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白銀のリラ~猫に選ばれた王女~  作者: 鈴白澪
第1章 深翠の森
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16話 見定め

 ————


 風輪車が森を抜けてから、どれほど経っただろうか。


 客室の長椅子では、リラが深い眠りについていた。

 揺れに合わせて白銀の髪が頬へかかっても、目を覚ます気配はなかった。


 その傍では、トウカとセナが寄り添うように丸くなり、ノエルはリラの足元で身体を休めていた。

 ネロだけは眠らず、ときおり窓の外へ目を向けていた。


 向かいに座っていたカシウスは、しばらくリラの寝顔を見つめたあと、その近くにいた白猫へ視線を移した。


「古き縁の祖よ。少し、お話を伺ってもよろしいだろうか」


 その呼びかけに、ルナの耳がわずかに横を向いた。

 それから顔を上げ、カシウスを見る。


「その呼び方はやめてくれないかい。ルナでいいよ」


 カシウスはわずかに目を瞬かせた。


「承知した。では、ルナ殿。確認したいことがある」

「いいよ」


 カシウスは、眠るリラへ目を向けた。


「先ほど、リラ殿の髪と瞳を見て、ひとつ思い当たることがあった」


 ルナは何も言わず、続きを待った。


「リラ殿は、十一年前にフェリシテ王国で亡くなったとされた王女なのだろうか」

「君の推測は正しいよ」


 静かな車内に、風を切る音だけがかすかに響いていた。

 カシウスはゆっくりと息を吐いた。


「本人はそのことを?」

「何も知らないよ」

「予言についても?」

「知らない」


 カシウスの眉間にわずかに皺が寄った。


「なぜ、これまで明かさなかった?」


 ルナは眠るリラへ顔を向けた。


「……この子には、王家のしがらみに縛られず、予言も背負わずに生きてほしかったんだ。ただのリラとして、あの森でみんなと穏やかに暮らしていければ、それでいいと思っていた」

「……だが、フェリシテ王国は今もリラ殿を探し続けている」


 ルナはカシウスへ視線を戻した。


「あぁ。人目にも触れてしまったし、もう隠し続ける方が危険だろうね。それに——君たちに追い回されたおかげで、リラの魔法も今になって開花したみたいだし」


 カシウスはばつが悪そうに、軽く後頭部を掻いた。


「その節はすまない……今になって、初めて魔法を?」

「あぁ。必要なかったんだよ。僕らがいたからね」


 カシウスはしばらく言葉を返さなかった。


「十一歳まで魔法を使わずにいたとは……」

「だから、その辺りも含めて頼むよ。これからは、あの子自身が自分の力を知っておいた方がいい」

「では、王女であることも本人へ伝えて構わないのだな」


 ルナの耳がわずかに伏せられ、尾の先が一度だけ揺れた。


「……あぁ。もう、隠しておける状況じゃないからね。これから自分の身に何が起こり得るのか、知らないままでいさせる方が危険だ」


 その答えに、カシウスは静かに頷いた。


「承知した。もうひとつ、聞かせてもらいたい」


 カシウスは一度、リラの周囲で身体を休める猫たちへ目を向けると、再びルナを見た。


「始祖王以来、猫を相棒とした者が現れたという記録はない。それなのに、なぜリラ殿だけがこれほど多くの猫と相棒になれたのだろうか」

「あぁ、それは僕がいるからかな」


 あまりに軽い返事に、カシウスはわずかに眉を上げた。


「でも、みんなが選んだのは僕じゃない。リラだよ」


 カシウスはわずかに眉を寄せた。


「ルナ殿がいるから、か……猫と人との縁が途絶えていることにも、ルナ殿が関わっているのだろうか?」


 ルナは答えず、しばらく窓の外へ目を向けていた。


「それは……話したくないな」


 カシウスはルナを見つめたものの、それ以上は尋ねなかった。


 しばらく、風輪車の緩やかな揺れだけが続いた。

 やがて、ルナが口を開いた。


「じゃあ、僕からも聞かせてもらおうか」

「何なりと」

「レオパルド王国は、リラをどうするつもりだい?」


 カシウスの表情がわずかに引き締まった。


「王妃殿下は長年、妹君の子が生きている可能性を捨てておられなかった。生存が確認されたなら、王家の庇護下へ置くお考えだ」

「フェリシテ王国が引き渡すよう求めてきても?」

「応じることはない」


 返答に迷いはなかった。


「王妃殿下は、必要であれば御自身の養女として迎えることまで考えておられる。リラ殿の身の安全については、レオパルド王家が責任を負う」


 ルナは黙ったまま、カシウスを見つめた。


「君たちは、あの予言を恐れていないのかい?」

「恐れていないと言えば嘘になる。予言を信じる者もいれば、その受け止め方も様々だ。だが、予言を理由に一人の子供を害することを、王妃殿下がお許しになることはない」


 ルナは青い瞳をわずかに細めた。


「フェリシテ王国は今、どこまで動いている?」

「表立って軍を動かしてはいない。だが、捜索が続いていることは間違いない。国境付近でも、以前にはなかった動きが見られるようになっている」

「……そうか」


 ルナはそれきり黙り込み、眠るリラへ視線を戻した。


 リラが小さく身じろぎすると、すぐそばで丸くなっていたセナが顔を上げた。

 ネロも窓辺から振り返ったが、穏やかな寝息が続いているのを確かめると、再び外へ目を向けた。


 ルナはしばらくその様子を見つめていた。


「なら、しばらく君たちを信じてみよう」


 カシウスは胸元へ片手を添え、静かに頭を垂れた。

第一章を最後までお読みいただき、ありがとうございます!


リラと七匹の猫たちの物語は、第二章へと続きます。


もしここまでのお話を楽しんでいただけましたら、ブックマークや評価などで応援していただけると、とても励みになります。


引き続き、リラたちの旅を見守っていただけたら嬉しいです!

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