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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
二章 裏切りの逃避行
24/99

2-9 四話 正義のかたち 3


数ヶ月前───


いつも決まった駅前の居酒屋。

カウンターで一人飲みする男前な彼女に、オレが接触するのはそう難しくは

なかった。

オレは同じ様にこの居酒屋に通いつめ、カウンターの彼女と少しづつ距離を

縮めた。



「───で、高田さんは何してる人よー、いい加減教えてくれても

 いいんじゃない?」モツ煮を突きながら彼女は言う。


「警備会社勤務。しがない警備員だよ。もしよかったら護身術でも教えようか?」

ナンコツ揚を摘みながら有り体な嘘をつく。


「アハハー平気平気ィ、実はね、こういう道具持ち歩いてるの・・・仕事柄」

彼女はバックから暴漢用のカラシスプレーをちらりと見せた。


「あ、うちの会社にも有るわそれ・・・」


「あーじゃあえて体験しなくてもいいか!」

鴻巣は銃を構えるような仕草でオレに向けてそれを構える。


「シャレにならないよそれ・・・」

「そんな事より今日はどうする?またあのBARで飲み直す?」


「いいわね!高田さんにごちそうになりまーす!」

「高田さん、もしアタシを襲ったら、カラシスプレーのえ・じ・きヨ。アハハハ!」


───と、まぁオレは鴻巣ゆかりと、はしご酒に付き合う程度の仲になった。




高速を走る車の中で、数ヶ月前のそんなやり取りが頭の中を巡る。

(感傷に浸って、大局を逃すほど、捜査員としてみっともねぇこたぁない。)

このまま考え続け、なんぞシクってドジでも踏もうものなら、きっと富山のオヤっさんに

そうドヤされるだろう。


第三京浜を北上すると、やがてパーキングエリアを示す看板が現れる。

オレはその看板が示す都筑PAに侵入し、トミさんと連絡を試みた。


車には警察無線はあるが、おそらく今回の事案、無線で連絡を試みると

聞かれたくない連中にも、色々不都合な情報が筒抜けになるだろう。


一般車両のパーキングエリアに車を止め、自動販売機エリアにまっすぐに向かう。

タバコの自販機前で上着のポケットを右に左にと弄り、小銭を探すフリをしながら

オレは尾行を警戒した。


どうやら追手の影はないようだ。

それを確認するとすんなりと懐の小銭入れを取り出し、いつものタバコを

買おうとしたのだが・・・赤いランプが点灯していることに気づく。


「売り切れかよ・・・、まぁこれを機に禁煙ってのも悪くない・・か」


オレはそうつぶやきながら、横の自販機でホットコーヒーを買い

電話ボックスへ。

政府機関用の官品テレカを使い、トミさんへ連絡を試みる。


二度の呼び出しで一度切り、リダイヤル。

それがオレからの連絡を告げる合図だった。


「トミさん、オレです。」

「相馬か───で、どうだ?」


「状況がアレなんで、詳細は科捜の鑑定待ちになるでしょうが───」

「───ほぼ、彼女で間違いないでしょう・・・」


「そうか・・・ 相馬、お前さん大丈夫か?」

「多少は───まぁ」


職務とはいえ、彼女に接近していたオレの事を、昔気質の昭和刑事

富山のオヤッサンが、気にかけてくれる。


「そうか、いいか若造、こればっかりは止められなかった。」

「オメェさんも、わかっちゃいるんだよな?」


「えぇ───、それより次の犠牲を出さないために・・・」

「あぁ、そいつぁ任せとけ、奴さんと娘っこは俺が保護する。合流は───

 オメェさんの個人事務所でいいな?」


「じゃそっちに向かいます。」

「あぁ待ってるぞ相馬」


そう言って、緑色の受話器を置く。

電話ボックスを出たオレは一路、川崎のセーフハウスに向かう。

第三京浜の川崎インターを降りた辺りで、遂に灰色の空が雪を降らせ始めた。

まるで彼女の鎮魂を願うように・・・



川崎にあるマンションの一室。

「高田」と書かれた表札の部屋にたどり着く頃には、まわりの音を全て

吸い込むかのごとく、薄っすらと白い雪があたりを覆っていた。


駅前の駐車場へ車を止め、徒歩でアジトへたどり着く頃には

肩に雪がまとわり付いていた。

オレはそれを玄関前で払い、鍵を開け室内へ。シャワーの水音が聞こえる。

そのままオレはトミさんたちが待つリビングへ向かった。


「遅かったな相馬。」

すぐさま富山のオヤッサンの声が俺を出迎えた。


「トミさん、ここまでは───」

「あぁ、心配するな、追っては撒いたよ。」

「で、彼とは初対面だったよな?───」


ダイニングの椅子でうなだれるように座っていた彼がこちらを向く。


「坂崎 俊彰さん。ですね?」

オレの言葉に、七三分けの黒縁メガネ、いかにもお役所務めな男は、不安げな

表情で小さく頷く。


「私は特捜の刑事で相馬というものです。おおよその事情は───」

「えぇ、富山さんから・・・」


「では、あえて詳細を繰り返す必要はないでしょう。」

「端的に申しますと、貴方が接触した記者に危険が及びました。」

「従って我々はあなた方を保護します。」

余計な不安を与えないよう、あえてそう伝えたのだが・・・


「殺されてしまった・・・のですね?」

彼は察していたのだろう。


「ご理解されているのでしたらもはや伏せておく必要もないでしょう。」


「・・・・・はい」

オレの言葉に坂崎は悲しげとも悔しさとも取れる表情で小さな返事をする。


「ここに居る限り、さしせまって危険はありません。」


「・・・・・」

坂崎はうつむき、ただ口を閉ざしていた。

事態が急転した今となっては、約2年間オレたちが坂崎親子に張り付いていた

事を隠す必要すらもうない。

これからの取調を、円滑にするためにオレは坂崎本人に、今までの事を

打ち明けることにした。


「坂崎さん、落ち着いて聞いて下さい。私たちは以前から───」


「相馬さん、富山さん、その事ですが。実は以前から知っていました。」


「───!!」


なん───だって? 捜査に最初から気づかれていた?

オレはともかく、トミさんはこの道ン十年の超ベテランだぞ?

しかし、そんな驚きを隠しながら、オレは話を進めた。


「では坂崎さんはそれを知った上で、情報をマスコミへ───。」


「じつは───、今回の件。娘の始めたことなのです・・・」

そして、その供述を皮切りに、坂崎は語り始めた。



不思議な力を持つ娘、美咲の話を・・・。



 美咲はその誕生時に体の弱かった母と死に別れて産まれてきたという。

出産時、坂崎は辛い選択を迫られた。子を諦めれば妻を助けられる。

しかし、坂崎の妻は、自身が出産に耐えられないことを承知で、産むことを

坂崎に懇願したという。


こうして産まれてきた女児、美咲は、成長が進んでも言葉を一切話さなかった。

医師には一種の自閉症と診断されていたが、坂崎はそうではないと願っていた。

いや、そう感じていたのかもしれない。


そんな美咲が、五歳を迎えた頃だった。

坂崎が朝起きると、リビングに置かれたラジオと、坂崎が趣味で保有していた

アマチュア無線機が見事なまでに粉々に分解されていたという。

仕方なくその散らばった部品を、傍にあった箱へまとめて入れ

坂崎はそのまま仕事へ向かった。


「近くに住む私の義理の姉、美咲にとっては叔母が日中娘の面倒を見るために

 家に来ていましたから、散らばった小さい部品で怪我をしないようにと」


「───、それで?」


その夜、坂崎が帰宅すると朝バラバラに分解されていたはずの2つの機械が

元とは違う形に復元されていたという。


「───と、言うと?」

「何につかう機械なのかは私にはわかりませんでしたが」

「ちゃんと動く何かに作り替えられているようでした・・・。」


「その叔母にあたる方が組み立てた?」

「いいえ、義姉・・・美咲の叔母は機械ものには疎いはずなので・・・」


「そうなると・・・」

「はい───、おそらく娘が」

その内容を聞いたトミさんは頭上に疑問符を幾つも浮かべていたが

オレにはなんとなく事情がわかってしまった。


坂崎の娘、美咲は間違いなく能力者だと・・・




翌日、坂崎が起床し、美咲を起こすために子供部屋へ行くと───


「それまで何一つ話すことが出来なかった美咲が・・・」

『あ、おはよパパ。あのねあのね!わたちがつくったメカ蔵君イジメないでね』

と、発音の訓練もまともにしてこなかった娘がシッカリとした口調でそう話した

という。


坂崎は美咲が話した年に似つかわしくない話の内容よりも

この先、話すことがないと思い込んでいた娘が言葉を話しをしたことが

ただただ嬉しくて。娘を抱き、そのまま泣き崩れたのだという。

それから美咲が特異な行動をすることは、しばらくなかった。


「ところが・・・数年前、美咲が突然こんな事を話し始めたのです。」

『近い内に大きな地震が来ていっぱい人が死んじゃう。偉い人はそれを

 知ってる。』

と・・・

「私は、きっと美咲は怖い夢を見たのだと最初は相手にしていなかった

 のですが・・・」

『偉い人達は怪我した人たちにあげるはずのお金を隠し始めてる。

 このままだとそのお金で助かるはずの人もみんな死んじゃう!』

『ぱぱ!助けて!! そんなの悲しいよ!』


またあるときには・・・

『ぱぱ、ねんきんってお金払ってるの?』

「あぁ払うのが皆んなの約束なんだよ。おじいちゃんに成ったらパパも

 そのお金を貰って生活するようになるんだ。」

『ぱぱはもらえるけど私は貰えないよ?でも私も働くように成ったら

 払わなきゃいけないの?なんかズルいなー やだなー』


「この時、美咲の言動から、私は確信に近いものを感じました。」

「きっとこれは美咲の夢の話ではない、何かもをとに、現実の話しを

 しているのだと・・・。」


当時、坂崎は大手生命保険会社勤務という立場から、社会保険庁へ出向く

機会もあり、ツジツマの合わない計算書や、積み上げられた国民年金が

使徒不明金として庁の枠を超えて、様々な公的事業へ流入していると言った

うわさ話などを見聞きする機会が多々あったという。


そして近い将来、年金を納める人口と受け取る人口、つまりは

収支のバランスが裏返り、年金というシステム事態が破綻する。

それに対し、政府は抜本的対策を講じることも出来ず、ただ課題を

先送りにしている。

その事実を隠しながら私腹を肥やす事に終止している官僚の存在も

美咲は予知していると坂崎は確信したのだという。


実の所、これらの事実を、坂崎本人も薄々だが気づいていた。

だが、それを告発する術もなく、無駄な正義感で軽率な動きをすれば

自分はおろか、最愛の娘にも危険が及んでしまう。それを危惧すると

坂崎は、ただ不正を見なかったことにし、社会正義よりよい父親であろう

とするしかなかった。だが───・・・


不誠実な事に自分も加担している、それを知りながら何も出来ない

これまでの自分に対して、アコギな連中の行いを、白日のもとに晒すのが

自分に与えられた責務ではないのか?そのために神、もしくは妻が己の命を

途してでも、不思議な力を持つ娘を遣わせたのではないか?

そう思う頃には、隠していた坂崎の正義感に再び火が灯っていたという。


「娘さんが作ったっていうその装置は・・つまり未来予知装置だったと?」

トミさんが坂崎に問う。


「いいえ、おそらく盗聴装置の一種、それも超常的なものかと・・・」

「もちろん理屈はわかりませんが・・・」


「そして坂崎さん、貴方が娘さんの言動から、ある種非合法な手段を講じて

 でも真実を探るうちに、村───、公安の網にかかったと」

「はい・・・そしてその事も美咲は見越していたようです・・・」


「これは最近の話なのですが、おそらく私達が調べ上げて世に出そうとする

 話は、一部政治家にとって、非常に都合の悪いことだろう、危険なことは

 明らかだと。だがこっちが頼まなくても、警察の方が勝手に私たちに

 くっついて来る。なら彼等に守ってもらえばいい・・・と」


「・・・・。」

オレは言葉を失うほかなかった。

これまで父親、坂崎自身が起こした単独行動として専従捜査にあたっていた事が

すべて彼の娘、美咲の手の上で踊らされていたというのか?

オレはともかくトミさんまで気づけずに。


オレがそう呆れた時、シャワーの音が止み、人がこちらへ来る気配がした。


「あー!! イケメンのほうの刑事もいるー!」


呆れるような明るさで少女はオレを指さした。パンツいっちょで・・・

「美咲!!服を着なさい、恥ずかしい!!」

坂崎が諭す。


「えー、だってパパもよくやるじゃない。」

「やってみたらたしかに、これはこれで気持ちいいってアタシ知っちゃった!」

トミさんは片手のひらで顔を覆い下を向く。

おれは呆気にとられていたが、嬢ちゃんの膨らみかけには興味ないんでね。


「ねぇねぇイケメン刑事さん! どお?若い体、欲情しちゃう?」

中学高校生のハダカに欲情した時は、オレはオレの腕に手錠をかけるよ。


「いや全然。いいから早く服を着ろ。風邪引くから。」

「これからキミにも聞きたいことがいっぱいある」

ただ幼いのか、これまでの話から高度に思考された結果の視線誘導が目的なのか

わからんなこりゃ・・・


「やーん!体に聞くの?少女の若い体にいろんな事して聞き出そうとするのねー!」

「しない!!」


「ふーん・・・そうなんだ、つまんない」

そう言うと美咲は再びバスルームの方へかけて行った。


「すいません・・・奔放な娘で」

「末恐ろしいですね・・・」

「最近の若けぇもんは大胆だねどうも・・・」


深刻な顔つきのおっさん3匹は

同時に大きなため息を付いた・・・



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