奴の車の中でスポーツカーに寄りかかった先生を

 見た───から・・・?」


「そうだな、キミは私を見た。」

「では人が何かを見るという行為について、仕組みは理解しているかな?」

 そりゃあれだよ、保健体育の教科書に載ってる・・・


「目から見た情報が脳へ・・・」


「YESだミスターマコト」

「光源から放たれた光が物体に当たり、反射し変調する。」

「変調した光子の波が瞳に入り、眼底の受光体が波を微弱な電気パルスに変更。」

「パルスは神経を通り脳へ到達する。」


「脳はそのパルス信号を脳内に記録された膨大な記憶情報と照らし合わせ」

「その物体がどの様な形なのかどの様な色なのか。」

「つまりは過去の記憶と照合する。我々の視覚とは、こういったプロセスを

 経て、目で見た物事を脳が判断している。無意識下でね。」

「それが、キミが私を見てまるで執事のような男と理解した仕組みだよ。」


それってまるで、さっきの話で出たスマートフォンの音声認識の

仕組みそのものじゃないか・・・


「では問題だ。想像したまえ、今キミは、真っ暗闇に閉ざされた部屋に居る。」

「さて、何が見える?」


「───何も・・・見えない、真っ暗闇なんだろ?」


「Correct. よろしい、そのとおりだ」

「つまり我々が言う、光がなく暗いというのは、反射し変調したはずの

 光子波が無いからだ、故にそこに赤く熟れたりんごが置かれていたとしても」

「記憶と照らし合わせて判断できない。つまり見えないと処理するのだ、脳が」

「光子波が無ければ、我々はそれを判断できない。いいかな?」


「あぁ・・・」


「宇宙にはブラックホールと言うものがある。知っているかな?」


「銀河の中心にある・・・らしい天体の事だろ?」


「Correct. そのとおり」

「ではミスターマコト、キミは今───、らしいと言い換えたね」

「曖昧な回答に変えたのは何故だい?」


「だって・・・それは、誰も見たことがないから?」


「よろしい」

「ブラックホールと呼ばれる天体は、現在光学的に認識できない。」

「つまりは見えないのだよ。」


「えっと、確か───、光も吸い込むほどの重力があって・・・あ」

「つまり反射して戻ってこないのか・・・光が」


「YESだミスターマコト。」

「故にこの天体を天文学者は、数値や事象で観測すると、恐らく存在するが

 光学的に観測できない。」

「いわゆる天界の特異点と定義したわけだ。」


「かつて、世界を滅ぼす恐れのある核兵器の完成を予想し警鐘を鳴らした

 学者が居た、今回のようにね。」


「アルベルト・アインシュタイン」

「現在我々は彼が説いた数式の上でのみ、存在することを許されている。」

「一般相対性理論。」

「面白いじゃないかミスターマコト、神の数式だよ」


「一般相対性理論。光の速度を越える事はありえない。」

「また光の速度は一定で、加速も減速もしない、こういったルールに

 基づく理論。それが一般相対性理論の根幹だ。」


「その理論の上では、見ることができる特異点」

「つまり光学的に観測可能なブラックホールはありえない。ということになる。」

「なぜならば、観測可能な特異点が存在した時」

「現在我々が観測し携わる全ての物理法則、理論、秩序、その全ては破綻する。」

「有ってはならないことなのだ。」


「でも先生。」

「それは理論上の話、ってだけで見た瞬間に世界が終わるわけじゃないだろ?」


「ふむ、そうとも言える。」

「では、相対性理論の話(講義)を踏まえ」

「ミスターマコトはどうしてもこの特異点が見たい。」

「世の理を超えてこの特異点を見るためには───」

「キミはどう思考するね?」


「ブラックホールに当たって反射した光を見なきゃいけない・・であってる?」


「よろしい、ならば特異点へ光速で吸い込まれる光子が逆方向に特異点から

 離れ、我々の瞳に到達するためには?」


「光の速度で中心に吸い寄せられているなら、逆方向に光の速度で逃げる。」


「ふむ、その計算だとせいぜい、光子はある一点で停止するのがやっとだな」

「50点、半分正解だ。進むにしろ戻るにしろ光子の速度は常に一定なのだ。」

「では特異点から光子が逃れるためには───」


「逆方向にもっと早く進む・・・あぁ───。」

「光自体が光の速度を越えちまう・・・ってことか」


「YESだ。」

「つまりこの世の定義とされる一般相対性理論、その根幹である」

「光より速いものはありえないという定義そのものが破綻する。」


「故に見ることができる特異点は、裸の特異点と呼ばれ」

「何人たりとも見ることは叶わない。」


「そういう説もあるぐらい有ってはならない事なのだよ、理論物理学の世界ではね。」

「そのために、裸の特異点は、人ならざる何者かによって意図的に隠されている。」

「時空検閲官という何者かに固く守られているそんな説もあるのだよ。」


 ややこしい話だけど、オレはこの手の話は好きだ。

なんでかって、そりゃ、なんかロマンあるだろ?


「神の数式上絶対見ることができない。」

「ありえないから特異・・・ってわけだ」


「そのとおりだミスターマコト。」

「技術的特異点があらわになったその時。」

「神はどの様な解を我々に与えてくれるのか?」


「神の作りし数式が───。摂理、世界が破綻する?」


「Correct.社会も秩序も破綻する。この世界では許されない事。」

「私達はそう考えている。」


「ってことは、先生達の───。」

「持つ者達、Aの目的・・・・」


「時空検閲官。少なくともここに集うの者達は。」

「そういえばわかりやすいかな?」


「シンギュラリティ、特異点の存在、2045年の到来を許しはするが。」

「何人たりとも触れさせない。」

「───ってことか。」


「ふむ、なかなかに察しが良いなミスターマコト。」

「君は実に良い生徒だよ。」


「まだ入学願書出してねーけどな・・・」


 良い悪い、それは個人の裁量による所が大きい。

それはなんとなく分かってる。

先生達“見えざる者たち”の人々も一枚岩ではない。

これも理解した。

そんな話の中で、善とも悪とも“どちらでもない”と言った先生達の思惑。

時空検閲官という立場に立とうとするならば、時として、

悪事に手を染める事すら厭わないそういう事なのか。


「先生一つ聞いていいか?」


「なんだねミスターマコト。」


「奴・・・。ダニエルにもこの授業をしたのか?」


「うむ、だいぶ昔に、何故だね?」


「奴はこの講義、どのへんまで聞いてた?」


「そうだな・・・確かLesson2。瞳の~辺りかな?」

俺は先生に見えないようにの無言で小さくガッツポーズした。




「フフフ、キミは本当に面白い男だねミスターマコト」





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