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「本当に大丈夫かしら。家にまだ食べるものはあるの?」
「うん、心配しなくても大丈夫。友達が持ってきてくれたレトルト食品がいっぱいあるから、チンして食べる。野菜ジュースも冷蔵庫にいっぱいある」
「そう?ちゃんと食べてるならいいけど。大雪になるようだから、外に出ずにじっとしてるのよ」
「わかってるよ。お母さんはお仕事頑張って。テレビ出てるのこっちでも見たよ」
「ええ、ありがとうね。これからまた収録だから、そろそろ行かなきゃ。それじゃ、元気でね。気をつけるのよ」
「うん、ありがとう、大丈夫」
ママ、愛してるよ。
アメリカのホームドラマなら、きっとこういうセリフがくっついたことだろう。
もちろん私は言わなかったが。
何とか母を落ち着かせることができたみたいだ、と、私はホッと胸を撫で下ろして電話を切った。
本当に大丈夫なのだ。
食料はまだ一週間分ぐらいあるし、大雪だろうが何だろうが、臨時のお休みだと思って家で引きこもっているだけだ。
窓の外は、夜の闇に激しく白いものが舞っていた。
それを見て、私は眠りにつく前の犬のように穏やかな気持ちになった。
雪に閉ざされた北海道、か。
天気予報など、しばらく見ていないが、どうやら精神的安全地帯が保証されているらしい。
ホッと一安心すると、耐えきれない睡魔が襲ってきたのであった。
だが……。
「お母さん、仕事があるんじゃなかったの?」
翌日。
意外にも、雪はすぐに止んでしまった。
予定外のチャイムの音に、もしかして天気が良くなったから、学友が来てくれたのだろうか、と淡い期待を抱いて玄関のドアを開けた私に飛び込んで来たのは、次元が眩むかと思うほどの衝撃だった。
「一緒にやっている気象予報士の鈴木さんが、必ず雪は止むからって。何とか飛行機のチケットが取れないかと急いで航空会社に問い合わせたら、運よく取れたのよ。ああ、よかったわ」
もうお分かりであろう。
そこにいたのは、母だったのだ。
母はわざとらしく、中身がパンパンに詰まった買い物袋を手に下げ、大きな鞄も持っていた。
「大丈夫だよって言ったのに」
「何言ってんのよ。こういうときは、親が来てあげないと、世間様に顔向けできないでしょ」
私の言葉も、震えそうな顔の表情も、この人は何も見ていないのだ。
見ているのはそんなところじゃない。
「きっとフレッシュなものは食べていないでしょ。ああ、これ、空港で買ったのよ。おいしそうだったから。ちょっと流しを借りるわね」
母は袋から果物やらお土産品やらを取り出した。
戸惑う私をよそに、それらをテキパキと開封して、お皿に並べていった。
「テレビ局の人に言ったらね、今日だけなら調整できるから、行ってらっしゃいって。業界の人って、みんな親切なのよ」
などと、独り言を言う。
もう、見えていない。
何も見えていないのだ、この人の目には。




