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IDEA24  作者: みかづき
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2/21

Episode2

 なぜ思い出せない。


 茫然と「なぜ」を繰り返した。


 しかし何度繰り返しても答えは出ない。


「そうか……。そうだ、少し待ってて」


 彼は思い出したことがあったのか、部屋から出ていってしまった。


 ……記憶が、ない。


 意味が分からない。


 どうしたら記憶がなくなるんだ。


 頭を強く打ったのだろうか。


 頭痛の原因はそれだろうか?


 しかしあの痛みは既に気にならない程度に収まっている。


 私は手探りで頭を撫でてみたが、どこにも異常は感じられない。


 既に傷だけ癒えてしまったのだろうか?


 ……考えてたところで答えは出ない。


 意識を静かになった部屋へ移し、見渡してみた。


 まるで心当たりがない。


 どこにでもありそうな、少し豪華な客室に見える。


 私は並べられたスリッパを履き、ベッドから降りた。


 ふと、身にまとう服に目が留まった。


 この服は果たして自分のものなのだろうか。


 もはや身にまとう全てが私物でない気がしてくる。


 思い入れがあるような気もするが……やめよう、キリがない。

 

 私はため息をついて、部屋の一面にある大きな窓に近づいてみた。


 映し出されたのは黒髪を長く伸ばした、地味で覇気のない誰か。


 あまり直視し続けたくない顔だ。


 私は深くため息をついて、窓に背を向けた。


 ――瞬間、嫌な予感がした。


 気が付けば、体は動いていた。


 窓から急いで離れ、ソファの陰に隠れていた。


 直後、強烈な光が部屋を貫いた。


 それに僅かに遅れて、家を揺らす程の衝撃が窓ガラスを粉砕した。


 凄まじい爆発音に耳を塞いだ。

 

 一体なにが?


 爆風が収まったのを確認し、慎重に顔を出し部屋を見渡した。


 散乱するガラスが目に入ったが、すぐさまそれを意識の外に追いやってしまう程の事象が、窓の外で起きていた。


 思わず立ち上がり、唖然とした。


「なに……あれ?」


 火の柱、であろうか?


 渦を巻いて天高く伸びるそれ。


 おそらくそれからは距離が離れている。


 が、それでも存在がハッキリ見えた。


 デカい……建物数十棟を巻き込んでいても不思議でない。


 あぁもう、次から次へと一体なんなのだ。


 どこかも分からない場所で目が覚めたと思ったら、記憶がない。


 そんな矢先にこれだ。


 焦燥感からか、「逃げろ」と本能が危険を叫び始めた。


 ……いや、出るべきなのだろうか?


 少なくとも火柱からは距離がある。


 むしろ部屋から出るほうが危険かもしれない。


 それに、人為的なものなら猶更だ。


 もっともこれだけの爆発だ、その可能性は低い。


 しかしこの建物が安全だとも思えない。


 如何せん爆風がここまで届いているのだ。


 外に出たらむしろ危険なのではないのか。


 ……本当に残るほうが安全なのだろうか?


 彼、ベルカナの名乗ったあの騎士。


 あの人は頼ってもいいのだろうか。


 信用できるか怪しい。


 私がどんな経緯でここにいるのかは分からない。


 こんなふかふかなベッドで寝かせてくれてはいるが、安心材料にはならない。


 私が起きてから危害を加えてくる算段だった可能性もある。


 ……いや、こんなことを言っていたらいつまで経っても行動できない。


 少なくとも外よりは安全のはずだ。


 大人しくしていよう。


「良い選択だと思うよ。けど、今回は逃げる方が正解さ」


「っ……!」


 私はとっさに扉から離れた。


 ベルカナの声じゃない。


 だが、気のせいでなければ扉の向こうから聞こえてきた訳じゃなかった。


 かと言って、部屋のどこかからというわけでもない。


 ……いや、咄嗟だったから判別がつかなかっただけだろう。


 部屋に誰もいない以上、部屋の外以外ありえない。


 きっと混乱と緊張が混じって感覚が過敏になっているんだろう。


 しかし、いくら経っても誰かが入ってくる気配がない。


 ……違和感。


 違和感。


 声は廊下から聞こえたわけではなかった。


 確証はないが……いやありえない。


 しかしけれど、それは……間違いでなければ、頭の中からだった気がする。


 辺りを見まわしてみるがやはり誰もいない。


 かといって部屋の外を覗く勇気もない。


 あぁ、気分が悪い。


「驚かせてしまったね。混乱するのもよくわかるけど、一先ず今は僕の指示に従ってほしいな」


「……っ! 何!?」


 やはり、発生元は頭だった。


 ということは幻聴か?


 脳が震え、まるで思考を侵食されているような気分だ。


 気持ち悪い。


「うーん、思った以上に驚かせちゃったみたいだね。ま、理解なんて後にしてほしい。今は、信用できるお兄さん、ことオスアラさんを信じてほしい」


 オスアラ……名前?


 ……名乗ったのか?


 あぁもう、今はこんなことに気を取られている場合じゃないのに。


 何なんだ、他人の声が耳からじゃなく脳髄から聞こえる?


 そんな話あるわけない。


 どうも立て続けに事件が起きるせいだ。


 私はおかしくなったのだ。


「うーむ、流石にふざけすぎたか……。まぁいいか、時間が惜しい。それじゃあよ~く聞いてくれ」


 耳を塞ぐ行為に意味があったのならとっくにしていた。


「これからこの屋敷に殺人鬼が乗り込んでくる。命が大事なら、逃げたほうが良い」


 あぁもう静かにしてくれ。


 惑わさないでくれ。


 ここにいればいい、余計な選択肢を見せないでくれ。


 もうガラスが飛散することもない、安全なんだ。


 ……何か……悲鳴?


 窓が割れたおかげで外の音が聞こえていた。


 爆発音……やはりそうだ、悲鳴が聞こえる。


 低い地響きのような衝撃は複数。


 それほど遠くない。


 心臓の鼓動が大きくなった。


「根拠はあるの? ここが襲われるって」


 なに……言ってるんだ私は。


 幻聴に話しかけて……。

 

「犯人たちに心当たりがあるってだけさ。彼らならここを標的にしてもおかしくない」


 声はそれが事実であるかのように語った。


 ……何なんだ。


 いや、苛立ったってしょうがない。


 落ち着け。


 ……そうだ、もう一度考えてみよう。


 ここに残れば安全だとはもう言い切れない。


 爆発は未だ起こっている。


 標的にされるかは分からないが、巻き込まれる可能性がある。


 それに何より、ベルカナという人間は信用できない。


 聖騎士団の騎士、という身分も嘘かもしれない。


 だからといってここから出ても被害に遭わない保証はない。


 どちらを選んでも安全はない。


 ただ……もしこの声の話を信じるのなら変わってくる。


 殺人鬼が来る?


 冗談じゃない。


 しかも彼ら、複数だ。


 間違いなく手遅れになる前に逃げるべきだ。


 ――また嫌な予感がした。


 近い……下か?


 刹那、壁や床が震えた。


 轟音が、これまでと比べものにならないほど近くで聞えた。


 まさか……。


「始まっちゃったねぇ。どうする、今ならまだ間に合うよ?」


 ……あぁもう。


「どうすればいいの? 早く教えて」


「お、少しは信用してくれたかな? よーし、案内は任せてくれ」 


 危なそうならすぐ引き返す、この方針で行こう。


 この際仕方ない、この声も脱出の参考程度に耳を貸すくらいにしておこう。


 この家に何人人がいるか分からないが、出来る限り見つかりたくない。


 だが家の構造すらわからないありさまだ。


 玄関から出られないのなら、裏口のようなものを探す必要があるだろう。


 幻聴とはいうがほとんど直感に等しい。


 腹を括ろう。


 私は今一度扉に手をかけた。


 ……手は震えていた。


 そりゃそうか、死ぬ可能性があるんだ。


 でも、それでも。


 ノブを握る手に今一度力を入れ、深く呼吸した。


 怖気付いて何もせずに死ぬなら、心の声に従って死んだ方がマシだ。

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