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囚人食  作者: いもたると


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 本当に、そんなもの無視して、外食すればよかったのだ。

 学食だってあったわけだし、北海道だったのだ。

 コンビニで適当なものを買っても、おいしいものに簡単にありつけるのだ。

 スーパーのお惣菜だって、東京なんかよりマシなものがゴロゴロあるのだ。

 何で私は北海道まで来て、目玉焼きのつもりだったスクランブルエッグなんか食べていたのだろう?

 でも、それまで母の食育を受けて育ってきた私は、外食は悪、家庭料理は善、という価値観に縛られて抜け出せなかった。



 だから、学内での友人たちとの人付き合いも悪くなっていく。

 大学生なのだ。

 彼らと交流していると、夕食を食べていこう、という誘いも多くなる。

 だが私は、そんなときでも、交友時間を切り上げて、一人暮らしのアパートに帰っていったものだった。

 どうしても、きちんとした食事をしなければいけないという強迫観念に取り憑かれていた。

 自分で作る食事は酷いものしか作れないというのに、塩分の多い外食よりはマシだとか、油を控えるから健康的だとか、そんなことを考えていた。


 お酒も飲まず、他の学生みたいに不摂生出来ないでいた。

 学食でビールを飲んで騒いでいる人たちを半ば軽蔑しながら、実際のところ窮屈な思いを抱えて、一人家路に着いていた。

 そもそも、それまで家のこと最優先で生きてきたから、急に開放されたって、人付き合いのノウハウが身に付いていなかったのだ。



 寒い北の大地で、私は降り積もる雪のように孤独感を深めていくことになる。

 友達はいない。

 母のプレッシャーは毎日やってくる。

 ちゃんとしなきゃいけないという強迫観念と、ちゃんとできない無力感に罪悪感。

 味は人一倍わかるのに、自分の料理の腕は壊滅的だという事実。


 加えて、私には大学の四年間で何とかしなければならないという切迫感があった。

 もしここで何者にもなれなければ、また母がいる東京の家に戻ることになる。

 だが、さして興味のない水産の勉強は、私にはあまり手応えのないものと感じられた。


 私は本当にこんな勉強がしたかったのか?

 ただ、母の承認を得るために、母から逃れるために、ここに来たのではないのか。

 それは人生の選択として、あまりに迂闊だったのではなかろうか?

 苦悩と懊悩が膨れ上がっていった。



 だが、そんな中でも、私は必死に勉強し、何とか将来への糸口を掴みかけていた。

 それなのに、あるとき、人生の暗澹さを決定づける出来事が起こってしまう。


 その日は北海道の冬がいつもそうであるように、寒さの厳しい日だった。

 珍しく、学友たちが私をスキーに誘ってくれたのであった。

 もちろん私はウインタースポーツなどしたことはないが、断るのも悪いと思って付いていった。

 詳細は省く。

 結論から言うと、その人生初スキーで、私は怪我をしてしまう。

 その結果、しばらく松葉杖生活を余儀なくされたのだ。


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