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IDEA24  作者: みかづき
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Episode5

 言葉が出てこない。


 私に向けられた言葉だとは、感情だとは到底思えない。


 人殺し?


 私が?


「そ、そんなこと……」


「次、ふざけたことを言ったら殺します」


 ふざけてなんかない、そう言えたらどれだけ楽なことか。


 少女の目は本気だ。


 どうしてこんなことに。


 覚えのない事件の犯人にされて殺されたらたまったものじゃない。


 ……いや、覚えはなくとも可能性はあるじゃないか。


 もし仮に過去の私が、ありえないがそんなことをしていたら?


 だがそれしかありえない。


 そして、だとすれば私は身の潔白を証明することができない。


 少女は訴えているのは、私ではない。


 あぁ、最悪な認知のされ方だ。


 誤解ではあるが誤解ではない。


 私(・)はそんなことはしないし、したくもない。


 昔の私もそう思っていてほしい。


 きっと人違いだ。


 そうに違いない……が、そんなことが言えたらここまで苦しくない。


 ただもし、少女の話が真なのだとしたら……。


 いや、考えるのはやめておこう。


 今はどうにか冷静になってもらうしかない。


「何か考えはある?」


 私は小声で足元の護身具に助けを求めた。


 だが、いくら待っても返事が返ってこない。


 聞こえてないのかと思い、少女にバレない程度に声を掛け続けるも応答はない。


 さっきまではあんなに元気に話していたじゃないか。


 あぁもう、こんな肝心な時に。


 込み上げてくるため息を飲み込み、少女の様子を伺った。


 冷酷な目には、下手を打てば命を刈り取られるようなおぞましさがある。


 ……落ち着け、今は冷静でなければならない。


 頼れるのは自分の頭だけだ。


 しかしどうする、いっそ記憶がないことを打ち明けてみるか?


 いや、怒り心頭の相手には火に油だろう。


 命を懸けた博打だ。


 投降……させてもらえるだろうか?


 大人しくしていれば殺さないと言っていたが、あれは私の顔を見る前の話だ。


 様子をみて慎重に判断しなければならない。


 ……いやまて。


 私は彼女の全身を観察して、確信した。


 少女に武器はない。


 動けば殺されるということが謎の圧力によって説得力を持っていた。


 が、落ち着いてみれば彼女は丸腰だ。


 こうなれば逃げるのも手だ。


 オスアラを投げて隙を作れれば十分現実的ではないか?


 ……少女の足が速ければ終わりか。


 まだ選択できる立場だ。


 焦ることはない。


 最善を見極めよう。


「あなたのせいで、お師匠様が死にました」


 少女の声は、少女の心情を察せられるほど生々しかった。


 ……人違いという線は薄いかもしれない。 


「なんで逃げたんですか? あなたがいれば、お師匠様は、みんなは死なずに済んだのに」


 なんで……か。


 それが私なら、何から逃げたのだろう。


 お師匠様、みんな。


 私のせいで大勢が死んだ。


 なるほど、少女の憎悪の源はそこか。


 きっと少女は、私が史上最悪の大量殺人鬼に見えるのだろう。


「あなたを拘束します。抵抗なんて考えないでくださいね」


 ……オスアラを使えばどうとでもなるだろう。


 彼女が素手での戦闘に慣れているとしても、不意打ちで刀を振るえば関係ない。


 少女は私にゆっくりと近づいてくる。


 あと数歩、間合いが狭まれば狙える。


 オスアラを足に引っ掛けて、抜刀するだけ。


 ……何を考えているんだ私は。


 どうしてそんなことが出来る?


 そんなんじゃ、まるで本当に人殺しじゃないか。


 ……私は…………私は……本当にやってしまったのだろうか。


 いや違う、少女は私は逃げたって……だから、直接やった訳じゃ……。


「イデア、伏せて」


 突然オスアラに名前を呼ばれた。


 考えるよりも先に私は目一杯屈んだ。


 刹那、嫌な空気を頭上に感じた。


 あ(・)の(・)時(・)とよく似た嫌な空気。


 そして、今日何度目かの破壊が上空からもたらされた。


「怪我はないか? イデア」


 貫かれた天井から、その声と共に人影が降りてきた。


 幸か、それとも不幸か。


 優雅に瓦礫の上に足を下ろしたのはベルカナだった。


「なんで……その名前」


「話は後だ、下がっていろ」


 私は差し伸べられた手を取り、とっさにオスアラを拾い上げて柱の影へ走った。


「……ありがとう」


「いやいや、感謝されるようなことは何にもしてないさ」


「ベルカナに言ってるんだけど……あなたか呼んだわけ?」


「タイミングばっちりだっただろう? 人助けはカッコよく、僕の信条さ」


「……っそ」


 これで助かった、とは言い難い。


 ベルカナが「イデア」と、私を呼んだ。


 その名は、私とオスアラしか知らない。


 それにオスアラは、ベルカナが来ることをまるで知っていたかのようだった。


 私と同じで、ベルカナにもオスアラの声が聞こえている?


 ……幻聴じゃないのか?


 しかし、彼らのおかげで捕まることは回避できた。


 ……考えるのはあとだ。


 今は逃げ出す隙を見つけるのが先だ。


「よく私の前にノコノコとツラを出せますね。ようやく殺されてくれるんですか?」


 少女は声を震わせた。


 だが、私へ向けられたものとは違っていた。


「またその話か。いい加減死人に執着するのを辞めたらどうだ? 全ては過去、終わったことだ」


 ベルカナはため息をついた。


「絶対に殺す」


 殺意と、それを跳ね返す冷淡。


 これも、記憶があれば分かる話なのだろうか。

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