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カジノ ─ Casino ─  作者: くどい
二章 裏切りの逃避行
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2-4 三話 秋宵の逃亡者 4

「相馬さん、あなたも───そうなのでしょ?」


 能力者───か、オレはその呼び名は嫌いだ。

都が明かす自身の能力、オレ自身の性能、呼び名は違えど指すところは同じだ。


 能力者、決して公の場に姿を表さない。異質な力を持つ者達に、そもそも呼び名と

呼べる名称など無かった。能力者、異能者、古くは魔法使い、魔女など時代

や歴史によって姿を変え、その存在を憶測で語られてきたにすぎない。


 能力者と言われると、その特異な力を持つ者、エスパーやサイキックの様な

特別な印象を持つのは当然だろう。ある科学者が言った言葉にこんなのがある。


『高度に発達した科学は、その原理、仕組みを理解出来ない者にとって、魔術と

 見分ける事は困難である。』と───。


 つまり、人は自分の理解の範疇を脱した事象について、それを他者に説明する

為に超能力、魔術という言葉を発明したに過ぎない。

 オレや都がエスパーや能力者と呼ばれたからといって、アメコミヒーローの

ように振る舞えるほど、現実はドラマティックに出来ていない。

むしろシニカルに受け入れられるだろう。


なぜなら人は、自分の理解を越えた事象や人物は、端に()()のだ。


 異能の力を持つ者とて、その者の見た目や考え方、生き方も、大多数の人々と

変わりはない。

少なくともオレは真っ赤なタイツを着込んでマントを羽織るヒーロー

なんかじゃない。しかし、その力は他人に認識されて初めて普通ではなくなる。


 要は受け手の問題であって、オレたちにとってはコーヒーを温める

ためにコンロに火をつけるのと変らぬ、至って普通の事なんだ。


 他の人と比べて脚の速い奴、歌の上手い奴、絵が上手い奴、旨いコーヒーを

入れる奴。人より少しだけ秀でた才能がある。

オレたちはその才能がチョットばかり、特化してしまっただけなのだ。


 しかしその才能を持たない、または持ちたくとも至らない者にとっては妬み

嫉みの対象になる。故にその才能や己を世間から隠す必要はあるが

決して卑屈になることじゃない。この力を含めてオレ自身なんだ。


だからオレは能力者という言葉が嫌いだ。


「相馬さん? 大丈夫ですか・・・」


「───あぁ、村瀬の話にチョット思うところがあってね・・・」


久しぶりに聞いたその言葉に心の隅に追いやっていた感情を引き戻し自己問答

に至った感情と俺自身を誤魔化すためとっさに口をついて出た村瀬と言う男の存在。


 都が村瀬より持ちかけられた取引、事件解決の暁には合衆国へ

身柄を引き渡す。

都が能力者と打ち明けたことでオレはこの事件に望まない形で名が上がった

元上司、村瀬の登場に色々と納得がいった。


 能力者、その存在は様々な文献や書籍などで古くから示唆されていた。

しかし、能力者の存在は、しばしば国家をも揺るがす結果に成ったことも

歴史のノートに克明なまでに記されている。


 たとえ話をするならば、恐ろしく計算に長けた能力者が居た。

ある時、能力者の住む国と隣国が争いに陥った。


能力者は自身の能力を使い、相手国の国家経済を完膚無きまで破壊させる

計算式を作り上げて実行した。


 ものの数日で、国際社会において相手国の通貨価値は限りなく0になり、為す術

もなく敗北するだろう。


 まさに現代社会における兵糧攻めだ。仮にこれが慈悲もなく、戦後世界の

経済までも破壊する計算式なら・・・能力者一人の存在が、世界を征服することすら

可能だろう。


誰あろう悪名名高いあのアドルフのように。


 世界にとって幸いだったのが、アドルフの能力は魅了だったと言われている。

画家を目指した病弱で体の小さな青年が、魅了の能力をもって政権を掌握し

世界を揺るがす結果になった。もし仮に、アドルフの能力が“演算”だったのなら

───、考えたくもないな。


 能力者が世界のパワーバランスを担っていたのは、いまさら言うまでもないだろう。

国家間の力関係はそれまで自分の手元に置いている能力者と、その能力

によって保たれていた。手元の能力者の能力、その人数は伏せられ、

文字どうり外交上の手札として機能していた。


世界は能力者というトランプで平和を維持するBLACK JACKを繰り広げていた。


 しかし、万能に思える能力者は、ある時を境に、全世界で大幅に数を減らした

と言われている。二度に渡る世界大戦。とりわけ自国の抱える能力者の大多数が

死したと言われているのが第二次世界大戦、その西側の立役者。合衆国だ。


 ところが大戦中、自国の能力者の大多数を世界各地の戦線で失った合衆国は

戦後世界で主導権を握る戦勝各国と渡り合っていくだけの手札をもはや

維持していなかった。


 戦後社会の主導権争いに危機感を覚えた合衆国は、大戦末期1943年頃より、膨大な

資金を投じて、国内外問わず能力者の捜索と研究開発をするも失敗、計画を断念

したという。


オカルト雑誌に陰謀として語られる、ESP研究所と呼ばれるのがそれだ。


 そこで合衆国は、戦後世界でのBLACK JACKのルールその物自体を変える発明を急いだ。

核兵器という名のジョーカー───。


悪魔のワイルドカードが誕生した。


 無論ソヴィエトとてただ静観していたのではない。内通者を通じ密かにその

核兵器技術を入手。先端技術を元に、米ソを中核として世界を二分した新たなルールのゲーム(冷戦)

が以後数十年に渡り続いた。


 だが、なぜ今、ジョーカー(核兵器)を持つ合衆国が、いまさら

ハートのクイーン()を欲するのか?

村瀬と合衆国の間に、何か得体の知れない動きがあることだけは確かなようだ。


「都、それで君は村瀬の取引を受け入れた───」


「はい、私達に選択肢はありませんでした・・・」


「ですが・・・村瀬さんの思い通りにはならなかったのです。」


「と、言うと?」


「村瀬さんの提案を受け入れた私達は、ロンドンのホテルで村瀬さんからの

 連絡を待っていました。」

「夫と連絡を待っていると、ルームサービスに訪れたホテルマンが、ある方

 からの手紙を私達にもたらしたのです。」

「その手紙にはこう記されていました───」


 都が受け取った手紙は英国のとある機関からのものだった。


『桜 都様、この度の多大な心労、心よりお見舞い申し上げます。』

『あなた方のご子女は私共が無事、保護いたしました。』

『お越し頂ければ、直にでもご子女との再会も叶うことでしょう。』

『ホテルの表にブラックキャブを用意しました。』

『つきましては都様お一人でお越しください。』


 当然、困惑した都夫婦はこの内容を村瀬へ伝えるべきか悩んだ。

しかし既に娘は英国機関にあるとの事、都は、まずこの手紙の場所へ赴くこと

にした。手紙に記されたとおり、ホテルの前には一台のロンドンタクシーが停

まっていたという。


「一人・・・か、まぁそうだな、当然村瀬も夫婦の動向は監視してるだろうし」


「はい・・・村瀬さんの提案も手紙の提案も私達にとって、どちらも

 危険である事に変わりなかったので・・・」

「その時は娘に会える。ただそれだけの理由で───。」


 夫をホテルに残し、藁をも掴む気持ちの都を乗せ、ドライバーは行き先も聞か

ずに走り始める。程なく、町外れの小さなPUBへたどり着く。車を降りた都を

出迎えたのは、黒いフォーマルドレスを纏った、美しい赤毛の女性だったという。

女性に案内されPUBの奥の部屋に通された都は、まもなく娘と再会する。


「無事だったんだね?」


「はい、白髭を湛えた初老の紳士に抱かれて、娘は上機嫌でした・・・」


 紳士は一分の躊躇もなく、娘を都に返したという、娘を抱いた都はそのまま

力なく泣き崩れた。そんな都を紳士は柔らかな笑顔で肩を抱き、ソファーへ座ら

せ喜びの涙が落ち着くまで、ただ穏やかに見守っていた。


「それで?当然そのままトゥルーエンド。って訳には・・・」


「えぇ、その男性は微笑みながら───」


 初老の紳士は都にそのまま、村瀬の提案どおりに行動するよう伝えたという。

その間娘は我々が責任を持って保護する、都と夫の安全も保証すると。


「なるほど───、そこで坂崎が言った英国からの訪問者か」


「はい、恐らく私を回収に来たのだと思います・・・」


「回収?助けに、じゃないのか?」


 オレのその問いに、都は答えなかった。

ただ再び都は美しい顔に影を宿すとしばらく俯いた。

沈黙の後、都は意を決したかのようにオレを見つめて語り始める。



「・・・・相馬さん、あなたについて、大事なお話があります。」




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