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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
二章 裏切りの逃避行
20/99

2-5 三話 秋宵の逃亡者 5

「あなたについて、大事なお話があります。」



それまで塞ぎがちだった表情が嘘のような快活な表情で、都は真っ直ぐオレを

見つめた。


 オレについて───。櫻夫妻の過去に村瀬が関わっていた、ともすれば

この一連の厄介事にオレの名前が上がるのも、理解は出来る。


「───村瀬との取引、もしや奴の狙いは・・・オレか?」

「いいえ・・・英国側、CASINOが貴方を必要としているのです。」


 都の娘を保護しているという、英国のカジノと呼ばれる組織・・・


── Britannian Unseeable ──

欧州の女神がなぜ極東を───、いや・・・なぜオレを欲するというのか。


話は再び昨年へ戻る。

 

 都の娘を誘拐したテロリストを程なくして黒い影が襲う。

地元警察が手をこまねく中彼らはものの数分で事態を掌握した。


 噂程度には聞いたことがある、欧州の平穏を司ると言われる魔女。

アヴァロン九姉妹の長、モルガン・ル・フェとの異名を持つ欧州の女能力者。

単独でテロリストを壊滅させ、娘を無事連れ帰ったのが誰あろう

ロンドンのPUBで都を出迎えた赤毛の彼女だという。


 娘と再会した都に、ロイと呼ばれる白髭の紳士は、村瀬の取引に

従うよう求めた。だがそれはあくまで表向きの話で、その実、都には

村瀬に付き従い、公安の施設内に潜伏ししかるべき時を待つとした任務を与えた。


「娘を奪還したCASINOは、村瀬さんとの交渉に当たって、娘を誘拐したテロリストを

 演じました。」

「対する村瀬さんは、その交渉にとても苦労していたと伺っています。」


「まぁ・・・そりゃそうだな、むしろ交渉にもなりゃしない───」

「その際CASINOの連中は娘を村瀬に渡す気なんか、そもそも無いのだからな。」


 だが村瀬に時間はあまりなかった。合衆国へ都を引き渡す予定が迫っていたからだ。

村瀬はテロリストを演じるCASINOと娘の奪還に関する交渉を部下に託し、

都と共に日本へ帰国する。


「私は娘と夫を残して帰国しました。それから東京のあの教会に軟禁されたの

 です。」

「───そうです、貴方が現れるのを、私はずっと待っていました。」


 CASINOの長は、都に日本の公安にいる能力者と接触するよう求めた。オレだ。

CASINOが都に託した依頼はオレと接触するという事、その後、都はCASINOに回収される

予定だったいう。


「それで、都のミッションは完了した。こうしてオレと出会えたんだからな」

「だが、なぜだ?俺と会った末の目的は、聞かされていないのかい?」


「はい・・・、私もいろいろと知ってしまうのが怖くて・・・」


 そうだな、そりゃ知ってしまった挙げ句、日常に戻れなくなることを考えたら怖いよな。

となると、英国側がオレを欲する理由は訪日したエージェントに聞くしか無い───か。

もっとも、出会った瞬間に殺ラレるって可能性もあるわけだが・・・ね


 ともあれ、これですべての謎が解けた。

多摩川でオレ達を襲ったのは合衆国の組織で間違いないだろう───。

おそらくは村瀬の差し金だ。


 都と合衆国、双方の約束を果たせそうにないと悟った村瀬は、本来必要のない

都の大阪移送をでっち上げ、移動中に都を合衆国に誘拐させる筋書きを書いた。

都の身柄を確保したステイツは、そのまま何処かの在米基地に都を連行し、軍用機で

合衆国へ連れ去る予定だった。おそらくはな。


「ふぅ・・・そうなると、だ。大阪への旅は必要なくなったって訳だ。」


 朝方より降り続く冷たい雨が、強まるように隠れ家の窓を叩いた。

雨音だけが静かに響く室内で、オレはあえて辛い質問を都に問う。


「ここまでの話を聞いたオレが、君を連れて村瀬の元に───」

「いやむしろCIAに投降するって可能性を君は───、彼らは

想定していなかったのかい?」


オレの唐突な質問に都は、()()()と驚きの表情を

見せた後に微笑みながら

「でも、そんな事、貴方には出来ないでしょ?」

ただ一言そういった。




 一通りの理解と納得を得たオレだったが、もう一つの懸念が頭を擡げるのだった。

その懸念を察したかのように、都は彼の安否を口にする。


「相馬さん・・・如月さんは───」


「あぁ・・・ヤツのしぶとさと逃げ足の速さは折り紙付きだ」


 そうは口にしたものの、あの若造がもし仮に、村瀬やステイツに捕らえられた

としたら、オレたちの居場所を聞き出すためにタダではすまないだろう。

最悪、口を割られた末に───。


いや・・・俺が今心配に苛まれたとて、状況は変わらない。

奴のしぶとさを信じて、今は努めて楽観的に考えよう・・・


「都、とりあえず今日はここを動かず、場が落ち着くのを待とう。如月の事は

 明日自ずと結果は出る。今日の所はゆっくり体を休めよう、お互いにね・・」


 数時間の話し合いを終えたオレは残り少なくなったコーヒーを温める。

すべて語った都は安堵の表情を浮かべて、オレが勧めたシャワーを浴びるため

浴室にいた。止む気配のない雨音と浴室から響く水音がユニゾンとなって薄暗い

夕方の部屋にただただ響いていた。


 そんな時、唐突なる電話が静かな部屋に響き渡る。

オレしか知らないはずの、ましてや、とうに解約したはずの固定電話がなぜ・・

罠の可能性もあるが、そもそも敵に此処の電話番号が割れているなら、呑気に

電話なんて掛けて寄こす前に突入するほうが早いだろう・・・


 村瀬もCIAもムカつくほどに一流のプロだからこそ、その行動原理に一応

の信頼はおけるものだ。


 無視するのが得策だとは分かっているのだが・・・

なにかこう・・得体の知れない危機感が俺を駆り立てるのを鳥肌を伴って感じた

のだった。オレは恐る恐るもスピーカーで電話を取る事にした───。


「・・・・・」


相手の出方を見るために無言を決め込む。


『───まぁ? ねぇソウマぁ! 居るんでしょ!! 隠れても無駄よッ!

 早くでて!』


この瞬間、オレは電話の主が最悪の相手だと理解した。


「相馬さん・・・?」


バスタオルを巻いて柱に身を隠しながら不安な表情の魅力的な都にクラクラ

するがたぶんこの目眩は都じゃなくこの電話の主に対してだろう・・・


『ちょ・・・!?今女の声が聞こえたわよ!どういうことよ!!そこにいるのは

 誰よ!早くでなさいよ!でないとアンタの愚息のサイズをそこの女に聞こえる

 ように今、大声で言うわよ!』


オレは倒れそうに成りながら自分のプライドを守るために慌てて受話器を取る。


「みっ子・・・オマエなんでここが───」


『なんでここが・・・じゃないわよ!!大事な仕事があるって私をこんな

 田舎に預けて』

『自分はどこぞの女と、そんな所にシケこんで一体何してんのよ!!』

『ヘンタイ!!』


頭痛がするくらい能天気な小娘だよ全く・・・


「みっ子!もう切るぞ盗聴されてるかm───

『アタシがそんなヘマする訳ないじゃない!バカ?バカなの?』

『大体電話回線としては死んでんのそこ!』

『そんなことよりアタシから逃げおおせると思ってんの!?』

『何とかいいなさいよこのロクデナシ!!バカ相馬ぁ!!粗チn───』


オレは受話器をそっと置くと同時に、目を覆いながら壁より電話線を引き

抜いた。都はというと、必死に口元を抑え笑いをこらえているようだった。


「都・・・風邪引くから、とりあえず服着て」


オレは都に、あっち行けと手を振って祓うと

しばらく頭を抱え項垂れるのだった。




三話 秋宵の逃亡者 終

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