2-14 五話 化物の手毬唄 3
※この節には残忍な描写が含まれます。
「村瀬様より───。」
死んだはずの村瀬から、突然な入電。
「エレクトラ・・・」
ロイの言葉に静かに頷いた彼女は、電話をスピーカーフォンに切り替えた。
「相馬、聞いているな?私だ───」
オレはその言葉にやはりなと、ある一定の理解と共に
アノまま消えてくれればと無念を感じていた。
「な・・・・んだと!?」
声の主を狙撃銃で撃ち抜いた、当の本人である銀髪の若き騎士が
その声の主に対し信じられないと怯えるような顔つきで立ち上がる。
「───ん?そこに彼等も居るのかな?、フフッまぁいい」
「この際、彼等にも聞いてもらおう。」
「相馬よ、キサマが私の手を離れ、どこへ行こうが構わぬ。」
「もはやキサマは用済み。そうキサマの役目は終わったのだからな。」
「村瀬ッ、どういうことだ!!」
「まぁそう急くな、全て説明してやろう・・・。」
「何年か前、そうまだキサマが富山と共に専従捜査していたあの事件。」
「覚えているかな?」
忘れるわけがない
つい昨日、オレの眼の前でお前自身がその関係者を殺したんだからな
「───ッ! オマエがッ!!」
「まぁまぁ聞きたまえ、彼ではない」
「あの事件でのもうひとり、虚しく散った者がいただろう?」
「彼女が失踪してから発見されるまで、時が有ったのを覚えているか?」
確かに、彼女がいつもの居酒屋に姿を見せなくなってから
轢死体となって発見されるまで、数ヶ月・・・
いや、むしろ一年近く間があった。
「思い出したかな? 思い出すよなぁ相馬」
「彼女の肌、ぬくもり───、どうだ?」
「キサマァァッ!!」
「おやおや、怒らせてしまったかな相馬君、これは失敬した。」
「そう、我々は彼女、いいや。」
「お前が女性と関係を持つのを待っていたんだよ。」
「それが───、鴻巣ゆかり。ただそうだったと言うだけだ。」
「つまり誰でも良かったんだ、我々はなぁ。」
「ただし、母体となる女が私と同じ因子をもつ場合を除く、だがね」
「同じ因子同士掛け合わせる事は不可能。因子の減衰を招く。」
「能力者同士とてこれは同じこと。そうだよなぁ英CASINOの諸君?」
「ところが、近年になって我々のこの成果に興味を持つ国が有ってね」
「ある取引の元、ステイツに私と同じ因子を持つ女を提供する運びと成った。」
「桜 都くん、そこにいるのだろう? 貴方のことだ。」
オレは悔しさで噛み締めた口元の尖る犬歯が唇を貫き
そこから流れ落ちる血の味を苦々しく感じていた。
そんなオレを都は支えるように肩に手を回して抱いていた。
自身の事をも聞かされ、辛い記憶を耐えるかのように口と目を固く結びながら。
「失敬、話が脱線してしまったな。元に戻そうか。」
「鴻巣君、彼女はなぁ、妊娠していたよ、オマエの子をなぁ」
「第1段階、そう我々にとってそれは第1段階でしかなかったのだよ。」
『ミスターソウマッ!! これより先は聞かぬほうがよいッ!』
ロイがそれまでの糸目が嘘のように、見開いた眼光でオレに命令する。
オレはそれを片手で制する。
「よいかな?英国のご同輩も聞きたまえ、我々の愛国に対する───。」
「国防に対する覚悟を。」
そう宣言し、村瀬は話を続けた。
「彼女にはこの国のために散ってもらったのだよ。」
「2つの能力を合わせ持つ次世代のために、我が国の未来の為にねぇ・・・」
「───彼女にッ ゆかりに何をしたッ!!」
「ほう、聞きたいのかな?相馬、いや高田くん。」
「───ククッならば聞くが良い。」
「彼女は縛られ、私に犯されながらも最後までお前の名を叫んでいたよ」
「高田さん・・・タスケテと。オマエのことだろう?」
「私の因子を受胎するまで何度も何度も犯されながら、その度健気に。」
「薬で受胎しやすい体にしていたので、女の悦びで意識は無いはず───
だったのだがなぁ?」
その、あまりにも残酷な行為に、隣の都が意識を失う。
倒れた都を片手に抱きながら、オレは怒りを越した感情でただ震えていた。
「そして彼女は2つの命を授かった。」
「そのうち1つを早い段階で摘果、のこりの果実に全て注ぐ」
「そう、我々の因子。能力をな───」
「───外道・・・・め」
拳を握りしめたダニエルが堪らず口にした。
「そうして安定期に入った子を子宮ごと母体より切り離し」
「確実に成長するように我々の科学技術の粋を集め育成する。」
「物理的に、かつ確実に育てているのだ。」
「あぁ、母体。確か──────、鴻巣ゆかり君。だったかな?」
「彼女はよくやってくれたよ。」
「最後は苦しみの無いようにして差し上げたよ。なにせ功労者だからね。」
「残念だが、彼女を人として丁重に弔う事は出来なかったがね・・・」
「相馬。聞いているか?キサマは見事任務を遂行してくれたのだよ。」
『相馬──────、文字通りの種馬としてな!』
「───ス。コ・・・ロス・・・」
オレではない何かがそう口走る。
「英国の諸君、たしか───CASINOと言ったかな?」
「これが我々の国を守りし次世代の守護者となる」
「一枚のカードですでに役が出来上がった無敵の守護者。」
守護者との言葉を発した瞬間から、突然村瀬の口調が変わる。
「いいか白人ども!キサマらが汚してきた世界地図、歴史を我々が
あるべき姿に取り戻す!」
「アジアの国々をあるべき姿に戻すのだ!」
「日本の陣頭指揮のもと!お前たちが蹂躙してきたこの世界を!」
「これが我が国の覚悟!お前達が再び私たちに手を出──────」
『パァン!』
ロイがダニエルの肩を掴むが、時すでに遅し
一発の銃声とともに電話は切れた。
「もう────、結構だ。」
綺羅びやかな装飾が施された豪華な一室の華々しい色が
流れ落ちるようにモノクロに成り、全てがスローモーションになる中
オレは都をその場に静かに寝かせ、立ち上がる。
「オレの・・・如月とオレの銃はどこだ?」
気味悪いほどに静けさに包まれた部屋に、低くオレの声が響く。
「エレクトラ・・・」
ロイが彼女の名を呼ぶと、赤毛の彼女は部屋を出、程なくそれを携え戻ってきた。
扉の横で赤毛の淑女が持つ、純銀製のトレイに載せられた
オレの警察手帳と如月のP228に、完全装填されたマガジン6本。
そこからオレは、如月の銃と弾倉だけを受け取ると、弾倉一本を装填し
空になっていたオレの腰のホルスターへ仕舞う。
「待て───、本当に行く気かッ」
「奴の元へ!!ミスターソウマ答えろッ!」
黒服銀髪の若造がオレの肩を掴む。
「・・・・・るせぇ。」
止めても無駄だ。今この瞬間、あんたがたが探していた
相馬という男は死んだ。
消滅した。
顎に手をやり考える黒服の老紳士が口を開く。
「ふ────む、それでは仕方ないな。」
「ダニエル。彼を援護しろ」
「!? しかし、教授ッ!」
「黙れっ!これはオレの戦いだ。手出し無用!」
これから成すのはただの私怨。復讐。
「ミスターソウマ、いいかな?この件に英国はもちろん我々CASINOも無関係。」
「そこの若いのは、個人的に貴方に興味があり、貴方の戦いを学びたいそうだ。」
「連れて行ってやってくれないか?」
「チッ!──────勝手にしろ。」
後ろからオレに弓引くなら、あんたらとてオレたちと道連れに地獄へご案内だ。
「教授!どうなっても私は知らんぞ。」
ダニエルはそう言い放つと同時に、懐よりP226SASを取り出すと
スライドを少し引き装填を確認した。
「言ったはずだダニエル、この件に我々は関与していない。」
「Be a devil! ミスターソウマを頼んだぞ。」
扉の横で銀のトレイを持ったままの彼女が老紳士を見つめて問う。
「キャラハン様・・・」
「ほう───、君も興味があるのかね?エレクトラ、いや───」
「モルガン・ル・フェイ」
黒いフォーマルドレスを纏いし赤毛の妖精が静かにうなずく。
「よろしい、好きにしたまえ。」
「そうだったな、英雄に付き従うは君らの役目だったな。」
談判破裂して化物戦争始まった
さっさと逃げるは己なき隣人
死んでも尽すは志ありし狂った化物
2つの眷属引き連れて、来たりし怪異
善人残して皆殺し・・・
「───か」
「ほう。ミスターソウマ、それは?」
「くだらねぇ。只の替え歌だ!」
古い手毬唄を言い残す不死の化物。
それに付き従う必殺の悪魔、そして古より英雄に使えし伝説の妖精は
重い扉をくぐる、彼等がくぐりしその扉は、音もなく再び閉ざされた。
「ふむ。これも───、予定調和、かな?」
気を失い横たわる都を片膝を突いて抱き
白髪白髭の老紳士はそうつぶやいた。
化物の手毬唄 終




