Episode3
細心の注意を払いながら部屋を出た。
声が言うにはこの家、いや規模を考えれば屋敷が適切だが、ともかく地下があるらしい。
どうやらそこに行けば安心らしい。
しかしどうしてこれほど構造を把握しているのだ。
幻聴というのは私の頭の異常、つまり私の知る限りのことしかできないはずだ。
……なら、私は忘れているだけでこの屋敷のことを知っている?
だとしたらベルカナの態度に違和感が……。
……まぁいい、今は安全を確保することが最優先だ。
どうやら私は二階にいたらしい。
無事にたどり着けるか不安だったが、助言もありあっさり地下へたどり着いた。
道中何人か、恐らくこの事件を引き起こしている集団を視認したものの、発見されることなくやり過ごすことが出来た。
自分で言うのもなんだが、息を殺すのが上手いのかもしれない。
これも恐怖が警戒心を掻き立てているおかげだろうか。
直接見ることはなかったが、戦闘が発生しているようだった。
どこかからか金属同士がぶつかる音が複数聞こえた。
もしかするとベルカナもそこにいたかもしれない。
その後石造りの地下への階段を発見し、今に至る。
「手前の扉を開けて、そこがゴールだよ」
声の言う通り進んでいき、その扉の前まで来た。
「じゃ、部屋で待ってるよ」と言い残し、以降聞こえなくなった。
待っている……?
誰が?
……まさか、声の主か?
何を馬鹿なことを。
そんなことあるわけがない。
そうなのだが……誰かが待ち構えている可能性は十分ある。
油断大敵だ。
私は鼓動の高まりを感じながら金属扉を押し開けた。
薄暗い室内だ。
本棚が多く、書斎のような印象を受ける。
ただ金属の器具が乱雑に置かれていることから、実験室のような役割があることも予想できる。
そして中央には何かの台座がある。
何かが飾られているようだ。
興味本位でそれに近づいていくと、輪郭がはっきりと見えてきた。
「刀……?」
半分被さっていた布をどけて、手に取ったソレは刀であった。
かなり年季の入っているようだ。
黒を基調とした鞘には一切装飾はないが、ごくわずかだが赤い錆のようなものが滲んでいる。
天井からの光の当たり方を変えれば、僅かに色の違う部分が浮き上がった。
柄に至っては巻かれた布の至る所がほつれている。
鞘から少し刃を出してみると、光を受け鋭く光る、研ぎ澄まされた白色だった。
「改めて、初めましてだね。ここまで来てくれてありがとう」
「わっ……!」
驚きのあまり刀を落としかけた。
部屋を見回すが誰もいない。
……幻聴は続いたままか。
「ふっふっふ、驚いたかい? なんと、声の主は人ではなく刀だった! どうだい、面白いだろう?」
なるほど、誰、と考えていたが声の主は物だった。
……そんな訳ないだろう。
人が出てくるのか、せいぜい何もないのどちらかだと思っていた。
どこかに潜んでいるはずの存在を探るが、結果は変わらない。
「まぁまぁ、信じられなくても仕方ないよね。けど事実、僕は君と面と向かって話している。もっとも、僕が面に向かったらスパって切れちゃうけどね、はっはっはっー!」
……なんなんだこいつ。
まるで緊張感の欠片もない。
ただでさえ何処からともなく声が聞こえてくるのに、それの発信元は刀?
頭がおかしくなったにせよ限度がある。
本当にどうしてしまったんだ。
……いや、今は自分への懐疑心を育ててる場合じゃない。
「で、これからどうすればいいの? ずっとここにいればいい?」
「いやいや、隠し通路を通って裏口から出るのさ」
あぁ、なるほど。
確かに地下にいると何となく守られているような気がしてくるが、敵が来る可能性もあるか。
……ならなんでこの部屋まで呼ばれたんだ?
「それじゃあもう行くよ」
私は立ち上がり、金属扉に向かった。
と、ノブに手をかけると制止された。
「ちょちょちょ、僕を置いていかないでくれたまえ」
「……え? 何で?」
逆に何故持っていかねばならない。
護身用か?
だがベルカナの所有物だ。
他人の家にあるものを勝手に持って行っていいわけがない。
当たり前すぎて口にするのすら恥ずかしい。
これが私の直感?
正気じゃないな。
「いやいやいや、困るよ。なんでここに呼んだと思う? 助けるだけだったらこんな寄り道させないよ?」
全くごもっともだ。
「……あぁもう、仕方ないなぁ。こうなったら奥の手を使わせてもらうよ」
もし人間相手で「奥の手」と言われれば身構える。
が、所詮相手は私。
こんなのに構わずさっさと外に……。
「君が連れて行ってくれないなら協力しない。そうでないなら最大限力を尽くして君を支えるよ」
「なっ……」
それは……困る。
一応この声頼りで脱出の算段を立てていた。
そして、声の言う隠し通路を私は知らない。
徘徊して探し回るのは当然なしだ。
こうしている間にも誰かが来るかもしれない。
……あぁ、ベルカナにもう二度と会わないことを祈ろう。
「分かったよ。行こう」
「ふんふん、そうこなくっちゃ」
こんな訳の分からないものに運命を委ねなきゃならないのか、私は。
私はため息をつきながら、刀を手に取り部屋を後にした。




