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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
二章 裏切りの逃避行
23/99

2-8 四話 正義のかたち 2


───年 ───月




(お兄ちゃんは大人になったら何になりたいの?)

少女がオレに語りかける。


「ボクは大きくなったら正義の味方になるんだ!」

「それでね、ママやみんなを守るんだ!」

オレはそう言って小さな妹の頬を両手でムニッと押しつぶした。




(相馬君、キミが自衛官に志願した動機はなんだね?)

募集担当官が高卒のオレに語りかける。


「は!私は目を覆うような災害現場で、死力を尽くす自衛官の皆様に───」

そう答えつつも、オレの心は本当の所、動機なんてどうでも良かった。

あの凄惨な墜落事故で、両親と妹、つまり肉親を全て失うも、自分だけ生き

残ってしまったこの生命(いのち)を、ただ───そそぐ場所と、たとえ一人でも生きて行くと

言う理由が欲しかっただけだ。





(相馬、私が何故キサマを陸自から引き抜いたか解るか?)

毎日果てしなく続く、過酷な訓練で疲れたオレにその夜、突然宿舎に現れ、

公安への転職を半ば強引に言い渡した、村瀬と名乗る警官がオレに問う。


「・・・さぁ───、な」

 正直そんな物どうでも良かった。家族を守ることが叶わなかったオレが、

自衛官として、この国の人々にオレと同じ悲しみや苦悩をさせない為。

またはその様な事態を招かぬように、一つの小さな歯車としてでも、手助け

ができる。その事が、今のオレが生きる理由となっていたのだから───。


(解らぬか・・・キサマの性能、それを活かす場、それが私の元なのだ。)

私服組の警官は、ムカつくほどの上から目線でオレにそう言い放った。





(チーフ・・・もしもの時は娘を、ミサキを・・・頼みます。)

オレに撃たれた男がそう問う。


「何言ってやがる、肋骨一本砕けた程度だ、死にはしないよ。」

「娘とは暫く一緒に暮らせないだろうが───、なーに後はオレに任せろ。」


娘の為に自ら罪を被ろうとする、どこにでも居るような普通の父親にオレは

ただ、そう答えた。

村瀬を騙す為とはいえ、オレの銃弾を受けた一人の父親は、一度だけ頷くと

そのまま夜の街へと消えた。





(本日付で配属になりました如月です!よろしくおねがいしますセンパイ!)


(センパイは元空挺レンジャーッスか!?)


(エリートじゃないッスか!スゲーッ!!)


(あれこれ色々教えて欲しいッス!センパイ!)

チャラい相棒を充てがわれて、ため息混じりながらも、オレは心に誓う。

コイツが自分で自分を守れるだけの技術を叩き込んでやると・・・





暗転した暗闇で、オレ自身が語りかける。






『 また、オマエだけは生き残るのか───? バ ケ モ ノ  』






「───ッ!!」

またこの夢・・・か。



 突然現れ、またたく間に事態を収束させた、若い異邦人。

その男の運転する車にオレと都は乗っていた。

オレは・・・意識を失っていたのか?

後席で目を覚ますオレの隣の都は、ずっとオレの手をただただ、優しく握って

いたのだろうか───。


「相馬さん・・・何も考えないで、今は休んで下さい。」

雨で冷え切った体ながら、片方の手だけに残る、穏やかなぬくもりから

彼女の心優しさを感じた。


 結局、如月は言うに及ばず、坂崎までも死なせてしまう結果を招いたのか?

そして、また───オレだけ生き残ってしまったのか・・・。

オレは失意と言うより、坂崎と交わした約束を噛みしめるように、

数年前の事件を回想する。


それが彼に贈る、せめてもの手向けのように・・・





1995年 3月 神奈川県横浜市神奈川区羽沢町付近


「雪・・・降りそうだな」

 県警の規制線を前に、一台のクーペから、ヨレヨレ灰色のトレンチコート

を羽織り、肌寒い真冬の曇り空の元、オレは降り立った。


「チョット!ここは立入禁止です。」


「心配しなさんな、同業者だよ」


オレは現場と成った線路脇の規制線で、オレを制する制服警官に、懐から取り

出した手帳を見せると、手帳を持つ右手の甲で、軽く押しのけ規制線を越える。


 ブルーシートで囲われた一角、その前に、二人の私服がオレを見留た。


「───チッ・・・」


「あれまぁ・・・ずいぶん早いおでましだな・・」


 若い方の私服が舌打ちし、隣に下を向きながらそう言う年配の刑事。

彼等は、明らかな煙たさでオレを向かえたが、オレはいちいち気にもぜず

年配の刑事に問いかけた。


「状況は?」


「一時間一〇分程前、運転士から事故の通告を受けた管制職員よりの通報」

「所轄が現場の保全を実施。今は鑑識の到着待ちだ。」

「ご覧の通りのホトケ故、俺達が出張ったが・・・」

「アンタが来たってことは、おおよそヤマのアタリはツイてるって事だろ?」

「それとも───、こうなることも予想どおりだったのかな?」

皮肉交じりに年配刑事が言う。


「さあな───。」


 線路脇で回復作業の業務に走り回る鉄道職員の横で

振るえる肩を抱えながらただ立ち尽くす、若い運転士を俺は横目で見ながらも

年配刑事に、気のない返事をした。


「で───、身元は?」


「鴻巣 ゆかり 年齢推定29歳 職業、フリーのジャーナリスト」

「と───、後は鑑識の鑑定待ちだが、どうする?」

「結果をオタクの部署にも送ってやろうか?」


「いや結構、しかし、この状況でよく身元が割れたな?」

そう言うオレに、年配刑事は遺留品袋をひらつかせた。


「こんな姿だがな、コイツを握りしめてた。確証はDNA鑑定後までお預けだが」

「俺は週刊誌をよく読むんでな、恐らく間違いはない。」


丸まった名刺を袋越しに見せた刑事はそう言うと

証拠のそれをオレに渡しもせずにそれを懐へ仕舞った。


「ご協力どうも」


それだけ言い残し、オレがブルーシートの囲みをくぐる後ろ姿に

若い方の刑事がオレを止めようとするのを年配の刑事が制する。


「無駄だ、共同捜査は無し。期待するだけ無駄だ放っておけ」


「何なんです?アレ」


「公安の幽霊野郎だ、忘れろ」

「俺達は俺達の仕事をするだけ───。いいな?」

「俺たちゃな、彼女の無念を紡いで、犯人(ホシ)を追い詰める、それが俺達の正義だ」


 青い囲いの中でそんな会話を聞きながら、俺は彼女に対面する。

ゴースト・・・ね。オレはその言葉に不本意ながらも、妙な納得をする。


 早朝、その女性が横浜市内の貨物線の線路上、一糸まとわぬ姿で轢死体

として発見された。衣服や所持品の類は、その手に握られた自身の名刺のみ。

彼女の靴が発見されていない事から、他所で殺害された後、この場所に遺棄さ

れたことは明らか───、だろうな。


オレは彼女だった躰を覆うブルーシートの前でしゃがみ込み、そっと

手を合わせた。亡き骸(なきがら)(わび)た後囲いを出ると、オレは

外に居る二人には挨拶もなく車に向かう。

そんなオレに対して血気盛んな若い正義が叫んだ。


「アンタ等ような連中でも!最低限の礼儀は有るんだなッ!」


 年配刑事に制されるように、肩を捕まれながらもオレに問う若造に

オレは右手を上げてサヨウナラをすると、その手をそのまま胸元へ差し入れ、

クシャクシャになったソフトパックのタバコを取り出す。

ヨレヨレの最後の一本に火をともし、こういう場には不釣り合いな

2ドア車に乗り込む。


「こんな時に吸うのは憚られる名前だよまったく・・・」


ラッキー・ストライクと書かれた包を握りつぶして助手席に放ると

オレは静かに現場を去った。



 オレはモヤついた気持ちで、本来の捜査対象のもとへ戻るべく

第三京浜を北上する。


「口封じ───、にしては遅かった。」


誰あろう今朝の被害者のことだ。鴻巣 ゆかり

彼女について、オレは以前、彼女と面識が有った。




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