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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
二章 裏切りの逃避行
34/99

2-19 六話 浪人のバラード 5



「キャアァァ!!」

「いいか都ォ絶対に離すなよッ!!」

倒した交機より()()した白バイに都を乗せ追手から逃げる。

最悪な状況だ。


『ミスターソウマ!聞こえるか!?』

「!!ッ なんッ───!どこから?」

脳に響くダニエルの声に戸惑う。


『エレクトラに思念中継させている。いいか!そのままゲートを抜けグレーのガルフに

乗り込め!そのまま離陸させろッ!』

「なっ!オマエはどうする!?」

『構わず行けッ!マレーシアで合流す・・・・───』

思念通信とやらが突然途切れた。


「ダニエル?おい若造!どうしたッ!!」


『ソウマ様、ダニエル様よりの思念が途絶えました。どうか───』

『御武運を。』


「って、オイ!! エレクトラ!!冗談じゃない、一体どうなってんだ全く!」

「クソッ!都このまま突っ切る!頭を低くしろ!」


 ブーツでシフトを蹴り込み一気にスロットルを握り込む。

俺は後ろの悲鳴を気にしつつも、側道と滑走路横のエプロンを隔てる

金網で設えたバリケードを突き破った。




──────




 1999年 9月21日  千代田区英国大使館前


 大使館別館のロビーでロイと別れ、俺は都とその守護者、ダニエルそして

北欧の守護神、エレクトラと共に経由地のマレーシアへ飛ぶため、専用機が用意

された調布飛行場まで陸路で移動する。


 大使館が用意したロールスがある本館前のコンコースへ向かう途上

一人の男が行く手を阻んだ。

「我が城の居心地はどうだったかな諸君。」


「ミスターソウマ、無視しても構わん。」


 ダニエルがそう語る彼は、英特命全権大使だ、関わることはなくとも本庁関係者なら

容姿と顔は承知していて当然とされるが故、ひと目で彼が英国大使館(ココ)の長だと判る。

 本来ならば、ここは礼を述べる場であるだろうが、切っ掻きから早々に

刺々しい皮肉を込めた態度で接してくることから、見送りの餞別に嫌味の一つでも

言ってやろうと行った手合だろう。


「勝手だとは思ったが、せめて都内だけでも露払いさせていただくよ」

「最も、お乗り頂く車以外、警護の車両他はこの国の者に頼まざるを得ない

こちらの事情も察してくれたまえ」

「では、旅の安全を願っておるよ諸君。女王陛下の加護があらんことを」


 厄介事が一つ減って清々したのか、英国政府はそれ以上我々を阻む事もなく、我々は

大使館員が見守る中ブルーナンバー(外交官ナンバー)を掲げたロールスに乗り込んだ。

 驚くことに出会ってからこちら、運転を受け持っていたエレクトラも後席に乗り込む。


「ソウマ様、ロイド様よりの指示です。どうかご容赦を」

彼女はただ一言、そう語った。


「よろしいですか? それでは参ります。」

 現地職員として使役されている公務員らしき運転手は一言そう語ると

その大きな車体を操る。緩々とした速度で車は大使館正面を出た。

 直後、その門前で待機していた警察庁の車列と合流した。


 先導の白バイ2両。黒塗りの覆面高級車2両、露払いにしても贅沢な布陣だ。

我々は先導の白バイの後に続く警護車二両に挟まれる形で調布飛行場を目指し走り始めた。

 車列は宛ら、国賓か政府要人の大名行列の体をなし、無駄に仰々しい。

これじゃまるで“主要目標此処に有り”と言っている様なものだ。


 どうやら先程の大使は、“英国政府は大使館を出た後は関与しない”と

宣言しに来たのだろう。ということは、この“見送り”を演出したのは村瀬の一派

が手引しているのだろう。


「ダニエル───」

 

 俺のその呼びかけに、隣の若い騎士は一つ小さくうなずいた。

彼は懐よりP226SAS取り出した。スライドを若干後退させ装填を確認すると

再びそれを懐へと戻し、ゆっくりと薄手の革手袋を外した。

 俺の背には如月の銃。彼と同じく俺も背にした如月の銃の装填を確認し膝上へ

 手に持った愛用のトレンチコートでそれを隠した。

対して恐らく、この中でも最強だろうエレクトラは、我々の向かいに座りながら静かに

目を閉じ佇んでいる。


 早朝の都内とはいえ──────、あまりに車が少ない。

特使の語った露払いの一環か、または襲撃に備えた道路規制の結果か──────

まぁこの場合は後者の線が濃厚だろうな・・・

 俺は向かいに座る都に手を差し伸べる。男共の警戒具合に不安げな表情の都は

その意味を理解したように俺の手を強く握った。



 車列は初台より首都高へ上がるため、新宿通りを進む。この先、新宿御苑の下を通る

アンダーパスを通るか否か、おそらく事が起きるか否かの分岐はそこだろう。

そんな思案を巡らせ、俺が覚悟を決めた時だった。


「ソウマ様ダニエル様、いらっしゃいます。」

 

 丁寧に語るエレクトラは、先程までの眠り姫のような西洋人形から一転し

無表情ながらその瞳ははっきりと見開かれ開戦の予兆を語る。

俺は思わず暫くの間、その瞳に見入ってしまう。

 エメラルドグリーンの澄んだ瞳の奥に、まるで虹のような輝きを映し、その神々しさに

思わず心を奪われそうになる。


「ミスターソウマ!」

隣のダニエルが俺を呼び止め、小さく横に首を振る。


 そうだ、俺はこの淑女、いや──────魔女の性能を連中から詳しく聞いていない。

ロイは彼女をアヴァロンの九姉妹の長だと語ってはいた───が、その実彼女は

幾星霜の戦場より善悪にかかわらず、死した戦士たちを終末戦争に備え

死者の館へ導くヴァルキュリャ(ワルキューレ)なのかも知れない・・・


 そんな思いを巡らせていると車列は左車線からそのまま御苑下のアンダーパスへ向かう。

『ミスターソウマ───』

『まだだダニエル、まだ動くな。』


 俺達はアイコンタクトのみでお互いの意思確認を図った───。

トンネルへ至る道の途上、前後の警護車両よりパトライトを含めた灯火がすべて消えた。

 白バイ二台が二車線いっぱいに左右へ別れ、我々の前方を固めていた車両がまるで堰を切った勢いで

急加速し車列を離れた。恐らくトンネル出口を塞ぐ気だろう。


「踏み込めッ!いいか、絶対に車を止めるな!」

戸惑う運転手に俺が叫ぶと彼は12気筒にムチを入れた。ほぼ同時に、車列はその暗闇へと

飛び込んだ。




 御苑下、緩やかに右へカーブするオレンジ色のトンネルを、追ってを振り切る速度で

ブルーナンバーのロールスが駆ける。車輪はもはやこの速度域ではその巨体を維持できないと

悲鳴を上げ、スキール音がトンネル内を駆け巡る。


「うわああぁぁ!!」運転手が眼前の状況に思わず悲鳴を上げる。

その声に、後席より前席越しに前を見ると、先程の我々を振り切った先導車の一台が

道を塞ぐ様に左車線で横になり二車線の外側、左車線を塞いでいた。


 慌てた運転手は空いた残りの一車線めがけてハンドルを切るが、限界を超えた後輪が

外へ滑り出す。ドリフト状態で車体はバリケードとなった先導車と壁との間に

“開けられた”隙間目掛け横滑りで突っ込む。


「都ッッ!」

そう叫びながら俺は向かいに座る都に覆いかぶさる。

その横でダニエルは、即座にシートベルトを締め、ガチガチとそれを引きベルトの巻き上げを

ロックさせ、窓越しに迫るバリケードを睨みながら衝撃に備えた。




 点々と続くトンネル内の黄色い照明が流れる速度が、徐々に遅くなる。

それまでオレンジ色だった構内が、俺の視野から流れるようにモノクロになり

背中より炎が吹き出すような感覚を伴って見る物全てがスローモーションになる。


 次の瞬間、ズシリとした強烈な衝撃が左から走る。

ダニエルが左へ振られ窓へ側頭部を打ち付けた直後、その反動でシートベルトを引きちぎるような

勢いを伴ってくの字に折れ曲がりながら右へ振り回される。

 彼の頭部から流れ出た血液が、無重力空間を漂うがごとく、車内をふわりふわりと漂うのを

横目で見ていると、その向こう、衝撃に振り回される彼の前に座る漆黒の赤毛の淑女エレクトラが、

透けるように白く眩い光へと輝く。

そんな超常的な光景をコマ送りで見ながら俺は、都の手首を掴み、その体へ覆いかぶさり

ながら固く目を閉じた。



──────



(お兄ちゃんは何になりたいの?)

あぁ・・・雪乃・・・俺は・・・俺はな・・・

(チーフ・・・もしもの時は・・・)

あぁ・・・わかってる、わかってるさ・・・

(センパイ!!オレ信じてますから!)

あぁ・・・如月・・・まかせておけ・・・

(高田さん、今度は二人きりで・・・)

ゆかり・・・取材にあんまり首突っ込みすぎるなよ・・・・


【 ま た オ マ エ だ け 生 き 残 る の か 】

────── バ ケ モ ノ 



やめろォォ!!!




「クッ・・・」


 車から投げ出された・・・のか?

目を開くとスローモーションで白黒の視界がゆっくり鮮明になる。

10m程後ろに、その重いドアが外れ横転した高級外車。

その近くに倒れる黒服の若造。ダニエル・・・無事・・なのか?

都?・・・ミヤコ!!あの時俺は確かにミヤコの手を・・・


 視界を右へ左へと必死に都を探すと、5mほど離れた所に倒れる都の姿を認める。

まさかと思った直後、都は頭を上げ、俺をしっかりとした目付きで見つめた。

その直後、都の栗色の髪が横へゆっくりとたなびく。その衝撃に都が目を閉じる

振り返り衝撃の元へ目を向けると若造の後方で横転した車が爆ぜるのが見えた。


「ダニエルッ!!」

そう叫ぶと一瞬のうちに視界はフルカラーへ戻り、流れる景色も現実的な速度へ戻る。


クソッ!体が動かない・・・一時的なショック状態か・・・!?


 トンネル内を見る見る黒く染めてゆく黒煙。その中で都を真っ直ぐに光が照らす。

先行していた白バイが都を認めると、隊員はゆっくりとスタンドを下ろし、高々と足を上げ

降車する。その右手には・・・銃が握られている。

倒れたまま都は隊員の方へ振り返る。


「クソがァァァァ!!」

 俺が守ると約束し、助けられなかった連中の顔が脳裏をよぎる。

かろうじて動く右手で如月の銃を探すが、俺の手より離れ2m程先

俺と都の間にそれは転がっていた。


無念を繰り返すまいと必死に手をのばすが、指先が触れるだけで手繰り寄せられない。

「──────ンォォオォォ!!」

運命に翻弄されながらも、声にならない声で叫びながら、やっと如月の銃を

手繰り寄せ、今まさに都の頭部へ銃を向ける白バイ隊員へ即座に照準する・・・


 稲妻のような青い電撃が黒煙の元よりその隊員目掛けて走ったかと思った次の瞬間。

隊員の横でそれは黒い霧となり同時に散った紅い霧と混ざり藤色へ、徐々に霧が晴れると

そこには脇腹より青く透き通るトライデントで貫かれた隊員が地面より1m程浮いた状態で

力なくくの字に折れ曲がっていた。


「ソウマ様、ミヤコ様を連れお逃げください。此処は私がお引き受けいたします。」

匍匐状態で如月の銃を構えた俺にエレクトラが語った。


 体はなんとかショック状態を脱し、俺はやっとの思いで立ち上がると

それを認めたエレクトラは、彼を貫いた槍を優雅な舞とともに一気に引き抜く。

するとその白バイ隊員は、被っていたヘルメットだけを残して爆ぜるように

青い粒子となって散った。


俺はよろつきながらも、なんとか都の元へたどり着くと彼女の手を取った。

「無事か都───。」

「えぇ───相馬さんは?」

その返答に思わず安堵する。


 俺は足元に転がるヘルメットを都にかぶせ、後ろに止まる白バイに跨る。

「都ッ乗れ!エレクトラ!後は──────、ダニエルを頼んだ!!」


後ろ手にガラスのように透き通る青いトライデントを構えたエレクトラは

唯一つだけうなずいた。


 それを確認した俺は、躊躇なくシフトを蹴り込んでスロットルを捻った。

後輪を空転させ、若干横滑りしながら俺達は駆け出した。

オレンジ色に染められたトンネルのその先に輝く明け方のまばゆい光へ飛び込む。

その瞬間に再び背中より炎が吹き出す感覚とと共に時の流れが遅くなる。


 トンネル直後の待ち伏せ。もう一台の白バイ隊員が、バイクに跨ったまま

まっすぐこちらに拳銃を照準していた。


こちらの姿を確認すると彼の拳銃からマズルフラッシュが上がる。彼が放った

銃弾の航跡がまっすぐに伸び俺の額に届く。


 次の瞬間、俺は顔を右へ若干傾けるとともに、左手でその銃弾を掴む

ハンドルを手放し状態で右手に握った如月の銃を隊員に向け放つ。

傍から見ていればほぼ同時のその出来事。


 制服姿の白バイ隊員の後頭部から紅い霧が撒い、そのままバイクごと倒れる。

如月の銃を腹のベルトへ差し込むと同時にハンドルを握り、全体重を右に傾けそれを避ける。

白バイ特有の特装車フレームガードを地面に擦り付け、白い火花がゆっくりと舞う。

その火花の色が白からオレンジ色に変わりながら速度を増し、景色はフルカラーへ。


 赤キップ間違い無しの速度で甲州街道を馳せ、初台の料金所を強行突破して

首都高へ上がる頃には、連中の引いた道路規制も及ばないらしく、一般車や商用トラックの

たぐいが多数走っていた。


 こういう時だけはこの国の縦割り行政は助かるよ。

恐らく一両日中には公団を納得させる書類を用意できなかったのだろう。


 多数の“一般車”が走る中を右へ左へと交わしながら、縫うように首都高上を

追手より逃げる。


「1台?いや───2台か・・・」

視線をバックミラーへ移し追手を確認する。


「相馬さんッ!!前ェ!トラック!!」

二車線を並走するトラックに都がたまらず叫ぶ。


「クッ・・・だが好都合ッ!」


 三鷹料金所を抜けたばかりで混沌としたトラフィックの中を

箱車の大型トラックを死角として調布インターで追手を撒く。


高速道路に適した速度のまま、一般道へ降りると出口で待機していた

であろう新手二台がラディエーターグリル内の赤灯を点滅させ飛び出す。


「まぁ・・・そうなるはなぁ───。」

だが此処までくればしめたもの、飛行場は目と鼻の先だ。


「相馬さんッ!前ッ!!道塞がれて───。」

「都、歯食いしばれ!舌噛むぞ!!」

そう叫びながらパトカーで規制された手前で道を逸れ

飛行場脇の公園へ突っ込む。


 飛行場方向に公園内を爆走するとやがて滑走路と平行に伸びる側道へ。

園内まで強行した黒い覆面車二台を引き連れ、最後のハードルとばかりに

側道前に設けられた門柱の間に渡る、チェーンのを大型バイクの車重をもって突き破る。



「キャアァァ!!」

「いいか都ォ絶対に離すなよッ!!」

倒した交機より()()した白バイに都を乗せ追手から逃げる。

最悪な状況だ。



六話 浪人のバラード 5 終

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