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囚人食  作者: いもたると


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 だが、事実は残酷であった。

 私は、料理の才能がない。

 このことに今更ながら気付かされたのであった。


 例えるのは不適かもしれないが、プロ野球選手の息子が、自分に野球の才能がないことに気付いたようなものだろうか。

 そういえば、私は母の近くにいながら、()()()()()()()()はしたことがなかった。

 お皿を取ったり並べたり、ということはしていたけど、よく考えてみたら、料理そのものは全て母がしていたのだ。

 それはまあ、母にとっては料理は仕事であるから、全て自分がやらねばならないし、母以外の者の手が入ってしまってはいけないことだったのだろう。


 でも、でも、である。

 だって、そんなことあるなんて思わないじゃないか。

 私はしばらくの間、無力感に打ちのめされていた。

 それでも、毎日、ファックスの機械は動き続ける。

 一日も休まず勤勉に、難解な数式が書かれた紙を吐き出してくれる。

 積もり積もっていくそれは、手付かずの宿題を眺めているようであった。

 早く宿題を片付けなきゃ。

 ちゃんとしたものを食べて健康にならなきゃ。

 自分のことぐらい自分で出来なきゃ、など。

 無力感の上に、罪悪感が追い打ちをかけてくれた。


 それでも、食べていかなければ生きていけない人間に生まれついてしまった私は、ヨロヨロと狭いキッチンに立ち、フラフラとフライパンの柄を握った。

 油を引いた上に卵を割って落とすと、クチャっとなった黄身が私を嘲笑っているかのように見えた。



 以来、私は簡単なものだけ作るようになる。

 ふと、私は父に似たのだろうか、と考えることがあった。

 そもそも、元々食べ物にはそんなに興味はなかったのだ。

 そのことに改めて気付いたのは、この頃だったと思う。


 考えてみれば、いくら母の食育が行き届いていたとはいえ、駄菓子ぐらい自分の小遣いで買って食べても良さそうなものだ。

 それでもそういうことをしなかったのは、そもそも食というものに興味がなかったからではないか。


 父は酒のアテさえあれば満足だったような気がする。

 おそらく父も、食には興味がない人だったのだ。

 とすれば、私は父の遺伝子を受け継いでいるのだ。

 父に似ているのは兄だと思っていたが、どうやら私の方だったらしい。



 今にして思えば、あのときの私はかわいそうだったなと思う。

 母が送ってきた難解なレシピ。

 料理を始めたばかりで、スコッチエッグなんて作れるはずないじゃないか。

 肉じゃがだって、作れるはずないじゃないか。

 なんで母はもっと簡単なレシピを送ってくれなかったのだろう?

 それ以前に、何でレシピなんか送ってくれるのだろう?


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