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囚人食  作者: いもたると


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「菜々ちゃんはお勉強ができるのだから、大学まで行った方がいいわよ。お金のことは心配しなくて大丈夫。お母さん、頑張るから」


 貧乏家庭のシングルマザーが、身を粉にして働いて、娘を大学まで行かせようとしてくれている。

 私はそれに応えなくてはいけない。

 罪悪感も感じたし、感謝もせねばならないと思った。

 これ以上、母を苦労させてはいけない。

 でも、そんな親孝行など、この底なしのバイタリティを隠し持っていた母には不要だったかもしれない。


 やがて母は、私の生活の隅々にまで口を出すようになり、束縛を強めていく。

 それは、兄のように悪の道に入らせないように、ということもあったかもしれない。

 あったのかもしれないが、そんなことは子供時代の私が背負うには重すぎる荷物だ。


 母が順調に料理家としてのキャリアを積み重ねていく一方で、私は、あまり自由でない子供時代を過ごした。

 他の子たちが遊んでいるときも、私は早めに家に帰って母の留守を預かり、勉強していた。


 私はそのことを鬱陶しく、窮屈に感じることもあった。

 もちろん不満に感じることもしばしばだった。

 でも……。

 母を困らせるなんて出来ないではないか。

 そんな精神状態が、思春期を通じて私を支配していた。


 本来、この時期は、子供が自分の好みや嗜好、人生の方向性を獲得せねばならない時期であると思う。

 でも、私の人生は、母に全ての方向性を決められていたのだ。

 それは些細なことの積み重ね。

 食とは、その象徴なのだ。

 いつもきちっと母の手作りのものを食べねばならないという強迫観念が、私を縛り付けていた。


 だから、僅かなお小遣いで、駄菓子などを買うということもなかったし、その年齢の若者たちがよくするように、ファーストフードで集まるとか、長時間ファミレスで駄弁る、というようなこともなかった。

 食べるものは、母の手料理だけ。

 もし学校の帰り道にハンバーガーでも食べて、お腹いっぱいで夕食を残すなんてことは、あってはならないことだから……。


 高校に入ってからは、お昼も母のお弁当になった。

 さすがは料理研究家らしい、それはそれはご立派なものだった。

 ときにクラスメイトたちに恐れられもしたぐらい、たっぷり愛情のこもりすぎた、理想のお弁当だった。


 でもときには、私だって友達と一緒にコンビニで添加物まみれのパンを買ったりしたかったのだ。

 普通の子が経験するような、ゆるい青春も過ごしてみたかったのだ。

 毎日、毎日、手の込んだお弁当を用意することは、頭が下がることだとは思うが、片親の下町の女子高生には、そんなに完璧でなくてもよかったのだ。

 ウチはお母さんが働いているから、今日のお弁当はこれだよ、とか言って、友達に五百円玉を見せて笑い合ったりしたかったのである。


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