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IDEA24  作者: みかづき
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Episode6

 少女とベルカナは睨みあっていた。


 少女は拳を震わせ、今にも殴りかかりそうだ。


 対して腕を組むベルカナは、余裕を感じさせる。


 しかし両者は何をするでもなく、ただ黙って視線をぶつけ合っている。


 しかし何だろう、この違和感は。


 少女の言葉はハッタリではない。


 だが、武器はないのだ。


 余程素手での格闘に自信があるのか?


 ……いや違う。


 問題はベルカナだ。


 どうやって天井を破壊した?


 爆弾?


 そもそもどうやって天井に?


 登れるとしてもわざわざ天井から入ってくる意味は?


 なぜ、彼は杖を持っている?


 剣でも槍でも短刀でも何でもいい。


 ともかく騎士ならば武装していて当然ではないのか。


 それとも、その何かの儀式用にしか見えない杖が武器?


 薄暗くてよく見えないが、全体的にゴツゴツしている。


 ……分からない。


 情報が足りない。


「死ぬ前に話してください。どうして死者を辱めるような真似をするのですか」


 ベルカナは死者に執着、少女は死者を辱めるような真似。


 さっきのお師匠様という人物が関係しているのだろうか。


 ……だとしたら、私も無関係じゃないのか。


「私の目的に必要だからだ」


「……は? それだけですか?」


 少女は気の抜けるような声をあげた。


 同時に、顔が酷く引きつっている。


「他に理由がほしいか? 思いついたら教えてやる」


「っ……! ふざけ――」


 少女が叫んだ直後だった。


 また、息が張り詰める空気が漂い始めた。


 何か異常なことが起きる前触れ。


 火柱やベルカナが現れる前にも感じた嫌な予感。


 しかし分かる、今度は避ける必要がない。


 そんな気がする。


 私は柱の影に目いっぱい隠れた。


 だが、いつまで経っても想像していた音は聞こえなかった。


 気のせいだったか?


 私は柱から彼らの行方を覗いた。


 そしてなるほど、事は起きていた。


 代わりに、先ほどまで出血するほど拳を握りしめていた少女が倒れている。


 あまりにもあっけない。


 一体何なのだ。


 この不思議な感覚、現象。


 ベルカナは少女を抱えるとこちらへ振り返った。


「屋敷の侵入者は排除した。先に戻れ、話は後にしよう」


 そう言い残して礼拝堂から出て行ってしまった。


 ……分かったことがある。


 まず、ベルカナは確実に危険だ。


 なんというか……考え方があまりにも軽薄だ。


 話を聞いている限り、相当危険だ。


 一番最初に彼と出会ったときに感じた、胡散臭い優しさからくる怪しさではない。


 あれが彼の素顔ならば、間違いなく関わり続けてはいけない。


 もう一つ分かったこともある。


 私の知らない術が、この世に存在している。


 オスアラは言っていた。


 「記憶は誰かに消された」と。


 目の前で繰り広げられたことと、一連の事件。


 何か、私の知らないものが存在している。


 いや、ひとまずそれについては後回しだ。


 屋敷に戻るべきか否か。


 屋敷に戻るメリットは……思い浮かばないな、雨風凌げる程度か。


 逆にデメリットはそこに安全が担保されていない所だ。


 正直ベルカナがいるところに戻るのは乗り気じゃない。


 かといって逃げる方のメリットが強いかと言えばそうでもない。


「ベルカナの家に帰らないとしたら、どこに行けばいいと思う?」


「そうだねぇ、それって彼から逃げるってことだろう? この街、下手したら国にはいられないことは覚悟したほうがいい」


 ベルカナの影響力とはそれほどのものなのか。


 一時的にでも彼から離れられるのは嬉しい。


 が、オスアラが言うことが真なら逃げ切ることは不可能だ。


 ……だとすれば、きっと言う通りにするべきだろう。


 お金がない以上、馬を使って遠くへ逃げることはできない。


 徒歩での移動だって一瞬で追いつかれてしまうだろう。


「屋敷に帰ったら、どうなると思う?」


「……あぁ、そういうことか。別に何も起こらないさ。誰も君を傷つけることはしない。約束するよ」


「……ベルカナも?」


「あぁ、約束さ。あの女の子の話は忘れてしまっていい」


 オスアラを信じるなら、答えは決まったも同然だ。


 問題は信じていいのかだ。


「というか、ベルカナと私みたいに話してるでしょ。ベルカナが来ること分かってたみたいだし」


「ふふ、さすがにバレちゃうか。けど誤解しないでくれ、君を助けたいって気持ちに嘘はないんだ」


「……分かってる。助けてもらったしね」


 それは事実だ。


 二人がいなければ少女に捕まっていた。


 いや、殺されていてもおかしくはなかった。


 素直に感謝している。


 ……一応オスアラについても考えておくべきか。


 オスアラはベルカナとの接触を肯定した。


 そして、それを裏付けるのがベルカナの登場。


 偶然ここに来た可能性は否定できない。


 けれど、いや何よりベルカナは私をイデアと呼んだ。


 ほとんど確定した。


 オスアラは幻聴ではない。


 ベルカナはここに来られたのことを考えても説明できる。

 

 地下の様子を見て私の所在を推測したのなら、天井からではなく私と同じく梯子を登ってくるだろう。


 わざわざ地下から地上に出てからここに来たのか?


 先に地上でやるべきことを済ませ、ついでにここに来た可能性はある。


 だがいつまでも私が教会に居座っているとも限らないのに、分かっていたかのように入ってきた。


 幻聴じゃないなら何なんだという話でもあるが……まあいい。


 疑う余地はない……だろう。


「帰るよ」


「うん、それが良い。あ、せっかくだし地下じゃなくて町を歩いてみるのはどうだい? もうすぐ夕暮れだ、帰る前に僕の一押し黄昏スポットを紹介するよ」


「……いいよ、ちょっとだけね」


 オスアラも何を考えているかは分からない。


 もしかしたらベルカナのような思想を持っているかもしれない。


 ただ、少なくともそのような片鱗は見えない

。


 それどころか、私に協力的な姿勢を見せてくれている。


 幻聴ではない以上、今までよりは信用してもいいだろう。


 一人じゃ解決できない問題に立ち向かうにはある程度必要な心だ。


 リスクを割り切らねばならない決断も、この先出くわすだろう。


 そのときに少しでもいい選択が出来るように最大限の努力をしよう。

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