1-7 報酬
京都郊外
「・・・・・・」
とある施設のどこまでも続く灰色の廊下、点在する監視カメラ。
そのカメラの一つが小さな赤いランプを灯し、静かに動き出す。
そして数メートルおきに備えられたステンレス製の簡素なベンチの一つに座る
長身の男を捉えた。
腕を組み、頭を垂れたその男は、まるで長剣のように鍛えられた長い脚を
定期的に組み換える、その仕草はまるで気を揉んでいるようにも見えた。
程なくしてベンチの横の扉が静かに開く。
「ダニエル」
白衣を着たスキンヘッドで熊のような髭の大男が姿を現すと監視カメラが追っていた
ベンチに佇む男を呼んだ。
「どうだ?」
ベンチの男は今までの格好のまま、頭を少し横にし、片目だけを開いて大熊のような
男にそう問いかけた。
「問題ない、目が覚めた頃にはここ10時間ほどの出来事は─── 」
熊のような大男はそう言うと、ふぅとため息を付いて続ける。
「分かっているとは思うがな、この処置は心の負担が大きい─── 」
「君のワガママがいつか彼女を殺すぞ?」
「そうなった場合はお上が黙っ───
「言うな、くどい」
そう白衣の大熊男を制して男は立ち上がる。
「全く・・・いいかダニエル、次は庇い切れないかもしれんぞ」
深い溜息をつきながら、白衣の大男は、出口へと向かうその男の後ろ姿に
呆れたように首を振り
「目覚めたらいつもの場所で良いんだな?」と、確認した。
その言葉を聞いた男は去りながら振り向きもせず、そっけなく左手を上げた。
~~~ ~~~ ~~~
まるでどこかの研究所のような外観の施設を男が出ると、入り口付近に
折り目正しく佇んでいた黒いフォーマルドレスを纏った赤毛の美麗な女性が追うように
男に近づき、歩幅を合わせて歩き出した。
施設のエントランス前、乱暴に止められた車を中心に彼等は左右に別れたかと思うと
ほぼ同時に男の黒く小さく古い車へ乗り込んだ。
「・・・・・」
30秒ほど時が止まったかのように身動き一つしない二人
「ダニエル様」
「エレクトラ」
お互いにまっすぐ前を向いたまま、事務的な会話を交わし始める
「今回も素晴らしいご活躍感服いたし─── 」
「世辞はいい」
「失礼致しました。それでは今回の報酬ですが」
「いつもどおり、半分はチップで、半分はいつもの口座に」
「承知致しました。次巡はどうなさいますか?」
「レイズ」
「承知致しました。それでは、ますますの御健勝をお祈り致します。」
「エレクトラ」
「ダニエル様」
降車しようとドアノブに手をかけたドレスの女は再び姿勢を正すと前を向き直す
「近日中にプレイヤー候補を連れて行く、新しい卓を用意してくれ」
「承知致しました。それでは失礼致しますダニエル様」
即物的な会話だけを交わして女性が男の車を降りると
男の車とは対象的な高級大型車が音もなく横付けされ、美麗なその
女性が乗り込む。精巧な機械が放つ鋭く眩い前照灯を光らせたかと思うと
彼女を載せた車は、その車格に似つかわしくない程静かに走り去った。
ドレスの女が去っても、しばらくその小さな車の運転席で身動しなかった男は
小さく一呼吸すると、ジャケットの中に手を入れ英国タバコを取り出すと
ゆっくりと火を灯した。
山奥の静寂がしばらく続いた後、その古い車に相応しいアナログなぼんやりとした
輝き方でテールランプを灯すと、濡れた路面を赤く照らす
そうした後、黒く小さく古い車は、車格に似合わぬ轟きと共に
施設を後にした。
その一部始終を確認し終えると、施設の門に備えられたカメラの赤いランプは消えた。




