1-6 一話 「花火はお好きですか?」5
佳境を迎えた花火の音は、奴らの放った銃声を隠すのには十分だった。
二〇十八年七月某日六時半頃
「宮田 茜さんですね?ご同行願います。」
突然現れた2人のスーツ姿の男達はそう言うと、一人がゆっくりと茜に
近づき、力強く茜の華奢な肩を掴んだ。
「えっ? きゃ!─── 痛ッ!!」
「オイッッ!!」
茜が眉がひそめるその刹那、俺はスーツ野郎の手を払い除けていた。
「なっ!貴様ァ!!」
不意に払いのけられた手を擦りながらスーツ野郎1が叫ぶ
「オメーら警察?いや刑事・・・じゃ、ねーよな?」
「一体何のつもりだ、あ?」
悪いがな、俺はこう見えても体力と身体能力には自信があんだ。
とっさに左手で咲夜の腕を掴むと、俺の後ろに引き込み
右手で茜の手首を掴んだ
「・・・・」
スーツ2が耳に指を当てつつ頷くと同時にスーツ1に目配せした
次の瞬間俺は我が目を疑った。というより、夢なんじゃないか?
と言うほうが正しい。
スーツ二人が胸元から銃を抜いたと同時に、素早い動作で
まっすぐそれを俺に向けたのだ。
普通に考えると、モデルガンやエアガンの類と思うよな、さっきの屋台でも
くじ引きの景品に置いてあったし、だが悔しいケド、コイツ等のもっともらしい
そのクソ忌々しい迄のスーツの板についた着こなしと
映画の役者みたいな一挙手で発射ポーズまで持ってくる身のこなしが
ヤバい位にその得物を本物たらしめる。
スーツ野郎どもはお互い顔も合わさず小さく呟くと
俺が手を払った方が小さく呟いた
「悪いな小僧自分の運命を恨め。」
バカか?これじゃまるでアニメじゃないか?ここ日本だぜ?
会場から離れてはいたが、少なからず近くにいた人々が
「えーなになに何かの撮影?」とざわつく中、人目を一切気にせず
そいつらは拳銃を俺たちに向けていた───
と、次の瞬間、何の躊躇いもないようにスーツ共の悪意が火を吹いた
《《ドドン、ドンパラパラ・・・》》(ワァーー)
佳境を迎えた花火の音と会場の歓声は、奴らの放った銃声を隠すのには十分だった。
奴らの銃口が光ったその刹那、俺は思わず貝のように固く目をつぶった。
《殺られる!》
そう思い浮かべた瞬間、いつものあの感覚、背筋から炎が吹き出すような熱を感じた
他の人達の事を全く気にせずスーツ野郎ども・・・今、撃った?・・のか?
『キャアァァァーーー!』
『ヒッ痛ッ・・・ァァァ』
『嫌アァァァ!!!アナタ!アナタアァァァァ!!』
『・・・・・マァ?ママぁ?』
『おば・・叔母ぁさんッッ!!』
悲鳴が響く中、俺はゆっくり瞳を開く。
それまで俺にしがみついていたハズの二人はいつの間にか
俺が肩を抱くように抱え、片膝を付いて庇っていた。
悲鳴が徐々に遠く聞こえ、周囲の色が流れ落ちるようにモノクロになる中
そのままゆっくり後ろを振り向いた。
首を抑え膝を付き痙攣する女性。
横たわる母の力ない手を、いまだ握って立ち尽くす少年。
腹を裂かれ溢れ出した臓物に嗚咽を漏らす青年。
頭を貫かれ横たわる夫の胸で名前を叫び続ける女性。
もういい─── もう結構。
俺は怒りのあまり、自分の髪が逆立つような感覚でゆっくり前を向く
「テーメッ───
スーツを着たクソ共に殺意を噴きかけた時。
自らが放った銃弾が、標的を捉えきれず戸惑うスーツ1の上半身が
一瞬のうちに10CM位横にずれたかと思うと同時に赤い霧が舞い上がる。
紅のリボンを靡かせて、頭部と躰がそれぞれ逆向きに空を舞う。
絶命しながら空を舞う相棒だった躰を、スーツ2が目で追っているその瞬間、
オレに向けて真っ直ぐに伸ばした拳銃を握るその腕が肘付近で爆ぜ
拳銃を握りしめたままそこより先の部位が川の護岸へと向かって吹き飛ぶ
最中、俺はまるでスローモーションのような速度で流れるの非日常の出来事を
ただ呆気に取られて目にするしか無かった。
「ウッ!? うぐあぁァァァ───!! 」
今まで確かに存在していた腕あたりを抑え
紅の飛沫を撒き散らしながらその場にガックリと膝をつき空に向かって叫ぶ
スーツ2
信じられぬ光景の為にか、それまで盛大に聞こえていた花火の爆音と会場の
歓声がいまや遠く別の世界の音のようにに聞こえさえする。
い、いったい・・・なにが? なんでこんなこと───
呆然とする俺を、まるで殴りつけるような壮絶な勢いの怒号が打ち付けた
【 マヌケぇ!! 走れ小僧ォ!! 】
はッと我に返った瞬間、それまで水の中のような粘度で俺に
纏わり付いていた空気が、一気に下へ流れ落ちるような感覚。
同時に、周囲の時間が再び流れ始めたような気がした。
怒号の元を見ると葉桜の奥で、漆黒の影を纏うような、背の高い男が
俺を睨みつけていた。
「娘達を連れコッチへ走れ小僧ッ、追ってこい!」
もう何が何だか分からない・・・が
少なくともソイツにさっきのスーツ野郎のような攻撃の意志はないのは解る。
その証拠に堰を切ったように、彼女らの手を引いて走る俺を確認すると
その男はヒラリと身を翻し、ありえないスピードで堰堤脇の林を奥へと
駆け出した。
「追って来いっつったって・・普通・・に、追える速度じゃねぇ───
必死に追いながらそう呟いた瞬間、片方の腕がガクッと重くなった
「お兄ちゃん・・・ゴメン・・・ね、なんか─── 倒れそ・・・」
そう言うと咲夜は膝から崩れ落ちる。地面に達する直前にその力ない腕を
引き寄せ抱きかかえる。
「オイ!咲夜? 咲夜ァ!!」
「・・・さくやちゃん?嫌ッ・・・駄目えぇ!!咲夜ああぁぁ!!」
茜が叫ぶとそれまで疾風のように林を縫っていたその男が、
踵を返して駆けつけた。
「小僧!、咲夜をおぶって走れ、茜は私が手を引く、急げ!」
そう言うと、力なくうなだれた茜の手を引いて、男は再び走り出した。
「ま、待てって!オマエ、なんで・・・名前・・・・クソッ!」
俺は咲夜をおぶると茜を小脇に抱えた漆黒の男を必死で追った。
茜と先を往く男と付近の木陰から時折閃光が走ると暗い林の木々を照らす。
アイツ、茜を抱えたまま撃ち合いながら走ってる───のか?そう思った瞬間
俺の手を暖かい雫が伝う
「!!?」
片手でおぶった咲夜を支え、手に伝う雫の正体を確認すると
オレの肘より先に紅いラインが一筋流れていた。
「ちょ!咲夜、どこ・・・弾ァ、当たってたんだクソァ!」
全身の毛が逆立つような怒りの感覚と共に無念を振り切るように
オレはただ一心に男と茜を追って林を駆ける。
夢中になって追っていると、程なく小さな林を抜けた先。少々大きな駐車場に出る。
黒い小さな古い車の横に長身のその男は立ち、その傍らに茜が肩を落として
座り込んでいた。
問い詰めたい事が多すぎて、頭の中がごちゃごちゃだクソッ! 咲夜ッ!!
咲夜をおぶった俺が男のもとにようやく辿り着くと、車のトランクにライフル?を
放りこんだ男は、ゆっくりとオレに向かい、黒い革手袋を履きながら語り始めた。
「本来なら、あの会場に居たおよそ1万人が命を落とすはずだった、
幸運だった。」
「それだけ・・・伝えておく。」
それだけ?それだけだと?あの惨状を目の当たりにした俺に向かって
こいつ今“それだけ”つったか?男を睨みつけ、口を開こうとしたその時
サイレンも鳴らさず救急車がゆっくりと音もなく俺たちの横についた。
降りてきた救急隊員?は、俺から咲夜を引き離すと、1つも口を開くこと無く
少女を収容し、再び音もなくゆっくりと走り始めた。
「はあっ?お、オイ!まてオラァ!」
状況が全く掴めぬまま、走り去る救急車にそう叫ぶしかない俺は
茜と男の方を向く、下を向いたままの茜を男は自分の車に載せた後
俺の傍らに立ち細長い拳銃を俺の額に当てて一言呟いた。
「忘れろ───
そう聞こえたと共に、かんしゃく玉の爆ぜるような小さい音が1つ鳴り響いたと思うと
額に衝撃が走り、視界がそのまま右に傾き───ながら───暗く───・・・
「ふん、やはりそうだったか───
そう聞こえた
ような気がした・・・
一話 「花火はお好きですか?」 終




