1-9 二話 裏返しの日常 2
「・・・・ッ!へっ・・・やっぱり撃つんじゃねーかよ・・・」
青ざめながらも片方の口元が持ち上がるような変な笑いが出た───
二〇一八年七月二三日 一五時頃
帰宅すると自室の中央に茜を連れ去った?あの長身の男が立っていた。
男は両手を後ろ手に組み、真っ直ぐこちらを睨みつけている。
「どうした、あまり驚かないようだな?」
あぁ・・・驚いている、驚いているさ
昨夜の出来事が夢や勘違いじゃなくリアルな事件としてここにある。
しかもその関係者、それも当事者の俺が、何もなかったように自室で目覚め
その後普通に暮らせるわけはない。って位には帰りがけに覚悟完了してたんでね。
そう思いながら睨み返す。
「ふむ、もっと取り乱すものかと思っていたが存外、肝は座っているようだ。」
「あるいは、無知、無策、無謀なだけか─── 」
そう言うと男は小さく肩をすくめた。
「アンタ、人からいつも一言多いって言われねぇか?それじゃモテないぜ?」
そう強がってみたものの、足が小刻みに振動しているのが解る。
だってそうだろ?コイツは昨日俺を殺した男だぞ?どういう訳か
奴の予想に反して俺は死ななかったみたいだけどな。
「で?完璧主義の殺し屋さんが、後始末に御出なすった。」
「───そうなんだろ?、あァ!?」
「はしゃぐな小僧、仮にそうだとして貴様の言う暗殺者が標的と呑気に会して
何の得がある?」
ま、確かに。コイツの昨日のやり口を見るに、朝方俺が部屋を出た瞬間
上半身を吹き飛ばす位容易いんだろうよ。
「じゃ、何の用だ?」
「昨夜小僧は、私に質問が有るように見えたのでこちらから出向いた───
という訳だが。」
「へぇ、そいつはワザワザ殊勝なこって、どうせ何も答えてくれねぇんだろ?」
ワナつく足を悟られぬようその場にどっかり腰を下ろして睨みつける
「いいや、だがそれには条件がある。」
そう言うと男は後ろ手に組んでいた右手を前に突き出す。
ほら見ろ、やっぱり出るもんが出たじゃねーか・・・
「・・・・ッ!へっ・・・やっぱり撃つんじゃねーかよ・・・」
それを見た俺はもうこれ以上虚勢を張っても無駄だと諦め
青ざめながらも片方の口元が持ち上がるような変な笑いが出た。
「これも通過儀礼だ───」
奴がそう言った瞬間には、ペシッという音と共に奴の左手の暗殺銃?
から閃光・・・が───放っ───・・・
~~~ ~~~ ~~~
「───僧、小僧!いつまで寝ている」
そう聞こえて目を覚ますと、俺を跨ぎしゃがみ込んで覗き込む男の顔が
・・・ってあれ?
「一次試験はクリアだ喜べ」
銃を持った手で器用にも手袋を履きながら男はそういった。
あれ?確か俺、今コイツに撃たれ・・
「イッつ!・・・熱ゥッツツ!!」
あっけにとられる暇もなく、額に鈍痛が走り、右手に焼けるような痛み。
額を撃たれてそのまま後ろに倒れ・・・たのか?
じゃなんで生きてんだ俺・・・
「見事な反り返りだったぞ小僧─── 」
「自らの拳で額を打ち付けて昏倒するように見え、なかなかに滑稽だった」
顔色ひとつかえずに何言ってやがんだコイツ・・・
そう思いながら焼け付く痛みを振りほどくように右手を振ると
細粒状の何かがパラパラと床に落ちた。
「移動する、付いてこい───」
「それとも貴様の“ご希望通り”拉致したほうが良いか?」
とりあえず茜や咲夜の無事を聞き出すまではこのヤロウに
付き合う他無いだろうな・・・
そう思い、不本意ながらも男の後について部屋を出る。
部屋を出る頃には辺りはすっかり日も暮れ、昼間の蓄熱を放出するかの如く
熱気を漂わせていた。
ったく、なんて青春の1ページだよ・・・
手袋を履いたまま両の手をポケットに突っ込み、キザな足取りで歩く
その男の後を付いていくと、アパートから2本めの角を曲がった先に
男の例の車が止まっていた。
男の容姿には不釣り合いなほど小さいそれに男が近づくと
顔だけあらぬ方を向きながら助手席を開く。
乗れって事なのか?何の優しさだ気味悪い。不本意ならやるんじゃねーよ・・・
「チッ・・・」
俺がわざとらしく舌打ちしながら乗り込むと、男は「ふん・・・」と鼻を鳴らし
車の後ろから回り込んで運転席に乗り込んだ。
そのまま発車するでもなく、30秒ほど固まったように、前を向いている
そんな隣の男を、俺は片肘をドアに押し当て頬杖を付きながら横目で見る。
一々仕草がキザったらしい奴だがムカつくことに絵になるのが
なおさら頭にくる。奴のダークスーツの袖口から見えるカフスボタンの
輝きにすら腹が立つ。
そうするうち男はルームミラーを傾け、何事もなかったかのように
キーを撚るとその車格には不釣り合いな鼓動を轟かせながら車は走り始めた。
~~~ ~~~ ~~~
初夏の新緑が夜の色に染められ深緑。流れる景色を走る小さな車、その車内。
タバコを咥えた男が何も語らずただ運転する姿にしびれを切らして、遂にこちらから尋ねる。
「んで?テストとやらにパスしたんだから全部答えてくれんだろうな?」
沈黙を打ち破るようにそう切り出す。
「何を聞きたいかにもよる、言ってみろ。」
勿体付けるような言い方に苛立ちを覚えながら、俺はあの襲撃直後から抱える一番の
懸案事項について訪ねた。
「アンタ、あの二人を知ってるな? 二人は無事なんだろうな?」
「無論知っている。」
「で、アンタは彼女らを守るために駆けつけた騎士様ってところか?」
「ら、ではない私が守護すべきは茜ただ一人だ」
「ひとり?じゃテメェは咲夜がどうなろうと構いやしねぇって訳だな?」
そう言うと男の目尻が一瞬険しさを宿した後、顔色ひとつかえずに
「そのつもりだ」
そう言いやがった。ムカつきを覚えながらもコイツがだんまり決め込む前にと
俺は聞きたいことを捲し立てるようにぶちまけた。
「守護って言ったな」
「あぁ」
「おまえは茜さえ守れればイイって訳か・・・あの場にいた人たちは
どうなった!」
「咲夜は!・・・どうなったんだよ!、アンタの力ならああなる前に!
奴らが姿を現す前に止められたんじゃねーのかよ!!あぁ!?」
「はしゃぐな。茜の守護が私の任務」
「これ以上は聞くな」
「なッ・・・テメ───」
全く納得がいかねぇよクソッ! 男をそれまでにない憎しみで睨みつけた瞬間
男はカーラジオのスイッチを入れた。
『─── くり返しお伝えします。 昨夜8時半頃、京都府〇〇町で開催された
花火大会で、爆発事故がありました。』
『事故当時会場付近には多数の屋台が出店しており、事故はその屋台のプロパン
ボンベにコンロの火が引火、爆発を伴って炎上したものと見て、府警は捜査を
続けています───』
『この事故で多数の負傷者が出ており、当時偶然現場に居合わせ大怪我を負った
団体職員、田端 洋次さん(32)歳の容態が回復次第、府警は事情を聞く
方針です。』
『今回の事故は幸い会場から離れた場所で─── 』
まてよ、爆発?事故?銃乱射事件じゃ・・・ないのかよ!
「ちょ・・・コレってどう───
「聞いたままだ、そのようにゼロが処理したのだろう」
「この団体職員ってのは───、もしかして・・・」
「私が生かした連中の駒だろう、こちらの意思は伝わったようだ」
「負傷者って・・・明らかに死んじまった人や母親撃たれた子供は一体
どうなったんだよ!!」
「私が知るか」
もうさっぱり意味がわからん。ゼロってなんだ?敵か?
ただ、昼間に川沿いで出会った警官が俺を見ても無反応だったってのは
どうやら俺たちはあの場に居なかったことに成ってる───って事か?
ただ、だからって、全く納得は出来ないからな。
「俺がケーサツに駆け込んで洗いざらい全部話したら、アンタどうするつもり
だったんだよ」
「無論、貴様の口を封じるだけだ」
なんかヤバイ、ってのを2枚位上行く感じの流れだな・・・
だけどな、24時間の間に2度もコイツに殺されかけちゃ流石にビビりも
しなくなるわな・・・
「で?そうさせないように、おもちゃの銃を使ってアンタは俺を脅したわけだ。」
「結局撃ってたけどな!」
「ふん、貴様にはコレがおもちゃに見えたのか?」
男はそう言うと車を急停車させ、おもむろに窓を開く。
俺は予想外の動きでダッシュボード?にデコを激しく打ち付けた。
打ったんだよ!!同じとこを!
そんな俺に男は見向きもせず胸元から抜いたさっきの銃を
窓から外の電柱へ発砲した。
<ペシ、パシ、パシ、パシ、パシッッ!>
一発撃つごとに素早い動きで装填を繰り返しつつも、手袋を履いたもう
片方の手で空薬莢を全て空中で受け止めた。
頬杖をついたまま男越しに電柱を見ると、確かに弾痕の様な跡が連なり
場所によってはその硬い表面が剥がれ落ちている。
「コンクリートの支柱を打ち倒すほど火力は無いが、至近距離から頭を撃ち
抜くには十分な装薬の量にはしたつもりだ。」
「おもちゃのようなナリだがな・・・」
「・・・・っ!!」
そう言うと男はその銃をまた俺に向け─── 、と思ったのもつかの間
その銃口はくるりと上を向き、天地逆に裏返すと、俺の前のグローブボックス
へと仕舞われた。
ったく、いちいち癪に障るやつだ。
その後何もなかったかのようにゆっくりと窓を締め、再び車は走り始めた。
漆黒の山中へ向かって・・・




